ー第11話ー
チカチカする。視界が、目がよく見えない。足も言う事聞かない、たぶん、尻もちついてる。リアルで貧血おこして倒れた時みたい。手が、汗か、槍の握りがヌメヌメする、ロボットアバターって言うのに汗かくのね。
「ゴアァァァ!」
「ちょっと!大丈夫!?聞こえてる?」
「ゼッ!ハッ!ハッ!ゼ!ハッ!」
あの息遣いはダレだろう?私か?何とか朝比さんに返事しないと。
仔馬の嘶きが聞こえる。突然、視界がクリアになる。頭に取り憑いていた高熱が醒めたようだ。
「もう、大丈夫。やられたし、だいぶHPけずられちゃったけど、何とか生きてる」
夏辺野トビラは大猿のモンスター、ゴラゥタンにトドメを刺そうとして綺麗にカウンターの土魔法・地面から突き立った石の柱に吹き飛ばされたようだ。大ダメージでスタンしたらしい。貧血で倒れた時のようだ。現実の生活では、しばらく経験してないが社会人になりたての頃、満員電車で人混みに酔った時のことを思い出した。
アサシンの少年、トゥビリオ・ハリーが駆け回って短剣で切りつけては下がる、ヒットアンドアウェイを繰り返している。敵の気を引きつけているが、息が上がっている。荒い呼吸音はトビラではなく彼のものだったらしい。
トビラの心配をして声をかけていた方士の朝比ラッキー。は詠唱時間が終わった回復呪文の次の術の準備をしている。「回復したんだから!あとはやっちゃいなさいよ」と手厳しいがゲームの戦闘でも傷ついた仲間を心配するあたり良い人なんだろう。
ちなみのラッキー。の。までが名前である。
「あとペトロニウスちゃんにもお礼言いなさいよね!」
朝比も可愛がっている仔馬の召喚獣がペトロニウス、どうやらトビラの状態異常を回復したのはペトロニウスらしい。
「これ以上、心配かけさせるわけにはいかないからな!」
トビラはそう答えると、駆け出す。
「トゥビリオ君、スイッチ」
トゥビリオは言われて、バク転で宙返りしながら敵と距離を取る。
「はい!」
返事をしつつ、宙返り中に、更にトビラとハイタッチをして後方に下がる。トビラは内心、意外と派手好きなんだ、と思う。もう相手のペースで先手を譲らず、こっちが先に攻撃すると決めて、槍を叩きつけつつ、そのまま駆け抜ける。振り向いて更に一撃を入れると、ひときわ赤い出血のエフェクトを散らして
「がぁ」
と最期に一声ないてゴラゥタンは力尽きる。
「よし!ペトロニウス!かったぞぉ!!」
「ふぅー!もぉ、スタミナが、なく、なりましたぁ〜」
「まったく、もぉヒヤヒヤしたわよ」
「うん!油断はよくなかったな。ペトロニウス?近くに敵はいるか?」
なんとなく近くにはいなそうだ。トビラは屈んでペトロニウスの首すじを強くなでわます。
「トゥビリオの息が戻るまでに回復術使うから、ちょっと待ちなさい」
「す、すみません!」
「いやいや、気にするな。それよりさっきの戦闘の回避盾、なかなかやるなぁ」
「そうよ、私が叱ったみたくなるじゃない」
「あ、ありがとうございます。もっと他にアドバイスとか、何か、ありませんか?」
回避盾とは、前衛・タンクの役割の変形のことを指す。攻撃を躱しまくって、敵を引きつけて味方を守るパーティの盾のことだ。
「アドバイスより、こっちこそすまん。あのゴリラ、攻撃が大ぶりと油断した」
「タイミング悪かったわよね」
「いえ、あれはゴリラではないですよ。ゴラゥタンです。僕は回避は出来るんですが、攻撃を当てても殆ど効果がなかったんですよね。」
「このマップは基本、三種類の敵が出るのか?」
「ぽいわね」「だったと思います」
「なら、貂と鶏は魔法防御を私に、トゥビリオはペトロニウスからリジェネをもらってくれ。で、残念だけど私たちは火力が足りない。だから朝比さんはタイミングを見て火力アップをトゥビリオにかけてくれ。そこからはスキルでHPを犠牲せずに通常攻撃で削ってくれ」
