ー第8話ー
システム猫のピートが冷静につげる。
「おめでとう。メリング牧場にたどりついたよ」
「ぜっ!ぜぇっ!ぜっ!ぜぇっ!」
呼吸が落ち着かない夏辺野トビラであるが目的地に着いたという喜びはない。HP・MPは回復したようだが、スタミナは回復しない仕様であるらしい。
「ちょっと!ペトロニウスちゃんは!どうなったの!?」
方士の朝比ラッキー。さんは元気である。ただ怒りで疲れを忘れているだけかもしれない、ゲーム的にスタミナ値は各キャラで決まっているはずだが。
「・・・助けられなかった。・・・仕様としてはペナルティ発生ね。再召喚には1時間ちょっと必要みたい」
何とか呼吸は落ち着いたようだが、ほぼ素の口調で答えるトビラである。ネナベプレイが出来ないほど衝撃を受けたようである。
「そんな仕様の話を聞いてな・・・ほんとに復活はできるのね」
朝比さんは涙目である。怒りを抑え込んだようだ。だが安堵したというより、悲しんでいる方に近いようである。
新しいセーフティエリアに人影はひとつふたつのみだ。ここまで到達してるプレイヤーは少なく、ほぼ固定でパーティを組んでる人ばかりなので、パーティ募集などをかける意味が薄い。これはメリング牧場にかぎった話ではなく、ゲーム的にプレイヤーを困らせる仕様でもある。探索の一番奥地、だれもいない場所にとどまる理由がない。
そういった不満要素を解消するためにネコ大陸では拠点開発要素がある。セーフティエリアの中にはNPCを増やしていける場所もある、具体的にはメリング牧場を例に取ると今は馬に関する事を教えてくれるNPCしかいない。他にNPCが1人いる。これはクエストNPCとよばれ様々な課題をプレイヤーに発行する、それをクリアするとお金をもらえる。クエストNPCはメリング牧場に50人のユニークユーザーがたどり着くと出現する。また100人のユニークユーザーが到達すると消耗品の売買がするNPCがあらわれる。
ユニークユーザーというのは要は1人のプレイヤーが何度も往復してもカウントしないという事である。アカウントごとに3つのアバターを作れるが、異なるアバターでの移動もカウントされない。
より奥地への探索を楽にしたいプレイヤーむけにこういった前線へのセーフティエリアまで低レベルプレイヤーを護送するメリットをつくってある。
メリング牧場には人が増えればメリットが有る。新たなパーティの到着は巡り巡ってトビラにも利益のある話だが。
「やった!ついたぞ!!あのデガトリめ!逃げ切ってやったぞぉーー!」
ハイタッチを交わし、喜ぶ6人パーティがたった今、到着した。その光景はトビラになんともやるせない気持ちにさせた。
「すまないが、朝比。先にログアウトする。明日、また」
それだけ言って、ログアウトしたのが限界であった。朝比は何か返事していたようだが聞いてなかった。
ネットワークゲームはたくさんある。ネナベプレイ出来るからネコ大陸を買ったけど、少し待てば他にも発売されるかもしれない。自分の理想できないのに無理して背伸びしてやる価値はあるだろうか。
昨日、ログアウトしてから、夏子は少しの間、昔好きだった歌を聞きながら眠った。
「はぁ。私が守るはず、タンクになるはずだったのにな。やめてしまおうか」
その晩、夢を見た。子供の頃、上級生と喧嘩になったときのことだ。チビとバカにされた。とても理不尽だったことは忘れられない。自分と友達が縄跳びしているところに、ドッジボールかサッカーか、何かのボールが飛んできたのだ。それを注意したら逆にチビとバカにされた。だから次の日、学校に行きたくなかった。
お父さんに、そう言って泣いた。父はこういった、正しいことをしても馬鹿にされることはある。たとえ、どれほど大きな声で罵倒されても、自分が正しいと確信してるなら胸をはりなさいと父に言われたことを思い出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜3日目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝には多少は気持ちを切り替える事ができたと思う。あの理不尽な上級生は後日、(先生に怒られて)謝りに来た。
だから今日は胸を張ってゲームをする。理不尽な強さの駝鶏は後日、倒して謝らせる。そう決めた。どうやってプログラムを謝らせるかは分からないが。あいつを倒せるくたい後日は、だいぶ後になるとしても。
