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番外編03 後悔と覚悟




 俺とエレナは山の中にある道を降りていき、村へと急いだ。


「っ! エレナ! 先走るな!!」


「で、でも!」


「何が起きているか分からないんだ! 一人でどうしようってんだ!!」


「っ!」


 エレナは物凄い勢いで走っているので、追い掛けるのがかなりきつい。


(出来れば、予想が外れて欲しいが!)


 可能なら俺が予想した事が現実になって欲しく無かったが、あの黒煙の上がり方を見る限りじゃ予想が外れる事は……。




 そして村が見渡せる場所に着き、村の様子が分かるようになった。


「……ッ!」


「う、嘘……」


 俺は絶句し、エレナは呆然と立ち尽くす。



 俺達の目の前には、各所から黒煙を上げて村が燃えている光景だった。



 出来れば外れて欲しかったが、現実は非情であったという事か。


「っ! お父さん、お母さん!」


 エレナは慌てて走り出して村に向かった。


「待て! エレナ!」


 俺は呼び止めるが、彼女は物凄い勢いで村へと向かって走っていった。


「あぁもう、くそっ!」


 悪態を付きながらもエレナの後を追いかける。


 この黒煙の上がり方を見ると明らかに自然に起きた火事の類じゃない。どう見たって放火だ。その上であの規模だ。つまり村には多くの放火した犯人が居るってことだ!

 そんな中に突っ込めばどうなるか、明らかな事だ。




 俺が村の中に入ると、そこは地獄絵図と化していた。


(こいつは)


 俺はその光景に吐き気が込み上げてくるが、何とか耐える。


 地面には多くの死体が転がっており、その死体はどれも村の人達であった。


(くそっ! やっぱり何者かに襲われていたのか!)


 ここまで予想が当たっているとは。


 俺は周囲を警戒しつつ更に奥へと進む。


「っ!」


 家の角を曲がった直後、向かい側の家二軒の間にある道から女性が出てくるが、その直後前のめりに倒れる。すると太股には矢が突き刺さっていた。


「ヘッヘッヘッ。逃がすかよ」


 家の角の陰から出てきたのはボロボロの防具を身に纏う男が憎たらしいほどの笑顔を浮かべながら出てきた。


 女性は恐怖に染まった表情を浮かべ何とか逃れようと地面を這い蹲って進むが、男は女性に近付くと手にしている剣を逆手持ちにして振り上げる。

 そして女性の背中に剣を勢いよく振り下ろし、剣先が女性の身体を貫いて地面に突き刺さる。


 声を上げられないほどに苦しむ女性に男は剣を突き刺したまま女性を何度も踏みつける。


「っ!」


 俺はその光景を目にして、脳裏にある光景が過ぎる。


 その瞬間、俺の中で何かが切れる。



「この……」


 俺はMK-107を構え、ホロサイトに男の頭を捉える。


「クソ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!」


 腹のそこから声を出すように叫び、引金を引いた。


 銃声と共に放たれた弾丸は一直線に男の額へと吸い寄せられるように向かっていき、額に命中するとそのまま貫いて後頭部から飛び出る。

 頭を撃ち抜かれた男は表情を固めたまま後ろに倒れる。


「っ! 大丈夫ですか!!」


 俺はすぐに女性に駆け寄って声を掛ける。


「っ!」


 しかし女性は既に事切れて、俺に返事を返さなかった。


「くっ!」




『―――ッ!!』


 すると周囲から声がする。


(くそっ! 気付かれたか!)


 俺はMK-107を構え周囲を警戒すると、前方の建物の角の陰から次々とさっきの男と似たような格好をした男達が現れる。


「なんだてめぇ―――」


 男が言い終える前に俺は狙いをつけて引金を引き、銃声と共に弾丸が放たれて防具を貫通して左胸を貫いた。


 銃声に男達が驚いている間に俺は素早く狙いをつけては引金を引き、頭か左胸を撃ち抜いていく。


 しっかし、ホント反動がないなこれ。


 俺は狙いを付けて引金を引く度に反動の無さに驚く。まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。


(と言うか、俺なんでこんなに冷静で居られるんだ?)


