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第十話 冒険者になって初のクエスト



 依頼を受けて組合の運営する馬車に乗って、依頼主が管理する農場へと向かった。




「あぁ尻がいてぇ……」


 馬車に揺られる事2時間弱、目的地へと到着して俺は愚痴りながらスコープマウントごとスコープを外した64式小銃を手にして馬車から降りてスリングに腕を通して右肩に背負う。


 当然ではあるが馬車の車軸に衝撃を吸収するサスペンション的な装置があるわけが無く、衝撃が直に伝わって尻に響いた。


(今度から歩いて行くのも考えるか)


 内心で呟きながら視線を前に向け、依頼主が管理する農場が視界に入る。


「あれか」


 尻を掻きながら右肩に背負う64式小銃を背負いなおして農場へと入る。




 依頼主である農場の持ち主に挨拶を済ませて改めて依頼内容を確認した。

 内容はラトスと呼ばれる魔物の駆除だ。


 ここ最近そのラトスの群れが山に住み着き、山から下りてきては農作物を食い荒らし、家畜を襲う等の被害を与えており、大分やられているのか話している間も顔を真っ赤にして依頼主は相当ご立腹な様子だった。


 最低でも山に住み着いたラトスの群れを統率する頭目の駆除が依頼主からの目標で、可能なら群れの残党も駆除してくれたら追加報酬を払うとの事だ。


 依頼主から俺が来る少し前にもラトスが家畜を襲って森へと入っていったと聞いて俺は64式小銃にマガジンを挿し込み、農場の裏にある森を目指した。




「しかし、また森か」


 呟きながら草木を押し退けて森の中を進む。


 まぁ前の森と比べればそれほど鬱蒼としていない分進むのは楽だが、妙に関わりが多いような気がしてきた。


「……」


 しばらく進むと開けた場所へと出て服に付いた葉っぱや蜘蛛の巣を払う。


「さてと、どこにいるのやらか」


 右肩に背負っている64式小銃を手にしてセレクターを引っ張り出して安全から単射へと切り替えて押し込み、コッキングハンドルを引いて手放し、バネの力でボルトが戻ってその際にマガジンから薬室へと初弾を送り込み、周囲を警戒する。


「……」


 周囲に目を向けながら腰のポーチから出発前に購入したパンを手にして頬張って腹を満たす。


「……」


 すると地面から短く生えている草に赤黒い何かが付着しているのに気付き、パンを飲み込んでゆっくりと近付いてしゃがみ込む。


「こいつは」


 視線を上に向けるとそれは途切れ途切れと言っても線となって森へと続いていた。


(ラトスが持って行った家畜の血か。それかここで襲った別の生き物のやつか)


 まぁどっちにせよそいつらがどこかに獲物を持って行っている事に変わりは無いか。


 俺は専門家じゃないから違うかもしれないが、血の色からしてそこそこ時間が経っているようだが、まだ完全に乾き切っていない。まだ距離はそう離れていないはず。


「……」


 周囲への警戒を緩めず64式小銃を構えながらその赤黒い線に沿って歩いていく。



 赤黒くなった血の線を辿ってしばらく歩いていくと、血の線は徐々に途切れがなくなっていき、一本の線となってきた。

 その線は岩壁の角を曲がって途切れていた。


「……」


 俺は深呼吸をして気持ちを整え、ゆっくりと壁に沿って進んで角から向こうを覗く。


 視線の先にはどこかで捕って来たであろう牛を貪り食う茶色の体表に鳥の様な嘴を持ち、赤い鶏冠を持つ小型の恐竜のような姿をしている魔物たちがいた。

 それが今回の討伐目標のラトスだ。妙に某狩猟ーゲーに出てくるモンスターに似ているが、別にどうでもいい事か。


(数は9。内1体は大きいな)


 9頭の内1頭は他の個体と比べると一回り大きなやつが居る。しかも鶏冠が他の個体より立派だ。


(ラトスは必ず群れを作る。そしてその群れと統率する個体が存在する、だっけな)