起きてから仕事の合間などにポニーについて調べ物をした。小さいと思っていたがやはりペトロニウスはシェトランドポニーとしてもまだ仔馬のようだ。ゲームとしてもサモナーの召喚獣はほとんど子ども、もしくは幼体ともいうべき状態で召喚される。そこから召喚魔法のスキルレベルをあげると成体となっていく仕様なのが確認できた。
ただあまり有益な情報はない。ネコ大陸の攻略サイトで不人気な職業に関する情報は少ない。攻略サイトでも召喚獣のスクショは載っているが、データなどはまだアップされてない。使っていこうとする人が少ないためであろう。また大型馬に乗っているプレイヤーは戦闘した感想もあったが、ポニーはスクショでこういうのも召喚できるけどハズレぽいとだけあったので、それ以上読むことなく、そっと閉じた。
あとスキル相談なるページにて、自分のスキル構成はサモナーのテンプレスキル構成とかけ離れているのも分かった。そのページはそっと閉じた。
ログインした。
システム猫のピートが聞いてくる。
「フレンドから1件のメッセージを預かっているけど、今すぐ確認するかい?」
周りを見渡す。昨日より余裕があるせいか、ほとんど伸びっぱなしになっている草むらやアイルランドの田舎にありそうな石垣で区切られた草原が広がっている。
相変わらず、ここにはほとんど人がいない。
風が強いなぁーと思いながらも男性アバターだと髪が短いせいか、風に吹かれても、うっとおしくない。日差しが気持ち良い。
「ピート、メッセージを読み上げて」
そう答えながら石垣に区切られた場所にそって歩いて行く。
メッセージは朝比さんからだった。申し訳ないが、勝手に戻らせてもらうこと、今日もファンデーションで待ち合わせが出来れば一緒に冒険したいという内容だった。
「ふぅ。とりあえず!」
今日の予定を考えるトビラであった。ペトロニウスを再召喚する、このマップに来た目的であるNPCと話すこと、ファンデーションに戻って朝比さんと合流したら彼女のやりたいことにあわせようと思った。
ピートに頼んで朝比さんに返信を行う。
さてトビラはNPCと思われるキャラクターに近づいていき、話しかける。話しかけないと相手が誰か分からないのはゲームの世界観を壊さない雰囲気作りなのかもしれないけど、ちょっと怖いよなと思ってしまう。
「あの?貴方はここで何してるんですか?」
そう尋ねた相手は壮年の男性だ。黒い髪に細い目、ややがに股だが、背筋は真っ直ぐに伸びている。ゆったりとした灰色の上下の装束、その上から黒に近いハーフコートくらいの丈の外套を着ている。
(暑そうだな)とトビラが内心思っていると。
「そういうお前さんは?」
問い返される。
「え!?ちょっと暑いかなと思います」
「うむ。そうか、そうか。なら冷たいお茶でも飲んでいくかね?」
結局、何をしているかと言う質問に答えてないが男性は少し離れた石造りの家を指差す。ちなみにレンガではなく切り出した石をつんであるようだ。日本のお城の石垣の中身をくり抜いて上部を木で屋根にしたような造りだ。
「あそこはわし、マキャフリーと家族で住んでいる家だ。いまだ、この地は人が少ないためたいしたもてなしは出来ないが、冒険者の開拓を手助けするように陛下に命じられている」
トビラは親切なNPCもいたものだと思いながら、マキャフリーについて家に向かう。
ちなみに日本の現代っ子であるトビラは家だと思ってなかった。理由はデカイ、ソボクすぎ、貧相等の理由により倉庫とか体育館などの施設だと思っていた。ちなみにダンジョンの入り口だと思って突撃したプレイヤーもいることからデザインの変更も検討されている。
「お招きありがとうございます。伺います。私は夏辺野トビラと言います」
トンチンカンな問答や倉庫だと思っていたことなどを誤魔化すために丁寧に返すトビラであった。
「ワシは伯楽のマキャフリーだ」
「ばくろう?」
「うむ。馬や家畜の医者・仲買人のことを指す職業だ。NPC専用職だ」
ばくろうとタイピングして作者がぜったい読めないと思った漢字を使ったが、何がどうなってこの字を当てることになったかは知らない。馬喰、博労とも書くらしい、また普通は『はくらく』と読むらしい。だれか由来教えてください。ちなみにゲームの中でNPCの一部は王女の船で新大陸に来た後、拠点にできそうな場所に散らばってプレイヤーを待っている。単独で大陸中のあちこちに行けるNPC最強じゃね?とファンサイトでは言われている。
さてマキャフリーに伯楽の漢字を説明されながらトビラは歩を進める。マキャフリーが大きな引き戸をズラして開ける。
ここに来てトビラにも合点がいった。馬でも入れるように大きな造りの家になっている、馬の医者であるマキャフリーの診療所になっているのだろう。入り口付近はかなり大きな土間になっている。奥には干し草も積まれている。