「了解しました!」
「ちょっとタイミング間違っても知らないからね!」
「ごり・・ゴラゥタンの時は私にも最初から攻撃力アップをかけてくれ」
こうして、ある程度は作戦をまとめてからは戦闘はスムーズに進んだ。若干、タイミングの修正が必要な場面もあったし、森の奥地ではゴラゥタンが木につかまって三次元的な挙動も増えた。が、
「アササルの名にかけて、樹上戦闘は負けません!」
「それ、意味ちがくない?」
なぜ先程、キックされかけたのか分からないくらいトゥビリオ・ハリーが頑張っていた。
「木登りできるからって見下してんじゃない!」
「下みてるだけで、見下されてないでしょ!ってか、サルと張り合うな!」
「サルじゃなくて、ゴラゥタンですよ」
トビラも器用に上から来る攻撃をさばいていた。
順調に戦闘をこなしていると、朝比のレベルが上がったようだ。
「うん!?うん、で?はい。そうなのね。後にするわ」
と突然、1人で喋りだした。何事かと思ったがペトロニウスは、無反応だ。
「あぁ、システムペットと喋っているんですね」
「あぁ。なるほどね。他の人のは見えないものね」
と、会話が終わったのだろう。朝比が答える。
「ごめんね。レベルが上がったみたい。スキルレベルをどうしたものかと思って」
「急いで決めるものでもないしな。とりあえずセーフティエリアまで行こう」
このエリアには徘徊ボスも固定ボスもいないので、単純にゴールに付けばマップクリアだ。出てくるモンスターも物理も魔法も使える敵だが、単体のみで出現するため、人数が揃っていればわりと楽に勝てるのである。
3人とペトロニウスで歩みを進めていく。木々の隙間が大きいため、割りと視界が開けている。前方に川が、いや河、かなり幅が広く、流れの緩やかな河が見えてくる。河の近くは今までよりも細い木が多い。マングローブのような細く、からまったような木が河の近くにはえている。
さらに進んでいくと下生えしか生えておらず、川岸が見えるところにまで近づく。しかし対岸は見えないので、海かと思うプレイヤーもいるが、ゲームの設定として北側に進んで海にはぶつからない。
フィールド入口付近のような太い木々がなくなったのに頭上は明るくない。見上げると異様に巨大な木と、その枝枝が空を覆っている。他のゲームであれば世界樹とか、そんな感じで呼ばれそうな大木がそびえ立っている。
どうやら、あの巨大樹が次のセーフティエリアになっているようだ。
「でっかい木ね〜」
「うん。そうだな。大きい木っていうのは良いな。人間なんて皆ちっぽけだなぁ」
「トビラ師匠の言うとおりですね!」
その後、何度か貂や鶏とも戦ったが無事に巨大樹に辿りつけそうだ。
ここまで来て、トビラは正直、2人の仲間のことを見直していた。
朝比ラッキー。は初対面が喧嘩の場面であった。今日もトゥビリオを罵るプレイヤーと喧嘩になっていた。そういう風にすぐ人と喧嘩になるのは、良くないことかもしれない。
けれど知らない人にも遠慮せずに意見できるとも言える。分からないことをキチンと聞いたりする素直な所もある。バッファーという地味だが簡単ではない仕事、戦術と計算が必要でなおかつ、人とコミュニケーションが必要な仕事、それをこなす素質があるとも言える。
トビラは自分には出来ないだろうと思う。嫌なことは何でも先に決断を伸ばしてしまう癖がある。
(結局、騎獣召喚って名前がオカシイってクレームしなかったなぁ。ペトロニウスは良い子だから、いいんだけれど。)
トゥビリオ・ハリーは最初は弟子入りさせてくれってゲームで何言ってるのかと思った。が、きちんと敵への妨害行為をしたり、トビラがダウンしてる間には後衛に攻撃がいかないように盾になっている。
ゲームの役割を理解しつつ、動けている。