 ある程度ラトスについて聞いていたので一際大きな個体の正体はすぐに察した。あれが依頼の最重要目標である群れの頭目か。


 いきなり最重要目標が現れるとは……。まぁ、手間が省けるから良いんだが。


「……」


 俺は一旦角の陰に隠れてメニュー画面を開き、装備選択をして選択した物が戦闘弾帯に引っ掛けられた状態で現れる。


 64式小銃をスリングで肩に吊るしてから『M26手榴弾』と呼ばれる手榴弾を手にして、角から顔を少し出してラトスの位置を確認する。


 大体位置と距離を把握してから安全ピンを右手で持って引き抜き、レバーを指で弾いて角の陰に隠れながらM26手榴弾をラトスに向けて放り投げる。

 直後に手榴弾が爆発して生々しい音と共にラトスの悲鳴が上がる。


 64式小銃を手にして角の陰から顔を出して見ると、ちょうど家畜の所に落ちたのか辺り一面肉片混じりで真っ赤に染まっており、手榴弾の爆発時に放たれた破片で傷を負ったラトスたちが地面に倒れていた。

 ある意味運がいいやつは首から上が消えて絶命しているが、脚を吹き飛ばされたり胸に風穴が開いているやつは激痛にもがき苦しんでいるとある意味運がない。


 角の陰から出てラトス達のところへと近付いていくと、運よく傷が浅く済んだラトスが俺の存在に気付いて痛みに耐えながら立ち上がり吠えて威嚇する。


 すぐに狙いを定めて引金を引き、銃声と共に弾が放たれてラトスの頭を中身と血をぶちまけながら撃ち抜く。そのラトスは再び地面に伏せてしばらく痙攣した後動かなくなった。


 直後にボロボロのリーダー格のラトスが起き上がって俺に向かって走ってくるも、俺は慌てずに64式小銃を向けて引金を数回引き、放たれた数発の弾は胸を撃ち抜く。

 ラトスは前のめりに倒れ、血を吐き出してしばらく痙攣した後動きを止める。


(やはり大口径弾なら倒すのも容易いな)


 このくらいのサイズなら5.56mm弾でも十分そうだな。7.62mmからその上はビッグゴブリンくらいのやつに必要となる、と言った所か。


 俺はまだ息のあるラトスを探しては64式小銃で頭か胸を撃ち抜いて止めを刺す。


(これで9頭)


 周囲を警戒しながらマガジンを外してマガジンポーチから新しいのを取り出してから使いかけのやつを入れ、新しいのを差し込む。 


「……」


 すると左の方から物音がして俺はセレクターを引っ張り出して単射から連射に切り替えて押し込み、64式銃剣を鞘から抜き出して先端に取り付け、左に体を向けて身構える。


 すると林から4頭のラトスが飛び出て俺に向かって吠えて威嚇する。


「やはりまだ他に居たか」


 さっきは群れにしては少なかったからな。ラトスは大体10頭以上に群れるって聞いていたから。


 俺は走って来るラトスに向けて引金を指切りで引き、3点バーストのように放つ。


 弾はラトスの胸や腹を撃ち抜いて前のめりに倒れ、銃声に驚いて1頭が足を止める。俺はその1頭に狙いを定めて撃ち、胸を蜂の巣にして仕留める。


 次々と仲間が倒れる中、傷が浅く仕留め切れなかったやつが俺に跳びかかる。


「っ!」


 俺は横に跳んでラトスをかわすと地面に足がつくと同時にラトスへと踏み込み、64式小銃を突き出し銃剣をラトスへと突き刺してそのまま押し倒す。


 苦しげに血を吐きながら吠えてジタバタと暴れるラトスに俺は頭を踏みつけて銃剣を引き抜き、跳びかかろうとするラトスにとっさに狙いをつけて撃って頭周辺に命中させて頭部を粉砕する。


「――――ッ!!」


「やかましいんだよっ!!」


 足元で暴れるラトスに64式小銃を突き出して今度はラトスの首に銃剣を突き刺す。


 そのまま生々しい音と共にぐりぐりと首を抉ると、暴れていたラトスはやがて静かになる。


「……」


 事切れたラトスの上から退いて銃剣を引き抜き、マガジンポーチからマガジンを手にしてボルトハンドルを右手で押さえながら空になったマガジンを左手に持つマガジンでマガジンキャッチャーを押しながらマガジンを弾き飛ばし、手にしているマガジンを挿し込んで右手を手放す。

