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5 隔ての壁

『これより撤退に入る、全隊員後退せよ』


 スピーカ音声ではなく、無線から入った音声が後退の命令が入る。下を覗き込めば、機銃で弾をばら撒きながら徐々に迫ってくるアンドロイド達を相手に後退している隊員の姿が目に入る。だが、機銃ごときで倒れる相手ではない。


 アンドロイドが手に持っているのは彼らと同じ銃のようなもの。だがそこから放たれるのは弾丸ではなくプラズマのような電撃だ。非殺傷系の武器で、決してこの戦いで人間が死ぬことはないというのは明白だ、だがその油断こそが人間側の戦闘においての判断力を鈍らす。


『アドルフ、バックアップを頼む』


「....了解した」


 両手に支えられる26キログラムのスナイパーライフル。スコープ越しに見えるのはアンドロイドの頭蓋。だが、対戦車ライフルの弾丸を軽々と弾く外装を貫通させるためにはただヘッドショットを決めるだけでは意味がない。


 狙うは目だ。


 深く息を吸い込む、呼吸を止め気配を殺す。


 次の瞬間、海上で大きな銃声が響き渡った。そして同時に、スコープ越しに映し出されていたアンドロイドの左目が大きくえぐれ後ろに吹っ飛んでいった。


 ここから先は時間との勝負だ。先ほどの銃声と隣でやられたアンドロイドの仲間から計算して、必ず狙撃手を見つけ出そうとする。こちらの仲間を艦内に避難させるまでの間になんとしてでもより多くのアンドロイドを倒さなくてはいけない。


 コッキングを動かし、薬莢を排出。すでに何度も嗅いだ硝煙の臭い、今度は隣のアンドロイドを一息着く前に撃ちたおす。すると完全にこちらに気づいたアンドロイドがこちらに向けてプラズマを放ってきた。


「チィ....っ」


 アンドロイドは機械だ。故に、その狙いは正確かつ精密。その弾道は確実に体に入って行く。そして今まさにプラズマが胸を貫いた。


 しかし、体は至って正常。体に走る電気が戦闘服の上で放電となって走っているが、それは被弾者本人を失神させるには至らなかった。何事もなかったように、スコープを覗き込むと先ほどこちらにプラズマを放ったアンドロイドの目に弾丸を撃ち込む。


 次弾装填。箱型のマガジンをスナイパーライフルに再び装填。しかし、スコープを覗き込まずライフルをそばにおいた後、脇にあるホルダーから拳銃を取り出し正面に構える。


「落ちろ」


 数発打ち込むと、目の前を飛んでいたドローンの駆動部分に弾丸があたり火花が飛び散った。そして、そのまま煙上げ甲板に落下すると爆発音が響きあたりのアンドロイドを海へと叩き落としていった。


『こっちは撤退完了した。アドルフ、お前も下がれ』


「わかった。あとは上空支援部隊に任せる」


『あぁ、マイクの野郎の独壇場だな』


 通信が切れた。急ぎスナイパーライフルを背負って撤退を開始する。重量26キログラム、通常のスナイパーライフルよりもはるかに重いそれはこれから歩もうとしている道の重荷のように思う。


 ダネル NTW-20


 これを構えていた人は、もう隣にいない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 水中を進んでゆくと、方舟独特の白い肌の建造物が徐々に見えてくるのがわかる。目標地点までの距離は300メートルと表示されていた。


『目標を視認、報告。空母インディペンデンスは撤退を開始』


 ゼロの音声で、寄り道が多かったと思った。その後も、アンドロイドの襲撃がいくつかあったが、そのほとんどが先ほどの瓦礫の下から出てきた壊れかけのアンドロイドで、撒くことには苦労しなかったが遠回りで向かうことになってしまった。


『近くに敵性反応は無し。装備の準備を開始』


 腰から『水神』を取り出し、準備を開始する。潜入の手順として、まず入口から入るのは自殺行為に等しい。よって、外装を破壊してから内部に侵入をする。内部に侵入するのと同時に特殊防護壁が方舟内部のセキュリティーで反応して外からくる水をせき止める。とゼロから聞いた。


 どちらにせよ、自殺行為に変わりはないが正面玄関から突破するよりも成功する確率が僅かに高いというだけだ。


『外装破壊からセキュリティー反応まで予測計算。計算完了、約2秒。周囲の水圧を利用、及び反重力装置の稼働をすればギリギリ可能』


 ゼロの指示に従ったほうがいい。胸にはめ込まれた装置を作動させ、潜入の準備を整える。周囲を確認しながら方舟へと近づいてゆくと、より方舟の大きさが強調されて浮き出てきた。それは、まるで水中から生えた大きな白い木のようであり、その根本では多くの作業ロボットがサンゴや水中生物の手入れなどを行なっている。


 未来人の目的は、あくまで破壊された旧人類の世界を開拓すること。このように、環境保全なんかも行なっていたりする。すでに死滅寸前だったサンゴを蘇らせたり、遺伝子研究で絶滅寸前の動物を飼育したりだとか未来人の技術で地球は本来の緑豊かな土地へと戻って行っている。それを善し悪しとするのか、自分には決めようのないことだった。


