参
私、先倉さざなみは最近しばらくずっと、上丘七見という名前の親友から、同じ内容の相談(というか愚痴)を聞かされている。
七見の悩みは要するに一言で言ってしまえば『恋人が私の方を見てくれない』『十分に愛してくれない』というモノだ。同じ時期に私と七見は恋人と付き合い始めたから、何となくこう幸せであるコトによる遠慮みたいなのも発生してしまって、七見の話を聞くの自体は全然苦ではない。しかし、こうもずっと同じ話題だけになってしまうと、たまにはオシャレの話とかカフェの話とかもしたいなあ、と思ってしまうのだった。だけど、恋って女子にとって永遠の宿命みたいなモノだから、まあ仕方がないのだけれど。
今日も大学のフリースペースで、七見は私に不満をぶつけてくる。
「最近、ホントに冷たいの……しかも、怒鳴ってくる」
「怒鳴ってくるの?! え、暴力は……?」
「そ、それはまだないよ……」
「彼氏を庇って嘘を吐いているとかじゃないよね!」
「う、うん」
七見は私の剣幕に驚いたようだった。
「ねえ、ホントにあまりよくないオトコなんだったら、別れた方がいいんじゃない? いざとなったら、航くんに話を付けてもらってもいいかも……」
私は、支川航太という名前の自分の彼氏の名前を挙げる。航くんは、七見の恋人である上高地浩平と親友なのだ。私自身は、これは上高地くんと面識はないのだけれど。
というか、上高地、七見、航くんの三人は同郷の出身で、少なくとも子供の頃からの知り合いではあるらしかった。私だけが東京出身だ。地元で彼らが友達だったのか、とかの詳しい話は「あまりいい思い出ばかりでもないから」という七見の言葉があったため、あまり聞けてはいないが。
「そ、それはダメよ……!!」
強い口調で七見は否定してきた。
「そう……? うーん、七見って、どうも上高地くんに強い思い入れがあるみたいなんだよねえ……二人の昔には何があったんでしょうか」
「……(ふるふる)」
七見は目を瞑って頭を振るばかりだ。可愛いなあ、もう。
まあ、七見にも二面性があるのかもしれないなあ……というのは若干感じている。何でかっていうと、航くんもあまり昔のコトについては話したがらないんだけれど、七見の性格については言及していたコトがあるからだ。なんでも、『内弁慶』ってヤツだそうで、私に対する七見と、航くんや上高地くんに対する七見は、人が違って見えるくらいに、性格が違うらしい。それはそれでちょっと仲間外れ感がなくはないけれど……私はこの外行き用の七見のコトが大好きだから、まあいっか。外行き七見とは一番仲が良い自信があるしね。これから時間を積み重ねればいいだけのコトなんだ。
「上高地くんと七見、これからもっといい付き合いができたらいいなあ、とは私も願っているよ……」
ホントはもっと過干渉していきたいところなんだけれど、七見が介入をイヤがるから……正直歯痒いというのはある。
「最近は浩平、私のコト、冗談だとは思うんだけれど『まるでストーカーだな』とか『幽霊みたい』とか言ってくるの」
「それはホントに酷いなあ……やっぱり私としては、ぜひ航くんに動いてもらいたいところだけど」
「それはやめてよ!」
「でも、友達として……親友として。七見がイヤがっても私はやる時はやるからね。覚えておいて」
「そんなコトにならないように、もっと仲良くしなきゃね……」
「七見の問題っていうよりは、上高地くん側の問題っていう気がしちゃうけどね」
「だけどそれは私から話を聞いているからで……」
「やっぱり自分に優しく喋っちゃっているとか? でも人間、皆そうだと思うし、特に恋愛なんてさ、感情が入らないなんてありえないじゃん」
「そうかな」
「うーん。今回話聞いてて思ったんだけれど、『ストーカーみたい』はホントに酷いよ。『幽霊みたい』は意味わからないし……。だってさあ、あはは。笑っちゃうけど、七見がホントにストーカーしているなんてありえないもんねえ? だって、彼氏彼女なんだしね?」
「…………」
そして、その時私は恐らく初めて、七見の暗黒面を見たんだろう。
その微笑に、背筋がゾッとする。
表情は暗く重く陰鬱で、事実がどうあれ、その表情から何かの裏事情を連想する。しかし、美しい笑顔だ――人間には見えないくらいに。
異常なバランス感覚で、その作り込まれた極上の仮面のような、絵画の中の一瞬のような表情は、成立していた。
ただ一言七見は、
「――そんなコト、してないよ?」
と言った。




