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ー第1話ー

(とどかない!)


 立ち位置が悪すぎた。戦略をたて、状況をよみ、対策を考え、必勝のポジションに立ったはずだった。だが、結果は届かなかった。吊革も手すりも遠い、あまりに遠い位置にある。手を伸ばしても届かない、いや手を伸ばすための隙間がない。


(つぶされる!)


 人口減少が始まって何年たっても日本の電車は満員御礼、乗車率200%、ラッシュは静かな敵意と獰猛な無関心をぶつけあう戦場であった。労働者はライバル会社とのポジション争いより、快適な車内ポジションを争う日々を過ごしていた。


(きもちわるい!)


 背が小さいゆえに長めの吊革にギリギリ手が届く、言い換えれば普通の吊革には掴まれない。近くに手すりもない。ドアも遠い。空席に座れる可能性は宝くじより人気ゲームのβテストに当選するより低いだろう。周囲の汗と垢と香水の匂いで吐きそうになっている。


 彼女にとって通勤電車は「背が低い」というコンプレックスを刺激され続ける日常であった。


 満員電車を乗り越えて、午前中の仕事をこなし、昼休みに母から私有の端末にメールが来ていることに気づく。なにやらゲームについて相談したいとのことである。

 母は最近、携帯端末のゲームにハマっている。だが、ゲームの感覚というか、仕組みというか、効率的なやり方に疎い所がある。だから、敵を倒すゲームなのになかなか前に進まず同じ相手に苦戦している。不器用だなと思うが、母が楽しんでいるなら、それでよい。


「もしもぉし?どしたの相談なんてアラタマって?」

 ゲームがうまく行かずとうとう課金でもしたくなったのかと思ったが、大したことではなかった。当たらずとも遠かららずであったが、所持しているキャラクターが1杯になっちゃったのをどうにかしてくれという事らしい。母がやっているゲームは妖精のようなモンスターのような精霊を集めて、敵のモンスターと戦わせるゲームだ。勝つとモンスターが仲間になることがある。しかし、仲間にできる数の上限が決まっており、課金をすれば、その上限を増やせる。課金せずに上限を増やせないかというのが母の相談であった。


「いらない奴を売ればいいじゃない」

 ゲームのキャラクターである、人身売買ではないので売ることはできる。しかし母は『かわいそう』としぶる。昼休みであったこともあり、それ以上は長話はせずに通話を終える。


 昼食を取りながら、母の感性に苦笑する。データ上、ゲームの中のキャラクターはプレイヤーが売れば消えてしまう。ゲームによっては売ってお金に変えるしか意味のないキャラクターもいることにカワイソウと言う。


「でも、確かにカワイソウかもね」

 小声でつぶやく。自分が遊んできたオンラインゲームのキャラクターも、ゲームを辞めたことで消えていったのだろうか?

 なんとなく消えてはいないと思う。でも今から昔のゲームをやるわけにもいかない。

 ただ自分も何かゲームで久しぶりに遊びたいなと、そう思った。


 戸山夏子(とやま なつこ)はネナベである。いや、ネナベであった。

 ネナベとはネットワークゲームで女性が男性のキャラクター、アバターで遊ぶことを言う。逆に男性が女性のふりをすることをネカマという。


 性別を本来のものと偽ることはインターネットが生まれた頃にはよくあることであった。しかし技術の発達で性別を偽ることは難しくなった。


 たとえばボイスチャット。

 画面上の文字だけのやりとりだけなら性別は簡単に偽れる。が文字を書くより声にだすほうが迅速なコミュニケーションを図れる。しかし声色は男女で誤魔化すのが難しい。


 さらに没入型VRゲーム。

 ヴァーチャルリアリティ技術、VR技術は最初映像と音声だけながら、本当に違う世界を味わえるということで、娯楽施設、カラオケや漫画喫茶のような店舗形態として広まった。気軽に旅行したり、時間と場所が限られる趣味、サバイバルゲームやサーフィン・スキューバダイビングを都心部で気軽に仮想空間の中で体験ができるようになった。


 世界中の多くの人に役立ったが、ネカマ、ネナベを演じるのは至難であった。

 ゲームの世界で自分の意識、五感を移す時に男女で性別・体型を変えるのは現実の意識に問題をもたらした。

 男女で股関節の構造が異なるためにゲーム世界でネカマをやると現実世界で歩きづらくなった。触覚の細かな違いなども問題の種になった。

 そのため、VRの世界では自分の身体に近い外見でしか遊べない制限がついてしまった。とくに身長や性別は変更できなくなってしまった。

 そこに演じる側の問題も加わった。ネカマは現実に女装趣味などがあるわけでなく、仮想世界を気軽に楽しんでいる人が大半であった。自分自身の身体と同じもので女装するのは心理的にハードルが高かったのだ。


