ー第13話ー
13話
「師匠では行ってきます!」
返事も聞かずに走ってゆくトゥビリオを見送りながらトビラは魔法を使う。トゥビリオのやつ、ちょっと笑ってたな、と安堵する。喧嘩の挙句にタイムアタック競争になって責任感じて無理しないといいなと思っていたからだ。
「召喚ペトロニウス」
月光のような柔らかい光を放つ魔法陣から夏辺野トビラの召喚獣ポニーのペトロニウスがあらわれる。こうして召喚獣とサモナーの2体でそれぞれ別の役割を果たせるのが職業上の特性だ。
「え!大型犬?ワタクシ、馬が召喚されると聞いたのですか、ずいぶん小さいですのね」
今日、初めて見たクラバアトさんが困惑している。
ペトロニウスは月毛といわれる体色で、金色のかなり長い体毛をもっていて、タテガミは真っ白だ。
「犬じゃないよ。ポニーな。騎獣召喚で呼べるけど、騎乗できない。だから育てている人が少ないからレアだし、知らないのも無理はないが」
「ゴールデンレトリバーみたいねぇ。ワタクシも犬と散歩に行きたいですね。とりあえず今日からよろしくお願いしますね」
「だから犬じゃないって」
クラバアトさんは話を聞いているのか、いないのかペトロニウスに挨拶している。
|朝比ラッキー。さんも口を挟む。
「毛は長いけど、なんというかストレートな毛先だから、ゴールデンレトリバーとはちがくない?」
トビラ、ペトロニウスと最も長く共に行動している、朝比もクラバアトさんも歩き出しながら話を続ける。
「うむ、以前見たときよりもでっかくなっている気がするなァ。というか、馬のわりに樹上フィールドとか平気なんだな。足場悪い感じだが」
そういってこちらを気づかってくれているのは、このパーティのリーダーである蒸気パン・クウである。
「うん。ネットで調べてみたらペトロニウスの種族はリアルでは炭鉱とかでも働いていたんだって、だから大丈夫みたいよ」
炭鉱と樹上の足場の悪さは全く違うが、トビラは召喚できたし、問題なく付いてきているので気にしていない。
仔馬は話を聞いているのか、聞いていないのか、あちこちに目線をやっている。キョトキョトしている。
「うむ、じゃあ、作戦通りに行くか。そういやペトロニウスとの意思疎通はどうしているんだ?作戦って分かるのか?」
蒸気パン・クウが聞いてくる。トビラは、そういえば蒸気パン・クウも朝比も召喚獣のことを名前で呼んでくれるな、と感心してしまう。
「そうね。こっちの話は聞いてくれてるぽのよね。ペトロニウスちゃんの言葉はわからないし、ちょっと控えめなとこもあるのk」
「ペトロニウス、なるべく真っ直ぐに行って、豹との戦闘は避ける。あとなるべく急いでいくから、合図したら皆の素早さを上げてくれ」
朝比さんが蒸気パン・クウに説明し始めたが、トビラは遮ってペトロニウスに口頭で作戦を説明する。
この樹上マップに入る前に全員が知っていることを共有した。そしてフィールドの特性としては、物凄く大きな樹から伸びた枝、それが河の上にかかっている、その上を進んでいく。
一番大きな枝で真っ直ぐ立てる部分は5メートル近くある。ほぼ道になっているとも言える。
枝の端のほうは何かに捕まったりしてないと、滑っていくくらい急峻だ。落ちたら死亡扱いになる。当然、柵とかはない。
このメインストリートになる枝の他に、もう少し細い枝があり、それを吊橋や縄梯子で行き来するようになっている。
この樹上マップに出てくるのは主に鳥のモンスターだ。プレイヤー側が限られた足場なのに容赦なく襲ってくる。基本は撃退するだけで、殲滅したりとかは難しいと言われる。Mシュライクというらしく、翼を広げると1メートル近くある、やや赤みのある鳥だ。
トビラはゴラゥタンのようにタカとワシの合成モンスターとか出てこなくて良かったと思った。
そしてデンジャーエネミー、巨大な豹のモンスターがマップ中央にいる。これが大きな枝を塞いでいるため、直進が出来ず、大きく迂回する必要がある。デンジャーエネミー、ボスと違って倒さなくても進める。が、そこらのザコ敵とは一線を画する、ボスよりも強いようなモンスターのことだ。以前、トビラ達が苦汁をなめさせられた赤乱の駝鶏と同様、普通は勝てないから、いかに逃げるかが問われるモンスターだ。
