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第十五話 それは突然に……




「……」


 組合で受けた依頼を終えて俺は召喚した旧型の73式小型トラックを運転して平野を走り、ブレンを目指している。

 ちなみに運転技術だが、トレーニングモード内にて一年近く費やして運転の技術を身体に身につけた。


「やっぱり馬車と比べると早いし、乗り心地も良いな」


 馬車なら1時間半近くかかるところを30分で到着できるから、ホント楽だわ。しかも馬車代も掛からないし、尻も痛くならない。文句の言いようが無いな。


(それにしても……)


 ルーフを外しているので風を受けながら運転している俺は最近起きた変化を思い出す。



 アレンにワケの分からない忠告を受けて数日後、前日に会ったのを最後に突然フィリアが酒場に現れなくなったのだ。


 最初は仕事が忙しくて来れなかったんだろうと思っていたんだが、それが何日も続いてもうかれこれ一週間近くだ。


(仕事で他の町にでも行っているのかねぇ)


 それならいいんだが、何かが違うような気がする。


(何があったんだ)


 様々な憶測が脳裏を過ぎるも、その中からすぐに答えが出れば苦労はしない。


「まぁ、気にしても仕方無い、か」


 呟きながらギアチェンジをして速度を上げる。


(しかし、ここまで有名になるとはねぇ)


 今日受けた依頼だが、今朝ご指名の依頼があると組合を通して知らされた。依頼主からご指名されるのはかなりの実力者でなければないのだが、新人がご指名されるのは結構異例らしい。


 依頼主は商人で、依頼内容は自身の商売に使う商品をブレンから東に数キロ離れた場所にある村から更に数キロ離れた隣町へ魔物からの襲撃を防ぎつつ送り届けると言ったものだ。


 俺は早速73式小型トラックを人目の付かないところで召喚して村に向かい、村の近くまで行ってそこで73式小型トラックを収納し、村へと向かって依頼主の商人と面会する。


 まぁ護送任務としては当然ではあるが、依頼主は俺の他に何人もの冒険者を雇っており、冒険者達の間でも噂になっている俺は注目の的だった。まぁあんなに活躍すれば嫌でも目立つわなぁ。

 俺的には目立ちたくは無かったが、ランクアップの為には討伐のみならず様々な依頼をこなさなければならない。仕方が無いが、今回ばかりはなるべく目立たないように動く事にした。


 護送中自体は特にこれと言って大きな問題が無かったが、魔物の襲撃事態が無かったわけではない。冒険者達が俺の89式小銃やUSPについて色々と聞いて来て表面上の情報だけを答えている中、ゴブリンにコボルトと言った魔物の襲撃があった。

 冒険者達はすぐに武器を手にして魔物達に戦いを挑み、俺は冒険者達の援護に徹した。と言っても、俺の援護が強力とあって襲撃は殆ど俺が片付けたようなものだった。

 

 まぁそんな事もあって護送任務は無事に終わり、隣町の冒険者組合で依頼完遂の報告をして報酬金を得た。護送任務の場合は目的地に大抵冒険者組合があるので、そこで報酬金を貰う場合もある。その後に依頼を受けた組合に連絡を入れる。



 今はその帰りと言うわけだ。


(十中八九あの冒険者達は俺の事を更に広めるだろうな。これから面倒な事が多くなりそうだ)


 恐らく今後俺に接触を図る冒険者達は増えてくるだろうし、冒険者達が集い組織的活動をする冒険者ギルドからの勧誘も出てくるだろう。前者まではいいが、後者は俺の武器狙いで勧誘している可能性がある。


 深くため息を付き、顔を上に向けて空を見上げる。


「にしても、嫌な天気だ」


 空は厚い雲に覆われており、少し離れたところでは暗い雲が出ていた。


(恐らく今夜に雨が降りそうだな)


 俺はブレンへと急ぐように73式小型トラックの速度を上げる。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 その日の夜。



(結局、今日も居なかったな)


 泊まっている宿の一室で89式小銃のレシーバーやハンドガードを布で磨き、布を巻きつけたクリーニングロッドを銃身内に挿し込んで前後に動かしながら酒場にフィリアの姿が無かったのを思い出す。


