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第六話 重なり




 私はこの状況に困惑してどうするか考えていた。




 事の始まりは少し前だ。




 私達は討伐目標だったゴブリンの群れが既に全滅していたので、報告のために町に帰る途中だった。


 討伐目標が全滅いたので依頼は実質上達せられているが、私達からすれば無駄足な結果に終わり、微妙な気持ちだった。


 途中で休憩に入り、私は汚れを落とす為に近くの川に向かう事にした。その時みんなも付いて行こうとしたけど、一人で大丈夫と言って山に入った。

 今思えば無用心だったかもしれないけど、この辺り魔物の数は少ないので、私の技量なら一人でも対処できると判断したのだ。


 少し歩いた所で小さな滝が流れている場所に到着し、私は岸辺で防具を外して汚れを落とし、最後に手を洗った。


 その後はついでに周囲を見て誰も居ないのを確認して服を脱ぎ、水浴びをして身体の汚れも落とした。これも無用心かもしれないけど、いざと言う時に備えて剣は傍に置いているから、対応は出来る。



 しばらくして川から上がって身体に付いた水を拭き取ってから服を着始めたその時、向かい側の茂みが動き、私は声を上げてそちらを向く。


 すぐに傍に置いている剣を鞘から抜き、音のした方を睨む。


 魔物であればその場で倒せばいいし、通行人ならば剣を納めればいい。だが、故意があってこちらを覗いていたのなら、それ相応の対処をさせてもらうだけ。


 ゆっくりと対岸の茂みへと歩みを進め、茂みから何かが出てきて私は身構えたけど、出てきたのは猿で、木の上へと登っていく。


 私はしばらく警戒したけど、何も出てくることは無かったので一応警戒しながら下がり、剣を鞘に収める。


 でも留まるのは危険と考えてすぐに防具を着けて鞘に剣を収めて腰に提げ、その場を立ち去った。、



 森の中を歩いてみんなと合流を急いだけど、突然茂みからゴブリンが出てきて私の前に4体現れる。


 全身傷だらけで中にはいくつか点々とした見た事のない傷痕があるゴブリンで、その内一匹が後ろで弓矢を構えている。


 私はとっさに鞘から剣を抜き出すが、その直後弓矢を構えているゴブリンが矢を放ち、とっさに剣を前にして矢を弾く。

 その際に甲高い音が森林に大きく響き渡る。


 これでみんなの耳に届いたはず。後は何とか耐え凌いでみんなの到着を待てば……


 そう思った矢先、茂みからゴブリンの増援が何匹も現れ、弓矢持ちが更に3体増えて矢を放ってくる。


 私は後ろに飛んで矢をかわし、数歩後ろに下がりつつ周りを見渡す。


 相手が近接武器のみなら何とかなっただろうけど、弓矢持ちが増えたとあっては一人でどうにかできるものではない。


 みんなと距離を取る事になるけど、私は剣を収めて元来た道へと踵を返して走り出し、ゴブリン達も雄叫びを上げて私を追いかける。


 追いつかれないように必死になって走り、さっきまで水浴びをしていた滝つぼに出て水面から突き出ている岩と岩を渡って向かい側の茂みへと突っ込む。



 でもその瞬間私は何かとぶつかり、前へと放り出される。


 そのまま地面に一回叩きつけられ、二回目で倒れて止まった。


 一瞬気を失いそうになるも何とか意識を繋ぎ止め、意識がはっきりとした時に自分の体勢に気付いてとっさに起き上がった。

 

 そして後ろを向いた時、そこに緑と黒、茶色の斑点模様の服装に同じ模様の兜を被っている変わった格好をした男性が鼻を押さえていた。


 私は驚き、同時に恥ずかしさが込み上げてくる。明らかにさっきの体勢を後ろから見られてしまったからだ。


 と言うか、この人なんでこんな所に……





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「……」


「……」


 お互い身動きをせず、ただじっと見つめ合っていた。と言ってもお互いの視線は別々の意味が込められているだろうが。


(ど、どうしよう……)


 俺はどうにかこの状況を打開しようと考えるが、先ほどの出来事が大きすぎて混乱からか思いつけなかった。


(お、落ち着け素数を数えて落ち着けって素数っていくつだっけあぁもう)