 こうしてネットワーク世界からネカマ、ネナベは消えていった。現実でもオカマなど一部の例外をのぞいて絶滅してしまった。ネットワークゲームの世界の一つの文化が失われたと嘆く声はごく少数だった。

 少数派の戸山夏子は自分の外見そのままで遊ぶのは抵抗があったためゲームを遊ぶ時間を大幅に減らしてしまった。

 さらに外見、髪色など変えていたにも関わらず、女性がネットワークゲームで知り合った男性からストーカーされる事件がニュースで報道されてから、ゲームをやめてしまった。


 ネカマ、ネナベ絶滅から5年、今ふたたび性別を偽ることが出来るゲームが生まれようとしている。

 医療方面ではなく軍事方面の技術で自分の体ではないアバターを操作する技術が発展した。民間転用は医療方面にくらべてずっとゆるやかであったためゲームへの応用は遅かった。しかし最近ようやく自分の体そっくりではないアバターで遊べるようになったのだ。

 こうした技術は軍事用ドローン含む各種兵器の操作を応用した技術のためロボットアバターと呼ばれた。


 戸山夏子は歓喜した。彼女は身長が150センチに届かなかった。なのでゲーム世界でずっと長身男性になりきってきた。しかし没入型VRゲームはそれを許さなかった。

 戸山夏子はゲームを、VRゲームを遊ぶことにした。ふたたびゲームを楽しめるようになった、高身長で。


 彼女はずっとこう思ってきた。視力が弱いのは医療で治せるのに、低身長や薄毛、O脚、低身長などに関する医療技術の進歩がおそすぎる!と。命は救わないが、困っている人はいるのにと。


 今、彼女は久しぶりに遊ぶゲームのために色々と予習したりアバターのデータを作ったりしている。色々と調べ物は好きな方だ。それが役に立たない情報でもダラダラと学習してしまう。

 そうして実際に遊んでいる時より、遊んでいないゲームの予習をしているときが一番楽しそうである。

 そうして実際に知識を使う時に忘れている。


 アバターの髪色は金髪というより黄色が強めできつね色というか、レモンイエローに近い色で瞳は鳶色(とびいろ)など外見にも色々とこだわりがあるようである。

 すでにゲーム内の名前も考えてある。夏辺野トビラ(カベノトビラ)という。本名からの言葉遊びから考えた名前である。


「うーん、職業はランダムなのかー。いくら何回でも作り直せるといってもなー、変な職業になったら嫌だし。リマセラは必須かなぁ」


 今、発売予定になっているゲーム『黒猫エドガーとアランポォ大陸の冒険』について予習しながら、悩んでいる。略称はネコ大陸である。ネコ大陸であるが、プレイヤーの種族は人間限定である。アバターを好きなように変更することは出来る、性別も身長も体型も自由に変更できるが、そのせいでゲームの容量が限界になってしまった。今後のバージョンアップを待ってほしいとのことである。と言ってもネコで遊べるわけではないらしい。


 個性、キャラクターの基礎になるステータスや職業を通常のゲームではプレイヤーが選ぶ。しかしネコ大陸は職業選択の自由がないのである。職業はキャラメイクで全25種から3つ提示されるものから選ぶようになっている。そこでリマセラをやるか悩んでいるようである。


 プレイヤーが分身となるキャラクターをつくることをキャラクターメイク、キャラクタークリエイトという。まんまである。略してキャラメイク、キャラクリという。あまり字数が減ってないが略称である。このキャラメイクにランダムの要素があるゲームは昔から多い。そういったゲームにおいてプレイヤーが自分の気がすむまでキャラメイクをやりなおすことを俗にリマセラと言う。これはリセットマラソンの略である。キャラメイクを何度でも繰り返す、何度もリセットをマラソンのように延々と行うことからこう呼ばれる。


 そしてネコ大陸はMORPGとなっている。国王ウィリアム・ウィルソンが近年、発見された新大陸に王女ライジーアと冒険者たちに探検と開拓を命じる。プレイヤーは冒険者として新大陸の町では不特定多数のメンバーと交流して、仲間を募ったり、作戦をねる。フィールドには1パーティだけで道を切り拓き、敵と対峙し、冒険を行う。

