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第十四話 それ普通に死なないか?

後ろから聞こえてきた男の声に思わず振り向けば、立っていたのは深い青。嘲笑う様な笑みと感情の籠っていない様な銀色の瞳は、人ならざるものを思わせた。


「き、貴様!な、なぜ立っていられる!?」


幽霊でも見たかの様な顔をして私から、正確にはいきなり現れた男から距離を取った辺境伯の顔は溢れていた汗が引いて真っ青だった。まあ当然と言えるだろう。

だって、さっきまで鎖に繋がれていた男が、目の前にいるのだから。


「立ってられるって言ってもなぁ。そもそも気を失ってすらいない…みたいな?」

「はぁ!?馬鹿な事を言うな!お前の体からは血を半分も抜いていたんだぞ!?」


………えっ。

待ってくれ、それ普通に死なないか?だって半分だよ半分。ダークエルフと人間の違いとかは知らないが、半分は流石に死ぬだろう。


「ま、普通に死にかけてたけどよ」


あ、やっぱり。

私が納得した様に男の顔を見れば、男は少しびっくりした様な顔をしてから、また辺境伯と向き合った。


「ひ、瀕死だった奴隷風情が何様のつもりだ!今すぐ跪け!!」

「…あ?」

「なんだ!?命令ができない!?」


男の首には奴隷紋がない。

奴隷紋は通常、主人に逆らわないためにつけている物なので命令すればなんでも聞かなければいけないはずなのだが、おそらくこの男はなんらかの形で無効にしているんだろう。こんな状況で言うのもなんだがますます面白いな。

私の表情が微かに緩んだのを見逃さなかったらしい男が何かを言おうとして止める。そして代わりとばかりに、「?……どういう事だ?」と不思議そうな顔をして首を傾げた。なんだかその姿が見た事のない物を見た時の猫の仕草と似ていて、正直キュンときました。動物は好き。

だけど、そんな一瞬の癒しも辺境伯の「浮気女が!!」という怒声によってかき消された。

見てみれば顔を真っ赤にしている辺境伯と目があって、なんだか酷くちんけな物に見えてくる。これをさっきまで怖いと思っていたのかと考えてみると、情けない思いと、やっぱり怖いと思う感性は大事だという思いが込み上げてきた。だって、こんな奴に襲われていたらきっと、ただでは済まなかっただろうから。


「どうしたもんか…」


男はどうやら困っているらしい。

どうしたのか、という思いを込めて首を傾げて見せれば、「こんな大勢なんの用だろうな?」と男が独り言の様に私に聞いた。

………そこでピンときてしまう私は本当に良い主人だと思う。


「あの!私を庇ってくれませんか?」


男の腕を引っ張り見上げると、男の銀色の瞳と目があった。綺麗だなと思って、夜の月を思い出す。金色じゃない、銀色の月。本当に、綺麗だ。


「…ハッ!おもしれぇ!その勝負乗った!」


まるで、勝利を確信した様な笑みで答えた男が私の前に立つ。

辺境伯はなんだか発狂し始めて、もう人語すら話していない。……理解する気がなかったとも言える。


………そろそろ、かな?


バンッ!!キィ─


「キャァアアアアアアアア!!!!」


「アステア!!大丈夫か!?!?」

「アステア様!!!!」


私の悲鳴を聞きつけて、兄様とエスターが私に駆け寄ってくる。

辺境伯は目を見開いて凄く不細工な顔をしていた。


「に、兄様…ッ!」

「アステア!もう大丈夫だ!」


少し演技がかっているとも思うが、今の状況的にはこれがベストだろう。力強く兄様に抱きつけば、同じく力一杯抱きしめ返された。

それを囲むのは、エスターと、何がなんだかわからず驚いている男。それまた囲むのは、アルバ国の商人魂が強い国民、もとい優秀な兵士達だ。


そう、私達の周りは、クレイグが連れてきた兵士達に囲まれている。


兵士達の奥でほくそ笑んでいるクレイグを一目見れば、目があった瞬間に「少し遅れました」と口パクされた。…遅すぎますよクレイグさん!!


「これは一体どういう事だ!説明しろ!!」


兄様が叫んだ事でクレイグから目を離す。

すると見えたのは、怒り浸透している兄の姿だった。………久しぶりに見た気がして、少し嬉しくなったのは内緒って事にしてほしい。

他国の皇太子に怒鳴られ動揺したのか、辺境伯は「こ、これは…!」としどろもどろになり、最後には蹲ってしまった。


「蹲るな!!お前には説明する義務があるだろう!!なぜ俺の妹がこんなところで震えている!!そもそもお前は俺の妹に何をしようとしていた!?」


お…おう…本当に怒ってるな…。

今にも人を殺してしまいそうな顔をしている兄は、乙女ゲームの攻略対象とは間違っても思えない。それくらいいつもの姿とはかけ離れていて、咄嗟に、本当に咄嗟にだけど、弱々しくも兄の服の裾を掴んでしまった。

………なんか、私が本当に怯えてるみたいに見えないか、これ。


「アステア……」


案の定、怒りをなんとか抑えて私を抱きしめた兄様は、兵士に辺境伯を捕まえさせると「もう大丈夫だ」と言いながら私の頭を撫でてくれた。


怖い経験っていうのは案外疲れるもので、私は簡単に睡魔に体を明け渡した。


………別に兄様に撫でられたからではない、決して!

お読みくださりありがとうございました。

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