表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4 聖地巡礼

 モルディブ、かつて国と呼ばれ人々が暮らしていた街には海水が入り込みすでに海の底にある。これもまた、未来人の言う環境破壊によってもたらされた一つの結果とも言えるだろう。南極の氷は温暖化によって溶かされ膨張した海面は至る所で浸水を起こし、高波や津波を多く引き起こした。


 『インディペンデンス』から覗く海を見ると、すでに未来人の環境開発の影響か透明度の高い海水の下には多くの生き物が泳いでるのが視認できる。遠くの方を見ればイルカが海から顔を出し空母を物珍しそうに見るかのように飛び跳ねているのが見えた。


『目標半径100キロメートル圏内に接近っ! 総員周囲に警戒、および武装準備せよっ!』


 『インディペンデンス』の艦内放送で全員がそれぞれ配置に付き始める。整備兵達は甲板に置かれた飛行設備の点検を始め、他にはこの空母に搭載されている装備の準備を始める。すでに正面には白く大きい塔のようなものが小さくうっすらと霞みがかって見える。相手もすでにこちらの様子に気づいているだろう。


『リュウイチ、戦闘準備開始。ウィングスーツβの最終確認を行う』


「....わかった」

 

 イヤホンからゼロの声が聞こえてくる。甲板に上がってくる隊員達を横目に、艦内に戻ってゆく。艦内では、食堂や各部屋で武器が並べられ隊員達がマガジンに弾薬の装填や、分解して掃除を行なっている者たちで溢れかえっていた。


 自室に戻ると、そこには両腕にウィングスーツβを抱えて立っているゼロがいた。そして、ゼロ自身も全身をプロテクトしてあるカーボンファイバーの防具をぎっちりと隙間なく身につけていた。


『ギリギリ間に合った。本当に新しい技術部門の人間を入れて』


「いつもご苦労さん。さて、今回はどんなおもちゃなんだ』


『おもちゃじゃない。それに無視しないで』


 すでに様々な物で溢れかえっている艦内の自室だがそれらを足で払いながらゼロに近づく。テーブルの上にある物を適当に放り出してその上にウィングスーツをゼロが並べる。見た感じでは以前の『α』にウェットスーツが混ざったような印象だが、ゼロ曰くその性能は前回と違い大幅に改変されているのだそうだ。


『あと、新しい武器も完成した』


「おう....って、これってなんだ? 銃か?」


 ゼロから手渡されたものは拳銃のような持ち手のついたもの。だがその銃身には円盤型の金属の板が三つ重なり、広すぎる銃口にその周りには採掘用ドリルのようなゴツいものが付いている。見た目の印象としては小型の大砲といったところだろうか。


『海中専用の武器。銃身に搭載された重力生成装置で銃内での水圧を強制的に高めてその圧力で対象を破壊できるもの。携帯型水中銃「インフルーメン」』


「ほぉ....それじゃ、名前は俺がつけていんだよな?」


『別にいい』


「よし、それじゃこいつの名前は『水神』だっ! いいだろぉ?」


 新しいおもちゃを手に入れた子供のようにはしゃぐリュウイチを見るゼロの目はどことなく冷たかった。


『話を続ける。この銃の欠点としては水中でしか使えないこと、長距離での射撃は威力が大幅に落ちること、連射性がないこと。それだけは覚えておいて、威力は実戦で使わないと計測ができない。でも少なからず今回の「ノアの方舟」の外装を余裕で貫通させることができるように計算してある』


 とりあえず、人に向けて放ってはいけないものだということは十二分に分かった。そして、同様の武器をもう一つそれはゼロ自身が腰に携帯した。


 前回侵入した『ノアの方舟』と比べ、強度も10倍になっているのだ。そしてそれは、システム面でも同様で前回はゼロを連れていかなくとも遠隔操作で十分だったのだが、今回は違う。遠隔操作で行えるハッキングには限界があるらしく、強化されている『ノアの方舟』では太刀打ちできない。よって、AIのゼロ自身が実際に潜入し、方舟全体の動きを封じなくてはいけない。


 よって、今回の潜入は目的として『ノアの方舟』の機能停止、及び未来人の接触。そして、潜入の際には決してゼロを破壊されないまま『ノアの方舟』に潜入しなくてはならないということが重要になる。