(やはり、仕事で別の町に行っているんだろうか)


 でも、それなら前日に何か伝えてるはずだが、最後に会った時にそんな事は言っていなかった。


(何だろうな、この違和感)


 どう表現すれば分からない感情が胸中を渦巻く。もし例えるとすれば、嫌な感じ、と言う感じだろうか。


 89式小銃の銃身内を綺麗にしてクリーニングロッドを抜き取り、89式小銃を壁に立てかけるとテーブルに置いている空のマガジンを手にして並べている89式5.56mm普通弾こと5.56×45mmNATO弾を手にしてマガジンに押し込む。


 普通なら弾が込められた状態で召喚できるが、あえてマガジンと実包とバラバラの状態で出すことが出来る。これで弾込めと言う銃の醍醐味とも言える作業が出来るのだ。地味にこれはありがたかった。


 マガジンに30発込め終えると軽く叩いて中の弾の列を整えてマガジンポーチに詰め、次のマガジンに弾を込め始める。


「にしても、随分と降っているな」


 外は俺の予想通りブレンに到着した頃には雨が降り始め、今は結構な量が降っている。


(明日は外の状況次第じゃ、73式の装備を変える必要があるな)


 まぁ変えるのはルーフの有無ぐらいだが。


「……」


 弾を込め終えてマガジンを軽く叩いてテーブルに置くと、両手を組んで両腕を上に伸ばして背伸びをする。


 コンコン……


「っ!」


 すると扉からノック音がして俺はとっさに扉の方に顔を向ける。


「……」


 俺は静かに立ち上がるとテーブルに置いているホルスターよりUSPを抜き取り、ハンマーに親指を掛けて扉に近付く。


 時間は11時を回ろうとしている。こんな時間に訪れる人はハッキリ言って居ない。と言うか大体の人はもう寝ている時間帯だ。


「誰だ」


 一言発して少し待つも、返事は返って来ない。


「……」


 ハンマーを起こして、人差し指をトリガーガードに掛けてセーフティーレバーに親指を近づける。




『わ、私よ、キョウスケ』


 少しして帰って来た声は、俺の予想外の人物の者だった。


「……フィリア?」


『え、えぇ……』


 予想外の人物に俺は首を傾げると、返事が返って来る。


 扉を少し開けて隙間から向こう側を覗くと、外套を身に纏った人物が立っており、顔は深々とフードを被っていたから顔は分かりづらかった。だが、声は彼女のものだった。


「フィリア、なのか」


「えぇ……」


「こんなに時間にどうしたんだ? それに、今までどこに」


「それはこれから話すから、中に入れてもらっていい? 出来れば見られるのは避けたいから」


「あ、あぁ。別に構わないが」


 俺は扉を開けてフィリアを部屋に入れて扉を閉める。



「こんな遅くにどうしたんだ?」


「……」


 ベッドに腰掛けた俺はイスに座ったフィリアに問い掛ける。フードを取った事で彼女の顔が露になり、本人であると言うのが確認できた。

 ある事を除けば、以前のままだったが。


「それに、外は雨で大変だっただろうに」


「え、えぇ。そう、ね」


 どことなくぎこちない喋り方で彼女は喋っているが、以前とは明らかに様子が違っている。


 目はまるで死んだ魚の目の様に虚ろになり、顔色は蒼白で雰囲気も生気が感じられない。まるで生きた屍のような状態だった。以前までの明るくなってきた彼女とはまるで別人なぐらいの変わり様だ。


「でも、こんな時間に出歩いて大丈夫なのか?」


「普通なら、規則違反になる、わね」


「なら、なんで?」


「……」


 フィリアは意を決したように口を開く。


「あ、あのね、キョウスケ」


「ん?」


「あなたに、伝えないといけない事が、あるの」


「……」


「その、私――――










 ―――――婚約が、決まったの」




「…………」



 ん?



