三川月無
以前思いつきで書いたものを修正。
修正は主に誤字脱字と、表現がおかしい場所に対して行いました。
この世界にはあらゆる超能力が存在している。
手のひらから炎を生み出す能力
ありきたりだが分類されるモノも多い能力。
大きなカテゴリーではパイロキネシスと呼ばれるが、能力の程度は個人によって大きく異なる
低ランクは指先からライター程度の火を出せるだけだが、高ランクは巨大な火球を作り出し自在に操る
確認されている中で一番強い物は半径1キロを一瞬で焦土とするものだった
使用者は焼け跡の中心で屍体が発見された
自らの炎で焼け死ぬことはない
持ち得る能力で直接死ぬことはできない
それはほぼ全ての能力に共通することだ
[直接]は。
死因は酸欠
燃え盛る炎が周囲の酸素を奪い使用者を死に至らしめた
現在では自殺とされている
加重能力
物の重さを強くすることが可能だが、元の重さより軽くはできない
あまり多くはない能力
上位に無重能力がある。
無重能力を持つ物は加重能力より数が少なく、宇宙開発に大きな貢献をしたことにより加重能力よりも、上位とされている。
また加重能力がいくら強くとも、かかる重力を0にしてしまえる無重能力には勝てない
0に何をかけても0のままだからだ。
水流能力
液体を自在に操り、能力の強さは一度に操れる液体の量に依存する。
コップ程度から津波を押し戻すレベルまで確認されており、ほぼ全てが液体を離れたところから感知できる。
地下水源や石油の発見も可能だが、感知距離は個人差がある。
基本的に上位者ほどこちらの能力も優れている。
加速能力
物体の速度を加速させることができる希少な能力
分子運動を加速させて発火させることもできる
概念系の能力と位置付けられている中では、有用性の低い物とされていたが、大戦中に使用された戦術核による放射能汚染を、
半減期を加速させることで早期に人が住める環境に変え、一気に能力のランクを上げた
停止能力
物をその場に固定することができる能力
固定する力や相対的な依存度はあるが、大抵の能力者は車ぐらいは空中に停止させられる。
相対的な依存度とは周りの何に対して固定するかで、屋内なら壁や天井、
屋外なら地面といった物になる。
他にも多種多様な能力があるが、
三川月無<みかわ・つきな>は、自分には能力が無いものとして生活していた。
親兄弟にも何も使えないと装い、誰にもばれずに今まで生活してきた。
能力は希少な概念系。
実は毎日使っているが今の所ばれたことは無い、少なくとも自分の認識の範囲では。
「おねーちゃん学校!」
双子の妹がドアの外から大声で呼んでいる。
名前は三川月水<みかわ・つきみ>
「今日から高校だよ!始業式に遅れちゃうでよ!」
この国では学校というこの上なく面倒なものに行かなければならない。
もっとも、別に行かなくても生活はできるだろうが、
親の世間体や将来も考えると、行っておいた方がいいのは当たり前だ。
学校は妹と同じ。
小学校や中学校だけではなく、高校まで同じになるとは思わなかったが、なったものは仕方がない。
「今行く」
いつも通り端的に答えて鞄を手に取り玄関に向かう。
ドアを開け外にでると、強烈な日差しが自分を襲う。
「あつい・・・」
なぜ4月からこんなに暑いのだろうか。
温暖化が進んでいると親は言うが、地球全体でみるとむしろ冷えているらしい。
「もう!おそいよ!通学に能力は使えないんだから早くぅ!」
「使ったってバレなきゃいいんじゃないの?」
そう、バレなきゃ問題ない。
実際自分は無能力のふりをしてほぼ毎日使っている。
強い日差しとアスファルトから立ち上る熱気に耐えられず、
いや、耐える気もなく能力を使った。
目の前の妹は全く気がついた様子はない。
「そういう問題じゃないの!こういうのは信用の問題なの!」
中学時代に散々やったやり取りを今日も繰り返す。
「まぁそうかもね、じゃ行こうか」
「もー!」
やや早足で二人で学校に向かう。
ーーー
「えー皆さんも本日より高校生徒なり・・・・・・
