第一話1『可愛い弟の運命』
「姉より可愛い弟なんて存在するはずがない。」
これは姉さんの口癖だ。どっかで聞いたような気がするのは多分姉さんが何かの台詞を自己流に改造したからであろう。
姉より可愛い弟なんて存在するわけがない。
うん。俺もその通りだと思う。
そもそも性別が違う時点で姉より可愛い弟なんて存在するわけがないのだ。
それが双子の兄弟であっても
────なのに何で......
◇
「あ、あの。ずっと前から好きだった。僕と付き合ってくれ」
何故こんなことに!?
─4月9日、俺 天宮楽斗 は同じ2年で同じクラスの男子に呼び出しをくらっていた。
呼び出しといっても直接呼び出されたわけではない。
今日の朝登校時、下駄箱に手紙が入ってあり、読むと【今日の放課後、校舎裏にてお前を待つ】と書かれていた。
手紙の書き方があれだったので初めは男同士の対決、すなわち【決闘】かと思っていた。
正直に言うと争い事は苦手だから行きたくなかったが【決闘】から逃げたら男の恥だと昔読んだ何かの小説に書いてあった覚えがあるので、覚悟を決めて俺は校舎裏に向かうことにした。
俺にとっては自分の体が傷つくより男の恥だと言われる方が苦痛なのだ。
そして覚悟を決めた結果、文章の初頭に戻る。
俺を呼び足した男は 大野秀生 と言うらしい。
イヤ、そんなことはどうでもいい。
問題は今の現状だ!
大野は唖然としてる俺を見て聞こえてないかと思ったのか
「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」
と告白をしてきた。
多少言葉が優しくなったのは気のせいだろう。
まあ、優しくしたところで答えは変わらない。
と、そこまで考えたところで俺は一つの可能性を思い出した。
この男…もしや姉さんと俺を間違えているんじゃないか?
俺と姉さんは一卵性の双子。
顔はよく似ている。
ホントによく似ているため間違えていても仕方がない。違いがあるとすれば髪型ぐらいだ。
更に、姉さんは才色兼備の優等生だ。
モテてもおかしくない。
俺が考え出した結論はこうだ。
この男大野は姉さん 天宮流音に惚れた。そして告白を決意して呼び出そうとした。
そこまではOKだ。
だが、ラブレターを下駄箱に入れるとき同じ名字の俺と間違えてしまった。
可哀想に。
しかし、この真実を大野に告げるのは何となく気まずい。だが、このままではいけない。
俺はまた覚悟を決めて大野に真実を告げることにした。
「大野。君は勘違いをしている。俺は天宮楽斗。天宮流音ではない」
すると大野はきょとんとした顔で
「知ってますよ?それがどうしましたか?」
と、聞いてきた。
ッ、何と言うことだ。この男、姉さんの名前と俺の名前を間違えてやがる!告白するくらいだったら名前くらい覚えておきやがれ!
俺は半分呆れながらも優しく大野に声をかけた。
「大野、俺は天宮楽斗。男だ。そして君が惚れているのは天宮流音。女だ」
「ハハハ。やだなぁー!楽斗くんは勘違いをしているよ。」
は?
「は?」
「僕はちゃんといったじゃないか。楽斗くん君が好きだ!愛してる」
その答えを聞いた瞬間、俺は絶叫した。