第二話2『AGLクラブ』
◇
平穏の時間が突如終わりを告げたのは放課後のことだった。
やることもないしそろそろ帰るか・・・・・・
時計を見ると既に下校時間をオーバーしている。
いつもの帰宅時間と同じくらいの時間。俺はのんびりと勉強道具を片付け始めた。
良かった。今日は人も多く居るし鍵を閉めなくてもよさそうだ。
あれ?
人が......多い!?
「えっ!?」
俺は驚きを隠せなかった。
いつものこの時間帯の教室は人がほとんど居なくて静まり返っている。
しかし、今日は何故か人が多く騒がしかった。しかもよく見ると別のクラスの奴らや一年、三年といった学年の違う奴らまで居た。
今日って何かのイベントがあるのかな?って思えるほどの人数だった。
まぁ。イベントがあるにしても興味ないし帰るとするか。
俺は然程気にせず中断していた片付けを終わらせ教室を出ようとしたときだった。
不意に肩を掴まれた。
肩を掴まれる経験などほとんどなかったのに今日だけで二回目だ。
振り返るとそこには加藤くんが立っていた。
「な、何かな?加藤くん・・・」
何か嫌な予感がする。
『・・・・・・俺は』
嫌な予感しかしない。
出来ることなら俺はこのままUターンして廊下を駆け出したい。しかし、加藤くんの力は強く肩から手が離れることはないだろう。
「お、俺は?」
俺は怖れながらも続きの言葉を促した。
『・・・・・・お前が好きだ!』
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唖然としていると教室の中に集まっていた男子が一斉に立ち上がり
『俺もお前が好きだ!俺と付き合ってくれ』
『世界一君のことが好きなんだ!だから僕と付き合おう!』
『オマエスキ。タベチャイタイ』
周囲を囲まれてしまう。
なんだこれ!?死刑か!?死刑なのか!?
ていうか最後の奴の台詞怖すぎだろ!?
『・・・・・・さぁ返事を』
『『返事を』』
そう言って奴らは包囲網をドンドン狭くしていった。
くそッ!?逃げ場がない、どうすれば!?
「皆、一旦落ち着こう!冷静になれ!俺は男だぞ!?」
俺は説得を試みた。
『・・・・・・愛に性別など関係ない』
『『そうだそうだ!』』
くッ!?ダメだコイツら、説得に応じてくれない!
そうしている間にも包囲網が狭くなっていく。
ヤバイ。どうすれば!
「あら?この騒ぎは何かしら?」
聞き慣れた声が響く。この声は姉さん!?
「姉さん助けて!」
俺の情けない声が響く。
「もちろんよ」
良かった。俺は助かるのか......。
「だって助けないと─」
「助けないと?」
「─拷問する時間が減っちゃうじゃない」
「助けて!加藤くん助けて!」
俺はさっきまで敵だった加藤くんに助けを求めた。
『・・・・・・もちろんだ。我らの指名楽斗ちゃんを守るため、AGL(あまみやガクトlove)クラブ出撃だ!!!』
『『オォー!』』
AGLクラブって何だよ!?オイ。何なんだよ!?いつの間にそんなクラブを創立したんだよ!?てか、メンバーいるのかよ!?
ツッコミどころ満載すぎてツッコミきれなかった。
ちょっと悔しい。
しかし、AGLクラブ......彼らの団結力は素晴らしかった。
これならきっとあの姉さんを止めてくれるハズだ!
ズドン。姉さんの右ストレートが少年Aの脇腹に入る。少年は気を失った。
ズガン。姉さんの左ストレートが少年Bの顔面を射抜いた。少年は気を失った。
バコン。姉さんの右膝蹴りが少年cの股間に直撃。少年は白い目を剥きながら倒れた。
ドン。 姉さんの頭突きが少年Dの脳天へ炸裂。少年は何も言えず失神した。
スパン。姉さんのカッターナイフが少年Eの制服をバラバラにした。少年は下着姿でオロオロしている。
うん!姉さんには勝てないな。
姉さんは一瞬にして5人を倒していた。
おかしいだろ!?何だその戦闘力!?バトル漫画の主人公じゃないんだから......。
この圧倒的な光景を目の当たりにしたAGLクラブは後ずさりを始めた。
「この程度かしら?」
「皆頑張れ!負けるな!」
俺は彼らを応援した。
俺は彼らからは逃げれる可能性がある。しかし、ここで姉さんが勝った場合仮に逃げれたとしても家で捕まり拷問を受けることになるだろう。
あれ?仮に彼らが勝ったとしても結局家に帰ってきた姉さんに捕まって拷問されるような気がする。まあ、気のせいだよね。
『くぅ。ち、近寄るな失敗作!!』
『そうだそうだ!近寄るな失敗作!』
スドドドン。ドサァ。
バギバギ。 ドサァ。
また二人哀れな犠牲者が出た。
アーメン─って、よく見れば既に包囲網は崩壊いるじゃないかッ!
これなら逃げれる!今しかチャンスはない!
「AGLクラブ、あとは頼んだよ!」
俺は爽やかな顔で、奮闘中の少年に向かって言った。そして、その場からダッシュで走り去った。
『お、オイ。俺まだ告白してないぞ!?待ってくれ!』
『俺も告白してない!待ってくれ!楽斗ちゃん!』
「楽斗、待ちなさい!」
背後のAGLクラブの足音と姉さんの足音が重なる。どうやら一緒に追いかけてきてるらしい。
なんでだよ!?おいAGLクラブ!?何でお前らまで追いかけてきてるんだよ!?姉さんを止めてくれよ!
しかし、残念なことに俺の心の叫びは届かずAGLクラブが姉さんを止める気配はない。それどころか、俺をどのようにして追い詰めるか、追いかけながら話し合っている。
くっ......ま、まぁいいさ。門を出れば逃げ切れるからねッ!
流石に門を出れば、連中も人の目を気にして俺を追いかけてくることはないだろう。
つまり、門さえ出ることが出来れば俺の勝ちだ!
そう思い俺は窓から校門を見た。
そこには大野が立っていた。
ぎゃあああああぁぁぁッ!
無理無理!大野は無理!生理的に無理!アイツの元へ行くぐらいなら死んだ方がマシだッ!!!
俺は校門を諦め、三階にある男子トイレに逃げ込んだ。
『天宮は居たか?』
『いや居ない。二階に逃げたか』
『追うぞ!』
『『おう!!!』』
……ふぅ。何とか撒けたようだ。…ってそんなことよりも大野を校門から離す方法を考えなければ。
ガチャリ。
トイレのドアが開く。
咄嗟に身構えたがどうやらAGLクラブのメンバーではないらしい。
何でそんなことが分かったって?それは……ね?
『何で男子トイレに女子が!?』
『変態がいるぞ!?誰か来てくれッ!』
─それは、AGLクラブのメンバーは俺の性別を知っているから。
俺は即座に男子トイレを飛び出した。
何で変態扱いされなきゃいけねぇんだよ!
俺は・・・・・・・
男なのに!