「トビラ、フレンドから通信だよ」
とシステム猫のピートが告げる。ゲーム内の各種、システムを利用する時に必要なな存在だが、プレイヤーは皆、こういったシステム猫を連れているため、ゲームの通称はネコ大陸という。名前もプレイヤー毎に変更できるが、最近の流行りはドラ○もんらしい。
「通信が来た!予定通りだな」
と言いながらトビラはフレンド通信、ゲーム内の電話のようなものをつなぐ。
『トビラ師匠、予測通りの位置にヒョウを確認しました。まだ動きそうにないので戻ります』
「わかった。よくやった。帰りに見つかるなよ」
『はい!分かりました。師匠もお気をつけて』
フレンド通信を終わらせるとトビラは全員に告げる。
「ここまで予定通りみたい。いけそうだ」
「うむ、全速で行こう!クラバアト、頼むぞ」
トビラたちが考えた作戦は索敵を重視している。蒸気パン・クウによると、このフィールドの攻略法はメインストリートになる大枝がギリギリみえる範囲で大回りしていくことらしい。
「わたくしの見せ場は今日のプランですと多すぎですね。人使い荒いのが残念ですね。まぁ、しょうがありません。いきますよ!『理のルーン開放・イヤーラビット・範囲拡大』」
クラバアトが懐から取り出した石片をかざすとペトロニウスに魔法のエフェクトがかかり、蹄の周りに光が舞っている。
ルーンマスター・理のルーンのスキルツリーはモンスターにしか使えない魔法をコピーして、プレイヤーが使えるようにするものである。メリットもあるし、使い方によっては相当に便利だ。魔法をモンスターから現地調達(?)も出来る。
「よっし、これで次に使う呪文の対象を複数に出来ますわよ」
「わかった。ペトロニウス!AGIを皆にかけてくれ」
デメリットはストック式であること。クラバアトの現在のレベルでは3種類の魔法しか覚えられない。他にも回数にも制限がある。スキルで相手の魔力を石にするのだが、アイテムとは別とは言え、これの所持個数が決まっている。スキルレベルを上げれば回数は増えるが、あまりプレイヤーの評判は良くない。
「うむ。速度を全体にバフかける事が出来るのは、この方法しか見つかっていない!」
「つまり、必勝法ってわけね!」
そのため基本的に『便利で使用頻度がたかい』魔法は何度も同じモンスターの所に通う必要がある。
また例えば火属性のモンスターから火の魔法を学習しても、その魔法をそのまま相手に使っても効果は薄い事が多い。なので、現地調達も意味はある時とない時がある。
「鳥が出てきたぞ。うむむ。あういう機動力あるのはなぁ」
「魔法の無駄打ちにしかならないので、ワタクシは相手したくないです」
「あー、こういうのはデバフ使えるようにしけば、良かったかも」
豹の前に雑魚敵である鳥のモンスターが襲ってきた。数は1体であるが、タイムアタック中に足を止める訳にはいかない。かといって短時間で倒せるかというと、、、
カウンタータイプとして攻撃を受ける必要がある蒸気パン・クウは反撃する前に逃げられやすい。
魔法の使用回数制限がある上に、攻撃魔法ルーンに変えられない相手とは相性が悪いクラバアト。
補助特化にしているため、飛行モンスターに妨害などの手段がない方士の朝比ラッキー。も戦力にならない。
「ほんっとに今日は頑張らないとな!」
トビラにとっては戦闘の出番である。
「頼りにしてるぞ」「ワタクシの分まで頑張って」「ペトロニウスちゃんを守るためよ!」
近づいてくる鳥を槍で牽制しながらも前に進んでいく。
鳥が嘴で、ツメで襲い掛かってくるのを反撃する。鳥も攻撃を入れた後、旋回してから再度、攻撃しに襲い掛かってくる。
「上をとったからと言って、勝てると思うな!」
トビラは空中の鳥に見事、槍を突き入れて倒した。
「ペトロニウスの反応を見るに、近くに敵がいる」
「うむ。近づかれるまで無視だ!」
「えっと、右手から来るっぽいから、見つけたら合図だすわ」
どうしても敵がいて移動速度が下がっていたが全員で全力で駆け出す。
「さすがに速いですね!」
