表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

私の精神は前倒(まえのめ)りになっており、こうした感情(きもち)を確認すると、佳人(おとめ)目前(まえ)に晒された童貞(おとこ)の無力さのようなものを思い知り、(たちま)悚然(ぞっと)した。と云うのも、女の色香(いろか)と呼ぶべきものは肉体を超越(とびこ)え、(じか)に私の心臓を握り、私はその肉体から無数の手が唐突(だしぬけ)に伸びてきて、(おのれ)(くま)なく(おか)幻影(さま)を視たのである。女には支配的な弱さと云うものが有り、これこそが無力さを出産しており、それを認識した瞬間、女の(かみ)(かお)(くび)(かた)(むね)(へそ)(しり)手脚(てあし)、そして()までも、肉体を代表する(すべ)てが(おんな)と云う色へ塗替(ぬりか)えられる。肉体は本来の役割を*放擲(ほうてき)し、観念の奴隷へ(かわ)ってしまい、やがて観念としての芸術の、*無辜(むこ)な何者かへ昇華する。吾々(われわれ)はそこに月の面影(すがた)を見る。

月は決して肉体を持たないが、観念としては必ずそこにある。観念が(つね)無辜(むこ)であっても、肉体は無辜とは無縁であるように、月もまた無辜であり、肉体の辛酸(しんさん)(そま)ることは決してなかった。もし月のような無辜に肉体が(そなわ)れば(たちま)苦渋(くじゅう)錆附(さびつ)くはずであり、そう()らねばならないのだ。

しかし、たった一個(ひとつ)、女という存在だけはその絶対法則から(まぬが)れて居た!

私は女の肉体と無辜との共存するさまから、どうしても目を(そら)すことが不可(できな)かった。女に()ける肉体と無辜とは恰度(ちょうど)差異(ちが)表情(かおつき)を持つ双子(ふたご)のようなもので、(わずか)(ばか)りの影を(かざ)すだけで、二個(ふたつ)相渉(あいわた)る幾多の*懊悩(おうのう)一跳(ひとっとび)(とお)(ぬけ)ることが(でき)る。そのためか、私は女の(きょ)()くような所作(ふるまい)に圧倒され、(まんま)と心の屋敷へ招入(まねきい)れてしまったのだ。

*放擲…ほうりなげること

*無辜…罪のないこと

*懊悩…なやみもだえること

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