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第二十四話 守るべき者




 真夜中となって辺りはすっかり真っ暗になり、高機動車改の車内では見張りで外を見回っている恭祐以外のメンバーが助手席や後部座席、床にそれぞれ毛布を被って座席や床に横になって眠っていた。


 そんな中、助手席に座って眠っていたフィリアはガクッと身体が横へと傾いて、軽く窓に頭を打ってそれで目を覚ます。


「……」


 彼女はゆっくりと身体を起こして小さく欠伸をすると、座席から後部座席の方へ身体を向けてスヤスヤと眠っているユフィ達を見て微笑む。


(こうしてまたみんなと一緒に居られる。こんな事、前までは考えられなかったのに)


 フィリアは改めてそれを実感する。少し前まではこうして居られる事は二度と無いと思っていたからだ。


(これも、キョウスケのお陰なのね)


 本当に彼と出会ってから、驚きの連続だ。出会ってすぐに彼に命を救われ、縛られた使命から自由にしてくれた。最も後者はまだ実行中だが。



「……」


 私は視線を下に下ろして、苦笑いを浮かべる。


 床で眠っているリーンベルは手足を放り出すように寝ているので掛けていたはずの毛布が隅に寄っていた。


(そういえばユフィとセフィラがリーンベルになぜか床に寝て良いと強く推していたけど、こういう事ね)


 彼女の寝相の悪さを知っているからあえて狭い座席の方で寝ていたのね。と言うかここまで酷いなんて……。そのせいでスカートが捲れ上がって中身が見えちゃってる……。

 私は額に手を当てて俯く。


 呆れながらも助手席を離れて車内の後ろへと向かい、起こさないようにリーンベルの服装を整えてから隅に寄っていた毛布を掛け直し、助手席に戻って毛布を掛け直して少し傾けた背もたれにもたれかかって目を閉じる――――――





 ――――――眠れない……。



 どうも目が冴えてしまったらしく、私は眠る事が出来なかった。


「……」


 背もたれにもたれかかったまま私は窓の方に顔を向けて夜空を眺める。


「……?」


 すると地面に一部埋まっている岩の上に座って夜空を眺めている恭祐の姿を見つける。


(キョウスケ?)


 何となく、違和感のある様子にフィリアは首を傾げる。 



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……」


 周囲警戒の番が来て俺はしばらく高機動車改の周囲を警戒し、近くに手ごろな岩があったのでそこに腰掛け、89式小銃のセレクターを(安全)にして傍に置き、星が美しく輝いている夜空を眺めていた。


「綺麗だな」


 88式鉄帽の顎紐を解いて頭から脱いで膝の上に置きながらその絶景に俺は思わず声が漏れる。


 前世の地球じゃ排気ガス等の汚染物質による大気汚染のせいで標高の高い山に登らない限りこれほど綺麗に星は輝いて見える事は無い。

 だが、この世界では大気汚染物質を発生させる物は殆ど無いから、ここまで濁り無く見えるんだろうな。


(それも人間の技術力の進化の為の致し方の無い犠牲と言うやつかねぇ)


 まぁ、何かを得る為には何かを犠牲にしなければならない、人間の歴史はそれで成り立っているのだ。


「致し方の無い犠牲、か」


 意識せずに口から声が漏れると、ふと脳裏にあの時の光景が過ぎり、ブルッと震える。


(俺は……俺は……)


 殺すつもりは無かった。無かったのに……俺は、俺は……。


(いや、分かっていたはずだ。こうする以上絶対何も無く事を進められるはずが無いって!)


