逆算カッケー
「何でそんなに鍛えてるの?」
「デートの為であり、彼女の為であり、俺自身のためでもあるかな」
「でも、何で腕や上半身だけ鍛えてるの?」
「彼女が望んでいるデートコースに合わせるためだよ」
「よく分からないけど、とにかく頑張ってね」
「うん。ありがとう」
デート当日、男は堂々としていた。
完璧に練り上げられた計画があったから。
「今日は楽しみだな。私の行きたかった場所に連れていってくれるから」
「必ず感動させるよ」
「でも私、少し不安だな」
「大丈夫だよ。俺がついてるから」
「ありがとう」
道を進んでいくと、大きな川が現れた。
その川は音をたてて、勢いよく流れてゆく。
「私、全然泳げないよ」
「大丈夫だよ。俺が肩に担いで渡るからさ」
「ありがとう」
「じゃあ、いくよ。ヨイショ!」
「大丈夫?重くない?」
「うん。全然平気」
川を越え、木が生い茂る道を進んでいくと、岩の壁が現れた。
足場が僅かしかない場所から、岩と岩で挟まれた狭い隙間へと繋がる道。
そこを通らないと、目的地には辿り着けない。
男は彼女の手を握り、主に上半身だけを使い、狭い足場を渡り切った。
「ありがとう。腕の力、かなり強いんだね」
「うん。鍛えてるからね」
「すごいね。でも、この隙間通れるかな?ガッチリした体型の人は通れないんじゃない?」
「いや、行けると思うよ」
「下が狭くて逆三角形みたいな形してるけど、大丈夫なの?」
「うん」
男と壁の間は、少し隙間があく程度で、スムーズに通り抜けた。
彼女も男に手を引かれて、スムーズに通り抜けていった。
「やっと着いたね」
「うん。あと数分で、陽が昇るよ」
「本当に完璧だね」
「そうかな?」
「私の体力とか天気とか、全部逆算して、タイミングよく日の出が見られるようにしてくれたんだよね。本当に頭がいいよね。ありがとう」
「逆算?ああ、それね。それはしてたよ。あなたの為だからね」