一
清潔なものは必ず汚され、白いシャツは必ず鼠色になる。人々は、残酷にも、この世の中では、新鮮、清潔、真白、などというものが永持ちしないことを知っている。だから多いそぎで、熱狂的にこれを愛し、愛するから忽ち手垢で汚してしまう。
三島由紀夫『流行のおわり』より
私はこれから一つ、肉体と精神の紐帯へ差逼った告白をしようと思う。*無聊の裡に努めて没し、強いて*韜晦を避け、*諧謔に富んだ*口吻を弄した積であり、*三昧境に綴った、掌中の珠も同じの*衒いだが、滑稽と嗤いとばすも、教訓と釈されるも勝手である。
本音を明せば、恥入る許の稚拙い、独善がりで甚だ畏深く、読者諸兄が首肯せらるるや否や、明瞭ではない。ただ、悠久の永きに討たれた人生の、*一縷の*残滓と想されたならば倖いである。
*無聊…つれづれなこと。たいくつ。
*韜晦…形跡をくらましかくすこと。
*諧謔…おもしろ気のきいた言葉。
*口吻…くちぶり。言いぶり。
*三昧境…ある事に没頭して雑念を離れた忘我の境地。
*衒い…ひけらかすこと。ここでは文体の意味。
*一縷…絶えようとするさま。わずかにつながっているさま。
*残滓…のこりかす。