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第十二話 よく見上げた夜空の色

「こ、れは…」


思わず漏れた声に、辺境伯は首を傾げる。


「どうされたのですかな?さぁ、こちらには見目麗しい物が揃っておりますよ!」


そう言って、私の腕を引く手には酷く力が込められていて、逃さないとでも言われているようだった。素直に着いていけば、辺境伯は嬉しそうに「ここです!」と大きな声を張り上げる。


「見た目だけが取り柄ですがね!鑑賞するだけであれば十分我々の目を潤してくれますよ!」


そこに並べられていたのは、エスターと同じ獣人の子供達、女性達、森を守る者として知られているエルフや、まだ年若いドワーフ達。檻に閉じ込められ、鎖に繋がれ、首にはおそらく禁忌術式である奴隷紋が刻まれていた。


「…亜人種ですか」

「えぇ!人と名乗ってはいますが結局は別種ですから!獣と同様に扱ってもなんら問題はないでしょう?傷の一つもつけていない事に感謝してほしいくらいですよ!」


反吐が出る。

わかっていた事とは言え、やはり目の前にすれば同じ人間が動物のように扱われているのだ。良い気分になんてなれるはずがないだろう。

別種というなら私の隣でせせら嗤っている家畜以下の事を言うんじゃないか?家畜は何かしらの利益をくれるが、この汚物はなんの利益も生まずにただ害だけをもたらしてくる害虫だ。


「おっと!そういえば皇女様は人の方を見たがっておりましたね!どうぞ!人間は屈強な冒険者から年若い少女まで取り揃えておりますよ!」


………亜人を別種だと言いながら、人間も同じように見せ物にするその感覚が意味不明だ。馬鹿なの?汚物にプラス馬鹿を追加するの?


「あぁ!そういえば最近活きが良いのが入りましてね!」


私が喜んでいると思っているのか、辺境伯が語り出したのは、とある若い冒険者の事だった。

自身の領地を視察するでもなく、ただ女遊びに出た日の事だ。辺境伯は自分の偉大さなどを語りたいらしく長々と話しているが、要は子供にぶつかって逆ギレしたらしい。「何をするんだこの下民が!」と、どこの三下貴族だ?と聞きたいほどの台詞を吐き捨てて、子供を殴ろうとした。そこに止めに入ったのが、その「活きの良い」奴だと言う。

………それ、もしかしてレイラが言ってた知人さん?

レイラが言っていた件と同じ相手だとは思っていたが、それを嬉々として語るあたり、この辺境伯はとことん救いようがない。なんか同じ空気を吸うのも嫌になってきた、汗臭いし。

私の顔が小さく歪み、けれどそれに気づかない辺境伯はどこまでも嬉しそうに「こちらです!」と奥の部屋へ私を案内する。


「ここには力の強い者が多くおります!観賞用には向きませんが、こういう連中は痛めつけてもそうそう根を上げませんから人気なのですよ!!」

「…痛めつける事が可能なんですね」

「えぇ!ご要望とあらば!」

「では、先ほど話していた活きの良い子はどこに?」


私の問いに、辺境伯はニンマリ笑って「あそこに!」と、一番奥の檻を指さした。


「若い分暴れましてね!少々奥の方でおとなしくさせているんですよ!」


辺境伯の言葉を聞き流し、足早に指さされた檻へ向かう。そうして見つけたのは、小さな呻き声とともに蹲っている青年だった。

………クレイグに、いつもの様に調べごとをしてもらったついでで良いからと、レイラの知人の事も調べてもらった。

正義感が強く、レイラを女性騎士だからと軽視せず、冒険者として夢を見る、所謂大人になっても子供な男。見た目はそこまで派手ではないが、整った顔をしているらしいという事はわかっている。


そして、名前は…。


「リアン…」


ピクリっ、蹲っている青年の肩が揺れる。

………絶対とは言い切れないが、可能性があるなら助けた方が得策だろうな。だが、辺境伯から譲り受けるとなると相当な金額を用意しなければいけない。兄様に借りるという手もあるが、絶対に怪しまれる事必須だ。

私がう〜ん、と悩んでいれば、鎖の揺れる音が耳に届いた。


「……奥に、まだいるんですか?」

「え!?え、えぇ!まぁ!ですがあれは不吉な()()()でして!皇女様にお見せするような物ではなくてですね!あちらの方に女子供がおりますから、あっちにいきましょう!!」


奥には相当な何かがいるらしい。

私はどうにか私の気を引こうとする辺境伯を無視して、奥に足を進めた。


「こ、皇女様!いけません!!」


耳障りな声は、もう半分以上聞こえていない。

ただ忌み者と言われるくらいの何かが気になった。

邪魔ったらしくかかっているカーテンを抜け、薄暗い地下の廊下を進めば、見えたのは他の檻とは違う、備え付けの檻で厳重に拘束されている誰か。褐色の肌に長い耳を見れば誰だって正体はわかる。けれど何か違和感があった。


「あぁ…見てしまいましたか…!皇女様のお目を汚す事になって申し訳ないばかりですよ!ダークエルフになど興味がないでしょう?」

「……いえ、できれば説明をお願いします」

「え?あ、そうですか?説明と言ってもですねぇ、普通のエルフは髪が色素の薄い銀髪か金髪でしょう?なのにコレはどんよりと暗い黒でしてね!顔は良いので鑑賞される方はいるのですが、奴隷として欲しがるのは誰もいませんよ!しかもエルフの世界でこういう子供が生まれた時は忌み子として殺すというらしいのです!私にもいつ災難が降りかかるか…!」


ベラベラと語る口を今だけは褒めてやる。

そうか、髪色が違うから違和感があったのか。確かに普通のエルフもダークエルフも髪色は揃って色素の薄い金髪か銀髪だ。なのに、私の目の前の檻で繋がれているダークエルフの髪色は、前世でよく見た都会の少し曇った青。

辛くなった時に、よく見上げた夜空の色だ。



懐かしい、そう思えば自然と笑みは溢れて、私は知らず知らずのうちに


──面白いもの、見つけた──


と、思っていた。


お読みくださりありがとうございました。

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