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第十六話 苛立ち




 フィリアとの最後の別れから早くも5日が経過した。




「……」


 酒場で依頼を受けて出発する前に昼食を取っている俺は頼んだシチューをスプーンで口に運んでいく。


(あれからもう5日か。ホント時間が経つのは早いな)


 時間の経過の早さを実感しながら左腕にしている腕時計を見て時間と日付を確認する。


(にしても、あれからどうなったんだろうな)


 脳裏にフィリアの最後の姿を思い浮かべながら内心呟く。


 どうもあの時からフィリアの事が気になって、常に頭の中で彼女の事を考えていた。今何をしているのか。どうなっているかを。


(フィリアがあんなやつの婚約者、か。まぁ、彼女の実家は貴族なんだ。貴族同士の結婚なんて子供の意思は無い。どうせ親の都合でしかないからな)


 まぁ、その都合の大半は自分達の事なんだろうがな。


(政略結婚ってやつなんだろうが、世も末ってこういう事なんだろうな)


 最も、貴族があんなやつばかりになってくるとなると、それこそ世も末と言うやつなんだろうが、こういう時代では当たり前の事か。


「……」


 まぁ世の中の行く末がどうなろうが俺にはどうでも良い事だ。それよりも、彼女の安否の方が大事だ。貴族である以上こんな話が出てくるのは当たり前だろうが、相手が相手では、心配の種は尽きない。


(と言うか、どうしてここまで彼女の事が気になるんだ?)


 まぁフィリアはアイツを心底嫌っていたようだし、そんなやつが婚約者となると今後が心配だが、だからと言って彼女の事がここまで気になるというのは……。


「……」


 ふと最後に見た彼女の姿が脳裏に過ぎり、シチューを運んでいたスプーンを持つ手が止まる。


(どうにか、出来ないものか……)


 こちらには制約付きでまだ出せる数も少ないが、強力な現代兵器がある。彼女を連れ出す方法はいくらでもあるし、やろうと思えば実行できるだけの力はある。だが、それをやるという事は少なくとも貴族を相手にしなければならないと言うかなりのリスクを背負わなければならない。下手すれば複数の貴族を敵に回しかねない。

 生半可な覚悟でやるべきではない。


(だが、このままで良いのか?)


 俺は自分に問い掛けるように内心で呟く。


(このまま、フィリアを放っておいていいのか)


 本当に、このまま何もしなくてもいいのか……。



 色々と考えたが、俺は首を左右にゆっくりと振るい考えを振り払う。


(いや、気にしたって、俺は部外者なんだ。俺に出来る事はない)


 内心でそう呟くが、本当にそうなんだろうか。分かっていながら、分かろうとしないだけなんじゃないのか?


「……」


 ここ最近そうやって自分に問い掛ける事が多くなった。そうやって自分の気持ちを整理するかのように。


(今俺に出来ることなんか、無いんだ……)





 すると酒場の扉が開きざわつきが起こる。


 誰かが俺の居るテーブルに近付いてくるが、俺は顔を上げずにシチューを食べ進める。


「よぉ久しぶりだな、平民」


 どことなくムカつくぐらい嬉しそうな声で近付いて来た者は俺に声を掛ける。顔を上げずとも、誰だか分かる。


「……」


「どうだ? 僕の言った通りになっただろう」


「……」


「平民がどれだけ頑張ってもな、貴族には勝てないんだよ。こうして僕はフィリアの婚約者になれたんだからな」


「……」


「親しかった分、悔しいんだろ?」


「何の事やら分からんな」


 声を聞く度に苛々が募り出すが、何とか平然を装う。


「悔しいんだろ? 本当は悔しいんだろ? 言わなくても分かるぞ」


「……」


 本当に人をイライラとさせるやつだ。恐らくムカつくぐらいの笑顔を浮かべているに違いない。


「それともあれか? 弱い輩ほどよく吠えるって言うからな。それで黙ってるんだろぉ」


(お前が言うか)


 声色と言い、本当に気に障る言い方だ。


 だからこそ、顔を上げないで居る。でないとこいつの憎たらしい顔を見ていると顔面をぶん殴るどころか、9×19mmパラベラム弾をぶち込んでその顔をふっ飛ばしたくなるかもしれない。

