第百二十四話 何か勘違いをされてるのかな
「アステア様!!大丈夫でしたか!?」
扉を開けた瞬間飛びついてきたのは、エスターじゃなくリリアだった。身長が全く違うから軽く感じるけど、なんというか「これじゃない」感じが否めない。エミリーに睨まれた後だからエスターの事抱きしめたいよぉ!
「そんなに慌ててどうされたんですか?」
「わ、私、アステア様に何かあったんじゃないかと心配で…!」
「…?皇城内で何かあるなんてあり得ませんよ?」
「そんなのわからないじゃないですか!本当に無事で良かった!」
私の無事を喜んでくれるのは良いけど、なんでこんなにテンション高いの…?何より、神経質な人が聞いたらリリアの発言は侮辱と捉えられるかもしれない。そんなのわからない、という言葉が、信用できない、って言葉に変換される場合だってあるんだから。まぁ少なくともこの場にはそんな人はいないけど。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。お客様が来ているのに数時間もお待たせしてしまったようで…」
「そんな事お気になさらないでください!」
「ご体調が回復されたようで本当に良かったです」
ソファに座っていたルカリオが腰を上げ、リリアを自然な動作で私から引き剥がす。リリアは不満そうだったけど、そこで笑顔を崩さないのはルカリオの貴族根性だろう。
もしかしたらリリアはこの後説教コースかな?
ルカリオの性格上あまり考えられないけど、そうなったら頑張れとしか言えないな。
「アステア様!」
「お戻りでしたか…」
リリアとルカリオのちょっとばかり不穏な空気を眺めていてば、廊下の方から聴き慣れた声がする。心配かけちゃったかなぁ、なんて思いで振り返れば、そこにはホッとしたように笑うエスターと、いつも通りにこやかなクレイグが立っていた。
………なんか、この二人見ると安心するわ〜。
「そうだ、皇女殿下の執事に淹れてもらった紅茶のおかげで少し疲れが取れたんです。ありがとうございました」
思い出したように告げるルカリオを見た後、クレイグに視線を移す。褒められても一切表情を変えていないけど、これで内心はめちゃくちゃ喜んでたら可愛げがあるんだけどなぁ…。きっと「まぁ当然ですね。美味しく淹れたのですから」くらいに思ってるんだろう。
「自慢の執事なんです」
「その気持ちがわかってしまいましたよ」
なんというか、本当にルカリオは女好きという点を除けば良いキャラクターだ。家族や友人は大切にするし、仕事も真面目。跡継ぎの役目を果たせなかった兄を軽蔑するでもなく敬愛し、人当たりも良い。
「その執事の自慢は皇女殿下なのでしょうね!貴女ほど美しい方はそういないですから!」
………まぁ、結局女好きっていうところで肩を落とさざるを得ないんだけど。
「ありがとうございます。あぁ、そろそろ晩食の時間ですね。ルカリオ様は予定通り皇帝陛下とお食事ですか?」
「はい!クロードも同席するという事で今から楽しみです」
兄様の名前……。そうか、兄様はルカリオを長く付き合う友人として判断したんだな…。その判断は間違ってないし、まぁ、兄様が皇帝になる頃には現アルバの国王であるアーロンもどんな形であれ退いている可能性が大いにあるから、別に問題はないか。
「ふふっ、兄と仲良くなったみたいですね」
「とても有意義な時間を過ごせました」
「それは良かったです」
長く付き合うならどんどん化けの皮が剥がれてシスコンの部分が見えてきたり、悪戯を仕掛けられたりするだろうけど、そこは頑張ってもらうしかないな。
「では案内の者を来させますので、私はこれで失礼いたしますね」
「えっ」
ルカリオと私の会話を聞きながらずっと黙っていたリリアが、驚いて声を出す。どうしたのかと首を傾げれば、涙目のリリアに「一緒にいてくれないんですか?」と聞かれてしまった。
「案内はルカリオ様とリリア様にそれぞれ一つずつ付きますから、リリア様を一人にさせる事はありませんよ?」
「いえ、あの、そうじゃなくて、アステア様は一緒には…」
あーと…これは、何か勘違いをされてるのかな。ルカリオが父様とご飯を食べるから、リリアは私とご飯を食べるって思ってる?
今にも泣き出してしまいそうなリリアにどう説明しようか私が苦笑いを零していれば、横から投げられた言葉は天の助けのようだった。
「リリア王女殿下、申し訳ありませんがアステア様はこれより大切な御用事がございます」
用事なんてないけどね!ナイスフォローだ!クレイグ!
「そういう事なんです、リリア王女殿下。ごめんなさいね?」
「え、あ、そう、なんですか…わかりました…」
本当に残念そうにするリリアを見て少し心が痛むけど、今日は昼間の頭痛の事があるから何事もなくベッドに入りたい。私はクレイグがいつの間にか呼んでいた案内役が来た事を確認すると、早々にクレイグとエスターを連れて部屋を後にした。
「明日、またお話ししてくださいますか?」
控えめに聞いてくるリリアに、仕方なく頷きながら。
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