ある世界線の「素手縛り」
「おもいだす」とは
_____とある世界線。
野太い腕に鋭く大きな爪が、主人公ルークを襲う。
距離をあえて詰め、腕の勢いを殺す。
「フッ!」
密着状態から地面を踏みしめた力を、足、腰、肩に伝え肘で爆発。
「ガアアアア」
熊が痛みに叫ぶ。
肘を使った体当たりとも言えるその技は、熊の肝臓を突き刺し、3mほど突き飛ばした。
3.5mほどある灰色熊の魔物「グリズリー」に挑むのは二度目だ。20年を2回費やし、オレはここに立っている。
______
n回目、記憶を取り戻した3歳の誕生日。
「魔法使っちゃったら楽勝だしなー、武器にも飽きたし…素手で救っちゃおうかな!世界!」
この頃はまだ世界を楽しんでいた…。
「おもいだす」
呟くと脳裏に浮かぶ記憶。
『魔法』『剣術』『武術』…。
「魔法完全禁止ってのもなー、不便すぎるし…完璧主義じゃないんだよねーオレ。」
三歳児の両手幅いっぱいサイズ程度の羊皮紙を広げ脳内の『魔法』を選択。
「羊皮紙に使えるスキルを映し出す魔法はあるかい?…お、あったあった。<パーチメント>ね。」
「ホイ!」
羊皮紙に写しだされる文字。「タップ」や、「スワイプ」で感覚的に操作でき、羊皮紙の文字が映しだされたり消えたりする。
「『武術』と…おー『太極拳』ってのがある。こんなのやったっけなー…<おもいだす>」
「おお!異世界人の武術か!」
脳内に知識と経験が流れてくる…
馬面のマー婆…娘のレイちゃん…記憶と共に流れ込む技術。
「コォォォ…破!!」
ゆるりとした動きで腹に力をため、一気に爆発。にやける主人公ルーク。
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魔物は本能で人を襲う。肝臓にダメージを負った巨大熊は唾液を垂らしながらも4本足で地面を蹴る。
正面から受けたら、ひかれて死ぬ。
23歳になったルークは170cm72kg程度の筋肉の塊だが、熊には遠く及ばない。
熊の突進を緩やかな動きでかわす。
振り返って起き上がり掴みかかってくる熊。
「肝臓打ちしててもキリないな…。」
抱き合うような距離で低く沈み込み、熊の抱き着き<ベアハグ>を回避。
「打ッ!!!!」
起き上がる勢いで金的を肘打ち。
「ゴアアアアアアアア」
グリズリーは泡を吹いて失神。
ルークはこの戦いの記憶を「心に刻んだ」。
「<ルーク式太極拳>…完成ってところかな。」
この5年後、ルークは1人、素手による魔王討伐を達成することになる。
※作者あとがき※
風呂敷を広げたい