表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

 (わたし)()い*酩酊(めいてい)相伴(ともな)って()()ました。

 ()(ゆめ)のあとに*味到(みとう)される、(かげ)()した水底(みなそこ)のような*瑞験(ずいげん)めいた余韻(よいん)()く、湿気(じめり)苔生(こけむ)した観念(かんねん)心裡(こころうち)揺曳(ようえい)する(ばかり)であった。(あき)()荒涼(こうりょう)である。

 舌許(くちもと)(たまっ)唾液(だえき)醗酵(はっこう)し、口腔(こうくう)粘着(ねばつ)かせ、(かわ)いた眼脂(めやに)繊細(かぼそ)(はだ)()し、冷汗(ひやあせ)頸廻(くびまわり)(おか)し、(あたか)悪寒(おかん)()()いて()るかのようであった。

 (わたし)四辺(あたり)見廻(みまわ)し、すぐさま、裏返(うらがえ)った世界(せかい)(みと)めた。と()うのも、平生(へいぜい)夜半(よなか)には()まって*几帳(きちょう)閉切(たてき)り、*無戸室(うつむろ)形相(なり)をさせて()(わたし)の*(ねや)が、今日(きょう)(かぎ)って、月影(つきかげ)白無垢(しろむく)(ひた)されて()る。その白々(しらじら)しさと()ったら、*什器(じゅうき)()什器(じゅうき)(かげ)(すす)がれ、脂肪(あぶら)(ことごと)くが削落(そぎお)とされ、そうして(ふたた)月光(げっこう)()けることで(はじ)めて(きよ)(ただ)しい容貌(みすがた)甦生(よみがえ)らせたかのような(うつく)しさであった。そのためであろうか、(いろ)基調(きちょう)沮喪(うしな)い、遠近感(えんきんかん)沮喪(うしな)い、世界(せかい)真鍮(しんちゅう)塑像(そぞう)成変(なりか)わって()たのにも(かか)わらず、(いささ)かも不感症(ふかんしょう)めいたものはなく、極々(ごくごく)自然(しぜん)に、(よる)だ、と(おも)われた。また、(おどろ)きを(さそ)ったのは、(うつく)しさそのもの(のみ)()らず、それを立脚(りっきゃく)するに()った、豁然(からり)とした(かげ)りであり、これは太陽(たいよう)には真似(まね)しかねる芸当(げいとう)であろう。

 (わたし)酩酊(めいてい)と、この豁然(からり)とした(かげ)りとは、恰度(ちょうど)陰画(いんが)陽画(ようが)のような*聯関(れんかん)対立(たいりつ)して()た。(わたし)肉体(にくたい)重々(おもおも)しい実在(じつざい)押潰(おしつぶ)されようとする酩酊(めいてい)沈込(しずみこ)もうとして()り、(ひるがえ)って、這般(これら)*白堊(はくあ)花圃(かだん)(つき)膏沢(つや)(あず)かることで、(かえ)って明晰(めいせき)輪郭(りんかく)彫出(えりだ)し、際限(さいげん)なく冴渡(さえわた)って()た。

 この乳白色(にゅうはくしょく)耀(かがや)く*嘱目(しょくもく)風景(ふうけい)に、(わたし)希臘(ギリシア)彫刻(ちょうこく)幻影(げんえい)()た。

*酩酊…ひどく酒に酔うこと。ここでは単に酔うの意味。

*味到…事柄の内容や情味などを十分に味わい知ること

*瑞験…めでたいしるし。

*几帳…室内に立てて隔てとし、また座側に立ててさえぎるための具。ここではカーテンのこと。

*無戸室…四面をふさいだ、出入り口のない室。

*閨…夜、寝るために設けた部屋。寝室。

*什器…日常使用の家具、道具。

*聯関…つながりかかわること。

*白堊…ここでは白壁のこと。

*嘱目…目をつけてよく見ること。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