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第百二十三話 はっきり言おう

最後だけ視点なしです。

「………」

「………」


はっきり言おう、気まずいと。

あれーんーナンダロー?いつも笑顔で暴言吐きまくってるけどいざとなったら気まずい的な?そもそもこんな静かな空間で二人っきりになった事ないんだけど。いや、ここ空間じゃなくて廊下だけどさ。

案内されてる身だから追い抜かす事もできないし、あー…気まずい…。


「あの」

「はい!?」


声をかけられると思っていなかったから物凄い過剰反応を見せてしまう。あ、めっちゃ変な目で見られてる…。

ジィッと凝視されているような錯覚に陥りそうになるのをなんとか抑え、エミリーの顔を確認した。嫌味を言ってくる時みたいなむかつく顔ではないから、何か言いたい事でもあるのかな?


「……最近、ダークエルフにしても、フィニーティスの伯爵子息にしても、少々度が過ぎているのではないですか?」


………前言撤回しようかな、うん。これは嫌味言われるパターンかもしれない。

足を止めて私を見つめるエミリーの顔を、私も見つめ返す。こうやって対峙するのは毎度の事だけど、二人っきりって言うのは珍しいと思った。いつもはクレイグとか父様とか、誰かしら止めに入ってくれる人が一緒だから。


「度が過ぎている、とは?」

「言葉の通りです。まだ百歩譲ってダークエルフの事は良いとしましょう。身寄りのない者ですから。ですが、リディア伯爵の子息は違います。聞けば跡継ぎだったという話ではないですか。アステア様は我が国の首を締めるおつもりなのですか?」


全くの正論。確かに、軍事関連に影響力がある騎士団長という立場のリディア伯爵が怒ったら、もしかしたら戦争にまで発展するかもしれないね。あののほほんとした王様なら止めてくれるだろうけど、関係が悪化するのは間違いない。

でも、それでも私はリンクの才能を潰して、子供の気持ちを考えていない、リディア伯爵っていう男が許せなかったんだよ。


「首を締めたところで死ぬような国ではないでしょう?」


問うてやれば、エミリーの表情があからさまに固まった。口まで開けてしまっては整った顔も台無しだ。


「それは…本気で仰っているんですか…?」

「フォーレス侯爵のご判断にお任せします。ただ勘違いしないでいただきたいのは、今回の事に関してはリンクの意思を尊重したまでという事。決して、リンクの意を傷つける事のない解釈の仕方でお願いしますね?」


皇女らしく対応しようとすると、どうしても表情がにこやかになってしまうのはどうしたものか…。笑顔が逆に怖くなってそうだけど、まぁエミリー相手だから気にしなくて良いか。

エミリーは微かに俯くと、「リディア伯爵子息の事はわかりました」と答えた。


「………一つ、質問させていただいてもよろしいでしょうか」


何を躊躇ったのか、確認をする前に小さな沈黙が降りていた。私が首を傾げながら、それでも「なんでしょう」と応えると、エミリーは俯かせていた顔を上げる。


「アステア様は、側に置いた者が自分を庇って死んでしまった場合、どうされますか?」


……………ん?


「すみません、質問の意味がよくわからないのですが…」

「では言い方を変えましょう。自分の勝手で動いた結果、周りの人間が死んだ場合どうされますか?」


うっわ、直球できたよ…。それはつまり、貴女のせいで人が死ぬかもしれないのよ?って意味なのかな。第二とは言え皇女なんだから、私の言動が招く被害は結構大きいだろう。

だけど、その問いは私にとって無意味なものだ。


「死ぬ前に止めます。事を大きくするのであれば、父様を巻き込むのも面白いかもしれませんね」


流石に一ミリも関係のない国民や使用人などに被害が出た場合は庇うし反省もするけど、私が攻撃的になるのは私の琴線に触れた奴だけだ。例えばリディア伯爵のような。そして、リディア伯爵の王はフィニーティスのほのぼの王様で、王様は父様の友人。王様の性格を考えても、私や私の周りの人間に被害が及ぶとは思えない。


「何より、側に置く者には自分で対処できる者を選んでいます。リンクは…まぁ、まだ不慣れな点があるでしょうから私が守る事もしましょう」

「……信用なさっているんですね」

「えぇもちろん。私は気に入った相手には最大の情を注ぎますよ」


なんか皇女として喋ってると上から目線の発言が目立つような気がする…。自分で自覚できるくらいなんだから、エミリーからしたら「なんなのこのガキ」くらいに思うんだろうな。その点に関しては心の中で謝っておこう…。


「そうですか。では、私は失礼します」

「え?」

「ここを曲がって三番目の部屋にいると思いますよ」


気まずいままの方が嫌だったから別に良いんだけど!その「もう用無しです」感はなんだ!?

笑顔を顔に貼り付けながら、心の中で叫ぶ。けど、その叫びが届くわけもなく、私はエミリーに背を向けて廊下を進み始めた。


───












「本当に似ていますね…彼女にも、ディルクにも…」


感情のない表情とは裏腹に、その言葉に隠された真意は黒く澱んでいる。囁きのような言葉は、誰もいない廊下に溶け込んでいった。

お読みくださりありがとうございました。

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