第十一話 はしゃぐな豚が!
アステアがめちゃくちゃ豚辺境伯を罵っております。ご注意ください。
ヒロインと話してわかった事は…正直言って、ない。
少しくらい情報を引き出そうかと思って「誰かに会ったか」と言う事だけ聞いてみたが、収穫はなし。
まぁ、おそらくこのパーティーでリリアは攻略対象である五人に会ったはずだ。ゲームの中では「伯爵に迫られる」→「婚約者を選ぶ」→「パーティーに出席」という流れだったはずだから、たぶんリリアはもう攻略対象を選んでいる…のだろう。
確証はない。
このパーティーに来た目的は、もし兄様が選ばれていても「兄様にヒロインとの婚約を断らせる事」だった。
兄様は自分を楽しませてくれる人が好きだから、きっと大人しいリリアを見て婚約者に選ぼうとは思わない。だから、会話させないようにするか、一目惚れを阻止できれば良かったのだ。
「一目惚れはどうしようもないと思ってたんだけどね」
私の横に立つクレイグをジト目で見れば、「簡単な事ですよ」と笑われた。
「要は意識を逸らしてしまえば良いんですから。あの皇太子殿下がアステア様がいらっしゃるのに余所見をされるとお思いですか?」
「全く思えないところが怖いんだよ、妹好きすぎ」
私の言葉を聞いて、またクレイグは笑う。なんだか今日は機嫌が良いな、何かあったんだろうか。
「…そういえば八つ当たりの件は?」
「あぁ、その件でしたら準備は整っておりますよ」
また笑う……本当になんだって言うんだ。クレイグが笑っていると怖いんだよなぁ…いつも笑ってるけど、なんだか今日は本当に嬉しそうで。
「……何かあったらちゃんと私に報告してね?」
「もちろんですとも。八つ当たりにはエスターを連れて行きますかな?」
「……いい。八つ当たりってレイラの件と同じでしょ?エスターが気に入られたらどうするの」
「過保護ですなぁ…」
うるさい!エスターは可愛いからダメです!
それに、王宮の使用人と話をさせて情報引き出してもらってるんだから、今連れ出したら中途半端に終わっちゃう。私はクレイグに案内を任せて、ちょっと疲れた気持ちをエスターの獣耳を思い出して癒されながらクレイグの後をついて行った。
………やっぱりもふもふは正義だと思う。
───
「よくいらしてくださいました!!皇女様!!」
嬉しそうに近寄ってくる油ぎったぶ……コホン、アルバ国の辺境伯に挨拶をする。
クレイグに案内されて着いたのは、パーティーの会場から少し離れた王城の別邸だった。そして、そこで待ち構えていたのは今、私の目の前で「むふっ、ふふ」と変な笑い方をしているぶ…辺境伯。
「辺境伯様自らお出迎えとは、嬉しい限りです」
私が笑顔でそう言ったのが嬉しかったのか「いやー!嬉しいだなんて!」とはしゃぎ出すぶ…辺境伯。汗が飛ぶからとりあえずはしゃぐのやめてほしい、子供ですか、大人ですよね、今すぐはしゃぐのヤメロ。
「ですが、皇女様があんな奴隷ども好むとは思いませんでしたよ!ご安心ください!私が教育しているので馬鹿な物は一つもいませんから!」
辺境伯……もうこの際、豚で良いか。
豚の言葉を聞いて私が後ろについていたクレイグを睨めば、クレイグはやはり上機嫌に笑って見せた。何かおかしいと思っていたけど、この笑みはそういう意味だったのか。
「……申し訳ありません、辺境伯。私、説明などを執事から聞いておりませんの。できれば教えてくださりませんか?」
「そんなお顔をなさらないでください!もちろんお教えしますとも!」
だからはしゃぐな豚が。
「では地下にご案内させていただきます!私自身が!」
「ありがとうございます…」
だから感謝しろって?するわけないだろ。今すぐ掃き溜めに捨ててやろうか。
後ろをついてくるクレイグを豚がなんだか目障りそうに見ているので、「私の使用人勝手に見てんじゃねぇぞ」という意味を込めてニッコリと微笑む。すると何を勘違いしたのか喜び始めた豚は「むふっ、ふふ」とやはり気持ち悪い笑い方をした。……もう豚の方が可愛く見えてきたよ。ごめんね、やっぱり辺境伯って言うわ、豚は結構愛嬌ある顔してるもんね。
私が心の中で悪態をつきまくっていれば、長く感じられた数分の間に地下へ到着する。
「ここにいるのは皆さんにお見せする用で、この後お客を入れる予定だったのですがね!皇女様は特別に!お一人でご見学してくれて構いませんよ!」
…見世物小屋の地下バージョンですか。この世界には色々な種族の人間がいるから、さぞ面白いんだろうね。
私がさっさと終わらせたくて地下の扉をクレイグに開けさせようとすると、なぜか辺境伯は「待った!」と叫ぶ。
「ここからは皇女様と私の二人っきりですよ!?この使用人を地下に入れるなんてあり得ない!!」
さっきからうるさかった声が三倍になった。
そもそも他人の執事を使用人呼ばわりとは良い度胸だな。主人である私はともかく、なぜ辺境伯にそんな呼ばれ方をされなきゃいけないんだ。無礼だろ、リリアみたいな美少女でもないお前が無礼すんじゃないよ、目も当てられないわ。
「わかりました。クレイグ、ここで待っててね」
「…かしこまりました……家畜は相応しい身分というものを知りませんから、どうかお怪我のないように」
「ははは!家畜とはよく言ったな!なに、奴隷どもには指一本たりとも触らせない!安心しろ!」
クレイグが誰の事を言っているかなんて明白なのに。哀れな家畜さんだこと。どさくさに紛れて回されそうになった図太い腕からスルリと逃れ、次こそ地下の扉を開ける。
すると広がったのは、当然のごとく檻に入れられ、鎖に繋がれている人々が眠っている光景だった。
お読みくださりありがとうございました。