中に入ると、土間の上り框の場所をゆびさし、
「その辺で座ってろ」とマキャフリーは言うと奥に入っていく。バリアフリーとかガン無視されているせいか、長身のトビラでも苦労なく座れる。
家はつい最近新大陸が発見されたはずなのに、妙に古びている。また石造りの家の中で薄暗いので、入口近くで止められたことに不思議と安心しつつ腰掛けたまま周りを観察する。
あちこちにトビラが名前も知らない道具が置かれている。作者も知らない。何に使うんだろうと眺めているとマキャフリーともう一人女性のNPCを連れて戻ってくる。
「この辺りに来るプレイヤーも増えてきて嬉しいよ、あなた名前はなんていうのかしら?職業は?」
と中年女性のNPCが尋ねてくる。服装はマキャフリーに似ている。
「えっと、私は夏辺野トビラです。職業はサモナーです」
「おちつけ、アン。まずはお茶だ。トビラ、すまんな」
「まあ!サモナーなのね!こっちはお茶うけよ」
とミルクティか、チャイぽい飲み物とクッキーを差し出される。
ちなみにネコ大陸ではゲーム内で空腹感を感じたり、食事をする必要性はない。また食材風のアイテムによってバフはつくが、ここで出されたお茶や菓子類には、その効用はない。単純に歓迎用の品物らしい。
「マキャフリーに任せてると話が進まいからね!!トビラさん。カウボーイや馬賊の冒険者の知り合いはいる?」
「アンは話をひっかきまわすだけだ。しかも相手の都合も考えない」
「いえ?馬賊に知り合いはいませんが、こちらに馬に詳しいNPCがいると聞いて訪ねてまいりました。私の召喚獣について聞きたくて」
トビラとしてはペトロニウスに関する情報が欲しい。ステータスにははっきり書かれていないが索敵能力があることは経験上、理解した。ただペトロニウスが警告すれば敵が近くにいるとしか分かっていない。
いろいろと話してくれそうな2人に勢い込んで聞いてみることにした。
「私の召喚獣はポニーなんですけど、みてもらうわけには行きませんか?」
「ふむ。サモナーの補助騎獣召喚スキルにもボーナスは与えられるが、、、」
「えぇ、そうなんだけど、、、」
「そこから先は私が答えましょう」
と家の奥の暗がりから、もう一人の若者が出てくる。マキャフリーさんをだいぶ若くしたような外見をしている。年齢的には10代後半だろうか。
「私はGMパーンと言います。このマップではいくつかの職業スキルに熟練度ボーナスを差し上げています。しかし、アンやマキャフリーの頭脳では臨機応変とはいかない問い合わせも来ていましてね。私が答えることにしています」
「えっと?GM?私、何か問題おこした?」
「ご安心ください。何も問題はありません。召喚獣だけでなく、プレイヤー操作でないキャラクター、魅了中のモンスターの行動基準などは完全には公開できません。ですが、何も分からないとプレイヤー様の不満につながります。なので、私がここでなら、ある程度の情報公開を行っております」
ーーーここから読み飛ばし可。ーーー
ちょっと話がそれることを許してほしい。この時代、AI(人工知能)はだいぶ多方面に使われている。たとえば車や飛行機の自動運転など運送技術は人がいなくとも事故が起きないレベルにまで発達している。恋愛シミュレーションゲームのAIとの会話が楽しくて友だちができないなんて若者を問題視する識者もいる。
しかし研究が規制されていたり、発達していない技術もある。それが人型ロボットの中身である。ゲームの中での人工知能、AIも人間同様の会話はまだ出来ないし、人間と同じレベルで運動したりや動いたりするプログラムはほとんどの国で規制されたり、民間利用が制限されている。
理由は、人間と同様の動き、特に戦闘技術をするAIをドローンやロボット(ハード)に移植すると、あっという間に軍隊が出来てしまう。『ちょっと規模の大きい町工場だと思っていたら殺人ロボットを量産していました。』という事態を防ぐためにハード面でもソフト面でも各種規制がある。
上記の恋愛シミュレーションでも遊んでいる若者はほとんどは意外と冷めていて、ゲームはゲーム、現実は現実で区別できている。AIも3日はむりでも1週間ほどで会話にパターンがあることに気付くレベルのものしか造られていない。(重度にハマる人もごく少数いる)