 落ち着こうにも逆に落ち着けなくてどんどん悪くなっていく一方だった。



「っ!来て!」


 すると少女は俺の手を掴んで立ち上がって俺を立たせて走り出す。


「ちょ、ちょ!?」


「ゴブリンが来る!急いで!!」


 その直後に向こう側から何体ものゴブリン達が現れて俺達を追い掛けて来る。


「ゴブリン!?」


「ごめん!巻き込む気は無かったの!」


 少女は俺を引っ張って走りながら謝る。


 俺は追い掛けて来るゴブリンを振り返って見て、ゴブリンの身体のあちこちに妙な傷痕がちらほらとあるのに気付く。


(こいつら、まさかあの時の生き残りか)


 傷痕をよく見るとまるで撃たれた痕のような傷で、かすり傷も何かが高速で掠ったような状態だ。


 どうやらこいつらはあの時俺が仕留めそこなった連中のようだ。妙に殺気立っているのも俺に仕返しがしたいが為か。もしくは仲間の敵討ちの為か。

 まぁどっちにしろ俺達に殺意剥き出しで追いかけている状況だってことに変わりは無い。


 剣や槍を持つゴブリンの後ろでは弓矢を構えるゴブリンが矢を放ってきて、俺と少女の周りに矢が突き刺さる。


「こっち!」


 少女は急に方向を変えて俺は引っ張られながらも何とか付いていく。


 だが、いつまで逃げ続けても、このままだとやがて追い付かれるな。


 俺は引っ張られながらもレッグホルスターよりUSPを抜き出そうと手を伸ばす。



「っ!」


「おわっ!?」


 すると突然少女が倒れて俺は前へと放り出されバランスを崩しかける。しかし何とか踏ん張って倒れる事だけは避ける。


 すぐに後ろを振り向くと、そこには前のめりに倒れる少女の姿があった。


「だ、大丈夫か!?」


「う、うぅ……」


 少女は上半身を起こすと、後ろを振り向く。


「あ、脚が」


「っ!」


 視線の先には右太股の外側に赤い一筋の傷が出来て血が流れる。その傍には矢が地面に突き刺さっていた。


「っ!あいつか!」


 顔を見上げると追い掛けて来るゴブリンとは別方向に弓矢を持つゴブリンの姿があった。


 ゴブリンは俺に向けて矢を放ってくるも身体を反らしてかわし、レッグホルスターよりUSPを抜き出してゴブリンに向けて連続してトリガーを引き、放たれた数発の弾の内一発がゴブリンの左胸を撃ち抜き、直後に一発が左目を撃ち抜いて絶命させる。


 すぐに追い掛けて来るゴブリン達にUSPを向けて数回発砲すると、命中こそしなかったがゴブリン達は銃声と弾が傍を通り過ぎる音に驚いて立ち止まる。

 やはりあの時のゴブリン達らしい。


「君!立てるか!」


「……」


 俺は少女に問い掛けるが、なぜか少女は動きを見せない。


「どうしたんだ?」


「……あ、脚が、痺れて、動か、ない」


「っ!」


 よく見ると少女の脚が細かく震えている。


「まさ、か、し、痺れ薬が、塗られて……」


「マジかよ。クソッ!」


 俺は悪態を付きながらもUSPをレッグホルスターに戻して背中から89式小銃を取り出し、セレクターをセミオートに切り替えて構える。


 ゴブリン達は89式小銃を見てか驚いた表情を浮かべて後ろに後ずさりする。


「逃がさん!」


 俺はセミオートで一定の間隔でトリガーを引き、銃声が森の中を響き渡る。


 弾はゴブリン達の身体を撃ち抜いて一体、また一体と次々と射殺していく。


 以前と違ってレベルが上がった事による身体能力の強化や、トレーニングモードでの猛訓練のお陰でブレを抑えてホロサイトで狙った場所にほぼ確実に命中していた。


 次々と仲間が射殺されていく中、ゴブリン達は以前の経験もあってか木々の陰に入り、木を盾にして弾を凌いでいた。


(ちっ!親玉だけじゃなく子分もお頭は悪くないってか!!)


 マガジンキャッチャーを押して空のマガジンを落として素早くポーチから取り出して挿し込み、ボルトストップを解くと銃身下部のM203の銃身を前へとずらして催涙弾を装填して元の位置に戻すと、ゴブリン達が隠れている木々の近くに向けて放つ。