『破壊箇所を特定。警告、アンドロイドが地上の戦線から離脱を確認』


 マスクに方舟の外装に合わせたポインターが表示されるそれと同時に、横に表示されたソナーに白い点が映り込み始める。すぐさま『水神』を構え方舟の外装に一撃叩き込む。


 しかし、大きな爆音とともに気泡の中から現れた外装には大きな凹みがついただけで貫通させることはできなかった。


『推測。想定以上の外装強度。水神の再使用可能時間まで残り20秒』


 手にした『水神』の再装填を示すパラメータ表記に12%と表示されている。そうしている間にもソナーにはアンドロイドの接近が確認できた。


『警告。アンドロイドの接近を確認』


 ゼロの声が耳元で鳴るが、武装はこの『水神』以外持っていない。よって、迎撃は不可能、それに加えアンドロイドと水中で組手になったらまず勝ち目はない。すでに頭の中には撤退の二文字が点滅していた。


『リュウイチ、手伝って』


 ゼロの声に、後ろを振り向くとゼロが下の方を指差し潜って行った。それについてゆくように、スーツの動力を起動させて海底の方へと向かうとゼロが向かっているのは海底で作業を行っている作業用のロボットの方だった。


『ハッキング開始。リュウイチ、バックアップをお願い』


 するとゼロは自分の手首を取り外し、その取り外したその先をダンプカーほどの大きさがある作業用ロボットの一部に接続する。


『ハッキング完了まで十二秒。リュウイチ、ロボットの気をそらして』


 次の瞬間、ハッキングを行われているロボットハッキングを行なっているゼロを海底開発用の大きなアームで掴みかかろうとする。とっさに『水神』を構え、トリガーを引くと、ちょうど装填された『水神』から気泡が発生して軽々とアームを大きく吹き飛ばす。


『ハッキング完了、全システムを掌握。プログラムの書き換え完了』


 突如、ロボットの動きが停止し前方についているカメラが海面を捉えた。そして次の瞬間、その巨体から考えられないスピードで浮上を開始し方舟にぶつかりながら、こちらに向かってくるはずだったアンドロイドたちを蹴散らし始めた。


『敵性アンドロイドとの衝突を確認。リュウイチ、今』


 ゼロの方を見ながら頷くとすぐさま浮上を始め、先ほど破壊をしようとした外装のそばまで辿りつく。再び『水神』の装填が完了した、すぐさま先ほどと同じ箇所に打ち込むとさらに大きく凹みだし、中心部分に亀裂が入り込む。


『残り1発で破壊可能』


 再装填。だが、再び二十秒ほど待たなくてはいけない。次の瞬間、何かが上から降ってくる。とっさに回避したがその途中で見えたものは、先ほどハッキングしたロボットの残骸と思えるものだった。


『警告、ハッキングロボットの破壊を確認。敵性アンドロイド一体が急速接近』


 ソナーを見ると、確かに一つの白い点らしきものが急速で接近してくる反応が見える。とはいっても『水神』は装填準備が完了していない、そしてどう足掻いても時間がかかる。


 しかし、悠長なことを考えている時間はなかった。すぐそばに何かがかすめるような水の流れを感じ見上げると、接近しているアンドロイドは片手に何か銃のようなものを構えている。


 とっさに、背中に背負ったボンベに手を伸ばす。背中に繋がっている口元のホースを取り外し、そこから一気に空気が漏れ出た。現在、マスク内の空気のみで呼吸をしている状態であり、そこに酸素の供給はない。


『警告。バイタル変化を確認、酸素欠乏症の発症を確認。早急にボンベの接続を行って』


 ゼロから警告されるが、それを無視。手元に持ってきたボンベのバルブを全開閉じて、その先端をアンドロイドの方へと向ける。


 そして、次の瞬間。バルブを全開、水中の中を押し出された空気圧で吹き飛んでゆくボンベは見事アンドロイドの胴体に当たり、大きな破裂音が響く。これである程度の時間が稼げただろう。だが、次に起きたことは頭痛だ。明らかに酸素がない。そして、徐々に体に力が入らなくなってくる。


 必死に体を動かして、破損した外装に『水神』を突きつけるとパラメータに表示された装填レベルは93%でいまだに打てる状態ではない。だんだんと、手元が暗くなりめまいを感じる。


 一瞬ではあるが、走馬灯のようなものが頭の中でちらほらと見え始めた時だ。


 『水神』を握った手に、何かが覆いかぶさる。霞んだ視界で後ろを振り向くと、背後のぴったりと張り付いたゼロの顔が見えた。


『しっかりと握って』


 パラメータが100%を表示した次の瞬間、ゼロの握る手に力がこもる。トリガーが引かれ、目の前の外装が破壊される。突如大きく空いた穴に一気に方舟の中に流れ込もうとする水の濁流が襲いかかり、体全身を持ってかれる感覚に身を委ねる。


『シャッター閉鎖、内部侵入完了』


 ゼロが確認の音声を耳に流し込んでゆくが、どんどんと遠くなるその音に、その意識に飲まれまいと足掻こうとするもこじ開けようとした目はどう足掻いても開けられなかった。


さて、次回更新は日曜日っ!

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