 この世界でも先に手を出した者が負ける。と言うか今の俺の場合は暴力事件以上のことを起こしかねない。だから、今は耐え凌ぐしかない。


「で、何の用だ。俺はあんたより暇人じゃないからな」


「君が働いてくれたお陰で僕は時間が出来たんだ。だから、フィリアと一緒に居られる時間が多くなったよ。それには感謝するよ」


「……」


 あぁ……ホントムカつクナ……。


 苛々のあまり、ドス黒い感情が胸中に募り出す。


「あぁ用事だったな。なぁに簡単な事さ。近い内に僕とフィリアの結婚式を挙げるんだ。それを知らせるために、わざわざ足を運んだのさ」


(ホント暇人だなこのクソ野郎)


 イライラが募り無意識の内に拳を握り締めていた。


「悪いが、失礼する。受けた依頼があるからな」


 俺は立ち上がってこいつに一言声を掛けて代金をテーブルに置いてその場を離れる。まだ皿には残っていたが、とてもじゃないが食える状況じゃないし、食欲も失せた。


「招待状ぐらいは送ってやるよ! 楽しみにしてろよ!」


「ハッハッハッハッ!!」と笑いアレンはその場を後にした。


「ちっ……」


 俺は思わず舌打ちをする。


「おいおい、あれが貴族の言う事かよ」


「あんなのがどんどん増えていくのかねぇ」


「嫌な世の中になったもんだ」


「あいつも一体何を絡まれたのやら」


 周りでは冒険者達が呆れた様子でアレンの事を言っていた。


(小物が)


 俺は思わず歯軋りを立てる。


 苛々が募って今にも爆発しそうになったが、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを整えつつ受付嬢の元に向かう。


 ちなみにだが、出発する事を伝えるとなぜか受付嬢の人は酷く怯えていた様な気がする。

 なぜだろうか? ちゃんと落ち着いて冷静に言ったはずなんだけどな……。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 森の中に爆音が連続して響き渡り、その度に俺に襲い掛かろうとしたゴブリンやコボルトと言った魔物が爆発四散して血や肉片を辺りに撒き散らす。


「……」


 乗ってきた73式小型トラックに増設した銃架に搭載したそれを俺は狙いを定めて特徴的な逆U字のトリガーを押して爆音と共に弾が放たれる。


 俺が使っているのは誕生から一世紀近くが経過しても今尚アメリカ軍で使われ、世界中の軍でも使われ日本でも陸自が『12.7mm重機関銃M2』として、海保が『13mm機銃』と言う名称で採用している『ブローニングM2重機関銃』だ。

 多くの対物ライフルで使われる12.7×99mm NATO弾を連続して放つ強力な機関銃である。


 爆音や仲間達が爆発四散している事にゴブリンやコボルトたちは恐れて逃げ出そうとしていたが、俺は逃げ出したやつから先に12.7mm重機関銃M2に改造して取り付けたホロサイトで狙いを定めてトリガーを押し、爆音と共に射撃を再開する。


 爆音と共に銃弾が放たれてゴブリンとコボルトが爆発四散して辺り一面を赤く染め上げ、流れ弾が木々に命中して表面が弾けて窪みを作ったり、中には木をへし折ったりした。


「……」


 俺はその爆音が森の中に響き、空薬莢とベルトリンクが排出されて足元に溜まっていく中、ただただトリガーを押して弾を放ち続ける。何かを忘れたいが為に……。



 依頼は森に出没しているゴブリンとコボルトの討伐だが、いつもとは異なる。普通なら討伐数制限があるが、今回の依頼ではその制限がない。理由としては両魔物の数が異常に多いからだ。

 今回は制限数通りに討伐しては数が全く減らないだろうと組合が判断して、制限時間内に可能な限り多く討伐して欲しいとの事だ。こういうクエストは『大量発生クエスト』と呼ばれ、冒険者達が何日も掛けてクエスト攻略を目指す。