トビラはタンクを志望するくらいなので、職業の特性を活かそうとするプレイには好感がもてる、口にはださないが。
職業特性を分かっていない野良にあたってしまうと罵倒されることもあるのだろう。斥候役は直接戦闘になった後、何をしてもらうかは難しい。特にアサシンはスキルがHP消費型なのでメンバーによっては戦闘中は『何もしない』が正解の場合もある。
ダメージを与える以外の仕事もある、これに価値を見出すメンバーでないといけないが、なかなか出会えなかったのかもしれない。
ゲームによっては難易度が高い=敵の攻撃力とHPが高いとなっているものもある。それを突き詰めると味方は一撃でも貰えば死ぬし、足を止めずに通常攻撃を繰り返すのが最強となることもある。つまりタンクもヒーラーも無意味になる。敵モンスターの行動パターンを全て覚えておく、すべての攻撃を回避する前提で全員がアタッカーになるゲームも過去実在した。
そんなゲームを経験したプレイヤーからすると攻撃力低いだけで地雷扱いなのだろう。まだネコ大陸の強敵がどうなるのか不明だが、たくさんの職業を用意してあるのだから蒸気のような『覚えゲー』『死にゲー』にはなってほしくないとトビラは思う。
その願いも込めて、2人に遠征パーティーをお願いしようと決意した。
ちょうど、そこで大木の根元にあるセーフティエリアに着いた。システム猫のピートが
「おめでとう!シルヴァスタインの樹に到着したよ!」
と声をかけてくる。
どうやら、ここは発展が可能なセーフティエリアらしい。以前、訪れた『メリング牧場』より多くのプレイヤーが訪れているらしく、すでに色々な機能が開放されている。手に入れたアイテムを売ったり、消耗品を売るNPCもいるようだ。
セーフティエリアに入るまで気づかなかったが、樹の根本に建物が、幹に沿って階段になるように板が打ち込まれている。
「今回は無事に到着できたわね!」
「ここのセーフティエリアは人が多いな」
と朝比、トビラがそれぞれ感想をのべると、トゥビリオが解説する。
「ここの先のフィールドには徘徊型ボス、デンジャーエネミーがでるって聞きました。たぶん、それでパーティの入れ替えや募集したい人が多いんだと思います」
「ちょっとぉーネタバレ禁止よ!」
「あ!すみません!」
「まぁまぁ、フィールド情報を何も知らない方がまずいだろう。それより2人にお願いがあるんだが、まだ時間は大丈夫か?」
まずは、ドロップ品を売って、ペトロニウスを送還する。お金は山分けにすることしていた。
3人で探した結果、待ち合わせや作戦を練るのに使われる酒場のような場所があったので、そこに入った。ゲーム的には空腹度などはないので、食事のメニューなどは雰囲気作りのようだ。
酒場は大樹の巨大な根が盛り上がっている場所を壁のように使って建っている。そのため上から見ると三角形の建物だ。正直、現実にあったら使いづらい間取りになっている。
「三角形の建物なのに丸テーブルなんですね」「酒場といえば、丸テーブルでしょ?」
「2人とも、もし良ければなんだが、遠征に、私と一緒に遠征に行ってくれないか?」
トビラは珍しく緊張していた。そういえば、このゲームを始めてからパーティにしても、フレンド登録にしても自分から言い出せていない。
いつの間にか、流されていた。最初になろうと思っていた職業と違うものについてしまったからだろうか。召喚獣に騎乗することがムリになったからだろうか。タンクのつもりが強敵に逃げ出したり、今日もスタンさせられたり、役目を果たせていないからだろうか。
所詮はゲーム、いつでも嫌になったら止められる。だけど、人を誘って、どこかに行くなら、やっぱり止めます!とは言いづらくなる。でも、ペトロニウスに守られて、次は自分が守ると決めた。
最初は背が高い事で浮かれていたが、今は真剣にゲームを上手くなりたい、強くなりたい。