 ちなみにフィールドから、どこもかしこも不特定多数のプレイヤーがいるとMMOになる。


「職業は戦士、騎士、僧侶、神官、魔法使い、ジプシー、吟遊詩人、狩人、シーフ、侍、水夫、防人(さきもり)、アーチャー、精霊術師、ドルイド、踊り子、馬賊、カウボーイ、アサシン、方士、占星術師、ハイランダー、探偵、サモナー、ルーンマスターの25種類か、って多いなー。覚えきれるかなぁ」

 ちなみに作者が忘れるので、編集される可能性が高い。

 この中からランダムで職業は選ばれる、ゲームの運営は「意外な職業、意外な組み合わせで思いよらぬ冒険を!」と職業紹介の宣伝ページで煽っている。


「基本的に前の方で紹介されている職業は比較的、出やすいのね。後半のほうがレアって事ね。βテスト情報で使いやすくて私なりにロールプレイ出来るのはっと」


 気の済むまでリマセラしても大丈夫だが、夏子は低確率ででる職業ならなんでもよいというわけではないようだ。


「目標はタンクだけど、職業の騎士にこだわる必要はないけど。うーん、どうしようかな」


 どうもゲームの中での役割について悩んでいる様子。タンクとは戦車のことではなく防御力のあるキャラクターで他のキャラクターを守る役のことである。

 背が高くガッチリしたキャラクターで仲間を守るのが目標のようだ。25職業のなかでタンク役にむいてそうな職業をピックアップして公式サイトなどでチェックしている。


「タンクの騎士のテンプレは・・・剣鎧騎士スキルツリーと聖騎士スキルツリーを伸ばすことか。初期作成のスキルポイントボーナスでは攻撃力と防御力あげるのかぁ。まぁ最強を目指すわけではないから、この通りでなくとも良いけど、忘れないようにメモっておこ」


 彼女の目的は久しぶりのゲームであるしムリに最強キャラを目指さず、背の高い男性キャラで戦闘では皆を守る役割をやりたいらしい。頼れる兄貴のようなキャラクターに憧れ、そうなりたいと思っているようだ。


「防人が一番の当たりね。騎士はレア度は低いから10回リマセラして良いのが出なかったら、騎士にしておこうかな。馬賊、方士なんかも意外と堅いのか。育て方次第で水夫と神官もありね。まぁ、この2つはレア度低いから20回やってダメだったら考えましょう」


 リマセラは根性のある人は最高値のものが出るまでやる。回数なんて数えない人も多い。しかし戸山夏子はそこまでこだわらない事にしたらしい。


「ん?これは?」


 彼女は馬賊の項目を読み直す。馬賊に『騎乗可能』の一文がある、

 そうして掲示板にも


『馬賊だと最初から馬に乗れたから移動がめっちゃ楽。あと馬って意外と背高いのな。視点高くてびびったわ』と言うブログでの書き込みを見つける。

 そこから改めて調べなおしていくと騎士などもスキルレベルアップで馬に乗れるようになるらしい。


「し、視点が高くなる、見下ろせる、人と会話する時にかがまれない、高い所から遠くを見れる、、、ほ、他に騎乗可能な職業は?」


 どうも常に人と会話するときなど見下されることに強いコンプレックスがあるようだ。『高い視点』というキーワードがタンク役をこなすこと以外に目標を見つけてしまったようだ。


 乗馬可能なのが確認されているのは騎士、侍、吟遊詩人、狩人、シーフ、ドルイド、馬賊、サモナー、カウボーイの9種類である。だが、すべての職業で最初から馬に乗れるわけでない。

 また初期装備(?)として馬があるわけでないので、馬を入手する必要がある。ゲームが進めば馬以外にも様々な生物、ファンタジーでおなじみのあれやこれやにも乗れるようで『カミングスーン』の文字とともに騎乗可能とおぼしき生物のシルエットが表示されている。


「これは、色々と考え直す必要があるわね」


 もうすぐネコ大陸がリリースされる。

 戸山夏子、いや夏辺野トビラ(カベノトビラ)は理想の職業につけるのか!?


 こうして嘘偽りばかりのゲーム世界で背を高くしたかったと言う小さい、けれども切ない願いをもった小さい女性の冒険が始まるのである。

 彼女は高身長で明るい未来を見通すことが出来るのか!?


誤字脱字は万が一にしたいです。つまり1万文字に1つくらい。

1話で5000字くらいなので、あれば教えてください。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

また読者様の中で『後書きにブックマークよろしくお願いします!』って言ってる作者いるけど、意味分かんない?って方がいましたら、恐れ入りますがページ上部に『辻屋』って書いてあるリンクが有るかと思います。

そこでプロフィール欄をご一読くだされば幸いです。

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VRMMOで弓削師というのもかいてます。よろしくお願いします
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