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第三十話 新たな日常

第三章の始まりです。





 あれから数日もの時間が経過した。





 人の気配すらなさそうな鬱蒼としている薄暗い森の中。



「……」


 俺は木の陰に隠れて木の陰から顔を出し、その向こう側をこっそりと覗く。


 そこには結構な数のラトスに酷似して一回り大きな『ベリル』と呼ばれる魔物の群れが仕留めた獲物に群がり、獲物の肉を貪り食っていた。


 ベリルはこのエストランテ王国に生息する魔物で、リーデント王国に生息するラトスと違って身体が大きく、抹茶色のみの体色なのが特徴だ。


 この国ではゴブリンに次いで多いことで有名だ。単体の戦闘能力は高くないが、ラトス同様ベリルは群れを成してその戦闘能力の低さを補っている。


 あれから俺達はエストランテ王国の中で3番目に大きなスレイプニルに着くと、そこでフィリア達は冒険者として登録し、俺とパーティーを組んで冒険者として活躍している。


 今回俺達は森に生息し始めたベリルの群れが家畜に被害を齎していると牧場の持ち主の男性から依頼を受けてベリルが棲み出した森へと向かった。



「……」


 俺は向かい側にある木の陰に隠れているフィリアに『ユフィの射撃と共に一斉射撃』とハンドサインで伝えると、フィリアは縦に頷き、機関部上部にホロサイトとブースターを載せて被筒下部にフォアグリップを取り付けた89式小銃を構える。

 すぐに反対側の木の陰に隠れているセフィラとリーンベルにさっきと同じハンドサインで指示を出して、彼女達はそれぞれ5.56mm機関銃MINIMIと7.62mm機関銃M240Bを構えてドットサイトを覗く。


「ユフィ。群れのボスの狙撃を頼む。お前の射撃で一斉に射撃を行う」


『了解した』


 耳に付けている通信機で後方に居るユフィに連絡を入れて89式小銃を構え、ホロサイトにベリルの姿を捉える。



 直後に遠くから銃声がするとその直前にベリルのリーダーの頭に風穴が開いて向こう側から血と肉片が飛び散る。

 リーダーはその場に倒れて身体を痙攣させた後に動きを止める。


 リーダーが倒れたと同時に俺は引金を引くと、銃声と共に89式小銃の銃口からマズルフラッシュが瞬いて弾丸が放たれ、ベリルの頭を貫いて命を刈り取った。それと同時にフィリアも発砲してベリルの頭を撃ち貫く。

 直後異なる二つの銃声と共に弾丸の雨がベリルの群れに降り注ぐ。


 ベリルの群れは突然の襲撃に驚き戸惑うが、その間に銃弾の雨霰が襲い掛かる。


 弾幕の中を生き残ろうと必死になって動き回るベリルも居たが、俺とフィリア、後方のユフィの狙撃によって頭や胸を撃ち抜かれて命を落とす。


「……」


 銃弾の雨から逃れようとしているベリルの一頭に狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸はベリルの首を貫通して地面に倒す。

 フィリアもホロサイトで狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸はベリルの胸を貫く。


 弾幕の中、傷を負いながらも生き残ったベリル数頭は森の奥へと逃げていく。

 


「何体か逃げちゃいましたね」


「まぁあれだけの傷を負って、あの数じゃそう長く生き延びられんだろう」


 5.56mm機関銃MINIMIのボックスマガジンの中身を確認してリーンベルはそう言いながら俺とフィリアに合流する。


「しかし、あれから更に腕に磨きが掛かっているな、ユフィ」 


「まぁ、キョウスケのトレーニングモードでの訓練は欠かせていないからな」


 スコープを乗せたMSG90を担ぐように持っているユフィが後ろから歩いて来て合流する。


 ちなみに彼女達の格好だが、全員騎士団の制服から迷彩Ⅲ型を着用して基本的な装備品を身に着けている。

 まぁ他国の騎士団の制服だと目立ってしょうがないからな。それに将来的に組織を立ち上げるなら、着る物は統一した方がいい。


 と言っても陸自迷彩でも十分目立つけど。


「それじゃぁ、鶏冠を回収して残りも討伐するぞ」


『了解!』


 全員の返事を聞いてから俺達は討伐の証となるベリルの鶏冠を切り取って回収し、残りの獲物を仕留める為に更に森の奥へと足を歩めた。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――





