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第百十九話 気づかなかった……?

真っ赤なトマト状態になってしまったリリアの緊張をどうにか他愛もない会話をしながら解していき、やっと普通に会話ができる様になった。


「婚約者…ですか?」

「というよりは、気になっている方かしら。同世代の令嬢達が話しているのを聞いた事があって…」


性急すぎるかもしれないけど、早く聞いておいた方が良い。アルベルトか、ルカリオか。今のところクリフィードや兄様の可能性は極めて低いから少し安心しているけど、安心し切ってしまえば思いもよらない落とし穴に落ちる。

リリアは少し考えた末に、下げていた視線を私へ戻した。


「いません。あまり男の人と話す事もないですから…」

「では、最近話す様になった人は?」

「え?えーと…ルカリオ様くらいだと思います…でも、ルカリオ様も私とお話ししてくださるのはお兄様の妹だからですし…」

「……そうですか」


アルベルトとルカリオ以外の攻略対象とは話してないって事か?なら、二人のうちどちらかがリリアの恋の相手って事に……いや、何か違う。そもそも接触を防いだ兄様は別として、あとの攻略対象二人はどうなんだ?

リリアと攻略対象が全員出会うはずのパーティーに出席していたのは王太子のアルベルト、招かれた兄様、アルバ国の公爵家子息であるルカリオの三人だけ。私が見た中で、そのパーティーにクリフィードの姿はなかったし、五人目の攻略対象の姿もなかった。

そうだよ、そこからまずおかしいんだよ。なんで、気づかなかった……?


ズキッ──


「いっ…」

「アステア様…?」


罅が入った様な痛みが頭の中を走る。私へ手を伸ばしたリリアの表情は心配そうですぐに大丈夫だと言いたかったけど、微かに霞む視界のせいで目を強く瞑るしかできなかった。

リリアの細く綺麗な手が、私の頬に触れようとした瞬間。


「アステア様、体調が優れないのでしたら薬を持ってきます。それとも少しの間席を外した方がよろしいですか?」


私の視界の中に入ってきたのは可愛らしい狐の耳を立てて、真っ直ぐ私を見つめているエスターだった。

私とリリアの間に入り、いつもと同じ優しい声色で、でも、少しかしこまった言い方をしてきたエスターに感謝しながら、「うん」と一つ頷いた。


「甘える様だけど、良いかな…」

「もちろんでございます。リリア王女殿下の事はエスターが責任持って他のお部屋へ案内させていただきます」


なんだかいつもの可愛いエスターが嘘みたいだ。こんな頼れる女の人だったんだな…エスターって。昔のじゃじゃ馬っぷりが嘘みたい。

段々と小さくなる痛みと意識の中で、エスターがリリアを誘導しようと声をかける姿が見える。

なんだかリリアは嫌がっているみたいだけど、エスターの落ち着いた対応のおかげですぐに扉の方へ足を向けてくれた。


「─っと、──お─様と会えた──…」


遠のいていく意識の中では最後にリリアが呟いた言葉を聞き取る事すらできなくて、私は部屋を出ていくエスターとリリアを見送る事もせずに意識を手放した。



───










エスターは後ろをついてくるリリアを一瞥し、先ほどの事を考える。アステアの顔色が悪くなった時、そしてリリアがアステアへ手を伸ばした時、何か嫌な感覚がした。それは本能的なもので、どうしてそう感じたのかはわからないけれど、獣の血が入ったエスターの体は本能の従うままに動いていた。

アステアとリリアの間に入った瞬間にそれはなぜだか正解だったのだと理解できて、エスターはできる限り後ろにいる何かを刺激しない様にアステアへ声をかけていた。後ろにいる何か、なんて言い方はしたくないが、エスターは後ろにいるリリアの事を、確かに「得体の知れないもの」だと思ったのだ。


「あの、アステア様は大丈夫なんでしょうか…」


控えめに聞いてくるリリアは可愛らしく、まさに絵に描いたような姫。けれど、部屋を去る際に呟かれた言葉は五感が優れている獣人のエスターの耳に、正確に届いていた。


──やっと、私のお姫様と会えたのに…──


久方ぶりに立ってしまった鳥肌を隠す様に手首を擦る。聞き間違いと言うにはハッキリと聞こえすぎてしまって、エスターはどうして良いのかわからなくなってしまった。早く報告しなければ、そう思ったエスターはリリアを客間に案内し、紅茶を持ってくると告げてから足早にクレイグの元へ向かう。


「行っちゃった…」


返事も聞かないうちに出て行ってしまったエスターの背を見送って、リリアは少し考えた末に部屋の外へ出る。エスターに言われた、待っていてください、なんて言葉はすでにリリアの頭の中から消えていた。キョロキョロと周りを見渡せば辺りには誰もいない。リリアは忍び足でその場を後にした。





「あっちは確か姫さんがいる応接間…だったよな?」


最悪だ、とでも言いたげな溜息と共に吐き出された言葉は、冷たい廊下に消える。その言葉を吐き出した張本人はリリアから視線を外すと、すぐに冷たい風を招き入れる窓から飛び降りてしまった。

お読みくださりありがとうございました。

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