ー第14話ー
最大の障害となる豹が見えてきた。正式名称は深森の樹豹という。
樹豹は戦闘中に他の枝に飛び移って移動し、後衛を一撃離脱してくるが、そういった行動をするきっかけは分かっていない。分かっていないが、おそらく大豹のHPを一定量、減らす事とされる。そのため手出しせず、大回りすることがセオリーとなった。
作戦ではHPを強化した状態で蒸気パン・クウが相手の攻撃をくらう予定であった。そこからのカウンターを決める。そして敵が他の枝に移ったなら、そのまま逃げる。そのさいクラバアトとペトロニウスが速度アップを再度かけて、走るが、たぶん追いつかれる。トゥビリオ・ハリーが索敵というか、どこから来るか確認しながら邪魔するスキルを使う。それでも近づかれた場合は、、、
「【湧活生命の符】・・・あと5秒、4、3、」
朝比がバフを掛ける。このマップに入る時に決めた約束事に出来るだけ魔法やスキルを使う時に何を使うかを声に出すことにしている。
自分が何をしているか、声に出すことで周りに知ってもらう工夫の1つだ。
FWRUUUXAAA!
豹が、こちらを見て叫ぶ。実在するものより前足が太く、モンスターとしての異様さがある。寝そべっていたところから、前脚をのばす、凶悪なツメがとびでる。ネコ科の生物特有の身体の柔軟さを見せつけるように全身がぐっと伸びる。全体が一回り大きくなったように思える。
魔法の使用か、一定距離に入ったのか、きっかけは分からないが攻撃態勢だ。
「ァ、、カバー!!」
トビラは叫びながら一足早く前に出る。
巨大樹の枝に爪痕を残しながら走り来る大豹。
走る速度の関係で一番前にいたトゥビリオめがけて前脚をふりあげるようとしている。ネコ科の前脚にしては筋肉が立派すぎだ。ちょっと凶悪すぎる猫パンチだ。
トビラは槍を突き出す、
(来るって分かっていれば!)
槍の穂先を腕にぶち当てる。相手の顔や身体ではなく、槍の穂先を前足に向けたのは、それが恐かったからか、それに対処すべきと冷静に判断したからか、
(撫でてくる動きそっくりだ!)
成人してからは減ったが低身長だと頭をなでてくる輩は多い。彼女にとってはちょっとイライラするというか、コンプレックスを刺激される行いであったため、振り下ろさんとする前足にタイミングよく攻撃できた。
ちなみに咄嗟にそう思っただけであんまり似てない。
ブワッと舞い散るダメージエフェクト。槍の刃に沿うように、攻撃がズレていく。
そして振り下ろされたツメは深々と突き刺さり、木が音を立てて割れる。
「・・・ナイスパリィだ!」
蒸気パン・クウは驚いたが何とか反応する。ボスクラスの攻撃を初見パリィすることに驚きのあまり固まってしまった。また自分の体にまとった光の色が変更されているのを見て、最大体力が増えているのを確認するとトビラに代わり前に出る。
「ちょっとビックリしすぎてカウント忘れたじゃない。【復力生命の符】」
朝比が回復魔法を先読みで使用する、詠唱時間が長いのが方士の弱点なので戦況の先読みは大事だ。
「よっし、ペトロニウス、回復魔法をトゥビリオくんにかけてくれ」
「すみません。師匠、さっきもいまも」
「気にするな!それよりスキルの準備は大丈夫か?」
「麗しい師弟愛ですわね、フフ」
トビラとトゥビリオが声掛けしてると、クラバアトが何やら笑顔になっている。その間にも作戦と戦闘は続く。
「グハッ・・・【復讐の刃】!」
ツメで引き裂かれた蒸気パン・クウが大きく吹き飛ばされるされる。同時に、ダメージを与えた相手に強力な一撃を与えるためにスキルの使用を宣言する。刀に光を宿す。
「よーい!・・・ドン!」
朝比のドンの掛け声と共に回復魔法が発動して蒸気パン・クウの体力が癒やされ始める。
かけ声を受けてトゥビリオが走り出す。樹豹の背後の数メートル先に今いる道になっている枝とは別の枝がある。距離があるので通常では飛び移れないが、、、
トビラも吹き飛ばされた蒸気パン・クウが更に追撃を受けないように前に出ていく。
樹豹は更に追撃をしようと横殴りにツメを振るう。相手の攻撃にあわせて槍で迎え撃とうとする。が、今度は相手の攻撃とタイミングが合わなかったのか、槍を持っている腕ごと吹き飛ばされる。
しかし、トゥビリオがそのスキに横をすり抜けていく。そして虚空に向かってジャンプする。
「【空蹴】!」
更にそこから空中を蹴ってジャンプする。別の枝に無事に着地する。
樹豹が背後に首だけ向けてトゥビリオを探す。
「よそ見してんじゃネェ!」
蒸気パン・クウが上段にかまえた大刀を振り下ろす。バンっと音が立つようなダメージエフェクトを広げる。もう一撃とばかり刀を突きの体制にして
「しねぇやぁ!」
スキル効果をのせた攻撃をもう一撃入れる。
「スキル使うなら言いなさいよ!」
朝比さんがつっこみながら、続けてクラバアトが
「こっちの準備は整いました。ペトロニウスさん、AGI補助をお願いします」
ペトロニウスがタテガミを中心に月の光に似た金色の魔力を放つ。範囲外にいるトゥビリオ以外に速度上昇の補助がつく。
FuGYAAXAAA!