 空になったマガジンを外して新しいマガジンと交換しながら俺は違和感を覚える。


 初めて人を殺した。だが、思ったよりも何も感じないのだ。


 何だ、この違和感は……。



「って! そうだ! エレナ!!」


 俺は踵を返して走り出す。彼女が向かったのは恐らくゲオルクさん達がいる家だ。


(頼む! 無事で居てくれよ!!)


 エレナと彼女の両親の身の安全を思いながら家に向かった。





 エレナは身を切らす思いで村を駆け向けていた。


(お父さん! お母さん!!)


 彼女は両親の身を案じながら走ると、家の角の陰から男たちが出てくる。


「え、エルフだぁ!?」


 男達はエレナの姿を見ると驚き声を上げるも、すぐにエレナの進路上に出て武器を構える。


「っ! 邪魔だぁっ!!」


 エレナはCz75 SP-01を手にして両脇のホルスターから抜き放って男性達に向けて連続して引金を引き、引金を引く度に銃声と共に弾丸が放たれる。

 放たれた弾丸は狂いなく男達の身体を貫いて激痛のあまり男達は声を上げながら後ろに倒れる。


 エレナは走りながらも勢いよく地面を蹴って跳び出すと、Cz75 SP-01を振るって男達の首を銃剣で切り裂き、切り裂いた箇所から血が大量に出て男達はその場に倒れる。


(っ! 私、何で!?)


 エレナはさっき自身がやったことに驚きを隠せなかった。


 なぜなら、彼女自身が意識してやっていないからだ。


 銃の扱いに慣れているといっても、戦闘自体には疎い彼女だ。当然さっきのような動きなど出来る訳が無い。

 だが、彼女はなぜか身体が勝手に動いているような錯覚を覚えていた。


(っ! 今はそんな事より!)


 彼女は頭を振るって気を取り直して走り出す。


「っ! っ! っ!」


 息を切らしながらもエレナは走り、ようやく家に辿り着き、扉を勢いよく開ける。


「お父さん! お母さん!! っ!?」


 エレナは扉を開けた直後、視界に入った光景に絶句する。



 彼女の視界に入った光景――――





 それは全身血まみれになって床に倒れた父と母の姿だった。


「お、お父さん? お母、さん?」


 エレナは目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くして声を漏らす。


「っ!お父s―――」


 だがその瞬間、後頭部に衝撃が走り、彼女は意識を失って前のめりに倒れる。



 その後ろには棍棒を持った男が立っていた。


「へへへ。こいつは儲けもんだな」


 気持ち悪いぐらいの笑みを浮かべた男はいやらしい目つきで舐めるようにエレナを見ると、気を失っている彼女の肩を掴んでうつ伏せに倒れている身体を仰向けに起こす。


「この村ババァばかりだから不満だったが、こんな上玉が、しかもエルフが隠れていたとはな。俺はついているぜ。おぉデケェ」


 彼女の身体を仰向けにしても形の崩れないそのご立派な双丘を見てその気持ち悪い笑みに涎を垂らす等をして更に気持ち悪くし、彼女の着ているタンクトップの裾を掴んで捲り上げようとした。



 だがその直後、頭に衝撃が走ったと同時に男の意識は永遠に失われた。




「クソ野郎が」


 俺はホロサイトの後ろにあるブースターを覗いて倒れてエレナの上から退くクソ野郎の姿を見て思わず声を漏らすと、すぐに走り出して家に近付く。


 村を襲っている男達を次々と屠っていく中、エレナと両親が暮らす家の近くまで来ると、男が家の扉の所で何かをしていた。その扉の入り口には見覚えのあるブーツに脚があり、俺は瞬時に何が行われようとしているのかを理解し、とっさにクソ野郎の頭に狙いを定めて引金を引き、クソ野郎の頭を撃ち抜いた。


「おい、エレナ! 大丈夫かぁぁぁぁぁぁっ!?」


 エレナの姿が見えて声を掛けるが、その現状に俺は声を上げてしまった。いやこの状態じゃ誰だって声を上げてしまう。


 なぜなら……彼女の着ているタンクトップが捲り上げられて彼女の下着と彼女のご立派な代物が露になっていたからだ。幸い下着はズレていなかったが、それでもいつも以上に迫力のある光景だった。

 その上下着のサイズが少し合ってないのか、少し締め付けられているような気がした。その分肉付き感があってエロい。


(って、バカな事を考えている場合か!)