 無意識の内に俺の両手には力が込められて88式鉄帽を両側から押さえて軋みを上げる。


(……なのに)


 だが、俺はある違和感に両手に込められた力が抜けていく。


(なのに、何も、感じない)


 確かに俺は今日、人を殺した。


 なのに、俺の中で人を殺したと言う実感が湧かなかった。ただ、当たり前の事をしたかのように、頭の中で片付けられてしまう。



 恐らくそれは今まで人型の生きた魔物を多く駆除してきたのが要因とも言える。


 前世地球での世界の軍隊では、射撃訓練時に用いる的は人型をした物を使う事が多い。これは戦場に置いて敵兵を撃つ際に躊躇いを少なくする為だと言われている。

 実際戦場で円型の的と人型の的を用いて訓練した兵士の射撃率は人型の的を用いて訓練した兵士の方が多かったと言われている。もちろん個人差はあるので、どこも同じかと言うとそうではない。


 彼もまた、人型の魔物、それも生きた標的を相手にしてきたので、自然と耐性が付いてしまったのだろう。だが当然それだけで人間を殺したと言う事実に何も感じないはずが無いのだが。

 それは何か(・・)別の要因があるのかもしれないが、彼が知る由も無い。


(俺は……俺ハ……)


 沈み行く感覚がして周囲に暗さも相まってか目の前が暗くなっていくような気がしてきた。




「キョウスケ」


「……?」


 後ろから声を掛けられて俺は後ろを振り向くと、そこにはフィリアの姿があった。


「フィリア。眠れないのか」


「うん。そんなところ」


「そうか」


 まぁ実際は窓に軽く頭を打ってその後少し動いたが為に目が覚めてしまったのだが、彼にそんな事を知る由も無い。


「……隣、いい?」


 俺が頷くと、フィリアはゆっくりと近づいて来て隣に座る。


「……綺麗な星ね」


「あぁ。こんなに綺麗に輝く星は見た事が無い」


 そう呟いて夜空を眺める。


「あっ、そうだ」


 夜空を見ていて俺は下に着込んでいるシャツの下から紐に繋がっている石を取り出して首から外す。フィリアから貰ったあの石だ。


「これ、返すよ」


「……」


 フィリアは石をしばらく見つめると、頭を左右にゆっくりと振る。


「ううん。これはキョウスケが持っていて」


「でも、これは君の大事な物なんじゃ。それに、もう持っている理由は」


「キョウスケに持っていて欲しいの。お守りとしてね」


「お守り、か」


「えぇ。もちろん、以前の様な意味じゃなくね」


「……」


 俺は手にしている石を見る。


「なんだか、これって導きの石みたいね」


「導きの石?」


「ある御伽話の中にその石が出てきてね、重要な役割を果たすの」


「へぇ。一体どんな話なんだ?」


「えぇとね、昔ある所に、一組の幼い男女が居ました。お互い住んでいる家が近いとあって二人はよく一緒に遊んでいたからその二人はとても仲が良かった事で周囲からは有名であった」