「……こん、にゃく?」


 動揺してか思わず噛んでしまう。


「じゃなくて、婚約って、え?」


「……」


 俺が問い掛けるも、彼女は顔を俯かせたままだ。


「それは、また突然な話だな」


「……」


「なんで、そんな事に?」


「……それは、キョウスケと最後に会った翌日にお父様から手紙が来て、直接伝えたい事があるから、すぐに屋敷に来るように言われたの」


「……」


「私はすぐにお父様とお母様が暮らしている屋敷に向かったわ。そこで、ガーバイン公爵の息子と、つまり……アレンとの婚約を聞かされたの」


「アレンって、マジかよ」


 よりによってあんなやつと……。


『いずれ分かるさ。平民が貴族に勝てないわけをな』


(あいつの言っていた意味は、こういう事を言っていたのか)


 無意識に俺の右手が握り締められる。


「今まで来れなかったのは、外出を認められなくて、殆ど外に出られなかった。元々屋敷の方で暮らす予定だったけど、私が強く最後まで友人達の近くに居たいってお願いをして、何とか騎士団の宿舎に居る事ができた。

 こうしてあなたの元に来たのは、こっそりと抜け出して来たからなのよ」


「……そう、なのか」


 この町に居るのは居たが、外に出れなかったのか。



「……」


「フィリア?」


 すると俯いた彼女は身体を震わせると、彼女の顔から何かが落ちる。


「やっぱり、私に自由なんて、無かったんだ」


 顔を上げた彼女の目からは涙が浮かんでいた。


「どうして、どうしてなの。何で私ばかり、こんな、こんなに」


「……」


「私は、どうしたら、良いの」


「それは……」


 俺はどう言葉を掛けてやればいいか分からず、言葉に詰まる。


「……」


「……」


 雨の降る音が大きく聞こえるぐらいに、二人の間に沈黙が続いた。



「ねぇ、キョウスケ」


「なんだ?」


 少ししてフィリアが口を開く。


「もし、私が望んだら、キョウスケは、私をどこかに連れて行ってくれる?」


「フィリア?」


 突然の願いに俺は戸惑う。


「それって、つまり?」


「……もう、嫌なの。こんなの」


 搾り出されるように出た言葉から、彼女の悲痛な感情が滲み出ていた。


「……」


「……」


 再び二人の間に沈黙が続く。


「俺は――――」




「ごめん。今のは忘れて」


 俺が返事に困っているとフィリアは首を左右にゆっくりと振る。


「そんな事をしたら、キョウスケに迷惑よね」


「……」


「我が儘、言ったらいけないよね。こうなるのも、分かっていたのだから」


 もはや焦点すら合って無い目で俺を見ながら彼女は力無く言葉を繋げる。


「キョウスケ。今日私が来たのは、あなたの顔を見ておきたかったからなの」


「それって」


「えぇ。もう、あなたに会うことは出来ない。だから、最後にと思って」


「……」


「……」


 するとフィリアは服の下からあの時見せた石を取り出すと、俺に差し出す。


「これ、受け取ってくれる?」


「これは、君の大事な物じゃないか。受け取れないよ」


「あなたに持っていて欲しいの。お守りとして」


「お守り……?」


「これからのあなたの旅の安全を願って、持っていて欲しいの」


「……」


 俺は彼女から石を受け取り、掌に乗せて眺める。


「本当に、良いのか」


「えぇ。私が持っているより、あなたに持っていて欲しい」


「……」


(もし、あなたとなら、どれだけ良かったか……)


「……」


 彼女は小さく呟き、その声は俺の耳に届く。この時どういう意味で言っていたのかは、分からなかった。


「そろそろ、行くわね」


「そうか。……頑張れよ」


「……」


 フィリアは立ち上がり、扉の方へと歩みを進める。その足取りはとても重そうに見えた。


「……」


 彼女は俺の方を向き、一瞥してからフードを被って扉を開ける。


「さようなら」


 そう呟き、部屋を出て静かに扉を閉めた。



「……」


 彼女が出て行った後、俺は再び掌に乗せている石に視線を向ける。


(フィリア……)


 あの時、振り返った時の彼女の表情は、本当に悲しそうなもので、その目はまるで助けを求めているような気がした。


「俺は、俺は……」


 どうしたいんだ……


 俺は石を握り締め、自分に問い掛けた。



 だが、この時は答えが出ることはなかった……。






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