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第百十四話 顔だけ綺麗な発狂ゾンビ状態の兄様

父様に認められるほどの魔道具を作るという約束があるにはあるが、晴れてリンクは私の専属魔道具士になった。魔道具を作れるリンク専用の工房がまだないため作り始める事もできていないが、設計図を何枚か書いているようで、リンクはとても楽しく仕事ができているらしい。若い力って素晴らしいなぁ、と紅茶を一口飲めば、バタバタと大きな足音が聞こえてきた。

思ったよりずっと遅かったな。予想以上に貴族達の相手をしていたらしい。


バターン!!!!!


漫画のワンシーンかのような豪快な扉の開き方をしたのは、何を隠そうカタルシアの皇太子様。


「アステア!男を連れ帰ったとは本当か!?」


我が兄である。ちなみにシスコン。


───










「出迎える事ができなかったのは悪かったと思ってる。あぁ、もしかして寂しかったのか?そうだな、すぐに帰ってくると思って手紙を出さずにいたからな。カリアーナもさぞ寂しがっている事だろう。まさか、そうだ、まさかだな。カリアーナが父上のドレスではなく、王太子になったばかりの男からのドレスを着たなんて事もありえない話だ。もし本当だとしてもホームシックになってしまったが故の過ちだろう。手紙が送られてこなかった事がそんなに寂しかったのか。本当に悪い事をしたようだ。後で謝らないといけないな。うん、そうだ。それでアステア、お前は寂しくてフィニーティスから男を連れ帰ってきたようだが、詳細を聞いても良いか?」


私の肩を掴み逃さないようにして、真顔で言葉を並べ立てる兄様の目は光を失っていた。普通に怖いわ。何この兄怖すぎるんですけど…。


「すみません、途中から話聞いてませんでした」

「相変わらず素直だな!よし!そのどこの馬の骨とも知れん男について話してくれれば問題ないからな!」


何が「よし!」なの?完全に目がイッてるよ?ゲームの中のクロードはもっとかっこいい感じだったはずなのに、兄になるとここまで変なんだね。いや、昔からわかってた事だけど。


「リンクは…」

「リンク!?名前を呼び捨てなのか!?」

「え?あぁ、はい。いや、だって私の魔道具士ですよ…?」

「ワタシノ……私のぉおおお!?伯爵家の男を連れ出すほどのアステアの実力と魅力はわかるがなぜだ!なぜ他国へやった側から一人男が増える!?心配のしすぎで夜も眠れなかったぞ!?」


夜寝れなかったのは参加していた会議の資料に目を通していたからじゃないのか?その証拠に手にはインクがついているし、兄様からは印刷された紙の匂いまで漂ってきている。匂いが移るまでずっと書類と缶詰状態だったならこうして壊れてしまうのも、まぁ納得かな…。


「兄様、疲れているなら少し休みませんか?私もリンクも逃げませんし」

「逃げない…?相手方の軍は逃げたぞ…?」

「今は会議中じゃありませんよ。ほら、あっちの部屋に使っていないベッドがありますから」


すでに会議の内容と私の言葉をごちゃ混ぜに考えてしまうくらいには頭が働いていないようだ。手早くクレイグに兄様を預け部屋の扉を閉めれば、驚いた顔で棒立ちになっているリンクと目が合った。


「あー…いつもはもっとしっかりしてるんだよ?」


初対面がこれでは先が思いやられる。どう返事をして良いのかわからず、とりあえず「はい」と答えたリンクが元々座っていた椅子にストンと腰を下ろす姿を見て、私も体の力を抜いてソファに沈み込んだ。


「あれがカタルシア皇太子のクロード兄様。たぶんこれから少しの間は敵視されると思うから気をつけて」

「えっ、敵視ですか?」

「うん。ちゃんと実力示せば認めてくれると思うけどね」


だから頑張って、とエールを送れば、リンクは嬉しそうな顔で頷いて見せた。なんだろう、リンクって逆境の時こそ燃えるタイプなのか?それとも今まではリディア伯爵のせいで示す前に取り上げられていたから嬉しいのか……後者じゃない事を祈りたいけど、きっとそうなんだろうなぁ。


「あ、今ので良いのが思いつきました」

「今ので…?」


どんな発想力だよ。ウキウキと新しい設計図を書き始めるリンクを見つめ、若い力って素晴らしくもあるけどそれ以上に不思議だ、と思った。あの顔だけ綺麗な発狂ゾンビ状態の兄様を見て何か思い浮かぶって相当凄くないか?やっぱり良い人材引き抜けたわ。魔道具を作る過程が少し見たくなったから我が儘を言ってリンクに私の部屋で設計図を書いてもらっていたけど、なんだかパワーをもらえた気がする。ありがたやありがたや…と合掌しても、リンクはもう設計図を書くのに夢中になってしまっていて気づかれなかったけど。


私も私のやり方で頑張るかぁ…!


なんて、逆ギレ状態でもないのに前向きな事を思えた。

けれど世の中は谷あり山あり。一段落つくとまた大きな山が現れる。



「アルバの姫君がカタルシアに…ですか」

「あぁ…まぁ、定の良い厄介払いだろうがな…」


全身へ染み渡るようなマッサージを受けながら、兄様がそんな事をクレイグに話していたなんて、その時の私は知るよしもなかったのである。

………ま、そのすぐ後にクレイグから教えてもらったんだけどねっ!

お読みくださりありがとうございました。

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