第二十八話 慢心と油断
それから騎士と何度も鉢合わせをする度に銃を発砲して仕留めてから進むを繰り返し、合流予定の場所に着く。
俺が窓から手を出して振るうと裂け目前で動き回っていた16式機動戦闘車がこちらにやってきてちょうど窓の下に停車すると、砲塔を右に旋回させてセフィラが12.7mm重機関銃M2を、リーンベルが同軸機銃の7.62mm機関銃M240Bを放って接近を試みる騎士とクロスボウを放つ騎士を牽制する。
「ユフィ。先に行け。援護する!」
「分かった」
俺が左右を警戒しながら別の窓から89式小銃を出してクロスボウを持つ騎士に向けて発砲して牽制し、ユフィに先に行くように言うと彼女は頷いてMSG90を背負い、窓から飛び降りて16式機動戦闘車の砲塔に着地してハッチを開けて中に入って一旦ハッチを閉める。セフィラはそれを確認した後射撃を止めて車内に戻る。
それを確認してから89式小銃の被筒下部に取り付けているM203を塀の上でクロスボウを構える騎士に向けて引金を引き、装填していた榴弾を放って騎士が立っている塀の壁に着弾して爆発を起こして騎士が後ろに倒れて尻餅を付く。
M203の銃身のロックを外して前にずらし、空薬莢を排出してから銃身を元の位置に戻し、俺は窓から飛び降りて砲塔上に着地すると、すぐに89式小銃を構えて16式機動戦闘車に近付く騎士に向けて発砲して牽制する。
数発撃った後にM203の銃身ロックを外して前にずらし、催涙弾をポーチより出して銃身に装填して元の位置に戻すと、騎士達に向けて引金を引いてボンッと言う音と共に催涙弾が放たれて地面に落下し、直後に催涙ガスを噴出させてガスを吸った騎士達はむせ返る。すぐに銃身のロックを外して前へとずらし、空薬莢を排出して催涙弾を装填して銃身を元の位置に戻し、催涙ガスが舞う場所に向けて引金を引いて更に一発放つ。
「フィリア! 出せ! あそこから出来るだけ離れるんだ!」
俺の合図で16式機動戦闘車は前進して俺は後ろに身体を持っていかれそうになるも何とか耐えて車長用のキューポラハッチを開けてセレクターをアにした89式小銃を中に入れてから中に入る。
16式機動戦闘車は鎖の巻き上げ機がある建物から可能な限り離れていき、要塞の塀まで下がった。距離的にまだ近いかもしれないが、仕方がない。
「まだ近いと思うが、やるしかない。総員耳を塞いで口を開けて対ショック姿勢!!」
、俺は全員に向かってそう叫び、耳を両手で塞ぎ、口を開けて耳を塞ぎながら起爆装置を二回押すと、橋に繋がれている鎖が出ている建物の一室から大爆発が起きて、その爆発と衝撃波は建物そのものを破壊し、多くの破片が宙を舞う。
その際に起きた衝撃波が辺りにある物全てを蹴散らしていき、その衝撃波で騎士達の大半が吹き飛ばされ、破片の直撃を受けて命を落とした者は運が良いが、運が悪い者はそのまま裂け目へと落ちていく。爆心地に近かった者は大きな破片の直撃を受けて原形を留めない肉塊と化した。
そして可能な限り離れていた16式機動戦闘車も例外ではなく、その衝撃波が襲い掛かる。
「っ!!」
その衝撃波は26tある16式機動戦闘車をひっくり返らんばかりに大きく揺らし、俺は車長用のキューポラに両手を付いて踏ん張る。
「……」
キーンとする耳鳴りに襲われながらも俺はキューポラハッチを開けて外に上半身を出す。
爆心地となった建物は完全に崩壊してクレーターを作っており、周囲の景色が大きく変化していた。
「橋は……」
俺は橋があった方向を見ると、橋は爆発時の衝撃波で倒れて裂け目の向こう側に掛かっており、橋は何とか無事だった。
「今だ! 行け!」
俺の声に遅れて16式機動戦闘車が前進する。
16式機動戦闘車が橋の方へと向かう中、俺は12.7mm重機関銃M2を裂け目の向こう側で奇跡的に生き残っていた騎士に向けて放つ。大口径の弾を身体のどこかに直撃した騎士は次々と血飛沫を上げて倒れる。
