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第百三十三話 染まっているなら、何色か

視点なしです。

「一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


カタルシアへ来て六日目のお昼頃。そろそろ帰っても良い頃だというのに、ルカリオがクロードと仲良くなった事で、リリアはまだカタルシアに滞在していた。

正直リリアの心境としてはアステアに会えないのであればカタルシアにいる意味はなく、一人の時間をどう潰そうかと言う事で頭がいっぱいである。用意された部屋の窓から覗く色とりどりの花は美しいが、リリアの口から漏れるのは溜息ばかり。そんなリリアを思ってか、リリアの案内役としてついていた執事が声をかけた。


「なんでしょう…?」

「アルバ国にいた伯爵様のお話を聞いたのです。リリア王女殿下はご存知かと思いまして」


執事はルカリオとよく話しているため、リリアは「ルカリオ様から聞いたのかな」と目星をつける。


「国王陛下の元を去ったと聞きいたものですからねぇ。暇を潰す良い話かと」


退屈している姿を見て話を振ってくれたのかと思えば、下に落ちていた気分が浮くのがわかった。リリアは少しばかり声を弾ませて答える。


「そうですね…あ、そういえば、私がまだ上手く喋る事もできなかった歳の頃に、とても優秀な家臣がいたとお兄様に聞いた事があります。確か伯爵位のはずだったけど…」

「ほぉ、今はどこに?」

「えぇと、お父様が与えた屋敷で暮らしていると…。とても優秀な方だったらしいですね」

「そんなにも優秀な方がどうして伯爵位をお捨てになられたのか不思議ですなぁ」

「そうですね」


なぜだろう、首を傾げて思い出すのは、伯爵を知るアルベルトの言葉。


──あの人には先を見通す力があったんだ。まるで予知しているみたいでかっこ良くて、でも、だからこそ見通し過ぎてしまったのかもしれないな──


その時のアルベルトの表情は微かに曇っていて、リリアはなんと声をかけて良いのかわからなかった。すぐに笑顔に戻ったアルベルトが「尊敬しているよ、ずっと」と言葉を続けたが、その笑顔が無理をしているようにリリアの目には映っていた。


「…理由まではわかりません。けど、お兄様もお父様もとても頼りにしていたようですよ。まるで未来を予知しているみたいだったって、よく言っていました」

「……予知、ですか」


コクリと頷けば、執事は「興味深いですねぇ」と笑顔を作った。作り物みたいに綺麗な笑顔だからなのか、リリアには人ではない何かに見えて仕方ない。


「お名前をお聞きしても?」

「え?」

「他国とはいえ、そんなに素晴らしい方がいたと知らない自分が恥ずかしくて。もしよろしければ、お名前だけでもお聞きしたいのです」


冷たい印象だったけど、もしかしたらすごく真面目なだけなのかもしれない、とリリアは思う。アステアに会う事を何度も拒否されているけれど、もしそれが真面目故なのであれば、アステアの身の安全にも繋がるためリリアは執事の見方を少し改める事にした。小さなお詫びとして、古い記憶の中からどうにか伯爵の名前を見つけ出す。


「確か、ドリュー・マクミラン伯爵…だったかな」


言葉にすれば鮮明に思い出されて、確かにアルベルトは「ドリュー伯爵」と言っていたとリリアは確信する。名前を教えてもらえた執事は嬉しそうに「ありがとうございます」と感謝の言葉を告げ、リリアはその言葉に満足してまた窓の外へ視線を預けた。


その後ろで、執事がほくそ笑んでいるとは知らずに。


───










「エスター、アステア様の調子はどうですか?」


聞けば、エスターは笑顔で「異常ありません!」と答える。体調面を心配していたが、どうやらクレイグのその心配は杞憂に終わっているようだ。


「今はリンク様と話されていると思います」

「あぁ、そういえばリンク様の事を最近お見かけしませんねぇ。何かあったんですか?」

「え!?あ、いえ!何も!それよりアルバ国のお二人の方はどうですか!?」


いきなり焦り始めたエスターに「何かあるんですね」と確信したクレイグだったが、隠したい様子なのであえて触れず、その問いに答える。


「少し面白い話を聞けました。ルカリオ様は皇太子殿下と順調に友人関係を築いているようですし、リリア王女殿下は…まぁ熱が冷める事を祈るばかりですねぇ」


クレイグの答えを聞き、エスターの耳がピクリと反応する。どうやらクレイグの言葉に混じった憂鬱な気配に気付いたようだ。


「少し挑発してみましたが、あれは直接言われないと気づかないタイプかもしれません」

「諦める事はないって事ですか?」

「えぇ、おそらくは…。アステア様と似ているところはありますが、あの方は一線をわかっていないように見えます。何より…」


一旦言葉を区切ったクレイグに、エスターは首を傾げる。


「白は何色にも染まってしまいますから。純白なんてものが、この世で一番危険なんですよ」


それが何を指しているのか、わからないエスターではなかった。彼女が白ならば、いつ染まるのだろうか。もしもう染まっているなら、何色か。

クレイグとエスターはただ「主人に害のない色であれば良い」と思うけれど、きっとそれはないのだろうと直感していた。

お読みくださりありがとうございました。

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