『銃器の扱いはリュウイチの戦闘データをもとにインストール済み。けれど近接戦闘プログラムは搭載されていないから、アンドロイドと対峙したときは自力で頑張って』


「おう、任せとけ。お前を必ず、サーバー室まで無事送り届けてやるさ」


『頼りにしてる』


 服を脱ぎ、ウィングスーツβに着替える。その際目の前にゼロがいるにも関わらず一回素っ裸になって着替えてしまったが、AIだし大丈夫だろうと思っていた。


 着替え終わるのと同時に、少し体のサイズに合っていなかったウィングスーツが何かの起動音と共に伸縮し体にぴったりと合わさるサイズに伸縮した。


「うおっ、すごいな」


『特殊合成ゴム繊維で編み込まれてる。内部配電のバイタル調整も可能、周囲環境に応じた管理ができる。それにリュウイチ、幾ら何でも女性型アンドロイドの前だからって全裸になるのはどうかと思う』


「なんだ見てたのかよ。エッチ」


『もうリュウイチなんか大嫌い』


 たった一言、流れてきたイヤホンから聞こえた冷たい一言を残してゼロは部屋から出て行った。少しからかい過ぎたかと頭を掻きながら準備を進める。


 戦いの時は近い。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 二時間後、空母周辺では様々な炸裂音と爆発音で包み込まれた。


 空母の真横には巨大な白い塔。『ノアの方舟』が佇んでいる、そしてその周囲を羽虫のように飛び回るドローン軍。空母に乗った人間の大半がそれらと戦い、そして空母に乗り込んできたアンドロイドに銃弾の雨を浴びせている。


「二番隊っ! 三番隊の援護に迎えっ! アンドロイドを絶対に艦内に入れるなっ!」


 甲板の上はすでに戦争状態だった。だが、無抵抗にアンドロイドは銃弾の雨を浴び続けて近づいてくるのみだ。それもそのはず、未来人やアンドロイドは決して過去の人間を傷つけることはできない。あくまで未来人が行うのはこの時代の人類の『捕獲』と『管理』だ。


 そう、それは家畜のように。


 鎖で繋がれるわけではない。ただ、そこに入れられて夢を持つことも許されず、何もしないでただ生きるのみ。そうやって寿命を浪費し死んだらそこで終わり。あとはただゴミのように捨てられるだけだ。


 自分たちはなんのために生きているのだろう、戦いの前にいつも思う。未来では自分たちの子孫が苦しみ、そしてそれらを正すために未来人がやってきた。であるのならば、こうやって未来に抗うこと自体が悪なのかもしれない。いずれ自分たちがたどる道が間違いなのだとしたら、戦うことは正しいのか。


 わからない。ただ、こうして自分が戦うのはたった一人の家族を。どこかにいるかもしれないたった一人の家族を救いたいだけなのだ。


 ただそれだけだ。


『リュウイチ。リュウイチ、聴いてる?』


「ん、あぁっ。すまん、クリス。聞こえてる」


『いい? 今からゼロと一緒に海に潜ってちょうだい。何度も言うようで悪いけど。私たちはあなたたちが潜ってから三分で離脱しなきゃいけない。それまでになんとしてでも中に潜入してちょうだい』


「了解した。さっさと行って帰ってくる」


『えぇ、あなたたちの健闘に期待するわ』


 通信が途切れ軽いノイズがイヤホンの音声に走る。今立っているのは、方舟が見えている反対側の甲板の端。隣には同じ姿をしたゼロが立っている。少し遠いめで水平線の向こう側を見ているような気がした。


「行くぞゼロ。準備はいいか?」


『大丈夫、リュウイチこそ。ちゃんとゼロを守って』


「任せろ、行くぜ」


 未だに戦闘が行われている空母を背にして、顔全体を覆う酸素マスクを顔にかぶせるとそのまま数メートルの高さから一気に飛び降りた。


 水中に入る瞬間、体全身に冷たい水の感覚とは別に飛び込んだ衝撃が体全体を襲う。しばらく水中で身悶えたあと目を開けるとそこには酸素マスクに表示された様々なバイタルサインと回転する残り時間。そして、現在位置と目標地点への距離が表示されていた。