16式機動戦闘車は橋の上を通っていくが、その際に橋から大きく軋む音がして一瞬車体が沈んで傾いたが、何とか向こう岸に渡り終える。
(一瞬橋が沈んだ時はゾッとしたが、何とかなったな)
爆風と衝撃波で橋が脆くなってないか不安だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
俺は安堵の息を吐きながらも12.7mm重機関銃M2のトリガーを押し続ける。
「リーンベル。砲撃用意!!」
『了解!』
「セフィラ! 榴弾装填!」
『了解!!』
リーンベルとセフィラに指示を送りながらメニュー画面を操作してそれを召喚する。
それは筒状の物体の先端に弾頭を付けた様な形状をした110mm個人携帯対戦車弾こと『パンツァーファウスト3』である。
俺は110mm個人携帯対戦車弾を担いで迫る門に向ける。本当なら弾頭先端にあるプローブと呼ばれる信管を伸ばすのだが、貫徹させる目的ではないので問題は無い。
「……」
照準機を覗いて狙いを定め、セーフティーを外して引金を引くと、後方から勢いよくガスが噴出して一瞬の内に放たれた弾頭は門に衝突して爆発する。
「撃て!!」
俺は撃ち終えた筒を消して車内に潜りハッチを閉めてからリーンベルに合図を送ると、彼女は引金を引いて轟音と共に砲弾が主砲より放たれ、門に直撃して爆発を起こす。
フィリアはそのまま破壊された門へと向かって行き、奇跡的に生き残っていた騎士達が逃げ戸惑う中破壊された門を突き抜けて要塞の外に出る。その際上から何か妙な音が上からする。
「よし! 敵の体制が整う前にこのまま要塞を離れるぞ!」
『えぇ!』
フィリアからの返事が返って来ると16式機動戦闘車は速度を上げて斜面を下って走る。
(よし。このまま行けば)
後はこのままエストランテ領に入ってしまえば、やつらは手出しできない。もはやこちらのもんだ。
俺はそう考えながら88式鉄帽の顎紐を解いて頭から取ると、ハッチを開けて上半身を出す。
だが、今回ばかりは、気を緩めすぎたかもしれない。
「っ!?」
突然頭に衝撃と激痛が走り、天板の上に倒れる。
一瞬意識が飛びそうになるも何とか繋ぎ止めるが、その直後砲塔天板に身体と頭を押さえつけられる。
「ぐっ!?」
「死ねぇ!! 死ねぇ!!」
押さえつけられ、頭から血が出ているのを感じながらも俺は何とか首を回すと、そこには全身血だらけで怒りの形相を浮かべているアレンの姿があった。
何で血だらけなのかは分からないが、明確な殺意は感じる。
アレンは片手で俺の頭を押さえつけ、開いた方の手を拳にして頭を殴りつける。
「ぐっ!」
「お前は、お前だけは!! 殺してやる!!」
アレンは俺を押さえながら腰に提げている鞘からナイフを取り出す。
「っ!」
俺は何とか振り解こうとするが、何回も頭を殴られた影響か身体をうまく動かせず、ただ天板を叩く事しか出来なかった。
「死ねぇっ!!」
アレンがナイフを振り上げ、俺は思わず目を瞑る。
しかしその直後突然16式機動戦闘車が急停車し、アレンはその反動で体勢を崩す。
「っ!!」
俺はその隙を逃さず、右手を後ろにやってアレンの胸倉を掴み、力の限りを使ってアレンを前へと放り出した。
「ぐっ!? がっ!?」
アレンは身体をあちこちにぶつけて16式機動戦闘車から転げ落ち、地面に強く身体を叩き付け、傾斜している地面を転がる。
「う、うぐ……」
アレンは苦しげに声を漏らし、身体を起こすと、ハッとする。
「……」
彼の視線の先には、操縦席のハッチを開けて外に出たフィリアの姿があった。
「フィリア! あぁ無事だったんだね!」
彼女の姿を見てアレンは笑みを浮かべて身体の痛みなど忘れて立ち上がる。
「さぁ、そんな所から降りて、僕と一緒に戻ろう!」
「……」
アレンは声を掛けるが、フィリアは黙ったままだ。
だが、彼はこの時気付きもしなかった。いや、彼女の事を今まで何も分からなかったアレンが気付くはずも無い。
