零
夜寝ると、耳元で何者かが囁くんだ。
「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ……」
俺は一人暮らしだ。同居人はいない。兄弟姉妹はいないし、恋人もいなければ、妻もいない。
仕送りとバイト代で、何とか暮らしている大学生だ。
友達はいるが、泊り込みに来るほど親しい仲じゃない……。
にも関わらず、寝た後深夜くらいにふと目が覚めて、背後に明らかに人間ではないようなゾワゾワする存在がいいる錯覚がして、そして「死んじゃえ」と囁くのだ。
俺はそのことに恐怖を感じているが、本来その怯えは的を外したモノだ。
だって、幽霊なんて、いないから。
つまり俺は、居もしない架空の存在を頭の中で生み出して、勝手にビビっているだけというコトだ。
自分が恥ずかしい。
でも意識してやっているワケではないから、やめられない止まらないってヤツ。
どうすれば止まるのん? 困ったモンだぜ……。
今日もホラ、耳元でその息遣いが聞こえる……「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ」、なんかその声を聞いていると、俺は本当に死にたくなってくる。
いや、自殺なんて異常な行動だから、実際にはしないんだけれど、現実の行動には繋がってはいかないんだけれど、それでも。
何となく頭の中で『死にたい』とか考えている自分がいるんだ。
そんな妄想の存在を生み出して、そして影響を受けている自分が恥ずかしくて。
そして多分、ずっと「可愛い」って言い続けたら彼女がホントに可愛くなった! みたいなネット体験談と同様に、ずっとずっと「死んじゃえ」って囁かれていたら、そういう風に洗脳効果がかかるに違いないのだ。
俺は死んでしまうかもしれない。自分の妄想に、婉曲的に殺されるかもしれない。
だから、近々俺が自殺したら、それは幽霊のせいだ。
俺の頭が生み出した、妄想としての幽霊が、俺を殺す。