壱
私は怒っている。私の弟の、上高地浩平に怒っている。
そもそも同居生活は必然だった。私は先に取り合えず名前を知らなければ日本人ではないくらいの有名私立大学に合格し、状況していた。一万円札と関係があると言えば大体わかってもらえる。
弟も一所懸命に勉強して、私と同じ大学に合格した。
私は期待した、超期待した。
「え~、そうかそうか。それってお姉ちゃんと二年間キャンパスライフ&同棲生活を謳歌したいってコトだよね?! つまり、ランクとしては私に婚姻届を出したのと同じようなモノ!! あ~、もうホント浩平はシスコンなんだから~! ほんっと、浩平は! シスコンなんだから!!」
と私は地団駄を踏みながら叫んだ。
「っせぇよ!!」
当時、隣の部屋から壁ドンされてしまった……左隣に住んでいるオジサンである。
「す、すいませんでした……」
と私は謝ったモノだった。
それにしてもウチの仕送りの仕方はかなりおかしいとは思う。まあ、お金がないのは仕方がないにしても、『二人を私大に行かせるだけで精一杯だから』という理由はわかるにしても、割り切り方が酷くて、仕送りが物凄く少ないのだ。実家は広々としているというのに、こんなボロアパートに住む羽目に……弟が来ても仕送りが微増するだけだから、多分引っ越しは厳しいだろう。
この家に住んでいると友人から一番よく言われるのが、
「こんな家、一人で暮らしていて危なくないの?」
なんだけれど、危ないよね実際!? 『娘を一人暮らしさせるなんて……いい家に住まわせなきゃ! 仕送りを増額だ!!』とか考えて欲しいんだけれど、ウチの親。
私が家族の中だけで弟だけを溺愛するに至るのも仕方ないコトだと言える。
現在の浩平のコトに思考を戻そう。
東京に出て来て、すっかり彼も変わってしまったのだ。
なんか私のコトを、姉じゃなくて恋人扱いをしてくる……それが不満だ。
恋人プレイもいいけれどさ、私的には近親相姦の方が燃えると思うなあ……そこのところ、どうなのかなあ?
いや、こんな冗談を言っている場合でもないのかもしれない。
ホントに弟は精神科に連れていかないといけないくらい、おかしくなっているかもしれないのだから。
だって、恋人扱いというのは、より正確には、『やたらとベタベタしてきて、執着心の強い、ストーカーじみた恋人』としての扱いなんだから。
ホントに酷い。何でそんな扱いをするの。
仕方がないから私は「この恨み晴らさでおくべきか」とばかりに、夜毎に浩平のベッドに侵入して、その耳元で囁く。
「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ」
「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ……」
「――死んじゃえ」