そのために2人を自分から誘うと決めた。
さて2人の返答は
「遠征ね!いいんじゃない?でも、どこに?というか、どの方面に行くの?」
「僕は、ぜひご一緒させてください!」
「ありがとう!じつは別に遠征を誘ってくれている人がいるんだ・・・」
思いの外、あっさりと了承してもらい安心したトビラは、そこで2人に蒸気パン・クゥについて話してみる。
「じゃあ、その蒸気パンにも相談するってわけね?最低でも4人になるわけだ」
「そのぅ、どんな人ですか?」
朝比は問題ないようであるが、トゥビリオはやや不安そうである。彼はあまり野良パーティ運が良くなかったせいであろう。
「まぁ、私も2回しか会ってないけど普通に話せるよ。ゲームだからといって暴言は吐いたりはしなかったよ。あと向こうにも今から連絡してみるから、ちょっと待ってくれ」
トビラはシステム猫を通して、蒸気パン・クゥがログイン中である事を確かめるとフレンドコール(電話)で呼びかける。
『今、大丈夫か?』
『おぉ!夏辺野トビラか?どうした?』
『えっと、今週末の遠征に行こうという話なんだけど、私の方で一緒に行ってくれる人を・・・カクカクシカジカ』
『そうか!助かる!何だかゲーム開始直後はそうでもなかったんだが、昨日・今日は俺はイロモノプレイヤー扱いでな、なかなか良い奴が見つからないんだよ』
『あぁ、なるほどね』
実は、この頃からかなり職業分布が変動し始めていた。もともと何回でも職業は作り直せるシステムなので、25職あっても大きく近接戦闘・タンク・遠距離魔法・回復役に最適な職業プラス水上戦などの特殊な要員と固定されつつあった。
ゲーム、仮想の世界なんだから趣味でやればいいとは言えない。より強くなれるなら、その方が良いに決まっている。そう思っているプレイヤーは多い、ただ他の人の職業に文句を言ったり、弱いと大声で騒ぐ人は少ない。ただ、少数派だがトゥビリオを罵っていたプレイヤーのような人はいる。そしてゲームで弱いとされるキャラクターや職業を使う人がバカにされても自業自得と考える人は多い。
面と向かって言わない、そういう風潮があった。ネットワークゲームだけでなく、この時代、面倒なことに関わらないようにするのは当たり前のことであった。
『トビラはどっちの方向に行くか決めているのか?』
『それはある程度、北に進んでから考えればいいんじゃないか?とりあえず私たちはシルヴァスタインの樹という場所にいる。このあたりを基点にすれば良くないか?』
『了解したぜ!明後日、そこで顔合わせと役割分担を話そうぜ!』
『分かった!その時にまたな』
「すまん。待たせたな。話はついたよ。明後日、ここスタートということになったが、それで良いか?」
「りょーかいよ」「わかりました。もし会ってみて、イエ、なんでもありません」
「じゃあ、今日はファンデーションに戻って、冒険の報告だな」
「いちいち戻るのは面倒よね」
「・・・あとちょっと到達者増えるとで、この拠点に報告機能できるそうですよ」
「ふーん、都合よく、今すぐ人がドパッと来ないかしら」
「そう上手くいかないだろ。明日は自由行動で大丈夫か?」
「えぇ、道を今回の探索で確認したし、ここまでは来れると思うわ」
すこし雑談をした後、3人でファンデーションに戻った。今回の探索報酬などをもらった後、今日のところはログアウトした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜5日目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夏辺野トビラはログインした後、システム猫のピートに新しいシステムを聞きながら、考える。
考え込む、新しい装備をどうするかを、自分のキャラクターの育成方向を。
ネコ大陸には、キャラクターの個性の出し方が少ないといえば少ない。
