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第二十三話 この機関銃って、果たして作る必要があったのだろうか……



 あれから更に高機動車改で走り出した俺達はリーデント王国とエストランテ王国の国境線を目指した。



 道中魔物の襲撃も無く走り、国境線付近まで来る事が出来たが、さすがに一日で国境線まで到着出来なかったので今夜は森の近くで野宿する事となった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 久しぶりに起動したトレーニングモード。その射撃場を模したエリアではいくつもの銃声が鳴り響いていた。



「……」


 89式小銃を構えるフィリアは引金を間隔を開けて連続で引き、銃声と共に反動がストックを通して彼女の肩に伝わり、排莢口(エジェクションポート)から硝煙を纏った空薬莢が次々と排出される。

 放たれた弾は的の中央付近にいくつかの穴を開けていく。


「キョウスケ。これでどう?」


「あぁ。よく当たっている。問題ない」


 フィリアは89式小銃から空になったマガジンを抜いて、薬室に弾が残ってないのを確認してからセレクターを(単発)から(安全)へと切り替えてスライド止めを押してボルトを前進させ、机に置きながら俺に射撃がどうだったか聞いてくる。

 俺は彼女の射撃姿勢を見て次に的の中央に開いた穴を見て問題無かったので頷く。


「それにしても、改めてだけどこの銃って言う武器は凄いわね。音はうるさいけど、クロスボウより射程が長いし、ほぼ狙った場所に当てられるんだから」


「まぁな」


 89式小銃を見ながら俺は短く答える。まぁこの世界じゃ現代の銃はオーバーテクノロジーの塊だからな。最も銃自体がこの世界じゃオーバーテクノロジーなんだがな。


 んで、今何をしているかって言うと、トレーニングモードを使ってフィリア達に銃の扱い方を教えていた。


 正直銃を彼女達に本格的に扱わせていいのか悩んだが、今後何が起こるか分からない以上戦力は必要だった。それに彼女達も覚悟を決めているので、銃の扱い方を教えることにした。

 最初は89式小銃で射撃の基礎を覚えてもらい、現在全員に相性の良い武器を選んでもらって教えている。


「それに、このトレーニングモードって言う魔法も凄いわね。大分居るような気がするけど、実際には数秒程度しか経ってないんでしょ?」


「あぁ。もうかれこれこの中じゃ半年近くは経っている」


 俺は腕時計を見て時間を確認する。


「と言っても、あくまでもここで得られるのは仮の感覚だけだ。それをモノに出来るかは実際にやってみてみないと分からん」


 トレーニングモードは確かに感覚を養う事は出来るが、あくまでも感覚だけで、実際の身体でその通り動かせるわけではない。なので、感覚をものにするにはトレーニングモード解除後にすぐにその感覚を身体に馴染ませなければならない。


「それでも、普通なら使いこなせるのにかなりの時間が必要なんでしょ?」


「あぁ」


 だが、感覚だけとは言えど、実際に訓練するよりもかなり短い時間で技術を習得できる。


「……本当にキョウスケには驚かされてばかりね」


「たぶんこれからもっと驚く事ばかりがあると思うぞ」


「これ以上に驚く事って……」


 フィリアはそんな光景が予想できず苦笑いを浮かべる。


「何度も言うが、銃の扱いには細心の注意を払って練習してくれ。他のみんなを見てくる」


「分かった」


 俺はフィリアに改めて銃の扱いに忠告して他のメンバーの元へと向かう。




「……」


 フィリアの居るエリアの隣の射撃場ではセミオートスナイパーライフルであるMSG90を構えて照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を重ねて覗きながら引金を間隔を開けて連続で引いていき、的の中央付近に次々と穴を開けていく。


「うまいもんだな」


「キョウスケ殿か」


 ユフィは俺が来たのに気付いて引金から指を離してマガジンを外しセーフティーを掛けて銃口を下ろす。


「にしても、反動が強い弾を使っているのに、よく扱えているな」


「むしろこれくらいないと撃ち辛いんだ」


(小口径弾で撃ち辛いってどう言うこっちゃねん)


 俺は思わず内心で突っ込みを入れる。普通逆なんだが。


(にしても)


 ユフィが撃った的の方を見る。的は中央の円内部に穴が集中して開いており、円の外には穴が開いていなかった。


(南部小型拳銃を扱わせたとは言えど、立射で大口径のアサルトライフルを撃ってあの精度か)


 これは、才があるかもしれないな。それも、かなり天才的な。 


 そういえばユフィはクロスボウを使ったら右に出る者は居ないほどの腕前だって前にフィリアが言っていたな。


(今はスコープ無しで撃ってもらうが、近い内にスコープを乗せて撃たせてみるか)


