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人の生というものは

諦めと渇き

作者: 支那勿忘草

大人の階段を登っている

高校生や大学生。

目を閉じれば、

真っ暗でカエルやコオロギの鳴き声しかしない

世界に閉じこもる事が出来た。

目を開けたとしても、

月明かりで薄明るく、

変わらずカエルやコオロギの声がして、

安心出来た。

雨の匂いがする。

少し湿った外気に太陽のみえない空。

アスファルトが乾いているのか、

湿っているのか、どっちつかずの顔をしている。

雨の音、ザーザーと。

軒から垂れる雨の音、ポチャポチャと。

屋根にあたる雨の音、バシバシと。

色んな音や、色や、匂いが迎え入れてくれた。

子供の頃、

大男だと思っていた父は、

平均よりも小さかった。

1日ぐらいに感じていた祖父母の家までの道は、

3時間だった。

7人乗りの車、

最後部の座席2つを独り占めして横になって寝ていた。

素足で感じる土や砂利、かかとに刺さる画鋲。

コケて擦りむき、砂と一緒に滲む血。

奮発して買った、500円の筆箱。

周りはアディダスだけど一人アンブロだった。

女子と交換するシール。

溜まっていく匂いのするシール、ぷっくりしたシール、大きいシール。

一日も履いた靴下には穴が空いていた。

そんな、子供だった頃。

今もまだ子供ではあるが、大人でもある。

大人の仲間入りをするために、

色んなものを捨てなくてはならない。

交換するのはシールではなく、お金。

黒く光った靴に白い靴下。

裸足で感じた地球は、

靴と靴下とアスファルトを通して感じる。

砂場で水遊びをして母を困らせる事はもうない。

思い出を残したまま、

子供から大人へ、

シールからお金へ。

大きいシールは一万円、

ぷっくりしたシールは五千円、

匂いのするシールは千円、

その他五百円。

小学生の夢と希望の詰まったそれには、

付加価値がついてくる。

誰かがどこかでみて、勝手につけてくる。

努力。

勉強がもっと出来るようになりたい。

サッカーが上手くなりたい。

モテたい。

必死に解いた問題集、

ボロボロになるまで触ったボール、

整えた眉、

どうでもいい努力をしていたあの頃。

起きて会社に行って帰ってきて、ちゃんと寝る。

これを努力と感じる大人です。

日に日に伸びていく髭は、

気を付けないと剃り忘れるので努力して剃ります。

目にかかってくる前髪はデスクにおいてあるハサミで切ります。

努力して起きます。

必死に探す問題点、

ボロボロになるまで使った身体、

何もない心。

あなたの夢は叶いました。

幸せではありませんが。

目を開けても閉じても聴こえていた。

カエルやコオロギの鳴き声は、

車や人に変わり、

薄明るかった月明かりは、

街のネオンにかき消されて。

目を閉じると、

熱く、恐ろしく、チカチカとした悪魔か天使かが

ずっと話しかけてくる。

「こっちへおいで。」と手招きをしている。

目を開けると、遮光カーテンを閉め切って

真っ暗な部屋。

「こっちへおいで。」の声だけが聞こえる。

目を閉じると、

"子供の頃"が周りを渦巻いて、

遠に涙を失った目頭を熱くする。

やっと布団から出た身体は大きくはなっているが

空っぽのようで、

諦めきった心も一緒に空っぽのようで。

誰が迷惑を被るかなど考えてはいない。

喉の渇きを癒すような、浮いた話の1つもない人が

悪魔か天使かの手招きに、声に、つられて

今日もまた。

暗い寝室に軋む縄。

電車は一時運転見合わせ。


その階段を登りきった先には何がありますか。

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