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第百三十五話 一体どうなるのか

視点なしです。

ピクリ、木の上で眠っていたヨルの耳が反応する。眉間の皺を深くしながら目を開ければ、胸の上で眠っていた小鳥が逃げて行ってしまったのが見えた。このくらい可愛げがあればどれほど良いか、そんな事を考えても仕方がない。ヨルはいくつかの足音を聞き分けながら深い溜息を吐き出した。

極めて小さく聞き取りづらい音はクレイグ。足音など簡単に消せるはずだが、後ろをついて来る二人に違和感のないよう歩いているのだろう。後ろをついて来ている一人は、おそらくアルバの姫。もう一人は知らない足音だが、一緒にいるならルカリオとかいう貴族か。

もう一組の足音は二人。聞き取りやすい音はリンクで、獣と同様のリズムの足音はエスターだ。

ヨルは段々とお互いに近づいていく足音に笑いそうになり、それと同時に騎士として仕える皇女の顔が浮かんだ。


「………姫さんが嫌がりそうな展開だなぁ」


他国の人間にリンクの存在が知られると色々と厄介になる事に加え、アステアは自分の理解できない状況が嫌いだ。まぁ、大抵の人間は混乱というものを苦手としているのだが。

ヨルは寝かせていた体を起こし、首を掻く。アステアから贈られた黒馬は木の下ですやすやと夢の中を駆け回っているし、起こすのは可哀想か。

だが、どちらかの方へ行かないとアステアが「なんでこうなってんのぉおおおお!!」と叫ぶ未来しか見えない。ヨルは仕方なしに木の上から降りると、リンクとエスターの方へ向かおうとした。のだが…。


「おいおい、なんでそっちが来んだよ…」


ヨルがアステアの元へ来てまだ長くないが、今まで二人が…いや三人が揃う事などなかった。当然だ、比較的自由な身であるアステアが会いに行く事と、自身の公務を全うしている皇太子と、帝国の姫として他国へ出向く事も少なくない二人が会いに来るでは難しさが違う。しかも一人ずつではなく二人揃って。

クレイグ達とリンクとエスターの二組が近づいていたのにも関わらず、二人の登場でクレイグ達に一番近いのが二人になってしまった。

まずい、これはまずい。アステアはアルバの姫をできるだけ遠ざけたい様子だったし、もし会ったと知れれば間違いなく嫌な顔をする。発狂もする事だろう、帝国の姫らしからぬ叫び声で。


「………手に負える気がしねぇ…」


この状況もそうだが、アステアの対応も面倒だ。ヨルは長く深い息を吐き出し、顔を上げた。


───











「!……これはこれは…」


細められた目の奥には、面白いものを見つけたような笑みと、主人の望む所ではない事が起きようとしている事に対しての焦りが隠れている。けれど、それを後ろの二人に悟られるはずもなく、クレイグはにこやかな笑みで歩みを止めた。


「?執事さん…?」


不思議そうに見上げて来るリリアを一瞥し、クレイグは頷く。


「申し訳ありません、アステア様の予定を…」


間違えていたようです、と言葉が続く前に、クレイグの頭の中にポンッと一つの案が浮かんだ。アステアは隠し事が多い。もちろんそれはわかった上で従っているし、情報も集めている。だが、おそらく目の前のリリアという少女の事を調べていけば、アステアの秘密を知らねばいけない時が絶対に来るはずだ。それは直感ではなく確信に近い何か。

ならば、今から少し鎌をかけてみるのも一つの手かもしれない。


「あの…」

「あぁ、すみません。アステア様のいる場所を間違えていたようで」


にこりと微笑めば、「大丈夫ですよ!」と嬉しそうにリリアが答える。それほどまでにアステアと会う事を期待しているのかと思えば、なぜか気分が下がってしまった。クレイグは下がる気分を隠すような笑顔で道を案内し、屋敷の裏の森近くの裏庭へ向かう。

リリアが訪れた時には人の気配の一つもせず美しさだけが虚しく映える場所だったけれど、今は心なしか花が上を向き、木々が生き生きとしているように見える。それはクレイグが密かに発動させた魔術のせいか、それとも庭のベンチに座り蝶を指に留めた姫のせいか。もしかすると、その少女を愛おしげに見つめる皇太子のせいかもしれない。

クレイグはこの世に愛されたような二人に会釈を済ませると、何も知らずについて来た二人を通した。

アステアに最も愛されている姫と、アステアを愛している皇太子と、アステアに愛されたい少女。そんな三人の中で、状況を飲み込めずに目を見開くルカリオの面白い事。さぁ、一体どうなるのか。


「ご機嫌麗しくございます、クロード皇太子殿下、カリアーナ第一皇女殿下」


気配を探れば、クレイグはこの状況を知らずに眠っている主人を思い、人の悪い笑みを綺麗に覆い隠した。

お読みくださりありがとうございました。

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