ここで問題となってくるのはネコ大陸の中ででてくるモンスターや召喚獣の行動パターンやAIだ。ネコ大陸は民間商業利用としては世界初となるロボットアバター型のVR空間を採用している。これは中のプログラムをより簡単にドローンに移し替えやすいという問題をはらんでいる。敵モンスターや召喚獣の行動プログラムを人工知能に学習させてドローンに搭載するという事例がたった1つでもあるとたくさ〜んの法律にひっかかる。
この辺の問題にネコ大陸の開発元となるAOSE社はかなり過敏になっている。敵モンスターの攻略のために行動パターンを分析していたサイトの管理人とあと一歩で訴訟問題になりかけたのはゲーマー達に大きな波紋をよんだ。
この時代、AI、人工知能に何を学習させるのか?そのAIを何の目的でどう使うのか?これらの疑問はとても大きな社会問題となっている。シロウトが迂闊に踏み込むとよくて訴訟、わるいと有罪確定で3年は牢からでれないというし、もっと最悪な結末もあると言われている。
その辺の事情がありトビラが召喚獣にたいして質問をしようとしてGMが出てきた結果にビビっていた。GMとしては、けして怖がらせるためではなく、大人の事情で細かいことは教えられないけど、知らないとゲーム楽しめないような召喚獣の挙動に教えるためにでてきたのである。
ーーーここまで読み飛ばし可の説明シーン。ーーー
そして運営側としては実は召喚獣のポニータイプを使っている人が少なく、せっかく増やした新規召喚獣の使用者にテコ入れの意図もあるという。
「さて、世界観ぶち壊しの問答はこの辺にさせていただきますね」
そう言ってGMパーンは少し口調改めて、言葉を続ける。
「この家の中では召喚術の使用が出来るぞ。なので補助騎獣を実際にみながら、いくつか説明させてもらおう」
GMパーンはマキャフリーとアン夫婦のちょっと生意気な息子という設定なんだろうかと想像するトビラであった。
「ここはセーフティエリアだけど、特別に召喚スキルがつかえるということですか?」
「あぁ、馬賊なども一部のスキルを解禁されているぞ」
トビラは改めて確認を取ると、立ち上がり召喚術を行使する。するとシステム猫のピートがトビラの正面に立ち聞いてくる。
「召喚するのはペトロニウスのままで大丈夫かい?新たに別種の補助騎獣を召喚することも出来るよ」
ここでペトロニウス以外を召喚すればトビラでも騎乗可能な馬をよべる可能性もある。
しかし、
「いいえ、私の相棒はペトロニウスと決めたんだ。あの駝鶏を一緒に倒すよ。あの子は私のために昨日、頑張ってくれたんだから」
「そう設定したよ」
とシステム猫のピートが返事すると、召喚の魔法陣があらわれ月の光のような光が集まり、ペトロニウスがよびだされた。トビラから歩むよると、ペトロニウスの首筋から背中を強くなでてあげる。
「おかえり。もっと強くなるから」
そう声をかけるとペトロニウスも答えるように雪のようなたてがみと首筋をこすりつけながら、ひくくいななく。
GMパーンはしばらくトビラとペトロニウスの再会を見守った後に、落ち着いた頃に声をかける。
「今のように、首筋をこすりつけるのは実際の馬と同じくコミュニケーションのひとつであり、挨拶にもなる。他にもいくつか知っておくと得になる事がある」
GMなので中身は成人しているのだろうか、外見が10代のため若者ががんばって背伸びしているようにみえるなと思いながらトビラはペトロニウスの挙動について教えてもらった。
一つ、視界、視野は340度以上あり、ほぼ後方までカバーしているが距離感などは曖昧なため、攻撃などはかなり不正確で命中しないこと。
一つ、聴覚、嗅覚に優れているので、それによる索敵が可能。また警戒している方向に耳をむける。相手の脅威度がたかい、もしくは急速に近づいてきていると、それにたいして横向きになる事が多い(必ずではない)こと。
一つ、マスクデータになっているため細かい数字などは教えられないが、ポニータイプはスタミナ値などは他の騎獣に比べて高くはない。ただし燃費はよく、重たい荷物を持たせても長時間歩けるなどメリットもちゃんとある。デメリットは騎乗できないこと。
一つ、そのため装備などは場面によって変更するとポニータイプは様々な働きが出来ること。
一つ、全般に言えることだがモンスターによって攻撃優先順位の付け方が一律ではない。特にサモナーが注するべきはモンスターが召喚獣を一個のプレイヤーと同様に扱う場合もおおい。しかし直接召喚主をねらったりするモンスターもいる。逆に特定の召喚獣タイプを好んで狙うモンスターもいること。
こういった事を教えてもらったトビラは一つ決心を固める。
「ポニーを狙ってくる変態紳士には絶対に負けない!」