 その後時間の限りまでベリルを討伐し、討伐証明となる鶏冠を回収後俺たちは依頼主に報告してからスレイプニルへの帰途に着いた。



 高機動車改をスレイプニルから少し離れた森で止めてから全員降車し、収納してからスレイプニルへと入って俺達は冒険者組合がある建物に入る。



 そこで依頼達成の報告を行い、成否の確認をしてもらう間に回収した鶏冠を提出して換金してもらい、依頼達成の確認が取れて報酬金を貰った。




「ようやく私達のランクがストーンに上がりましたね」


「そうだな。俺ももう少しでブロンズに上がりそうだ」


 報酬を受け取った後、俺達は空いているテーブルに着き、夕食を取りながら会話を交わしていた。


 今回の依頼でフィリア達の冒険者ランクがウッドからストーンへと上がり、俺もアイアンからブロンズに上がりそうになっていた。


「にしても、まさかギルドを立ち上げるのにあんな厳しい条件があったなんて」


「あぁ。詳しく調べていなかったとは言えど、あそこまで厳しいとは思ってなかった」


 俺は苦笑いを浮かべて肉団子を刺したフォークを口へと運ぶ。



 フィリア達が冒険者になって、その後俺はフィリア達と共にギルドを立ち上げようとしたのだが、思わぬ障害があった。


 ちなみにギルドとは冒険者が集まり、組合で公式に認定された団体の事である。ギルドを設立させれば、傭兵団として冒険者単体では受けられないような高額報酬の依頼を受ける事が出来るようになる。


 しかし、そのギルドの設立には、いくつもの厳しい条件を満たさなければならないからだ。


 最低でもシルバーランクの冒険者が二人以上で、尚且つブロンズランクが三人以上、そしてメンバーは最低でも七人以上と、結構厳しい条件が課せられる。


 何でも過去に多くのギルドが設立されたのだが、その多くがすぐに解散になると言った件数が多かった。その大半はノリと勢いでギルドを設立したはいいが、すぐにギルド内で不仲が起こり、そのまま解散になったと言う理由が占める。


 その為、組合はギルドの設立には条件を満たさなければならないと言う制度を決めたそうだ。



 まぁつまり、現時点で俺達はギルドの立ち上げの条件を一つも満たしていないのだ。


「これ、ギルドの立ち上げまでにどのくらい時間が掛かるんでしょうか?」


「さぁな。ランクを上げるのは簡単だが、人はなぁ」


 俺はため息を付く。


 依頼をこなしていけばランク自体は自ずと上がっていくが、人だけはそうすぐには集まらない。


 かといって他の冒険者を誘うなどは論外だ。見知らぬやつをすぐに仲間にするなど、馬鹿がする以上に愚かな行為だ。


「……」


「うーん」


「これは結構厳しいですね」


 誰もが静かに唸る。


「まぁ、地道に重ねていくしかないだろう。仲間集めはとりあえず置いておいて、今はランクを上げないと話にならん」


「そうね」


「そうだな」


「はい」


「えぇ」


 とりあえず今後の動きを纏めて食事を続けた。




 ------------------------------------------------------




 その後止まっている宿に戻ると、寝る前にトレーニングモードを起動した。



「うわぁ」


「これは」


「……」


「凄いわね」


 目の前で俺が出した物体にフィリア達は驚きのあまり声を漏らす。


「これって前出した16式っぽいわね」


「まぁな。でも火力や機動力は向こうの方が高い。こいつは兵員輸送を目的とした装軌装甲車だ」


 俺は目の前にある『89式装甲戦闘車』の説明を彼女達にする。


 この89式装甲戦闘車はオリジナルに改良を加えた物で、銃口を出す為のガンポートは取っ払って装甲で塞ぎ、砲塔上部には新たに12.7mm重機関銃M2を追加し、74式車載7.62mm機関銃を7.62mm機関銃M240Bに変更している。


「これを次の依頼で使うんですか?」


「あぁ。高機動車改より速度は落ちるが、火力と防御はあるからな。それに次の依頼のある森林は道が悪いって話を聞いているし、何より次の依頼の討伐目標の魔物も大きいからな」


 冒険者は依頼を先に受けて出発は次の日にすると言ったやり方をしてもいいのだ。


「それにしても、団長はホント凄いですよね。これどこで手に入れたんですか?」


「それは……」


 リーンベルの質問に俺はすぐに答えることは出来なかった。


 一応彼女達には使っている武器や兵器は色んなツテを使って手に入れたと伝えている。まだ事実は伝えていない。


「秘密だ。色々とあってな」


「そういえば、様々な方法を使って手に入れたと言っていたな」


「そうだ。とりあえず、この中ならいくらでも時間はある。みんなにはコイツの扱い方に慣れてもらう」


『了解!』


 俺は会話を切ると訓練を始めた。


(やはり、明かす必要があるか)


 俺は89式装甲戦闘車に乗り込みながらそろそろ嘘の限界を感じた。


(まぁ、いずれ明かさないといけないんだ。なら、早めにした方がいいか)


 そう考えながら彼女達に89式装甲戦闘車の各所の操作法を教えて、訓練に入った。




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