職業を選んだ時点で、そのキャラクターの役割はある程度、決まってくる。戦士になればアタッカー、方士になればバッファー、アサシンは斥候役、防人はタンク、そうすると武器や防具も何を買うかが、決まってくる。
職業別に、どんな育て方をすべきか、買うべきベストの装備は何か?色々と情報はあふれてる未来社会である。
「今の自分は、アタッカーよりのタンクか?となるとゴラゥタンの素材の装備か?」
が、夏辺野トビラは他の人がやっていない構成でキャラクターを作ってしまった。
となると、人に相談したり、攻略サイトの情報を見ても参考にならないのである。なので、昨日までやっていたインターネットでの情報収集を辞めてしまった。
なにより、人に・情報に・状況に流されている。人に頼られるようなキャラクターになろうとしていたはずなのに、流されていたら強くなれない気がする。トビラは今、そんな風に思っている。
ネコ大陸では防具を同じ素材のものに揃えると、セットボーナスが発生する。
今、トビラが使っているフォッカル素材の防具・狡狐革シリーズで全身をコーディネートすれば、【連携効果(微)】が発生する。しかも安い。
効果は、味方が視界にいなくても、どこにいるか、ぼんやりわかると言ったものである。ポジション的に先頭に立つトビラにとっては便利ではある。
「これはこれで、欲しいなぁ。けど防御力がなぁ」
全身ゴラゥタン素材の防具にするときのデメリットは2つ、すこしだけお金が足りない事と【連携効果(微)】はつかなくなる。
メリットも大きい。まず装備としての防御力が高くなる。装備のセットボーナス【腕力増強(微)】も良いなぁと感じている。お金は今日一日、稼げば問題ない。防具を変えれば攻撃力も上がりそうというのは惹かれる。
明日からのパーティプレイについて考えてみる。今、決まっているのはリーダーの蒸気パン・クウ、夏辺野トビラ、トゥビリオ・ハリー、朝比ラッキー。、ペトロニウスだ。
人数が増えてくるのであれば連携は大事だ。けど、声掛けや工夫次第ではなんとか出来る気もする。
昨日の戦闘では前衛であるトビラがスタンすると敵が倒せなくなっていた。蒸気パン・クウもアタッカーとして加わるから何とかなるかもしれないが、彼は火力を出すのに条件がつくハイランダーという職業だ。通常時から平均的なステータスをあげておくのが正解と思えてきた。
「よし、今日は頑張って金策してゴラゥタン素材装備にしよう!」
なんだかんだ武器が虫素材も慣れてきたので、今では平気である。5日目のゲーム内の目標は装備の更新のための金策になった。
今日は特に約束していないので1人であるが、金策は今回は簡単な手段がある。まだ行っていない西方面に行って探索報酬を得れば良いのである。西の1つ目のセーフティエリアまでの道も陸路と海路がある。陸路で行って、海路で帰ることが出来ればお金は一番稼げるが、陸路オンリーでもお金は足りる。
「そうと決まれば!フィールドに行ってペトロニウスを呼び出そう!」
その後、特に問題なく、ペトロニウスと仲良くやりながら、西フィールドで出てくるウサギとオオカミのモンスターを倒してセーフティエリアまで辿りついた。
システム猫のピートが
「ウェストワンの休憩地についたよ」
と告げる。
「あぁ、そういえば名称変わったんだっけ?」
とトビラがつぶやくと、質問ととらえたのか。
「そう、発展可能なセーフティエリアと、不可能なセーフティエリアが紛らわしいと苦情が多く来てね。可能な場所を開拓地、不可能の方を休憩地という呼称に変更したよ」
とピートが説明してくれる。
作者が連載始めた後に思いついた設定なので、アップデートでの変更になった。今までの文章を書き直さなくて済むという安心設計である。
「さて、水夫の人はいるかな?」