この時の彼女は無表情だったが、それは同時に静かな怒りを醸し出していた。なぜなら、アレンが地面を転げている間に砲塔にぐったりと頭から血を流して倒れている恭祐の姿を見て、怒りが込み上げていたからだ。
「……」
フィリアはレッグホルスターに収まっているUSPを手にして安全装置を外し、レッグホルスターより取り出して近付こうとするアレンに向け、躊躇無く引金を引く。
乾いた銃声が山の中に木霊し、アレンの左肩に穴を開ける。
「……え?」
一瞬何が起きたか分からなかったアレンだったが、左肩に開いた穴から血が出て服に染み渡っていくのを見た瞬間、激痛が走る。
「がぁぁぁぁぁぁ!?」
アレンは激痛のあまり大きな声を上げるが、その直後フィリアは更に発砲して左脚を弾が撃ち抜き、アレンはそのまま後ろに倒れる。
「ぐぅぅぅ! な、なんで、なんでだ、フィリア!」
左肩を押さえながらアレンは未だに信じられ無いと言う表情でフィリアを見ながら問い掛ける。
「なんで? そんなの、決まっているでしょ」
激痛に苦しみながらアレンはフィリアに問い掛けるが、彼女から帰って来た答えは冷たく、素っ気無いものだった。
「あなたが私にとって許し難いことをした。ただ、それだけよ」
「ふぃ、フィリア……?」
「心配しないで。少なくとも、急所は外しているわ。でも、手当てをしないと時期に死が訪れるでしょうけど」
「……そんな」
「さようなら。あなたとは、もう二度会う事はないわ」
フィリアはそう言うと操縦席に戻り、16式機動戦闘車をアレンを避けて走らせる。
「ま、待て、待ってくれ、フィリア!!」
アレンは手を伸ばすが、その間に16式機動戦闘車はスピードを上げてあっという間にその姿が見えなくなる。
「……」
16式機動戦闘車が見えなくなってアレンは伸ばした手を地面に落とす。
「な、なんでだ。なんで、君は……」
未だに自分がしでかした事を理解していないアレンはただ失意の内に落ちる。
「……許さん」
アレンは土を握り締めると、16式機動戦闘車が走って行った方向を睨む。
「許さん。許さんぞ!! 僕からフィリアを奪った挙句彼女を洗脳するとは!!」
もはや何を言っているのか分からない事をアレンは叫んだ。
「殺してやる!! 地の果てまで追いかけてでも、お前を捕まえて殺してやるぞ!! その上で全身をズタズタに引き裂いてバラバラにして魔物共の餌にしてやる!!」
怒りと憎しみの篭った目で地平線の彼方を睨みつけて、大きく叫んだ。
クァッ!!
「っ!?」
だが、横から聞いたことのある泣き声がしてその瞬間怒りと憎しみは消え去り、逆に不安と恐怖が彼を支配する。
声のした方向に視線を向けると、そこには上り坂を登ってラトスが現れた。しかも、次々と現れる。
「ら、ラトスだと!?」
現れるとは思っていなかった魔物が現れてアレンは目を見開く。
彼が知る良しも無いが、先ほどの戦闘時に起きた爆発や銃声に、要塞から漂ってきた血の臭いにその上アレンから流れ出る血の臭いに山脈に生息するラトスの群れが引き寄せられている。
アレンは立って逃げようとするも左脚を撃たれたことで激痛が走って立てずにいて、後ろに後ずさりして距離を置こうとするもラトスはゆっくりとアレンに近付く。
すると後ろから一際大きく鶏冠が立派なラトスが現れた。群れのリーダーである。
「やめろ! やめろ!!」
アレンは後ずさりしながら命乞いをするが、ラトスはお構いなしに近付き、そして群れのリーダーのラトスがアレンに跳びかかり、歯がびっしりと並ぶ嘴の様な口でアレンの肩に噛み付く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
肉を抉ろうとする生々しい音とがして、リーダーに続いて次々と群れのラトスがアレンに群がってアレンの身体に噛み付いて肉を食い千切り、悲痛な叫びが山脈に小さく響いた。