 俺はハッとして頭を振るい、俺は紳士らしく彼女の捲り上げられたタンクトップを戻した。


「っ!」


 そして家の中の惨状を見て絶句する。


「ゲオルクさん! リーシャさん!」


 俺は二人に駆け寄って声を掛ける。


「リーシャさん……」


 床にうつ伏せに倒れているリーシャさんに声を掛けて脈を確認するが、ピクリとも動いていなかった上に、身体には殆ど熱を持っていなかった。


「ぅ……」


「っ! ゲオルクさん!!


 すると壁にもたれかかっていたゲオルクさんが意識を戻し、俺はすぐにゲオルクさんの元に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「お、オキタさん。ご無事、でしたか。え、エレナは?」


「大丈夫です。俺の傍に居ます」


「そ、そうですか」


 エレナが安全である事を聞いてゲオルクさんはホッと安堵の息を吐く。


「一体何があったんですか?」


「……山賊です」


「山賊」


 やっぱり賊の類だったか。


「それも、私と因縁のある、相手のようです」


「因縁のある?」


「尤も、相手はその因縁のある、息子のようでしたが」


「なんだって?」


 俺は首を傾げる。


「若い頃、多額の賞金の掛かった山賊の頭目の首を討ち取った事がありましてな。どうやら、その男に息子が居たそうで」


「その息子が、敵討ちに為に?」


「そう、でしょうな。」


「……」


 父の敵討ちのために。


(だからって、村人を虐殺する必要がどこにあるってんだよ!!)


 しかし目的以外の行動に俺は憤りを感じられずに居られなかった。いや、目撃者を消すと言うのは証拠隠滅としては常道手段だが、こうも目立ったら証拠隠滅もクソもねぇよ。


「やつは私の前に現れると『俺はお前が殺したラザルの息子、リードだ』と、言っていました」


「リード」


 そいつがこの虐殺を指示した首謀者か。


 俺はその名前をしっかりと頭に叩き込む。


「ぐ、ぐふ……」


 するとゲオルクさんは咳き込み、血を吐き出す。


「ゲオルクさん!」


「ど、どうやら、もう、長くは……」


「そんな」


 俺は思わずギリッと歯軋りを立てる。あまりにも、無力な自分に、憤りを感じられずに居られなかった。


 銃という強力な力があるというのに、何も、何も、出来なかった。


(俺は、俺は……)



「お、オキタさん」


「は、はい」


「最後に一つ、頼みを、聞いてくれますか?」


「頼み、ですか」


「はい」


「……はい。お聞きします」


 俺は縦に頷く。


「娘を、エレナを、頼みます」


「……」


 俺は何も言わず、ゆっくりと頷いた。


 ゲオルクさんはそれを確認すると、安心したようにゆっくりと息を吐き、頭がゆっくりとうな垂れる。


「……」


 何も声にせずに、ゲオルクさんの開いた目の目蓋に手を当てて下に下ろして目を閉じる。


 俺はすぐにエレナが落としたCz75 SP-01を拾い、まだ気を失っている彼女を米俵の様に左肩に担いで家を出る。


(忘れねぇぞ、絶対に)


 俺は燃える村を睨み付ける様に一瞥してから、走り出す。




 ――――――――――――――――――――――――――――――




 幸い外に山賊は居なかったので、俺は何の障害を受けることも無く村を出る事が出来た。


 その後体力が続く限り走り続けて、その道中に空き家を見つけて中に入って隠れた。


「……」


 エレナをベッドに横に寝せてからテーブルにCz75 SP01を置き、MK-107を壁に立て掛けて椅子に座る。


「……くそっ」


 俺は思わず悪態を付き、テーブルに拳を叩き付ける。


(何で、こんな、こんな事に!)