モンスターの意味が違うがトビラからすると変わらないようである。背中の金毛をモフモフフカフカとナデながら聞く。
「色々と話しを聞かせてもらい、ありがとうございます。わざわざ3人で教えていただいて」
最後にトビラはアン、マキャフリー、パーンに挨拶をする。
「いえいえ、こちらこそ長時間お引き止めました。残念なことに補助騎獣の中でポニータイプは人気が少ないので、トビラさんとペトロニウスのようなコンビは我々としてもうれしいですよ」
「召喚されるのは騎獣だと思わせるスキルの名前のせいだと思いますけど」
「アハハ、ちょっと改善案考えます」
「また、いつでも訪ねてきなさい」
「えぇ、いつでも待ってるからね」
「また、来ます」
NPC二人とも挨拶を交わす。
外に出ると、システム猫のピートがフレンドから通信だよと声をかけてくる。どうやら朝比ラッキー。さんから連絡が来ているようだ。
「もしもし?」
『今、大丈夫?ちょっと相談したいことができっちゃったんだけど』
「うーん。こっちの用事は終わったから、そっちに移動する。ファンデーションに移動したらよいか?」
『うん。わかった。あと、ねぇ、、、ペトロニウスちゃんは大丈夫だった?』
朝比さんは気にしていたが、聞きにくい事だったようでちょっとためらってから聞いてくる。
「心配かけてすまないな。無事に再召喚できたよ」
『そう!!よかった。じゃあ北門の近くにいるから』
通信をきると、トビラはすこし悩む。ペトロニウスに装備をつけることで色々な強化はやってみたい。しかしトビラ自身の装備も満足に揃えることが出来てないので、金策が必要だ。今日の予定は朝比さんと落ち合ってから装備の金額を商店で確かめて、目標金額を決めようと思う。
「まずはファンデーションにもどらないとね。ピート、今回はここで退却するよ」
トビラはシステム猫にそう要請する。
ネコ大陸は冒険ゲームであり、お家に帰るまでが遠足です、と言わんばかりのシステムになっている。トビラはこのメリング牧場に来るまでに肉食の青いカンガルーぽいモンスターブルプトルーを倒している、そのドロップ品・マップ探索報酬などを得られなくなる代わりに瞬時に登録してある拠点まで移動することができるシステムを『退却』という。モンスターを倒した経験値などは減らないので完全に無駄にはならない。
(お金は欲しいけど、ムリをする気になれないしね。また頑張って稼ぎましょう!)
こうした行って戻っての手間を少なくするために多くのプレイヤーが協力してメリング牧場のような開発可能なセーフティエリアに遠征してもらうための仕掛けになっている。
手順通りに諦める探索マップ情報とアイテムをピートに確認された後、トビラは自身の視界が暗転する。そして次の瞬間にはファンデーションの浜辺に着いていた。ファンデーションはまだまだ人が多い。
とりあえず急いで北門の方向へと走っていく。周りのプレイヤーから珍しい仔馬を連れているということでやや注目を集めている。変わったこともあるものだというくらいで騒いでるわけではないようだが、トビラはちょっと恥ずかしい。それもあって少し急ぐ。
北門付近でピートにフレンドの位置情報を検索してもらう。リアルでの待ち合わせも最近はモバイル端末の位置情報を使うが、地図がないとすこし不便だがゲームだし、仕方ないと思いながら移動する。
「朝比さん!」
朝比さんと少年姿の人が騒いでるのを見つけたので声をかける。朝比さんが騒いでいるのは昨日も見た気がするがデジャビュってやつかなとトビラは思う。
「ペトロニウスちゃん!トビラも元気で良かった!」
そういってトビラたちに駆け寄り、ペトロニウスの頭をなでる。幼少の西欧人のようなサラサラした金髪というわけではないが、フワフワモフモフと優しい手つきでなでてている。
「あなたが夏辺野トビラさんですか?」
「えぇ、そうですが?」
身長160センチほどの少年が見上げてくる。VR空間でしかお目にかかれない黄色の瞳、直射日光の下で見れば茶色が入っているといえるくらいの黒髪、活発な少年といった外見だ。
トビラは今日は少年姿の人に縁のある日だと思いながら、肯定する。
言外に相手の名前を聞き返したつもりだった。
「貴方に弟子入りさせてください!」
9000字ほどになりました。誤字脱字は万が一!が目標!なのであれば教えてください。
またブックマークしてくださったり、ポイントを入れてくださって本当にありがとうございます。
そして、おかげさまでユニークユーザーも500人超えました。
けして目立つ所にあるとはいえない作品を、読んでくださっている皆様、本当にありがたく思います。