苛立ったような叫びをあげながら、樹豹がツメを振り上げる。
速度に補助がかかったトビラが前に出る。前足を振り下ろす前、一番たかく上げきった瞬間にあわせて、槍を突き入れる。
ツメの攻撃に速度がのる前、ほとんど勢いが出せないまま、槍の穂先に沿って攻撃方向をそらされる。またしても樹豹の前足は誰もいない場所を強く叩くだけに終わる。
再三再四、怒った樹豹はトビラ相手にツメを振り下ろさんとするが、タイミングを逆にピッタリあわせられてゆき、有効打にならない。
槍というリーチのある武器、単純な突きというシンプルな攻撃、防具の特性で握力強化により格上のモンスターと競り合っている。
運良くトビラに都合よく条件が揃っているからこそ出来る壁役であった。
「よし!今のうちだ!横を抜けるぞ」
蒸気パン・クウ、朝比、クラバアト、ペトロニウスが走って向こう側に行く。
デンジャーエネミーとの戦いは鬼ごっこだ。逃げ切れれば勝ちだ。
そしてマトモに戦って勝てたとしてともタイムアタックという意味では戦闘時間が足かせにしかならない。
そして、ここで別の枝に移っていたトゥビリオがスキルの使う。
「スタンさせます!裂気!!」
パンっ!
と爆竹がはぜるような音がして樹豹の目の前で白い煙がちる。
フッと樹豹の力がぬける。
「やるじゃない!一発目からうまくいくなんて」
不意うち、かつ敵の体力が蒸気パン・クウが減らしていたため、トゥビリオのスタン技が効きやすい状況であったが、作戦がうまくハマった。
樹豹は目を回している。
トビラも快哉をあげたいが、今は走る。
スタンは数秒しか効果がない。
速度アップしているとは言え、そのまま狙われれば逃げ切れない。
出口に向かって段々と細くなる枝を駆け抜けてゆく。
FuGWRoUUUXAAAaAAaa!!!
