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序章

 かつて、この大陸間の戦である『アスタランデ統治戦線』の勃発する以前、レッドバーンが、まだホワイトバーンと呼ばれ大陸の良識と呼ばれていた時のことであった。

 一人の学者を名乗る男が、ホワイトバーンの新王ホワイトバーン・ルイジ・フェルナンデス八世の前に片膝をついていた。


 「閣下。キマイラというものをご存知かな?」


 初老の男は、まだ歳若いルイジに向かってそう問いかける。

 その瞳の奥に、得も知れぬ輝きがあるのを見て取れるだけの能力をルイジまだ備えてはいない。

 まだ齢十八歳。

 父王の戦死がなければ、未だ帝王学を学んでいる段階の年頃。

 それを見破れなかったのも、無理もない。

 初老の男の瞳にある輝きは、美しいようで、邪悪なようで、そこにいた誰しもその真意を図ることなど出来はしなかっただろうから。


 「私にはそれを造る力があるのですよ。大陸を救うだけの道具を造る力が。さぁどうです?私を宮廷魔術師として雇ってみては?」


 初老の男はなんと魅力的な申し出をするのだろうか。

 今、アスタランデ大陸は、ユッセオ大陸同盟から侵略を受けていた。

 その侵略戦争において、前ホワイトバーン王は、アスタランデ大陸同盟の総指揮官を務めていた。

 彼の細剣技の巧妙さは他の大陸にも知れ渡っており、その名だけでユッセオに対する威嚇になっていたのである。

 その総指揮官が先の防衛戦で敵の大将との一騎打ちにおいて、相手の裏切りにより遠方からの弓の雨によって戦死したとあって、アスタランデ大陸同盟の勢力はやや劣勢に回っている。

 圧倒的なカリスマで自軍の指揮を盛り立てていた総指揮官の死は、それほどまでに絶大な影響力を与えていた。


 王の為の弔い合戦をするという意気込みはなかった。

 ただ、失った者の大きさに、消沈するばかりだったのだ。

 絶大な存在感を失った軍が壊滅する。

 そういう最悪のシナリオが実現しそうになるほどに、士気を失っていたのである。

 そしていまやホワイトバーンに力はなかった。


 識王、もしくはレイピアの騎士と呼ばれ慕われていた前王が死に、まだ若い新王が治める国の扱いなど良い筈がない。

 徐々にホワイトバーンは、大陸同盟からさえも邪魔者扱いをされていた。

 若い王を援護するはずの大臣や補佐官などが、自分個人に都合の良いように行動をしていたため、ホワイトバーンが任されていた地域からユッセオの侵略が広がっていたからだ。


 『私にはそれを造る力があるのですよ。大陸を治めるだけの道具を造る力が』


 大陸の良識。

 レイピアの騎士。

 識王ホワイトバーン・レイナルド・フェルナンデス七世の死後、大陸同盟よりも邪魔者扱いを受け、今や力も立場も無くした国であるホワイトバーン。

 そのホワイトバーンに、この初老の男の言葉に賭けようとする新王の言葉を蹴れるものなどいる筈がない。


 アスタランデに平穏の時を取り戻したい。

 大陸の全ての国を見返してやりたい。

 その時、国の政治に携わる者にとって、どちらの思いが強かったのかは今となっては定かではない。

 それでも、彼らはその老人に賭けたいという思いが強かった。

 例え、その人物を疑う気持ちを捨てきれずとも。

 それだけ王にとっても臣下にとっても魅力のある提案だったのだ。


 しかし、勇敢にも忠告をした人物が一人だけいた。

 それは宮廷魔術師を務めていたキール・マッケンシーである。

 彼はキマイラの強力さを認めながらも、その用い方によっては恐ろしい敵にもなりうることを王に忠告した。

 しかしそこは若さであろうか。

 それとも国を治めないといけないという責任からだろうか。

 王はその忠告を臆病者の言葉として、キールから宮廷魔術師の任を取り上げたのだ。


 それから五年。

 アスタランデ大陸同盟は、ホワイトバーンの誇る二百二十二のキマイラの力によってユッセオ大陸同盟から大陸を護ることに成功した。


 だがその活躍からか、アスタランデの英雄とされたホワイトバーンだが王には野心が生まれていた。

 それもそのはずである。

 アスタランデが救われたのは、ホワイトバーンが誇るキマイラ軍団の力によるところが大きかった。

 そして、そのキマイラを造ることを決断したのはホワイトバーン王自身なのだから。

 まだ若い王が、自分の功績に酔うには十分すぎる理由だろう。

 彼はこう思ったに違いないのだ。


 慎重派過ぎる過去の宮廷魔術師を切り、この老人を宮廷魔術師として迎え入れたのは他ならぬ自分だった。もし自分がこの決断を下さなかったなら、アスタランデはユッセオ同盟によって侵略されていたはずだ。自分の決断こそが、このアステランデという美しき大陸を守ったのだと。

 それを誰が、若さゆえの過ちだと諭せたであろうか。

 国の臣下は、若き王の野心を後押ししたのだ。


 「我々こそがこの大陸を治めるのにふさわしいのだ。ホワイトバーンあらためレッドバーン帝国をここに築き、アスタランデを統治することをここに宣言する!」


 その一言による戦乱の年月が五百年に及ぼうとは、一体この時誰が予測したであろうか。

 王はキマイラを使い、アスタランデを統治しようとした。

 だが、キマイラを造り上げた英雄とも言うべき宮廷魔術師は王に言った。


 「私の造ったキマイラは、国家間の戦争に使うためにあるのではございません。私は、この大陸が侵略されるのを見るのが辛かったために、この大陸を侵略するユッセオからアスタランデを守るために、陛下に力をお貸ししたのです。アスタランデ内での国家間の戦争に、私の造ったキマイラをお貸しすることはできませぬ。使って欲しくはありません」


 しかしその事に腹を立てた王は、彼を追放した。

 無論キマイラを王都に残したまま。

 だが……。

 究極合成魔獣ラスト・オブ・ブレイズ。

 戦乱のときそう呼ばれたキマイラ達は、主人が追放されたのと同じ時、王の前から忽然と姿を消した。

 アタランデ大陸のあちらこちらに大きな破壊をもたらしながら……。

 王はしきりにこの男とキマイラを探させたが、それから何年経っても彼の姿もキマイラの姿も見つけることはできなかった。

 王都から追放されて以後、彼の姿を見たものは誰一人いなかったのである。


 いや。

 一人だけ例外がいた。



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