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第十四話 友人として



「それで、コッホーさん」


「私のことはユフィで構わない。呼びづらいだろ?」


「そうですか。では、自分の事も恭祐で構いません」


「分かった」


 俺とユフィはテーブルに着くとお互いに料理を頼み会話を交わす。


「では、改めて。一体俺に何の用で来たんだ? それにフィリアの姿が無いのは?」


「フィリアは昼に起きた事件に関する仕事がまだ終わっていないんだ。今頃他の二人と共に書類の整理に追われていることだろう」


(そういうことか)


 彼女が来ていない理由はそれか。


「一体どんな事件があったんだ? 俺は朝から緊急クエストを受けて町にいなかったが」


「喫茶店で些細な事で冒険者同士の喧嘩が起きたのだ。仲裁の為に騎士団が向かったのだ」


「そうか」


 と言うか、それしか仕事がないんだろうな。仕事を奪っているような俺が言えた義理じゃ無いんだが……。


「私とフィリアで喧嘩していた冒険者を話し合いで解決して事なきを得たが、後始末に追われて私もさっきまで仕事をしていたんだ」


 何で話し合いで後始末が起こるんだ? 話し合い(話すとは言っていない)ってやつか?


「じゃぁ、君がここに来たのは、もしかして息抜きの為か?」


「まぁな」


 一体どんな仕事をしていたんだ。



 少しして頼んだ料理が来て食事を取っていた時に、ユフィが本題を切り出す。


「さっきも言ったが、私はキョウスケ殿が警戒しているような事を言いに来たわけじゃない」


「俺がどんな事を警戒していると?」


「大よそだが、フィリアとはもう関わるな、と思っていたのでは?」


「……そんなところだな。でも、何で分かったんだ?」


「顔に出ていた」


 そんなにあからさまに顔に出てたか?


「冗談だ。それに、私にはそんな事を決める権利なんてない」


「そうですか。では、他に何の目的があって俺の所に?」


「私があなたに会いに来たのは、お礼を言う為だ」


「お礼?」


 はて? お礼を言われるような事ってしたか? フィリアを助けた時のお礼なら出会ってすぐに言っているはずなんだが。


「フィリアとは、親しくしているそうだな」


「親しく……まぁ、周りからはそう見えるんだろうな」


 まぁ仲良くしている事に変わりは無いか。


「それに問題があるわけじゃない。むしろ、いい傾向にあるって事を伝えたいんだ」


「つまり、どういうことだ?」


 微妙に意味が分からず首を傾げる。


「フィリアはキョウスケ殿と出会ってから、大きく変わったんだ」


「俺と出会って?」


「あぁ。私はフィリアの小さい頃からの友人で、ずっと見てきた。あんまり明るいとは言えないような女の子だったんだ」


「……」


「まぁ、それは環境がそうさせたと言っても過言ではないがな」


「環境、か」


 両親に自由を縛られた生活か。そりゃ、そうだよな。


「フィリアの事は、聞いているのだな?」


「まぁ、本人から聞いて君が知っているぐらいは、たぶん」


「そうか。それなら、話は早い」


「……」


「私はフィリアの友人として、小さい頃からずっと見てきた。いつも暗く、口数が少なくてな。私とでも会話は長く続かなかった」


 当時の事を思い出しながら、ユフィは静かに語る。


「そして、いつも外を羨ましそうに眺めていた」


「……」


「でも、キョウスケ殿と出会ってから、フィリアは少しずつ会話が増えてな。最近では親しい者に限ってだが、よく話すようになった」


「そうなのか?」


「あぁ。明るく楽しそうに話をするフィリアの姿を見たのは、初めてだった」


「……」


「しかも、会話はよくキョウスケ殿の話題が多かった」


「俺のことを?」


「あぁ。まさかフィリアが、赤の他人、それも異性にここまで心を開くとは、思ってもみなかった」


「……」


「実の所を言うと、私は当初キョウスケ殿にフィリアともう関わらないように、警告するつもりだった」


「……お目付け役として、邪魔な虫が寄り付かないようにする為、か?」


 ユフィは驚いたかのような表情を浮かべる。


「いや、フィリアから聞いた話じゃ、君は伯爵の信頼できる友人の娘なんだろ? もしかしたらって思っていたんだが、その反応じゃそのようだな」


「……あぁ。キョウスケ殿の推察通り、私はフィリアの友人であると同時に、お目付け役として行動を監視している」


(ここまで推測通りとはな)


 フィリアが縛られる理由、かなり深そうだな。


「でも、そんなお目付け役が、何で警告しようとしなかったんだ?」


「……」


 ユフィは少し間を置いて口を開いた。


「さっきも言ったが、フィリアは、宿舎であなたの事を楽しそうに話していたんだ」


「……」


「その時のフィリアは、とても楽しそうに、幸せそうに話していた。小さい頃の彼女を知っている私からすれば、とても信じられなかった。他人との関係を拒んでいたような、あいつが」


