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第百二十六話 まだまだ多そうだ

リンク視点です。

ヤバイ、俺の頭の中はその三文字で埋め尽くされている。なんでかって?そりゃ、できるだけ接触をしないで欲しいって言われていたリリア王女殿下が目の前にいるからだよ。

この屋敷には皇太子か第一皇女くらいしか遊びに来ないって聞いてたから完全に油断してた…。クレイグさんには自由に回って良いって言われてるけど、流石にリリア王女殿下との接触はクレイグさんにも予想できなかったはずだ。


「先ほどのご無礼お許しください」


アステア様の顔に泥を塗らないためにも品良く、けれど焦りを滲ませながら謝る。アルバの姫と言えば「花姫」と呼ばれるほどの美しさだとは知られているが、その性格などは一切が謎に包まれている。しかも父親が腹の底が見えないと有名なアルバの国王だ。社交界じゃ一種のパンドラの箱扱いされている。

………まぁ、そう考えるとアステア様も大概パンドラの箱だろうが…。


「あ、あの、大丈夫ですよ!それに、敬語はしなくて良い、です」


どんな言葉が投げられるのかと緊張していれば、降ってきたのはなんとも気弱な声だった。今、なんて?


「敬語はいらない…?」

「はい!アステア様にも敬語外してもらえるように頑張ろうと思っているので!大丈夫です!」


いや、どういう事だ。自分の事を従者だと名乗った俺に敬語を使われていなかったら、皇女であるアステア様にも敬語を使わないでもらえると思ったのか?……格下に見られるだけだろうに、なんでそんな無駄な事を…。


「さっきは何してたんですか?」

「へ?あ、これの事でしょうか…」

「それです!」


指差されたのは先ほどまで毟っていた葉っぱ。なぜか目をキラキラさせながら、さも「興味あります!」なんて顔をされると、言いたくないのに言わざるを得ない空気になってしまう。


「……ある魔道具を作ろうと思いまして。その魔道具にこの草の成分が利用できないか試そうと思っていたんですよ。これでご満足いただけましたか?」


色々な意味で純真無垢そうなお姫様が悪用なんてするはずがないとは思うので仕方なく答えるが、少々語尾がきつくなってしまった事に遅れて気付く。だめだ、久々に魔道具の事を考える時間を満喫できているから、それを邪魔された事に対して想像以上に苛立っているらしい。


「魔道具…すごいんですねぇ!」

「ありがとうございます」

「作るところを見せてもらえませんか?アステア様の従者さんならもちろんできますよね!」

「………は?」


作る?どういう事だ?

魔道具を作るには魔術師と技術者が揃っていないといけないなんて事は、この世の誰もが知っている常識だ。なのに、この言い方ではまるで…。


「俺一人で、作れと…?」

「できないんですか?」


………ダメだ。俺はこの人と話していたら頭がおかしくなる。アステア様は俺の才能を見抜いて話を進めてくれたから良いものの、この目の前のお姫様はなんの予備知識も基礎知識もなく要求している。

そもそも「一人で魔道具を作れ」なんて無茶な要求をして「はい、やります」なんて言うと本気で思ってるのか?

確かに俺は作れるが、常人相手に言えば無知すぎて馬鹿にされるかもしれない。


「申し訳ありません。この後用事がありますので失礼します」


早く離れようと一歩足を引けば、ガシッと力強く腕を掴まれた。


「待ってください!アステア様の従者さんならできるでしょう?」

「いえ、あの…」

「だってアステア様の従者なんだもの、きっと素敵な人に違いないわ」


一人心酔したようなリリア王女殿下の表情を見て、直感的な悪寒がした。……これは、父が兄貴を見ていた時と、似ている。けど、それよりもっと深くて、どこかドス黒い何か。


「失礼します…ッ」


相手がアルバの姫であるという事も忘れ、俺は自分の部屋目掛けて走る。一度気になって振り返ればポツンと取り残されたリリア王女殿下が見えたが、遠くに見える琥珀の瞳に吸い込まれてしまいそうな気がして二度と振り返る事はしなかった。


───











「はぁ、はぁ…はっ…」

「そんな息を切らしてどうされたのですか?」

「!!!」


ビックゥ!!と心臓が岸に打ち上げられた魚の如く飛び跳ねる。自室の前まで毟った草を片手に走り、肩で呼吸をしていれば、いつの間にか後ろにはクレイグさんが立っていた。


「懐かしいですねぇ、その反応。アステア様は最近慣れてしまったようでつまらないのですよ」

「え、あ、そ、そうなんですか…」

「それで、どうして息を切らしているんですか?」


聞いてくるクレイグさんの目は覗き込むように俺を見ていて、これは逃すつもりがないんだなと悟る。隠すような事でもないのでリリア王女殿下と会ったと素直に話せば、なぜか笑われてしまった。


「あの方が選ぶ方は皆さん面白いですねぇ。普通なら無垢な姿に騙されてしまいそうなものを、惑わされずに見抜いてしまうのですから」

「?」

「いえ、ふふっ、なんでもありませんよ」


クレイグさんはにこやかに俺の肩に手を置くと「これからも末長くよろしくお願いしますね」と告げる。意味がわからず首を傾げる俺を見て「そのままで良いですよ」という言葉が付け加えられたので、とりあえずは納得する事にした。

……よくわからないが、ここには俺のわからないものがまだまだ多そうだ。

お読みくださりありがとうございました。

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