そこに1人で先行していたトゥビリオ・ハリーが合流する。
「よくまぁ、速度バフ無しで、ここまで1人でさきに行けるのね」
「空を飛んでる相手でも、大きく旋回しますし、突っ込んでくる予備動作が見えやすいですからね。逃げるだけなら簡単です。ただ競争相手の言うとおり攻撃力がないので、勝てないんですけどね。全然、ダメですよね」
クラバアトが褒めたら、なぜかトゥビリオは落ち込んでしまった。
「はいはい! 長所があれば短所もあるわ! 気にしないの!」
「そうでしょうか」
「そうよ! それに私は方士としては何もしてないわ!」
朝比が慰めてるのか微妙なことを言う。
「たしかに朝比さんは付いて来てるだけだな。今回の原因なのにな」
「しょうがないでしょ! ああいう連中の言うことにはウンザリよ。DPSとか、ウィキ読めとか、こーしろあーしろ! 迷惑かけんな!とか」
「うぅむ。敵と戦うのにダメージ最大化とかはロマンだが、人のロマンにケチつけちゃダメだよな」
「違うわよ! ペトロニウスちゃんを見なさい! 馬なのに人を乗せられないのよ! じゃあ消せばいいの? って話でしょ? ちがうわ! 出来ることをやればいいの!」
「そのとおりです。ワタクシにも出来ないことあります。出来る人だけ集めたいならゲームじゃなくて会社でやればいいんです」
「いや、ソッチのほうがむずいだろ。だが、たしかに迷惑かけずに人の役に立つのは現実で十分にやってるからな」
「でも、、、迷惑かけて、役に立たないままじゃダメですよね」
「あんた、何言ってるの! もう役に立ったじゃない。ボスの位置も見てきたでしょ」
「ボスじゃなくてデンジャーエネミーな」
「アゲアシ取らないで」
「うむ、今のはトビラが悪い」
「トゥビリオさん、迷惑をかけないとか、敵を倒さないといけないとか、そんな傲慢な考えは辞めなさい。あなたに出来ることを全力でやる、それを楽しんでやる。全力で走っていくアナタは楽しそうにワタクシには見えました。仔馬さんを召喚した時にトビラさんはにっこり笑ってました。タイムアタック競争に勝とうと朝比さんはニヤニヤと悪巧みしてました」
「し、し、してないわよ」
「ともかく義務感でゲームやってる人だから文句ばっかり言ってくる人より、楽しんでるアナタがたとならワタクシも楽しめそうです」
「そうだな。ペトロニウスが小さいのは運命、じゃなかった運営が悪いんだからな。アサシンの取り柄もペトロニウスの長所も他にある。それがケンカウリ男の役に立たないって言うなら価値観が違うんだ。それこそ運命、運のめぐり合わせが悪かっただけだな」
「そうよ!ペトロニウスちゃんはかわいいんだから!」
「おっと、そろそろか?今回の大物は?」
トビラが話を変える。
「情報通り大型の豹のモンスターでした。寝そべっていましたし、索敵範囲などは狭いという予想は当たっていると思います」
「うむ、見えてきたな! 一度止まって、雑魚処理だ。一緒には相手できないからな」
マップの端の方が通路となる枝も細く、鳥モンスターの出現は多いというのは攻略サイトなどに書いてあったことで、トゥビリオと蒸気パン・クウは知っていた。火力と手数の問題で中央突破が速いし楽だが、真っ直ぐ行くと豹に見つかる。
逆に言うと豹さえ何とか回避して真っ直ぐ行けばタイムアタックに勝てるとトビラたちは判断した。この時点では、まだ全サーバー、全プレイヤーの誰もがデンジャーエネミーを倒せていない。
そんな豹への攻略法とは?
ここまで読んでくださりありがとうございます。
この話は4800字程度です。誤字脱字は1万文字に1つくらいにしたいので、容赦なく指摘ください。
次の話が文字数多くなりそうです。
他にも書いている小説があるのですが、
そちらのタイトルを変えてみたところPV(閲覧数)が2倍位に増えました。
タイトルって大事なんだなと実感しました。
中身をより良く伝える、より面白そうに伝えるタイトルやアラスジに出来るか
仔馬の召喚師のほうもいろいろ試してみようと思います。
なによりも完結させるのを一番の目標にしますが、
沢山の人に読んでもらえる努力もしたいと思います(目標にするだけなら無料!)