 木々の近くに落下すると催涙ガスを放ち、瞬く間に煙は周囲に広がって向こうでゴブリン達がくしゃみしたり咳き込んだりして思わず木々の陰から出てくる。


 俺はその瞬間を逃さず射撃をして弾を見舞い、ゴブリン達を撃ち殺す。


「……」


 射撃をやめて銃声が森の中で響き渡る中、煙の中で動きがないか凝視する。


 煙がある程度晴れるのを待って俺は周囲を確認しながら前へと進む。



「―――っ!!」


「っ!?」


 すると木の陰から涙目のゴブリンがナイフを手に跳びかかって来て、俺はとっさに動こうとするもその前にゴブリンに押し倒されて倒れた衝撃で89式小銃を手放してしまう。


 ゴブリンは手にしているナイフを俺の胸に目掛けて振り下ろし、そのナイフを手にしている腕を何とか掴んで阻止する。


「っ!」


 ゴブリンは力の限りを使ってナイフを振り下ろそうとしているのだろうが、ナイフはピクリとも動かない。


「このっ!」


 顔に向けられたナイフを横へとずらして頭を前へと突き出して頭突きをぶつけ、ゴブリンが一瞬を鈍らせた隙に左の握り拳で殴って俺の上から退かす。

 すぐに横に転がって距離を取り、ゴブリンが立ち上がろうとしたと同時にレッグホルスターよりUSPを抜き出してマガジンに残った弾を全て叩き込む。


 最後の一発を撃ってスライドが一番後ろまで下がって弾切れになったと同時に胸を蜂の巣にされたゴブリンは後ろに倒れて息絶える。


「……」


 肩で息をしながら俺は気持ちを整えつつ周囲を見渡す。


(危なかった……)


 一瞬でも対応が遅れていれば今頃俺の頭にはナイフが突き刺さっていたかもしれないな。


(……全く近くに居るのが分からなかった。まだレベルが低いって事か)


 スキルの勘が働かなかったとなると、スキルに頼りっぱなしにはできんな。

 今後はスキルに頼らず周囲への警戒を厳にするべきか。


 内心で呟きながら立ち上がり、マガジンを交換してスライドを引いてロックを外し、89式小銃を拾って周囲を警戒する。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 私は目の前の光景にただ呆然と座り込むしか出来なかった。


 ゴブリンの放った矢に塗られた痺れ薬によって脚が痺れて動けなくなった私の前に先ほど出会った男性が立ち、手にしている長い得物から破裂音を発生させ、その直後にゴブリンの身体に風穴が開いて倒れる。

 身の危険を感じてかゴブリン達が木の陰に隠れて攻撃を凌ぐ。


 男性は長い得物の下に取り付けられた物に何かを入れ、ゴブリン達に向けて先ほどより小さい音と共に何かを放ち、それが地面に落ちると煙が放たれる。


 すると煙の向こうでゴブリン達はくしゃみや咳き込み、木々の陰から出てくる。


 その瞬間を男性は見逃さずに長い得物からまた破裂音を発生させて、ゴブリン達を仕留める。


 そしてあっという間にゴブリン達は全滅し、男性はその長い得物を前に向けながら周囲を警戒している。


(似ている……あの夢にあったあの光景に)


 私の脳裏には、最近見たあの夢の光景が思い出されていた。


 私を取り囲んでいた魔物達を次々と仕留めていき、私を救い出したあの光景……


 状況は少し違うが、あの夢でも私を助けた人が似たような形をした得物を持ち、あの破裂音と共に魔物を仕留めていた。


(これは、偶然なの?)


 私にはそれを確かめる術は無い。ただ分かるとすれば、私は助けられたと言う事だけだ。



「っ!」


 すると茂みからゴブリンが跳び出て来て、男性を押し倒し、ナイフを振り下ろすも男性はゴブリンの腕を掴んで止める。


「っ!」


 私は動こうとするも脚が痺れている為に動こうにも動けなかった。


 すると男性はゴブリンに対して頭突きで顔面にぶつけて怯ませると左拳で殴りつけて吹き飛ばし、横に転がって距離を取る。

 ゴブリンが立ち上がった瞬間に右脚の包みから最初に使った黒い小さな得物を取り出し、連続して破裂音がしてゴブリンの胴体に次々と穴が開いて後ろに倒れる。


「……」


 男性は私が呆然としているのも気にせずに立ち上がり、黒い得物から細長い箱状の物が出てくると同じ形の物を腰に提げているポーチの様な入れ物から取り出して黒い得物に差し込み、右脚の包みに戻して落とした長い得物を拾って周囲を見渡している。


「……」


 ふと男性の居た場所に、金色の円筒物体がたくさん転がっているのを見つける。


(もしかして……)


 確か同じ物があの現場にも沢山落ちていた。


 私の中にあった疑問は、確信へと変わった瞬間だった。


(この人は、一体何者なの……?)


 だが同時に新しい疑問が生まれ、謎が深まるばかりだった。



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