先程に倍する巨大な咆哮が響く。
中に入っているのが機械じかけのプログラムとは思えない本物の怒り、
見下している者から思わぬ痛撃をもらいキレた強者の怒声が響く。
「ちょ!2秒ももってないわよ!」
「くそ!ボスクラスだからか?効果時間が短かったんだろ」
朝比が思わず振り向いて文句を言う。トビラは全力疾走しながら推測する。
「喋ってないで走りなさい!」
「うむ!全部が全部!予定調和ではつまらん!」
クラバアトが注意して、蒸気パン・クウが言うと
「でも、負けたくないです!」
トゥビリオがそう発言すると、全員が意外な発言に驚き、一瞬、言葉を返せないが、
「…そうだ!勝つぞ!」
とトビラが言うと、ペトロニウスも同意するように嘶きを返す。
樹豹が逃がさないと走ってくる。
四足のツメがたてる独特の走行音がじょじょに近づいてくる。
「おいつ!グヘア!」
追い付かれると言おうとした所で、トビラが樹豹の肩に当たって転ぶ。ツメに吹き飛ばされなかったのは幸運であった。
そして、一回、前転して何とかトビラが立ち上がる。
樹豹のほうはグッとバネをたわめるように全身を縮めると、一気に跳躍する。
「トゥビリオ、そっちに行ったぞ」
樹豹のターゲットはトビラではなかったらしい。スタンさせられた事を恨んでるのか、別の枝に飛びうつろうとしている。
言われてトゥビリオは振り向く。
「どのみち、こっちの枝は、そろそろ行き止まりです。引きつけてから飛び移ります!」
ある程度、並行して走っていた枝であるが、段々とさきが細くなってきていた。メインルートとなる太い枝に移らないと目標地点に行けない。
先頭を走っていた朝比が叫ぶ。
「次のセーフティエリアが見えたわよ!」
「うむ、ゴールまで、あと少し」
どういう理屈か、枝が大きな塔の窓に突き刺さるように伸びている。そこがセーフティエリアになっているようだ。
ファンタジーだわぁとトビラは思う。
「ふぅ、トゥビリオさん、あと少し持たせてくださいね。ワタクシの出番がホントに多くて、というかルーンの補充、考えませんとねぇ」
「えぇ!?っていうか、攻撃、速!そんな、キッツぃ!」
本道のやや斜め上にある枝で樹豹に追いつかれ、横殴り・振り下ろし・横殴り・噛みつきの4連続攻撃を上手く避けきったトゥビリオだが、すでに限界であるらしく、涙声だ。
ペトロニウスが細い声でいななく。タテガミが雪のような光を放つと、トゥビリオの体力がすこしづつ回復していく。トビラは全力で走りながら、先にいったパーティが作戦通りに足を止めていくのを見る。初見エリアでここまで上手くいって本当に良かったとトビラは思った。
「【理のルーン開放・イヤーラビット・範囲拡大】。よし、準備完了ですわよ」
「【復力生命の符】。トビラ、回復まで、あと6秒ね」
クラバアトが手に持った2つの石片のうち、1つが光った後、消えていく、そしてもう一つの石片に光が宿る。
トゥビリオは返事も出せぬまま、凶悪な猫パンチをかわしつつ、空中に身を躍らせる。
樹豹も後を追うために全身をバネのように縮める。
「【空蹴】!」
空中でスキルによる2段ジャンプをつかって、大きな枝のクラバアトの横に着地するのはトビラにも見えた。しかし、その先の光景は見えなかった。
「【理のルーン開放・黒野鶏・風力弾】」
効果範囲を広げた巨大な風の塊がジャンプした樹豹を大きく吹き飛ばすのを
SiGYxaaAAaaaaaaaaaaa!!!
樹豹の怒りの声が、頭上を通り過ぎていくのを聞きながら、トビラはまだまだ走る。
「ちぇっ!せっかくながら下に落ちて墜落してくれれば良かったのに」
「うむ。下に落ちる、と、墜落は、同じではないか?」
朝比と蒸気パン・クゥがセーフティエリア直前で漫才をしている。
樹豹はネコ科生物特有の空中バランス感をみせて、吹き飛ばされながら、空中で一回転して枝に爪をかけて留まる。しかし、巨体であることが災いして後ろ足が枝についていない。
数秒、後ろ足をバタ足で空転させた後、一気に振り子のように勢いをつけて前足の爪を使って、登る。
こちらを向いて樹豹が暴力的な咆哮を再度あげるが、
「ふぅふぅ!やっと着いた」
「トビラ師匠、お疲れ様です!というか、あの攻撃をどうやったら、あんなに完璧にジャストガード出来るんですか?完全に連撃を封じてましたよね?」
「うむ。そういった話は後にするぞ!今はまだタイムアタック中だ」
「そうね。あのバカ共に勝ち誇ってやるのよ!」
「まぁ、ワタクシ達が勝ったかは、まだ分からないですよ」
全員が無事にセーフティエリアへと軽く雑談しながら逃げ込む。
巨大樹の太枝による空中回廊のさき、塔の最上階のセーフティエリアは不思議と明るかった。また外観はそんなに大きな塔ではなかったのに、中は都会の駅のターミナルのように広い。ゲーム的ファンタジー処理がされているようだ。
いつもならエリア移動に伴って、システム猫がどこからともなく現われ、新エリア名をつげるはず。だが今回は特別なのか、トビラたちの前にGMパーンが立っている。ゲームマスター権限で先回りしたのだろう。
そうしてタイムアタックの結果を告げる。
「お待ちしていましたよ、みなさん、今回の勝負は――――」
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