 ボルトハンドルが前へと進んで止まったのを確認してから周囲を見渡す。


(近くにはもう居ない、か)


 何となくではあるが、近くには居ないような気がする。


 周囲を見回しつつラトスの襲撃に警戒するも、しばらくしてもラトスが現れる気配は無い。


 血塗れた銃剣を外して64式小銃を右肩に背負い、仕留めたラトスの鶏冠を銃剣で切り落とす。


(それにしても)


 切り取った鶏冠を腰に提げている麻袋に放り込んで別のラトスの死骸の元に向かい、しゃがみ込んで銃剣で鶏冠に刃を入れる。


(最初はこんな光景を見ただけで吐き気を覚えていたって言うのに、何にも感じなくなったな)


 最初こそゴブリンや魔物を倒してその屍を見たり、生臭さのある血の臭いに吐き気を覚えていたが、今となっては何も感じなくなっていた。


(これが慣れってやつか)


 鶏冠を切り落としながら自身の精神的変化を自覚する。


(まぁ、慣れたのならそれはそれで別にいいんだがな)


 銃剣に付いた血を拭き取って鞘に収めながら周囲を見渡す。


 幸いに倒したラトスから何とか頭数分の鶏冠を回収出来た。数は13。


「さてと、残りも殺るか」


 群れの頭目のラトスは駆除して目標は達せられたのでこのまま帰ってもいいが、まだ時間はたっぷりとある。迎えが来るまで倒せるだけ倒しておくか。その分報酬が上積みにされるのだから。まぁこのランク帯じゃ期待できる金額じゃないんだろうが。


 切り取った鶏冠を腰に提げている麻袋に詰めてから64式小銃を右肩から降ろして地面に付け、両肩を交互に回して筋肉を解してからメニュー画面を開いて64式小銃を装備解除し、代わりに89式小銃とマガジンの詰まったマガジンポーチを装備して、周囲を警戒しつつ更に森の奥へと進む。



 その後しばらく捜索するもラトスの数は思ったより少なく、あれから5、6匹しか倒す事ができなかった。結構な数がいると思ったが、やはり群れが同じエリアに複数いるというわけではないようだ。まぁ、当然か。


 ちなみにこのくらいのサイズの魔物なら5.56mm弾でも十分通じて倒すのに時間は掛からなかった。



「これで19」


 切り取った鶏冠を麻袋に詰めながら倒したラトスの死骸を一瞥し、周囲を見渡す。


「まぁ、このくらいでいいか」


 これ以上探してもいないだろうし、暗くなる前に引き揚げるか。


 弾薬の補充を行う為にメニュー画面を開くと、久しぶりにお知らせの欄が点滅していて俺は首を傾げながら触れて画面を開く。



 ・魔物を100体以上討伐した。『スプリングフィールドM14』がアンロックされました。



「おっ、M14か」


 まさかのこいつが使えるようになるとは。


 M14はM1ガーランドを発展させた後継銃としてスプリングフィールド造兵廠で開発され米軍で正式採用されたバトルライフルだ。7.62×51mmNATO弾を用いるので威力は高い。が、正式採用された時に起きていたベトナム戦争では高温多湿なベトナムのジャングルで木製の銃床が腐食し、更に大口径弾とあって反動が強く、制御が難しかった。その後は小口径弾を用いるM16に主力を取って代わる形で最前線を退いた。

 しかしその後中東における戦闘で大口径弾が再評価され、特にブラックホークダウン事件で有名なモガディッシュの戦いでとあるデルタフォース隊員が使用していた事でも有名で、その一件でM14は再度注目を浴びるようになった。その後は近代化改修されて今も尚米軍や特殊部隊で使用され続けている。