『リュウイチ、右手の甲に付いてる液晶で水の中を泳がなくても推進することができる』


 耳に入った音声に気づき後ろを振り返ると、空母の底を背にしてゼロがこちらを見て水中で漂っているのが見える。こちらからは返事ができないため水中でサインを送り、言われた通り右手の甲を見るとそこにはウェットスーツの生地が青く発光してスピードメーターのようなものが表示されてる。


 マスクに表示された地図を見ながら進行方向に体の向きを回転させたあと、スピードメーターの横に表示されたレバーを上にあげると、体が自然と泳いでもいないのに進み始める。


『スピードは最大で時速40キロは出せる。三分で内部に潜入するには最大スピードで行かないと間に合わない』


 ゼロの指示に従い、表示されたレバーをさらに上げる。速度はどんどんと増してゆき、まるで潜水艦のように水中を進んでゆく。その背後でゼロは同じ速度でピッタリとついてきている。


 水中での透明度は高く、とても水の中に潜っているとは思えないほどの透明度だ。泳いでいる魚も色鮮やかで、今まで見たことのない光景が広がっていた。しかし、その底に沈んでいるのは過去で人が住んでいたであろうビル群。そして、観光施設。かつての人工物の名残が海の底で沈み、新たな水中生物の住処になっている。


 かつて、人々が暮らしていた生活の跡が海の底に沈んでいた。


『目標まで残り2キロメートル』


 ここまでで、残り時間は二分。順調に進んでいっている。だが、ここまでうまくことが進むとは思えない。確実に何かしら罠を仕掛けている。もしくは誘い込まれているのではないかと警戒しながら進んでゆく。


 そして、その予想は見事に当たった。


『警告、敵性アンドロイドが多数接近。推測、水中潜行仕様モデル、接触まで残り200メートル』


 ゼロの音声が耳に入ってきた。ここで一旦迎撃を行うべきか、それともこのままゴリ押しで進んでゆくか。表示された地図がソナー表記へと変わり、自分を中心とした周りの反応に白い点がいくつも浮かぶ。


『敵性アンドロイド、視認』


 正面に向けていた視線を少し後ろへと傾けると、透明度の高い水中の向こう側から黒い潜行物体がこちらに近づいてくるのが見える。速度は見たところこちらよりも速い。おそらく、方舟にたどり着く前に捕まるのがオチだろう。


 とっさに体の向きを海底へと変える。背後にゼロが付いてくるのを確認しながら一気に潜行して行く。向かう場所は、海底に沈んだビル群だ。


 周りを囲んでいた水中アンドロイド達も同じように潜行を始めビル群の中へと入り込んでゆく。建物の間をすり抜けながら高速で移動をして行く、同じように自分の跡を追うかのようにしてゼロもついてくるが、周りのアンドロイドも周りの建物に当たらないように徐々にこちらに接近してくる。


 スピードを落とさないように、ビル群の中から円形状ビルの下へと入る。以前はパーキングエリアだったのか、海底に沈んだ状態でコケやサンゴを生やした車が多数並んでいる。下から入り、屋上に向かうようにして体の向きを変えながらグルグルと旋回を続ける。ふと辺りを見ればそのビルを中心に多数のアンドロイドが固まって今か今かと自分とゼロが出てくるのを待ち構えてる。


 周囲を見渡した後、腰から『水神』を取り出しパーキングエリアの柱の一つに向けてトリガーを引く。次の瞬間、水中で大きな気泡が発生し『水神』に撃たれた柱が大きく抉れる。すると、水中でもわかるくらいの大きな音が響き渡り、建物全体が大きく揺れ出す。背後で追ってきていたゼロは横にピッタリと付き、同じ速度で潜行するが、周囲で追っていたアンドロイドたちは突如崩れだした建物に反応することができず、徐々に瓦礫の下に姿を消して行く。


 背後でどんどん建物が崩れて行く中で、屋上にめがけてフルスピードで駆け上って行く。周囲のアンドロイドもその多くが逃げる寸前で瓦礫に巻き込まれ、海底へと引き摺り込まれて行くのが確認できた。


 そして、屋上に出て大きな砂埃を上げながら海底で完全に瓦礫と化した建物を下にする。酸素マスクに表示されたソナーには自分の周囲200メートル圏内に敵の表示は完全に消えていた。


 方舟潜入まで残り時間、一分。


 

今度は火曜日更新ですっ!


同じく8:00っ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