 ギリッと歯軋りを立て、右手を拳にして握り締める。


(あの時、あの時まだ村に残っていれば、こんな事にはならなかったはずなのに!)


 過去のことを悔やんだってどうしようもないのは分かっている。分かっているが、悔やまずに居られるかよ!!




「う、うーん……」


 すると声漏らしてエレナが目を覚ます。


「っ! エレナ!」


 俺は椅子から立ち上がってエレナの元に駆け寄る。


「……お兄ちゃん?」


「大丈夫か?」


「……頭が、痛い」


 エレナは上半身を起こしながら後頭部に手を当てて表情を顰める。


「そうか」


 俺はすぐにエレナの後頭部を見ると、少しだけ血が出ていて彼女の銀髪の一部を赤く染めている。

 だが、それ以外に外傷もないので、一安心だった。


「っ! そうだ、お兄ちゃん!」


 エレナは何かを思い出して俺の両肩を掴む。


「お父さんとお母さんは!? どこなの!?」


「……」


「お兄ちゃん!! どこに、どこに居るの!?」


 必死な形相で問い掛ける彼女に、言って良いのか迷ってしまう。


(言ってしまって、それで彼女が持つのか?)


 ゲオルクさん達の死を伝えたら、彼女の精神が飛んでしまう恐れがあった。だから事実を言うのに躊躇ってしまう。


 だが、どの道彼女は両親の死を知る事になる。先に延ばせば延ばすほど、ダメージが大きくなる事だってある。


(……言うしかない、か)


 俺は覚悟を決めて、彼女に事実を伝えた。




「……ゑ?」


 エレナは壊れたように声を漏らした。


「うそ、だよね? ねぇ、お兄ちゃん?」


 視線が激しく泳いでいる中、エレナは俺に震えた声で問い掛けた。


「……」


 俺はとても罪悪感に苛まれながらも、首を左右に振るう。


「……」


 するとエレナの目がまるで死んだ魚の目の様に光を失っていくと、涙が浮かぶ。


「そ、んな。お父さん、お母さん……」


 エレナは震える声を漏らしながら顔に両手を当てて、俯く。


「エレナ……」


 あまりに悲惨な彼女の姿に、俺は奥歯を噛み締める。


 どんな言葉を掛けてやればいいのか分からず、どうしようもなかった。




「―――」


「……?」


 するとエレナは小さく呟く。


「……許さ、ない」


「エレナ?」


「お父さんとお母さんを殺したやつを、許さない」


 するとエレナは顔を上げる。


 その目はさっきの死んだ魚の目の様な目ではなく、一切の濁りの無い、決意に満ちたものだった。


「エレナ。お前……」


「もっと、もっと、強くなりたい。そして、お父さんと、お母さんの仇を取りたい」


「……」


「だから、お願い、お兄ちゃん。私、もっと強くなりたい!」


「……」


 彼女の揺ぎ無い決意に俺は息を呑む。


「……いいんだな」


「うん」


 エレナは迷い無くすぐに縦に頷く。


(ここまで覚悟を決めているのなら、俺も覚悟を決めないとな)


 俺は彼女の覚悟に、自身も覚悟を決めた。



『復讐なんて意味の無い最も愚かな行為』



 フィクションじゃよく言われる文句だが、俺はそう思わない。むしろ必要な事だと思う。見方によってはただの自己満足なんだろうが、実際その通りだ。


 だが、一生を腐って生きていくより、気持ちを整理して、踏ん切りが付けれるのなら、必要な事だと俺は考えている。


「分かった。一緒に強くなろう」


「うん!」


 


 ここに一人の青年と一人のエルフの少女が、一つの固い決意を決めたのだった。

 






 ――――ッ!!




 レベルが9に上がりました。以下の項目がアンロックされました。



 ・トレーニングモードが開放されました。


 ・スキル『教導』が追加されました。


 ・特殊ミッション『復讐者』が発動しました。







沖田編は一旦間を置いて更新しようと思っていますので、お待ちください。

あと番外編はもう一話だけありますので、よろしくお願いします。

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