 確かに俺が使える武器の条件としては特殊な経緯で日本に入ってきた武器兵器も条件を満たせば使えるようになると書いてあったが、こういうやつも含むのか。

 ちなみにM14の場合は戦後初の自動小銃である64式小銃の研究、開発の為にいくつもの銃と共に日本に仕入れられている。


 M14は個人的に好きなやつだし、何より性能がいい。今後役に立つだろう。


「さてと、帰りますか」


 迎えが来る前に依頼主に報告しに俺は農場へと戻る。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 依頼主へラトスの群れを駆除したのを報告し、討伐の証に切り取った鶏冠を見せる。頭目の他にも18頭の手下も駆除したので、余程スカッとしたのか依頼主はとても満悦そうな表情を浮かべていた。

 そのお陰で追加報酬を含めて報酬を組合を通して支払う事になった。


 その後迎えの馬車に乗って俺はブレンへと戻った。




(まぁ、こんなもんかねぇ)


 到着して馬車の停留場から組合のある酒場へと向かう道中俺は討伐時の内容を思い返す。


(あのくらいのサイズならまだいいだろうが、ビッグゴブリンサイズぐらいの魔物だと考えんといかんな)


 まぁ84mm無反動砲ことカールグスタフM3や110mm個人携帯対戦車弾ことパンツァーファウスト3等の対戦車兵器があるので何とかなる。



 酒場に付いたころには夕食時なのか中は大分賑やかな雰囲気に包まれていた。


 俺はその雰囲気の中を通って組合のあるカウンターへと向かう。


「すみません」


「こんばんは。あっ、ヒジカタ様ですね」


「そうですが、何で知っているんですか?」


 受付嬢が俺の事を知っていて戸惑う。俺まだ有名になる様な事をしてないのに。


「あなたの冒険者登録を請け負ったんですが……あっ、あの時と髪型を変えているからか」


 そう言って受付嬢は三つ編みにしている髪に触れる。


「? もしかしてあの時の?」


「はい。そうですよ」


 あぁあの時の。確かあの時は後ろに纏め上げていたから、髪型が違うと大分印象が違うんだな。


「それで、どんなご用件でしょうか?」


「あ、あぁ。依頼を完遂したから帰って来たんだが」


「分かりました。では、こちらで確認しますので、少しお待ちください」


 受付嬢はそう言って席を立って奥へと向かう。


 迎えの馬車が来てその際に組合の職員でもある馬車の操車が依頼の成否を依頼主と共に確認し、その後その報告を伝書鳩で組合に伝えるようになっている。

 


「おまたせしました」


 少しして受付嬢が戻ってくる。


「確かに依頼は完遂されていますね。お疲れ様です。初めての仕事はいかがでしたか?」


「少し慣れませんでしたが、何とかやっていけそうです」


「そうですか。いきなり討伐系の依頼を受けたので少し心配でしたが、良かったですね。

 では、タグと魔物討伐を証明する物をご一緒にご提出ください」


 俺は首に提げているタグと鶏冠が入っている麻袋を受付嬢に渡す。


 タグと麻袋を受け取った受付嬢は頭を下げてから再び奥へと向かった。



 それから更に少しして受付嬢が戻ってくる。


「おまたせしました。タグに今回の依頼で得たポイントを付与しておきました。それとこちらが報酬金となります」


 受付嬢はタグとジャラジャラと音を立てる麻袋を一緒に差し出す。


 タグを手にして表裏を観察すると、さっきと比べて細かい文字が裏の方に刻まれていたが、小さすぎてさすがに読めなかった。バーコードリーダー的なものか?


 タグを首に提げて服の内側に入れて麻袋の中身を確認すると、中には銀貨7枚と銅貨10枚が入っていた。


「報酬金は基本額に依頼主から言われた追加報酬を含め、先ほどタグと一緒にご提出した魔物から得た素材を換金した額も加算されています」


「なるほど」


 切り取った魔物の素材って討伐の証だけじゃなくて、お金に換金出来るのか。


「今日はお疲れ様でした。次の依頼も頑張ってくださいね」


「はい。では、これで失礼します」


 俺は麻袋を手にして受付嬢に頭を下げてカウンターを後にする。 





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