 御伽話でありがちな一文で話が始まった。


「でも、時が経って二人が大きく成長したある日、女の子は両親の都合で暮らしていた村から立ち去らなければならなかった」


「……」


「女の子は別れ際に男の子に小さい頃に拾って大事にしていた宝物の綺麗な半透明の石を渡した」


「半透明の……」


 俺は手にしている石を月に翳して見つめる。


「二人は離れ離れとなり、一日、一週間、一年、そして十年と月日が過ぎていった」


「……」


「でも、大人となった男の子は女の子と別れたあの日からずっと女の子の事を考え、長い時が経っても彼女への想いは変わらなかった」


「……」


「そんなある日の夜、男性は女の子と過ごした日を思い出していた」


「……」


「思い出の数々を思い出していく内に、男性は彼女が今どこで何をしているのか、気になってきた。そして、彼女に会いたくなった」


「……」


「強く、強く、彼女に会いたいと、そう願った。その時、彼の胸辺りから光が放たれた」


「……」


「彼はすぐに光を発している物を取り出すと、光を放っていたのは、女の子から渡されたあの石であり、その石から放たれた光はやがて一筋の線となってある方向のみを指した」


「……」


「光指す方向を見た男性は考えるよりも先に行動を起こし、荷物を纏めて光が指す方向へと旅に出た」


「旅に?」


「男性はその光の先に想いを寄せる女の子が居るって、考えたらしい。何の確証も無かったけれど、本能的にそう感じた。そう書かれてあったわ」


「本能的に、か」 


「……男性は光が指す方向へと歩いた。何も考えずに、ただひたすらと歩いた」


「……」


「光指す方向へと歩き出して一週間、輝く星が広がる夜空の中で彼はとある丘に辿り着いた」


「……」


「その丘には誰かが居て、男性が近づくとそこに居た者も男性の存在に気付き、身体の正面を男性に向けた」


「……」


「ちょうど雲に隠れていた月が顔を見せてその輝きがその者を照らし、一人の女性の姿を見せた」


「……」


「最初一瞬分からなかった男性だったけど、瞬時にその女性があの女の子である事に気付いた」


「石から放たれている光が差しているのが、その女性だったのか」


「そういうこと。男性は女性に近付くと、名前を聞いた。そしてその名前は、女の子のものだった」


「……」


「女性も男性に名前を聞き、お互いの姿を見合う。あの時と比べると大きく成長していたけれど、幼い頃の面影は残っていた」


「……」


「そして二人は近付き、抱き締め合った。お互いの存在を確かめ合うように、強く」


「……」


「その後二人は彼女が住んでいる家に一緒に暮らし始めました。それでこの話は終わりなの」


「ふむ。御伽話らしい終わり方だけど、石についてはあんまり言及されて無いような」


 それらしい石の存在は文中にあったが、それが導きの石であるとは言及されていなかった。


「確かに話の中では石については語られていないわ。でも、その石の役割から読む者に『導きの石』と呼ばれているそうなの」


「なるほど」


 公式では無名だけど、読者から愛称を付けられるってパターンか。


「でもこの話は実話を元にしているって話もあるけど、ただの作り話って言われているの。今もどっちかは分からないわ」


「そうなのか」


 俺は石を月の光に翳して観察する。



「ねぇ、キョウスケ」


「なんだ?」


「その、ありがとうね」


「ん?」


 俺は一瞬疑問が過ぎるも、すぐにピンと来る。


「お礼、まだ言ってなかったから」


「そういえばそうだな」


 寝るまでゴタゴタしていたから、確かに言う暇は無かったな。


「でも、本当に、いいの?」


「何が?」


「だって、本当ならキョウスケには関係の無い事なのよ。なのに」


「……」


「もちろん、嬉しいんだけど、でも……」


「……」


 まぁ、本当なら俺には関係の無い事だ。関われば何が起こるかは想像は容易い。


「そう、だな」


 俺は月を見ながら口を開く。


「人を助けるのに理由はいらないって言うけど……まぁ、強いて言うなら、後悔したくなかった、かな」


「後悔?」


「あぁ。君をあのまま放っていたら、俺は一生後悔していたかもしれない」


「……」


「実際、ユフィから話を聞いた時には、自分の情けなさに悔やんだ」


「……」


「まぁ、一度目を背けたやつが何を言っているんだって思うけどな」


 俺は苦笑いを浮かべる。


「でも、君を助けたいって言う気持ちは確かだ」


「キョウスケ……」


「だから、ここまでやった以上、俺は最後まで責任を負うつもりだ」


「えっ……それって」


「あぁ。俺は、君を最後まで守る。必ずな」


「……」


 するとフィリアが顔を赤くなったような気がする。別に熱いって程の温度じゃないはずだが。


「まぁ兎に角、もう寝たほうが良い。明日は早いぞ」


「え、あ、う、うん」


 歯切れが悪いようにフィリアは返事を返すと腰掛けていた岩から立ち上がって高機動車改へと戻っていく。


「……俺、何か変な事でも言ったかな?」


 若干ぎこちない動きに俺は首を傾げる。


(だが、守らないとな。何があっても)


 俺は心から決心する。どんな困難があろうとも、彼女を守ると。


 決意を固めて岩に立て掛けていた89式小銃を手にして見張りを再開する。


















 ――ッ!!





『特殊ミッション「守るべき者」が発動しました』









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