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第二十二話 今後の動き




「ガーバイン様! 大丈夫ですか!」


 光と爆音が僕の足元で発せられてから耳鳴りがして目と脚が痛む中、騎士の誰かが僕に声を掛けるのが微かに聞こえる。


「ぐ、ぐぅ!」


 僕は騎士に支えられながら立ち上がろうとするが、両脚から激痛が走り、痛みのあまりその場に座り込んでしまう。まだ痛む目を開けても視界はぼやけてて殆ど見えない。更に馬車で受けた傷から激痛が走る。


「くそっ!! あの平民めぇ!」


 一瞬であったが、あの走り去った緑色の物体にフィリアに付き纏っていた平民が乗り込むのが見えた。どうやらこの一件はコッホー達にあの平民が関わっていたようだな。いや、あいつが企てたのか。


「ガーバイン様! 兎に角こちらへ! 怪我を治さなければ!」


「今はそんな事はいい! それよりもさっさとやつらを追いかけろ!!」


「馬を全て殺されてしかも馬より速かったやつですよ!! 追いつけるわけがありません!!」


「ならさっさと近くの村か町に向かえ!! 駐屯地へこのことを伝えろ!! 絶対に奴等を逃がすな!!」


「わ、分かりました!」


 僕が怒鳴りつけるように指示を出すと、騎士は走っていく。


「許さん、許さんぞ!! 必ず捕まえて、お前を八つ裂きにしてやるからな!! 覚悟してろぉ!!」


 やつらが逃げて行った方向に向かって僕はそう叫ぶ。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 森林の中にある舗装されていない凸凹の道を高機動車改が猛スピードで走っている為車体は激しく上下左右に揺さぶられて車内は常に上下左右に揺れていた。軽くジェットコースターに乗ったような気分だ。


「きょ、キョウスケ様! もう少し優しく――――」


「そりゃ無理だな!」


「そんなぁ……」


 顔色を悪くして弱々しく訴えるリーンベルだったが、いくら衝撃を緩和するサスペンションがあっても、凸凹が激しいと揺れを緩和するのは不可能だ。


 リーンベルが絶望する中、高機動車改は広い森林の中を走って行き、開けた場所へと抜けると俺はそこでブレーキを踏んで高機動車改が停車する。



「……ここまで来れば、さすがにしばらくは追いつかないだろう」


 馬は全て駆逐したので、相手は足の速い追跡手段を失っている。それを補充するとなると近くの村か町に行かなければならないが、あの場所からでは走ってでも半日近くは掛かる筈だ。


「それで、みんな。大丈夫、か?」


 俺は後ろを振り返り、みんなの様子を窺う。 


「あ、あぁ。なんとかな」


 ユフィは上半身を壁に貼り付くようにしてもたれかかり、顔全体に冷や汗を掻いて苦笑いを浮かべる。


「で、ですが、さすがに、これは……」


 セフィラは薄目の目を開けて強張った表情を浮かべて呼吸が荒れていた。


「うぅ、気持ち、悪い……」


 リーンベルは顔色を悪くして口に手を当てていた。

 まぁ、見た所大丈夫とは言えないな。


「……」


 その一方でフィリアは目を白黒にさせて呆然と座っていた。


「フィリア? その、大丈夫か?」


「……え? え、えぇ」


 フィリアは俺が声を掛けてようやく意識がハッキリとして返事を返す。


「悪い。やつらと距離を離すには、かなり飛ばさないといけなかったからな」


「それはそうだが、だとしても、ここまで速度が出るとは思わなかったな。それに、あんなに揺れるとは」


 ユフィは額の汗を袖で拭いながら抗議の様に訴える。


「だが、距離は稼げた。俺達が一日中止まってない限りやつらに追いつかれることはないだろう」


「そうだな。それにこの速さなら、あそこまでに到着するのはすぐだな」


「それなら、何とかいけそうか?」


「そこは分からないが、少なくとも情報は行き渡っていないからまだ警戒していないはずだ。それなら、行けなくもないかもしれないな」


「そうか」


 これは予想以上にスムーズに事が運びそうだな。



「……キョウスケ」


 俺とユフィの会話の合間を見計らってか、フィリアが声を掛けて来た。その声は少しばかり震えていた。声の感じからすると、明らかに怒っている。


「説明してくれる。どうしてこんな事をしたの」


「……」


「ユフィ達も、こんな事をしたら、どうなると思っているの!」


「……」


「いくら何でも、これはやりすぎよ! 私の為だと言っても、こんな事をしたらあなた達は!」


「フィリア……」


「それに、どうしてキョウスケまで! もし捕まったりしたら、あなたは!!」


「……」


 まぁ、何も知らない彼女からすれば、俺達がやっている事はただの犯罪だ。彼女が怒鳴ってしまうのも仕方が無い。


「フィリア。君が怒るのも無理は無い。だが、これには訳があるんだ」


「……訳?」


 フィリアは怒りの色を浮かべた表情を一変させて怪訝な表情を浮かべる。


「フィリア。今から言う事は紛れも無い事実だ。君にとっては、とてもショックな内容かもしれないが、聞いて欲しい」


 俺はユフィと共にフィリアに今回の一件を話した。



 この結婚の真の目的を。父親が自身の身の保全の為にフィリアを取引の材料として、ガーバイン侯爵に売ろうとしていると言う事を。



「……」


 真実を聞かされたフィリアは呆然とし、口をまるで陸に打ち上げられた魚の様に開閉させていた。


「そん、な。お父様が、お母様が……」


 彼女はそう呟きながら顔に手を当てて俯く。


「それじゃぁ私は、何の為に……今まで……」


(まぁ、無理も無いか)


