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第百二話 大丈夫です、ブラッドフォードなんで

リンクの引き抜きが成功した事によって上機嫌の私が颯爽と姉様の元へ戻れば、時間的にはそろそろ即位式が始まる頃合だった。


「リディア伯爵とリディア夫人にご挨拶できた?」


私が「いなかった」と答えれば、姉様は「残念だったわね」と言ってくれたけど、正直言えば全く残念な事ではない。空気を変えるために名前は出したがリディア伯爵に挨拶したいなんて一ミリも思っていなかったから。

一応案内を申し出たリンクが悪く思われないように「散歩できて楽しかったよ」とだけ付け加え、私は姉様の隣の椅子に腰掛けた。

挨拶のために雪崩れ込んで来そうだった貴族達はすでに姉様が笑顔で対応してくれていたようで、それぞれに用意された場所で私達同様、王様達が来るのを待っているようだった。


「そろそろ?」

「そうね…当日まで王太子が誰になるか発表がなかったけれど、大丈夫かしら…」


大丈夫です、ブラッドフォードなんで。

隣で心配そうに眉を下げている姉様を盗み見る。友好国とはいえ、他国の王太子の即位式でそんな顔をしてる姫なんていないよ。もしいるとすれば婚約しているとかそんな関係のお姫様だけ。

パーティーなどで笑顔を崩さない姉様らしくない表情に、やっぱり複雑な気持ちになる。それだけ一瞬で好きになっちゃったって事だろうし、それだけ好きな人となら、一緒に居て欲しいって思うけどさ…。


取られたくないと思うのは、仕方ない事だと思うわけですよ。


大好きな人が自分以外を一番にしちゃうんだから。そういえば、前世でも姉が初めて恋人を連れてきた時、同じような心境になった記憶がある。今世では結婚相手になっちゃったけど、あー…ヤダ。さっきまでの良い気分はどこへやら。私の心は真っ青に染まっちゃいました…。


けど、私の気持ちなんて知ったこっちゃないとばかりに、即位式の時刻になってしまった。


この会場は暖かなムードに包まれているけど、即位式をするには些か緩すぎるので当然玉座の間に移動する。その間やっぱり重いドレスが私の足を高く上げさせて、けれど上がる足と反比例して私の気分は沈むばかりだった。


───












玉座の間に着き辺りを見渡せば、会場とは少し空気が変わっていた。おそらく移動してきたのが上級貴族だけだからだろう。

サーレのような男爵家などの人間は会場に残り、この玉座の間で即位式が終わってから優先して国王の挨拶が聞ける…って、感じだったと思う、記憶曖昧だけど。それからやっと国王は国民の前に顔を見せ、王太子が誰なのかを告げるのだ。

玉座の間は会場と違って少し冷たい雰囲気が漂っていたけど、貴族達が入った事によってピリついた空気になってしまった。上級貴族の中には第二王子派が多いから、どうしても会場のような暖かな空気にはならないようだ。


少し重いようにも感じる空気に無視を決め込んでいれば、王族達の登場を知らせる音色が高らかに響く。


「みんな急な事だったにも関わらずありがとう。今日を迎えられた事を心から嬉しいと思っているよ」


玉座に腰掛けてそう告げた王様はとても嬉しそうで、けれど人前だからなのか王としての威厳を失う事はない。

……なんだか私が殴り込みに行った時とは別人みたいだ。

王様の隣に座っている王妃様は少し目を伏せて黙ったまま。王様は一言二言、たったそれだけの挨拶をしてから宰相に目配せをした。どうやら学校の校長みたいに長話はしないらしい。


「国王陛下、並びに王族皆々様のご意志により、これより王太子の即位式を始めさせていただきます!」


宰相の歳を感じさせない声が響き、次の瞬間には第一王子か第二王子、どちらが王太子になるか知らない貴族達の目が血走った。

カタルシアの場合は王子がクロード一人だけだった事に加えて長子だったから何の問題もなく皇太子になったけど、二人以上になるとこんなに雰囲気悪くなるのか。しかもクロスではこんな悪い雰囲気の中、せっかく王太子にさせた第二王子が子供を産めないヒロインを婚約者にする。同意は絶対にできないけど、第二王子派がサーレに子供を産ませるためにブラッドフォードと結婚させた気持ちも、わからなくもないかもしれない。皇族として数年生きてしまうと、あり得ないと思っていた事にも少なからず納得できてしまえるようになるのが嫌なところだ。

まぁ?単に貴族達の考えは非道だけど仕方ない事ではあったのかもしれないと少なからず!米粒一粒分くらい思っているだけであって!趣味全開のこのゲームを作った製作者の事は変わらずシメてやりたいよ!!姉様を泣かせる奴はどんな奴でも敵!悪だからね!

私は自分の心情を隠さずにフンッと息を鼻から吐き出す。すると同じタイミングで宰相が声を張り上げた。


「フィニーティス王国第一王子殿下、並びに第二王子殿下のご入場です!!」


こんな演出されたら王太子にならない方が酷く惨めになるだろうに。小さな同情心を胸に、私は玉座の間の大扉から現れた王子二人に視線を移した。

お読みくださりありがとうございました。

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