 ここから更に腕を磨けば、恐らくかなり化けるかもしれない。将来的には狙撃手(スナイパー)選抜射手(マークスマン)になってもらうかもしれない。


「そういえば、M14やM1Dとかは駄目だったのか?」


「クロスボウの様な感じで持てるが、どちらも使いづらくてな。このMSG90のように持てるやつの方が良い」


「そうか。まぁ君が良いと言うならそれで良いや。とりあえず、銃の扱いには細心の注意を払って練習を続けてくれ」


「分かった」


 フィリアに言った同じ事をユフィに伝えてから次に移る。




 ユフィの隣では連続して銃声が鳴り響き、的を蜂の巣にしていく。


「どうだ、リーンベル?」


「あっ、キョウスケ様!」


 5.56mm機関銃MINIMIの箱型弾倉を交換してベルトリンクの先端を薬室にセットしてからフィードカバーを閉じたリーンベルは銃に安全装置を掛けてこちらに寄ってくる。


「どうだ?」


「はい! 最初は89式小銃だと使いにくかったのですが、これにしたらなんだかよく的に当たっている気がします!」


「そうか(そりゃあんだけ撃てばいくつか当たるだろうな)」


 的の方を見ると蜂の巣になった的が視界に入る。弾をばら撒くのがもっぱらの目的の機関銃なら、誰だって当てられるしな。


「それにしても、もう何ヶ月もこの中に居たはずなのに、外だとたった数秒しか経ってないんですよね?」


「そう説明しただろ」


 リーンベルの問いかけに俺が答える。


「でも、信じられないですよ。時間関連の魔法なんてまず見られないぐらい無いんですよ」


「時間と言うより別空間みたいなもんだが、まぁ時間に関連しているから似たようなもんか」


 それともちょっと違う気がするが、今気にするようなことじゃないか。


「まぁいい。弾はいくらでもある。細心の注意を払って練習は続けてくれ。あと長く撃ち続けるなよ」


「はい!」


 彼女に同じように言ってから隣へと向かう。




 そこでは5.56mm機関銃MINIMIより大きな銃声が連続して鳴り響き、的に大きな穴を開けていく。


「どうだ、セフィラ」


「キョウスケ様」


 セフィラは手にしていた7.62mm機関銃M240Bに安全装置を掛けて台に置くと俺の方を向く。


「この機関銃……えぇとM240Bでしたか? 最初に使った機関銃と比べれば、これはとても素晴らしいですわ」


 セフィラはそう言いながら7.62mm機関銃M240Bを弄りながら呟く。


「そりゃそうだろうな(言う事機関銃よりかはな)」


 俺は|とある機関銃《62式7.62mm機関銃》の事を思い出しながら答える。


 最初は『言う事機関銃』や『無い方がマシンガン』『単発機関銃』『キング・オブ・バカ銃』で有名な自衛隊で採用されている『62式7.62mm機関銃』を彼女に使わせてみたのだが、セフィラ曰く『とっても苛立つ機関銃ですね』との事。まぁ何に苛立っていたのかは大体予想がつく。その後様々な機関銃を使わせてみたところ、どうやら7.62mm機関銃M240Bがお気に召したようだ。

 

 個人的にぶっちゃけ言うと、あれって作った意味があったのか分からないんだよな。警察予備隊や保安隊時代から使っていた欧米製のM1917とM1919等のアメリカ製の機関銃が日本人の体格に合わないと言う理由で62式が開発されたが、別にどうしても作る必要があるってわけじゃないよな。しかも欠陥や改善点が次々と露呈したのにその後これと言って大きな改良が施されているわけじゃないし。

 かと言ってその後はちょっと改良した『74式車載7.62mm機関銃』ぐらいのバリエーションしかなく、その後国産の機関銃が開発されず、もっぱら海外製の機関銃にとって変えられている。ホントなんで作ったんだよって思う。


 昔からそうだが、日本は妙に国産に拘っているような気がする。まぁポンポンと優秀な海外製を導入できるほどの余裕が無いから仕方ないかもしれないが。と言っても逆に国産の方が高く付く場合もあるんだが。


「にしても、本当にそれでいいのか?」


「えぇ。むしろこれくらいの重さが無いと持った感じがしないので」


 そう言いながら7.62mm機関銃M240Bを持ち上げて片腕で軽々と扱う。


「そ、そうなのか」


 俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 彼女の華奢な身体のどこにあんな馬鹿力があるんだ。そいつ銃本体だけで10kg近くあるんだが……。