 静かに震える彼女の姿を見て俺はそう言わざるを得なかった。


 多くの疑問が生まれる中で自分の為だと自分に言い聞かせて信じていた両親に裏切られたのだ。彼女のショックは計り知れないだろう。


「俺はユフィ達から話を聞かされて、彼女たちと協力して君を連れ出したんだ」


「……」


「まぁ、連れ出した後で言うのもなんだが、フィリア」


「……」


「君は、どうしたいんだ?」


「……私は」


 フィリアは顔を上げて俺を見る。


「……」


 しばらく戸惑いで静かに揺れる瞳で俺を見つめていたが、袖で涙を拭い、決意したかのように表情が引き締まる。


「私は、もうあんな縛られた人生に、戻りたくない。利用されて、終わりたくない」


「……」


「私だって、みんなのように・・・・・・自由に、なりたい」


「……フィリア」


「だから、お願い。私を、連れて行って」


 そう言うと彼女の目に再び涙が浮かぶ。


「あぁ。もちろんだ」


 俺はあの時と違い、迷う事無く返事を返す。


「君が望むなら、どこへでも」


 彼女へと手を差し出すと、フィリアも迷う事無く手を握る。





「だめ……もう、無理ぃ……」


 と、後ろで扉が開く音がして俺やフィリア、ユフィ、セフィラが扉の方を向くと、リーンベルが扉を開けて頭だけ外に出していた。

 すると女子にあるまじき声を出し、何か水気を含んだ物が音を立てて地面に落ちたような音がする。


『……』


 しばらく何とも言えない空気が流れた。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……んで、現状を改めて整理しよう」


 リーンベルの体調が整うまで待ってから、俺はフィリアを含めて現状の整理する。


「作戦の第一段階の重要目標のフィリアはこうして連れ出すことに成功した。問題はこの後だが」


「どうするの? あの男が私達を逃がすはずが無いわ。恐らく死の果てまで追いかけてくるはず」


 まぁあの男の性格を考えると確実に追ってくるだろうな。


「分かっている。だから、ずっと追い掛けて来る可能性があるこの国に留まるつもりは無い」


「それはつまり、どういうことなの?」


 フィリアは怪訝な表情を浮かべる。


「要するに、この国を出て隣国に逃れるんだ」


「隣国……エストランテ王国に?」


「あぁ……そうだ。そのエストランテ王国へと……」


 俺はそれ以上の言葉が出てこなかった。


「キョウスケ殿?」


「……この国ってなんていう名前だ?」


「え? あ、あぁ。ここはリーデント王国だが?」


 ユフィは一瞬呆気に取られたが、すぐに俺の為にこの国の名前を教えてくれる。


「そうか。んで、今後の目標は今俺達が居るリーデント王国からエストランテ王国へと逃げ込む」


「エストランテに?」


「あぁ。さすがに国を越してまで追い掛けて来る可能性は低いだろう」


「あの男がそんな理由で簡単に諦めるとは思えないのだけど」


「個人は、だろうな。だが、国はそうはいかないだろう」


「……?」


 フィリアは怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。


「ユフィ。この国と隣の国の仲はどうなんだ?」


「ん? あぁ。少なくとも、良いとは聞かないな。かと言って戦争をするほど仲は悪くは無いがな。だから互いの国を跨いで商売する商人もいるぐらい、出入国は厳しくない」


「でも、国王はお互いにプライドが高い事でも知られていますからね。噂では」


「ふむ」


 ユフィとセフィラの言った事に俺は頷く。


「どういうことなの?」


「つまり、仲が良くなくプライドの高い国同士が、貸し借りを作るかって話だ」


「……あぁ」


 フィリアは納得したかのように声を漏らす。


「エストランテとて他国の騎士を自分の国に入れたくないだろう。かと言ってリーデントもエストランテに協力してもらって貸し借りを作りたくなないだろうしな」


 もし貸し借りを作ってしまえば、後々にそれを利用して見返りを求められる可能性がある。プライドの高いやつは嫌っている相手ほど貸し借りを作りたくないのだ。


「それに、いくら権力のある侯爵でも、国を動かすほどの権限は無いはずだ」


 それ以前に国としては問題を起こされたくないから侯爵を止めるはずだ。


「だが、あのアレンの父親だぞ。国に黙って行動を起こす可能性も否定できない」


「……まぁそこは賭けになるな」


 そこまでしつこいとは思えないが、追ってこないとは限らないしな。


「だから、エストランテに入っても、出来る限り遠くに逃げるぞ」


「……それしかないか」


 ユフィは腕を組んで呟く。


「兎に角、今はこの国を出ることが最優先だ。一気に国境線まで走るぞ」


「えぇ」


「分かった」


「はい」


「分かりました」


 俺はそれぞれの返事を聞いてから高機動車改へと向かい、運転席の扉を開けて席に座る。


「……っ?」


 フィリア達が高機動車改に乗り込む中、俺は違和感を覚えてハンドルを持つ左手を見る。左手は細かく震えていた。

 不意にさっきの光景が脳裏を過ぎる。


「……」


 思わずハンドルを握る手に力が入り、ギリッと歯軋りを立てる。


(覚悟していたはずだ……こうなる以上、起こり得る事だって)


 内心で俺は自分に言い聞かせるように呟く。



「キョウスケ?」


 声を掛けられて俺はふと助手席側を見ると、怪訝な表情を浮かべているフィリアの姿があった。


「……いや、何でも無い」


 彼女にそう言ってからハンドルの後ろにあるキーを回してエンジンを掛けて、高機動車改を走らせた。








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