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小憩(いこい)の*園生(そのう)物憂(ものう)名残(なごり)()しさに(しん)として居る。(たいら)(おもて)に、まだ新鮮(まあたら)しい血色(けっしょく)()腰掛(こしかけ)が二、三(なら)んで居た。所在(ところ)によっては絶崖(がけ)へやや迫出(せりだ)すので、転落防止の柵がある。それは時間の摩擦(まさつ)(うち)に、程々(ほどほど)(くす)んだ(あか)(さび)()け、観念としての清潔(すがた)もそれに相伴(ともな)って目減(めべり)するはずであるのに、(かえ)って(みがき)を掛けたかのようで、何ら油断のない印象を()って居た。*鹿爪(しかつめ)らしく自若(たたず)んで居る容子(さま)は人を峻拒するのに(ぴったり)であろう。

私は腰掛(こしかけ)歩行(むか)った。(みち)砂礫(じゃり)から石畳(いしだたみ)(うつ)ったことにより、(くだ)けた調子(ぐあい)であった跫音(あしおと)小気味(こぎみ)()く鳴った。腰を(おろ)すと、脚を*巨細(こさい)(わた)って()鼓動(みゃく)耳許(みみもと)まで(とど)くのを感じ、私は初めて(じぶん)疲労(くたびれ)を自覚した。

しかし、嗚呼(ああ)、何と綺麗(うつく)しいことか!

徒爾(よけい)(くも)一つなく、独り誇らし気に超然とする(さま)濃紺(のうこん)扮装(よそおい)(きらめ)く*徽章(きしょう)であった。(まる)(あや)しい性徴(しるし)は*雪肌(せっき)(うか)(あさ)の陰画めいても()り、周囲(まわり)から明晰(めいせき)()られて()た。

どの時間を切取(きりと)っても*月魄(げっぱく)赫灼(かくしゃく)した。それは(あたか)も、月は決して瑕附(きずつ)くことはないのだと、示唆(ほのめ)かしていたに相違(ちがい)ない。

私はこうした身勝手な妄想に幾分(いくら)(ふけ)り、少時(しばらく)したら、天辺(てっぺん)(のぼ)ることなく下山(げざん)する(つもり)であったが、その(ささやか)な想いは突然(いきなり)(やぶ)られた。

御隣(おとなり)(よろ)しくて?」


*園生…園に同じ

*鹿爪らしい…堅苦しく形式ばっている

*徽章…身分や名誉などを示すために衣服等につけるしるし

*雪肌…雪のように白くきれいな肌

*月魄…月のこと

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