 報酬は状況変化を調査し、魔物の頭数が平常通りになったのを確認されたら高額の報酬を支払うとの事だ。

 但し、これは状況によっては生態系を崩しかねないので、結構慎重にやるものらしい。


 まぁ、今の俺は慎重のしの字もないんだがな。



「……」


 弾が切れて射撃が途切れると、辺りに銃声が木霊し、銃口から硝煙が薄く漏れ出していた。


 空になった弾薬箱を取り外してその辺に捨て、足元に置いている新しい弾薬箱を手にして蓋を取り外して持ち上げ、12.7mm重機関銃M2横の弾薬箱受けに置いてレシーバーのフィード・カバーを開けてベルトリンクの先頭をセットし、フィードカバーを閉じてコッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込む。

 立て掛けている89式小銃を手にして73式小型トラックから降り、セレクターを3連射に切り替えて周囲を警戒して身構えつつ前へと進む。


「……」


 周囲を見回して目標が居ないか探していると、視界に入ってくるのはかつてゴブリンとコボルトであった肉片と血と骨が辺り一面に散乱して、赤黒く染まって生臭い臭いが漂っていた。以前なら見ただけで卒倒するようなグロイ光景が広がっているにも関わらず、俺は何も感じていない。強いて言うなら、生臭さに顔を顰めるぐらいか。

 もはや今の俺に、生き物を殺す事に何の罪悪感を覚える事は無い。



 すると茂みが動くとそこからゴブリンとコボルトが武器を手にして飛び出てくる。


 俺は慌てずにゴブリンとコボルトに89式小銃を向け、ホロサイトにその姿を捉えて引金を引き、3回連続で銃声が発せられて3発の弾はゴブリンの胴を撃ち抜いて前のめりに倒れる。続けてコボルトに狙いをつけて引金を引き、3回連続で発せられた銃声と共に放たれた3発の弾はコボルトの胴を撃ち抜き、瞬く間に2頭の命を刈り取る。

 その直後に左の茂みからコボルトが雄叫びと共に棍棒を俺に向けて投げてくるも身体を反らしてかわし、89式小銃を向けて引金を引き、放った弾は胴を撃ち抜く。


「……」


 銃声が森の中を木霊す中、セレクターを単射に切り替え、倒れたゴブリンとコボルトに近づいて生死を確認し、最後に出て来たコボルトにまだ息があったので頭に一発撃ちこんで仕留めた。


 周囲を警戒しつつマガジンポーチよりマガジンを取り出し、差し込まれているマガジンを手にしてマガジンキャッチャーを押してマガジンを外し、新しいのを差し込んで使いかけを腰のベルトに提げているポーチに放り込むと89式小銃を構え直し、周囲を見渡す。


 しばらく待ってみたが、どうやら襲い掛かってくるやつは近くに居ないようだ。


「この辺りにはもう居ない、か」


 近くに目標が居ないのを確認してから73式小型トラックに戻り、助手席に安全装置を掛けた89式小銃を立て掛けて運転席に座り、エンジンを掛けてアクセルを踏んでその場から移動する。



 その後もゴブリンとコボルトを見つけては12.7mm重機関銃M2や89式小銃で次々と射殺し、粉々に粉砕した。


 



 そして気付いた時には日が傾き出して空がオレンジ色に染まり出していた。


「……」


 12.7mm重機関銃M2に肘を着いて立つ俺は視界いっぱいが赤く染まった地面を睨むように見つめる。


 物言わぬ肉塊となったゴブリンとコボルトが恨めしそうに俺を見ているような気がしたが、気のせいだろう。


(……クソッ。すっきりしない)


 俺は思わず舌打ちをする。


 実の所、今回の依頼に12.7mm重機関銃M2を使うまでも無く、5.56mm機関銃MINIMIか7.62mm機関銃M240Bでも事足りるクエストだった。


 だが、今回ばかりは圧倒的な力を振り回したい気分だった。過剰なまでの、圧倒的な火力を。5.56mmや7.62mmなんかの豆鉄砲ではなく、大口径の弾を連続して放ちたかった。それでこの苛々を解消したかった。

 端から見れば歪んだトリガーハッピーな考え方かもしれないが、そんなのは第三者の意見だ。俺にはどうでもいいことだ。

 苛々を解消できれば良い、ただ、それだけだった。


 しかし、結局この苛々を解消する事は出来なかった。


「……」


 俺は赤く染まった地面と12.7mm重機関銃M2を交互に見てため息を付き、73式小型トラックの運転席に着いてハンドルを持ってアクセルを踏み、その場を離れていく。





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