「……」


「あんなに明るくなったフィリアを見ていると、あなたとフィリアを遠ざける気が起きなかった。いや、遠ざけてはいけないと思ったんだ」


「……」


「お目付け役としては失格だろうが、私はそれでいいんだ」


「……」


「フィリアが明るくなった。それだけでも、私は嬉しいんだ。もちろん、私個人として」


「そうか」


「だから、改めてお礼を言いたい。ありがとう」


 ユフィは頭をゆっくりと下げる。


「いや、お礼を言われるほどでは」


 まさか頭を下げるとは思っても見なかった俺は思わず腰を浮かす。


「いや、私にとっても、フィリアにとっても、とても大きな事だ」


「……」


「それで、無理を言っている事は承知の上だが、頼みがある」


「頼み?」


「あぁ。ほんの一時だとしても、これからもフィリアと親しくしてくれないか?」


「それは……」


「もちろん、キョウスケ殿の空いた時間だけでいいんだ。それだけでも、フィリアの支えになる」


「……」


「勝手な頼みだというのは分かっている。でも、頼む」


「……」


 俺はこの時一瞬迷ったが、直後にはその迷いが消えた。


「……出来る限りの事は、するつもりだ」


「ほ、本当か!?」


「あぁ。俺でよければ」


「……ありがとう」


 ユフィは再度頭を下げた。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 その後ユフィは駐屯地へと戻ると言って酒場を後にして、その後しばらくしてフィリアが酒場へとやってきていつものように食事をしながら会話を交わした。

 内容はユフィの言う通り昼にあった喫茶店での事件の事で、どれだけ忙しかったのか結構愚痴っていた。




「……」


 食事を終えてフィリアと別れた後、宿へと向かう道中ユフィとの会話が脳裏に過ぎる。


(支え、か)


 親しくするまでは分かるが、支えとはどういうことだ?


(それだけ、精神的に疲弊していたのか?)


 でも今日に至るまでの様子を見ていると、そんな感じは見られなかった。まぁ今日は身体的な疲れはあったが。


(やはり、貴族と言う立場は結構気を使うんだな)


 だから支えが必要なんだろうな。


(まぁ、もうしばらくここに留まるのも、悪くない、かな)


 ある程度資金が溜まればここを離れる予定だったが、もう少し留まってみるのを考えている。


「……」


 ふと脳裏にさっきの事やこれまでのフィリアと会話を交わしていた時の彼女の姿が過ぎる。


『その時のフィリアは、とても楽しそうに、幸せそうに話していた』


(幸せそうに、か)


 そう意識すると、確かに最初と比べると明るくなったよな。


「(フィリア……)……?」


 俺は立ち止まると、優しい光を放つランプがぶら下がっている外灯にもたれかかる男性の姿を見つける。


「よぉ、平民。あの時以来だな」


 赤髪の男性は外灯から離れて俺の前に歩いてくる。


「あんたは……」


「そういや顔を合わせただけで言ってなかったな。僕はアレン。アレン・ガーバインだ。ガーバイン公爵の息子だ」


「キョウスケ・ヒジカタです」


 面倒ごとを起こされると面倒なので、軽く挨拶をする。そういや駐屯地に来た時に居たな。


「お前の噂は聞いているよ。中々活躍しているそうじゃないか」


「騎士団では話題だそうで」


「あぁそうだな。お陰でこっちは仕事が無くて暇だけどな」


「それだけ平和と言う事なんでしょう。騎士としては、本望なのでは」


「ふん」


 事実を言われてアレンは鼻を鳴らす。



「ところで、平民」


 フルネームを言ったにもかかわらずアレンは俺を平民呼ばわりをして睨むように見る。


「お前、最近フィリアと仲が良いようだな」


「えぇ。彼女とは食事をしたり会話をしたりと、仲良くさせてもらっています。彼女の友人からも支えてやるようにと言われました」


「……」


「それが何か?」


「ふん。今は良いだろうが、ハッキリと言わせてもらう」


 一歩前に出て言葉を続ける。


「調子付くのも今の内だ、薄汚い平民が」


「……」


「いいか。お前らの様な薄汚い平民が、地べたを這い蹲ってどれだけ頑張って努力しても、高貴な貴族に勝てるわけねぇんだよ」


「……」


「意味が分からんような顔をしているな。まぁ頭が空っぽな平民には分からんだろうな」


(空っぽなのはお前の事だろう)


 突っ込みたかったが、我慢して内心の留めた。


「いずれ分かるさ。平民が貴族に勝てないわけをな」


 俺に向けて指を差した後アレンはその場を後にした。


(わけの分からん事を。あれが貴族なのか)


 あんなやつばかりだと、この世界の世の中は厄介そうだな。それともあいつがぶっ飛んでるだけか。


 若干胸糞が悪い中俺は宿へと向かった。




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