さらに社会の一員に近づき・・・・・」
校長の長い話に皆がうんざりしている中、横に座っている妹が話しかけてきた。
「ねぇねぇ、担任の先生どんな人かな?」
「さぁ、でも・・・・山沼先生みたいなのは勘弁してほしい」
山沼
中学3年で担任だった教師。
熱血系の先生で、能力の使えないことになっている自分に、色々と世話を焼いてきた。
というのも厳密な意味での無能力というのは、今のところ確認されていないからだ。
極めて弱いか、自分の能力を認識できていないだけのどちらかだ。
前者は訓練で伸ばすことができるし、
後者はどんな能力を自分が使えるのかを認識することで、すぐに使えるようになる。
中学3年にもなればほとんどが何かしらの能力を使える。
そんな中、自分のように能力を使えない生徒がいれば、熱血が超熱血くらいに燃え上がるのだ。
卒業前は熱意に負けて実は使えると教えようとも思ったが、色々考えて使えないを押し通した。
「卒業してもいつでも訓練に付合ってやる!」
そういいながらホームルームで携帯の番号を黒板に書いた。
私のために書いたのだから一応メモをしておいた。
「あー山沼先生熱かったもんねー、性格も外見も」
筋肉モリモリ
背丈は自称199センチ
本人曰く「2メートルもない!」
だそうだ。
女子の中でもチビの部類に入る私としては、いらないなら分けて欲しいくらいだ。
「今度は女の先生がいいなぁ」
気がつけば校長の話は終わり担任の紹介に移っていた。
「続きまして、1年C組担任、芝野先生です」
スラっとした美人がマイクの前に歩いてきた。
「ただいま紹介頂きました芝野です、主に能力制御開発の授業を受け持ちます」
男子がひそひそと歓喜の声を上げている。
「あの先生のクラスじゃないことを祈るのみ」
「おねーちゃん、そういうのフラグって言うんだよ?」
フラグなんかへし折ってなんぼだと思っている。
「続きまして本年度より赴任いたしました1年D組担任、山沼先生です」
声がでない。
「紹介に預かりました!山沼です!主に数学の授業を受け持ちます!
皆様!よろしくお願いいたします!」
マイクなしだ。
それでいて今までで一番大きな声だ。
「一年って何組まであるんだっけ」
「たしか4クラスじゃなかった?」
二分の一
半分の確率で3年間能力を開発させられる。
「まぁさ、山沼先生もいい先生ではあるんだし、そう悲観しなくてもね?」
妹がなんと言おうと私は両教師とは違うクラスに行くと誓った。
ーーーー
「皆さん初めまして!今年一年担任を務めるとことなりました山沼です!よろしくお願いします!」
見事に山沼先生のクラスだった、フラグをへし折るとはなんだったのか。
「三川さん姉妹は中学から連続ですね!ハッハッハ!偶然とは素晴らしいことです!」
中学教師が高校教師になるのってそんなに簡単なのだろうか?
なんにせよ気が重い。
「ではまず出席番号1番!運命の1番!そこから順に自己紹介をお願いします!」
1番の女子は相内さんというらしい。
この苗字は無敵に近い。
50音のトップ3が順番に先頭から並んでいる。
三川の性を持つ私はやや後ろより、みな自己紹介でどんな能力か自慢げに話している中、
私はいつも通り「使えません」と言うつもりだ。
能力が浸透している世界では、クラスの自己紹介で能力を言うのは当たり前のことで、
似た能力の人が今後グループを作るのも慣例となりつつある。
火を出せる人、音を操れる人、姿を消せる人、
色々な人がいる。
「では次は三川さん!」
その場で席から立ち上がり簡潔で、中学でも学年が上がるたびに行った自己紹介を言う。
「三川月無です。能力は使えません」
それだけ言って着席する。
「えー、三川さんは能力は使えませんが、大変努力家です。
先生も全力で応援するので皆さんも力になってあげてください」
いいから、そういうの。
「では次は妹さん!」
「はい!」
後ろで元気よく返事をしながら妹が立ち上がる
「三川月水です!お姉ちゃんの妹やってます!能力は空間操作系です!
