ある世界線の「第二王女と斧の戦士」①
序盤の世界線の物語。姫と兵士と主人公。
_____永遠の愛を誓ったと思っていた。
王国の第二王女「ニア」はオレ達の魔王討伐を支えてくれた。
兵士の父に倣って王国兵士となり、第二王女のニアから魔王討伐の命を受け冒険をする。
「ルーク様…なんとお強い…!魔王を倒したら…ワタクシと…////い、いや、何でもありませんわ!」
ループを何度か繰り返し、魔王の手下『悪魔』の1人を倒したあと城に帰ると、第二王女ニアは、はっきりとデレた。
どこでどんな敵と遭遇するかは分かっているため、必然的にオレがリーダーとなり冒険していた。
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王国の武器は基本『槍』だ。王国の周辺で採れる樫の木は硬度も粘りもあり、槍の柄に向いている。
金属で出来ている穂(先の部分)は十文字になっており、量産化されている槍は『王国式十文字槍』として多くの兵士に愛用されている(通称『槍』)。
例に漏れずオレも槍を使い、父に習った『王国式槍術』を使っていた。
当時のパーティは王国兵士の男3人で、なんともむさ苦しい旅だった。
攻撃的な戦闘を得意とする「ドルカス」は190cm100kgの恵体。元々は槍を使っていたが、当時の戦闘スタイルは『斧』。ドルカスの大きな体格と大雑把な性格は斧と相性がバッチリだ。
回復魔法を得意とする「ザビ」は槍を愛用している。ルークとの違いは左手に盾を持ち、右手に槍を構えた防御的スタイルだ。
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『悪魔』の1人『アバルドン』との対峙。
巨大バッタを人間に押し込めたような姿。顔の輪郭は人間のようだが、顔立ちと表情はバッタのもの。
上半身や腕は人間に近く、下半身はバッタのようでいかにも強靭だ。
「強い人間がいると噂を聞いてな。暇つぶしにきたのである。」
『悪魔』は『魔物』とは違い知性があり、人と同じ言語を使う。そして人を襲う本能は存在しない。
悪魔アバルドンが言う通り、暇つぶしにきたのであろう。
暇つぶしに現れて、暇つぶしに人を殺す。
長い寿命と強い力を持つ存在だ。人間を滅ぼしたら余計に暇になるため、適当に増えたら適当に間引く。
急に現れた悪魔にも斧のドルカス、回復のザビは冷静だ。。
オレ達は準備をしている。
悪魔アバルドンは「戦闘狂」の類だ。王国の腕っききの兵士は知っているだけで10人は殺されている。
オレは6度殺されて、今回で7度目だ。
『王国式槍術』歴は、達人と呼ばれているそれを優に超えている。
ルークは緊張とワクワク、死の恐怖と共に話しかける。
「暇つぶし…か。オレ達は残念ながら暇じゃないんでな。通してもらうぞ!」
昼の草原。前衛はルークと斧のドルカスがツートップ。後衛に回復のザビが盾を構え控えている。
戦闘狂の悪魔アバルドンは余裕を見せる。
「貴様らから、かかってくればいいのである。精一杯力を強化してからくるがよい。」
ルークは『王国式十文字槍』の十字に祈る。
精一杯のバフ。バフバフバフ!仲間は三者三様の強化呪文を唱える。
ドルカスは斧に刻印された十字に、ザビは槍の十字に祈り、攻撃力、防御力、スピードを上げる。
「…『おもいだす』のも飽きるくらい思い出して対策を練ってきたんだ…。2人もみっちり鍛えてな…今回こそは…勝つ!!」
悪魔アバルドンは応える
「ふふ。何を言っているのかは分からんが、遊んでやろう。」
アバルドンはドルカスより大きい、人間にはほとんどいないほどの(2m30cm程度)体格だ。
威圧感で実際のサイズより大きく見える。
アバルドンはバッタのような脚を折り、後衛のザビを狙う。
「ふふ、一撃で死んでくれるなよ?」
ドン!!!!!!
強靭な両足が伸び、5mの距離が一瞬で0になる。
超強化したドルカスの斧とルークの槍が悪魔の突進を止めた。
「ふふふ、やるじゃあないか、人間。初撃で誰も死なないのは何年ぶりであるか?」
ルークの槍とドルカスの斧の隙間、後衛のザビの槍がアバルドンの腹を突く。
穂先が腹に触れようとしたところ、悪魔アバルドンはバックステップ。再び距離を取る。
「未来予知…であるか?まるで我と何度も対峙したような…。これはこれは…面白いではないか。」
次に来るのは、バッタのような脚を生かした『跳び蹴り』。
アバルドンの得意技だ。右、左と交互に地面を蹴り、その勢いのまま横に薙ぐように鋭いキックを放つ。
アバルドンの膝から下は鋭利で硬く、横薙ぎの蹴りをまともに食らえば人体は真っ二つに分かれる。
放たれた蹴りをルークは槍で受けるも、蹴りの勢いで10m程飛ばされてしまう。
「ザビ!!!全力で受けろ!!!」
ルークは叫ぶ。
盾を両手で持ったザビは全霊で身構える。
悪魔アバルドンの次の一手は『前蹴り』。樫の木に牛革で覆われ、金属で十字が描かれている盾がひしゃげ、ザビはルークとは別方向に吹っ飛ばされた。
「行かせねえよォ。」
斧のドルカスはアバルドンに後ろから斧を利用し抱き着く。
ルークはその間、悪魔に向かって走り、槍を振りかぶり、投擲。
アバルドンは右腕を払いで槍を弾こうとし、右肩と肘の間に着弾。
アバルドンの右腕をもいだ。
怯んだアバルドンをドルカスは後ろから抱き着いたまま持ち上げ、バックドロップ。
地面に頭から衝突するも、アバルドンの意識を刈り取るには至らず。
両脚を振り回した勢いでドルカスのホールドから脱出。
2人に追いついたザビが脱出の瞬間にアバルドンの腹を突くも、軽傷。
斧を振りかぶっていたドルカスが、体勢を立て直そうとするアバルドンに向け斧を振り下ろす。
この攻撃は外れ、また距離を取られる。
ルークは投げた槍を拾い、再び戦況は三対一。
「我が右腕を失くすとは…。ふふふ。楽しもうではないか。」
傷口から紫色の血が垂れていたが、まもなく血は止まった。
昆虫のような顔立ちで分かりづらいが、明らかに楽しんでいる。
左手を地に着け、両足を折るアバルドン。
「少々やりづらいが、まあ良いだろう。最速の一撃である。」
バン!!!!!!!!!
ザビが縦に割れた。
『胴回し踵落とし』
アバルドンの奥義だ。地を蹴り身体を回転させ、踵を叩き落す。身体強化魔法を重ねていたのも虚しくザビの身体は二つに分かれた。
攻撃終わりの一瞬の隙。着地の瞬間にルークは技を放っていた。
バチン!!!!
<王国式槍術奥義・落雷>
杭を打つように槍の穂を下に突き刺す攻撃。雷を撃つような轟音を伴う会心の一撃は悪魔の腰を破壊し、悪魔の強靭な下半身は使用不能になった。
隠していた翅を広げ飛翔しようとするアバルドン。
斧を振り降ろすドルカス。
悪魔の背中に斧の刃がめり込み、悪魔は沈黙。
人間が悪魔に初めて勝利した瞬間だった。
※作者あとがき※
戦闘シーンを書くのが楽しい