「それに……」


「それに?」


 するとセフィラは薄目の目を開けて紅い瞳を覗かせる。


「これの撃つ感覚が、とても、そう、とても快感なんです」


 頬を赤く染めてうっとりとしながらセフィラは7.62mm機関銃M240Bを熱くなっていない箇所を除いて撫でるように触れる。


(アカン。こういう類の武器を持たせたらイカン子や)


 セフィラの様子からそう感じて苦笑いを浮かべる。


「それにしても、もう大分ここに居るのですが、本当に外では時間は経ってないのですか?」


「あぁ。他の3人にも同じ事を言ったが、そう説明しただろ?」


「そう言われましても、現実感と言うのがありませんわ。ここでどれだけ居ても外では数秒しか経っていないのは」


「だろうな」


 まぁ普通はすぐに信じられないもんか。


「ですが、こうして感覚があるんですから、信じるしかないのですが」


「だろうな」


「それより、まだ時間はあるのですか?」


「あぁ。気が済むまで撃ってもいいぞ」


「そうですか。それはありがたいですわ。まだまだ撃ちたくてウズウズしていたところなんです」


「そ、そうか」


 頬を赤く染めて身体をモジモジとさせるセフィラの姿に俺は苦笑いを浮かべるしかない。端から見たら色んな意味でヤバイ人にしか見えない……。


「まぁ、やめる時が来たら知らせるよ。後、銃の扱いは注意しとけよ。それと銃身から煙が多く出始めたら交換の合図だと言うのを忘れるなよ」


「はい」


 俺は最後にそう言ってから隣の射撃場へと向かって、そこで俺も自身の89式小銃を出して射撃を行う。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 その後彼女達の気が済むまで小銃や拳銃、機関銃の射撃の練習を行い、更に高機動車改の運転も教えて俺はトレーニングモードを終了させ、現実に戻っていた。


 彼女達は不思議な感覚に戸惑いを見せていたが、すぐに感覚を馴染ませる為に俺は彼女達にそれぞれ使っていた銃器を渡して、感覚を確かめさせた。




「銃の扱いはひとまず慣れたな」


 俺達は焚き火を囲んで明日の事を話し合った。


「ユフィ。このペースなら国境線まで明日中には着きそうか?」


「あぁ。これなら明日には国境線に着ける。だが……」


「だが、なんだ?」


「国境線を越えるのには、問題があるのよ」


 するとフィリアが説明を入れる。


「まず二つの国の国境線に沿うように、巨大な山脈が聳え立っているのよ」


「山脈がねぇ。要するに、こんな感じか?」


 俺は焚き火に入れる為の木と近くにあった石二つを使い、石二つをエストランテとリーデントの二ヶ国に見立ててその間に木を置く。


「えぇ。ちょうど国境線に沿って互いを遮るように山脈が聳え立っているの」


「そのお陰もあって、リーデント王国とエストランテ王国との間に戦争は殆ど起きていない」


「なるほど。お互いに自然の防壁でもあるのか」


 そりゃ争いが殆ど起きないわな。それこそナポレオンやハンニバルのように巨大な山脈を行軍でもしない限り、攻められんな。


「山脈は道と呼べる道が殆ど無いから、そこを通り越すのは不可能ね。その上飛ぶ事が出来る魔物が多く生息しているから仮に空を飛んで抜けるのはかなり難しいわ」


「……」


「でも、山脈には唯一道と呼べる場所があるわ」


「道ねぇ。でも、そういう所に限って砦的な場所があるんだろ」


「えぇ。山脈の名前を取った『トリスタ要塞』があって、そこはリーデント王国側の砦でもあるけど、関所的な役割を持っているわ」


「やっぱりな」


 まぁ考えてみれば自然の防壁に唯一ある道に何も置かないわけ無いか。


「少なくとも、国境を越えるにはそこしか道は無いか」


「そうなるな」


「……うまくその要塞を通れると思うか?」


「情報が行き届いていないのなら通れなくも無いだろうが、難しいな」


「そうか」


 もしかしたら、強行突破も考慮しなければならないな。まぁ今の装備でも十分突破できる火力と移動手段はあるが。


「まぁ、その事については明日要塞付近になってから考えよう。明日に備えてもう寝るとしよう」


「そうだな。見張りは二時間ごとに交代でいいか?」


「そうだな。最初は私が見張りをしよう」


「では、次はわたくしが」


 その後見張りの順番を決めて、明日に備えて俺達は眠りに入った。






62式って作る必要が果たしてあったのだろうかって思うこの頃。

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