第一話3『物理的死と社会的死』
◇
「楽斗!何で先に帰ったのよ!」
俺が家に帰ってから30分後姉さんが家に帰ってきた。大野との戦いは激戦だったらしく制服の所々が破れていて無惨な姿になっている。
「え、え~と。お取り込み中だったから...... 」
ツインテールを逆立てながら鬼のような形相で睨み付けてくる姉さん。こうして直面して見ると、確かに美人だがどこか欠けている部分があると思う。どこが欠けているのかは分からないが。
「そ、それで大野とはどうだったの?」
「とーぜん。私の勝ちよ!始めの方はカッターナイフを投げてもバットで吹き飛ばされて攻撃が当たらなくて負けそうだったけど... 」
「けど?」
「土壇場でアンタのシャワーの写真を見せたらアイツ鼻血吹き出して、アイツが鼻血押さえようと鼻を押さえた瞬間に私の飛び蹴りがアイツの顔面にめり込んでそのまま倒したって感じかな♪」
そう言って胸を張る姉さん。て言うか卑怯すぎじゃない!?何で俺のシャワーの写真を持ってるの!?そして大野の生死は!?
聞きたいことがたくさん有り過ぎて困るんだが。
「あっ」
そこで俺はあることに気づいた。
姉さんに何が欠けているのか分かったのだ。
「そっか。胸がないんだ」
「アンタを殺すわ!」
ヤバイ。竜の逆鱗に触れたようだ。
「そ、そんなことより、あ、そうだ、何で俺のシャワーの写真を持ってるの!?」
「そんなこと関係無いじゃない。アンタはここで死ぬのだから」
話を変えるという俺の作戦は大失敗。
マジか。俺ここで死ぬのか。
イヤだ!まだ死ねねぇ!
「死ぬわけにはいかねえぇぇ!」
俺はベランダから飛び出し外へ逃げ出した。
「待ちなさい!」
姉さんは少し遅れてベランダから飛び出した。
「姉さん、戸締まりをしてよ!」
俺と姉さんが暮らしている家は普通の民家より少し大きいくらいの家。両親は海外で働いているため実質この広い家は俺と姉さんだけの家。
因みに両親が海外へ行ったのは去年の7月のことだ。両親は俺たちも一緒に海外へ連れていきたかったらしいが、「せっかく馴染めた高校を辞めるのは嫌だ!」と、俺たちが反対したため両親は俺たちを置いて海外へ旅立った。
何か問題を起こしたらすぐに転校という約束をさせて。
だから戸締まりはしっかりとしてもらわないと困るのだ。
「チッ。仕方ないわね。逃げるんじゃないわよ!」
海外へ連れ戻されることは流石の姉さんも避けたい事態のようだ。姉さんは元来た道を戻っていった。
「バカか。逃げるなと言われて逃げないバカがどこに居る!」
そう捨て台詞を吐き、俺は夜の町を駆け出した。
◇
「こんばんわ、楽斗。どうしたの?」
インターホンを鳴らして待っているとドアを開けてパジャマ姿の親友 那伊蓮宮 があくびをしながら出てきたくれた。
彼の特徴はのんびりとした口調と目を引き付けるような茶髪。そして、何より女の子のような顔立ちだろう。
噂では4月に入って既に30人に告白されたという強者だ。
全て男にだが......。
「急にわりぃ」
「それでどうしたの?」
「一晩泊めてくれないか?」
「う~ん。ちょっと待ってて。お母さんに聞いてくる」
そう言って廊下をドタドタと走る姿も可愛らしい。ホントに可愛らしい。
って、イヤイヤ、俺は同姓愛者じゃない!雑念を取り払え!俺は石柱に頭をガンガンとぶつけた。
雑念よ!消え失せろ!
「お待たせ!許可もらってきたよ!... って何してるの?」
「雑念を消していた」
いつの間にか戻って来てた蓮宮にドン引きされたことは記憶から消しておこう。
◇
「どうぞ入って~!ん~今日も可愛いね楽斗ちゃん!」
元気に俺を出迎えてくれたのは蓮宮のお母さんの姫奈さんだ。
「お、お邪魔します!」
蓮宮は男の子だと意識しても緊張してしまう。
多分、その容姿のせいで俺の中で蓮宮は女だと認識してしまっているからであろう。
女の子の家に上がるってこんな感じなのか。因みに蓮宮は今部屋に布団を敷いてくれているらしい。
ホント優しくて惚れそうだわ。
イヤ、惚れちゃ駄目だけどな!
しかし、話には聞いていたが蓮宮の家は大きくて立派な造りだった。それこそ四人暮らしにはもったいないくらい。
那伊家の廊下を先導してくれている姫奈さんについて歩いていると不意に
「あっ。楽お姉ちゃんだ!」
と、甲高い声が聞こえた。
あれは、蓮宮の妹の茜ちゃんだ!俺を見つけるなり、走って俺の胸に飛び込んできた。
ヤバイ。可愛い。ロリコンに目覚めそう。
イヤ、目覚めちゃダメだろ!?と、自分にツッコミを入れる。
あと、お姉ちゃんという言葉は、あえて聞こえなかったことにしよう。
「こんばんわ。茜ちゃん」
挨拶をしながら、俺はロリコン疑惑を掛けられる前に茜ちゃんを地面に下ろそうとした。
「こんばんわ!」
茜ちゃんはさらに強く抱きついてきて離れない。
姫奈さんは「アラアラ」と笑っている。
おい。親!それでいいのか!?
俺がロリコンになってもいいのか!?
て言うか非常に不味いぞ。こんなところを蓮宮に見られたら
「楽斗、同姓同士では結婚できないよ!」
しまった!見つかった!
声が聞こえた方を見ると蓮宮がニヤニヤしながらカメラを構えていた。
「よせ!蓮宮!俺をロリコンに仕立て上げるつもりか!?」
とりあえず同姓同士と言う言葉は置いておこう。
「うん。この状況を見ちゃったら疑いようもないよね?」
ダメだ!蓮宮が悪どい顔をしている。
俺は天使が悪魔に生まれ変わる瞬間を目撃してしまったようだ。ヤバイ死ぬ。
社会的に抹消される。
「......まぁ。いいや。早く部屋に行こ?」
死を覚悟した俺に向かって蓮宮はカメラをしまい微笑んだ。
ズキュン!俺のハートが射抜かれる音がした。
何て優しいんだ。
俺なら即座に写真を撮って警察に持っていくのに!
「さぁ。行くよ!」
蓮宮は俺の手を掴んで廊下を駆け出した。
姫奈さんは先程と同じ反応で「アラアラ」と笑っている。茜ちゃんは、ほっぺを膨らませて俺の手を掴んでいる蓮宮の背中を睨んでいる。
やべぇ。萌だわ萌!て言うか蓮宮の手が温かい。蓮宮と触れ合っていると俺の中の性別という概念が取り払われていくような気がする。
はッ!まさかこの家は理性を殺す罠!?俺をホモにしようとしたり、ロリコンにしようとしたり...... そうとしか考えられない!
「っと。ここが僕の部屋だよ?」
おっと。着いたみたいだ。頼む。俺の理性。1日だけ持ちこたえてくれ。
「蓮宮、いくら楽ちゃんが可愛いからっていって犯しちゃダメよ?楽ちゃんはピュアな女の子なんだから」
「OK!気を付けるよ」
俺は蓮宮と姫奈さんの爆弾発言に気付かないふりをして俺は蓮宮の部屋へと入った。