トビラが探し始める。ウェストワンの休憩地は奇妙に黒い砂浜で、この先は危険と告げるような場所であった。が、たくさんのプレイヤーが歩いていて空気自体はあかるい。
見渡すと先日も会ったアース&シーがいる。
「おーい!」
「あれぇー、また会いましたねー、トビラさん」
彼は水夫の職業に付いているので海辺のマップで会うこと自体はおかしくはない。が、ちょっと頻度が高いのでお互いにビックリしている。
「ここで何してるんだ?もしかしてパーティ募集?」
「いえ、実は今日はもう行き先もパーティメンバーも決まっているんです」
「そうなのか!タイミングが悪かったな。ここからの帰り道の海路に行ければと思っていたんだが」
「いやーすいませんー。今日はこの後、この先のマップにある大河をさかのぼっていく計画だったんです。ちょっと同行は出来ないです」
「なに、大丈夫だ。それよりアップデート情報で何か気になることはあるか?」
ちょっと雑談しようとふってみたみたのだが、意外な返事が返ってくる。
「いやー、それよりアップデートでー修正されなかった項目があるってー掲示板が大炎上してますよー」
「へえ。そうなのか。あんまり見てないんだ、掲示板」
正確には昨日くらいから、見てないんだである。
「そーなんですかー。ここのサーバーじゃー、大規模にまとめる人はいなかったですけどー、他の3つのサーバーだとー開始当日にー仕切るのが得意なー人がいたんですよねー」
「確かに人をまとめて、いっせいに同じ方向を目指せば効率よく開拓地が発展するからな」
「ですねー。偶然なのかー、他を意識したのかー、わかりませんがー、北・東・西に分かれたんですよー。サーバーごとに、それでー、その動画がー、公開されているのでー、攻略としてはー、参考になるのですがー」
「同じ方向にかぶらなかったのは、確かに後追い組としては楽ではあるな」
自分は動画を観たくはないが、と心の中で思うトビラであった。
「西もー、東もー、それぞれエグいマップやギミックがー満載でしたー。ですがー、本題はー北ですよー。通称、北の腐海、正式名称『ザロングアフタヌーン』って言うマップでー、全滅してるんですよー、北に向かったー大部隊、総勢1000名近いプレイヤーがー」
「はぁ!?ありえないだろ?」
「ですよねー。正直、意味が分からないですよー。ガセだとー思ってー動画3時間みましたよー」
「しかし、6人パーティで単純計算しても160回以上、チャレンジしてるんだろ?それだけ人数いて1パーティも抜けられないとか。クソゲーじゃなきゃバグ?」
「まぁー、初突破の競争するっていうんでー、前情報無しでー、50パーティくらいが同時入場したのもー、悪かったんですがー、制限時間かー、それっぽいギミックでー、みんな死んでいるらしいんですよー」
「んぅ?どういうことだ?」
「後半のー話聞いて対策取った人たちもー、強い人たちもー、敵に負けていないのにー、時間がたつとー、死んでいくんですー。エフェクトとしてはー毒ぽいんですがー、原因が特定できてないそうですよー」
「えー。なにそれコワ!」
「まじでー怖いですよねー。たぶん時間だと思うんですけどー、人によってもーリタイアするまでの時間がー、ちがうのでー、バグだと言われていたんですがー」
「今回のアップデートで、何も変更なしだったのかー。まじでこわいなー」
「ですよねー。怖いといえばー、西に遠征した人たちのー、洋館ホラーでー、トラウマ刺激がー・・・」
最終的にアース&シーの待ち人が来るまでの間、トビラにも口癖がうつるくらいに、話し込んでいた。
はたしてトビラ達が向かう北のマップに待ち受けるものとは?
この話は9000字ちょいです。
誤字脱字あれば教えてください。
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。