みなさんよろしくお願いします!」
妹は明るい
私とは対照的で天真爛漫がとてもよく似合い、栗色の髪をツインテールに纏めている。
「えーでは皆さんの自己紹介が終わったところで連絡事項を伝えます」
「ご存知の方も多いと思いますが、16歳から能力を使用した犯罪行為には、
通常の犯罪行為より重い刑罰が科せられます」
超能力による犯罪が横行し、日本政府が取った方針がこれだ
山沼先生は重い刑罰とやんわり表現したが、はっきり言って厳罰だ。
逆に人命救助などに使うと多額の報奨金が貰える。
極端な二極制度を取り入れることで、超能力犯罪は激減し、
人命救助会社なんてものもできるくらいだ。
治安は制度導入前より段違いで回復した。
「全員その自覚をしっかりと持ち、多いに学び!能力に磨きをかけ!そして青春を謳歌してください!」
暑苦しいしめ方だ。
「それではほとんどの方が初対面同士だと思いますので、自由時間とします。
親交を深めてください!」
そういうと山沼先生は窓際の教員席に落ち着いた。
そこからの1時間はやかましいを通り越して祭り状態。
近くの席の人と話す者や、気になった女子に声をかける男子、
似た能力同士で早くもコミュニティのようなものも、既にでき始めている。
私は妹といつものくだらないやり取りに興じていた。
「お姉ちゃんそっけなさすぎでしょ」
「私はあれでいいのよ」
「えー?そんなんだから友達の一人もできないんだよぉ」
ほっといてほしい。
一人は好きな方だし、人付き合いが少ない方が能力を隠すのに便利だ。
「えっとどっちがお姉さんだっけ?」
いつのまにか横に立っていた黒髪ロングの女子が声をかけてきた。
「こっちだよ」
妹が指を指しながら言う。
「白い髪の三川さんがお姉さんね」
愛想良く確認をする。
白髪と言わず、白い髪と表現した彼女には好感が持てる。
「こっちが妹」
仕返しに指を指す。
「そう、よろしくね」
やはり愛想がよい、私はこうはなれないな。
「お姉さん能力使えないってホント?」
きた面倒くさい質問。
この歳になると会う人ほぼ全員に聞かれる。
携帯持ってないの?に近い感覚の質問だ。
「うん、全く使えないよ」
答えたのは妹
「なら私の能力役に立たないかな?」
能力開発に向いた能力?
「私ね、手を握った人の精神に感応できるんだ、だから心の深いところにある、能力の源泉みたいなのがわかることがあるんだ」
ああ、これはまずい。
すごくまずい。
「ホント!?お姉ちゃん是非やってもらいなよ!」
常日頃から能力の使えない私を、心から心配してくれる妹は当然乗っかる。
そして使いたくても使えないはずの私は嘘がバレる大ピンチ。
「そういうの今までも一通りやってきたけど全部ダメだったよ」
うつむき加減で答えるのがコツ。
もちろんほとんどやったことがない。
「そうだっけ?でもでも!今度こそってあるかもしれないじゃない!」
妹ががっつり食いついている。
「月無さん!ぜひ受けるべきです!チャンスは自分から手に入れなくては!」
山沼先生もこれでもかと食いついた。
じごくみみ・・・・
その大声でクラスがこちらに注目する。
こうなるから嫌なんだよね、人に注目されるのが好きじゃない。
「・・・・じゃ、お願い」
手を差し出す。
その手を握られる。
そういえばこの娘の名前も聞いてないな。
「・・・・・・・・ごめん、なにも感じない・・・・」
申し訳なさそうに、本当に申し訳なさそうに言われた。
だましている罪悪感がやばい。
「ほんとごめん」
いやあなたは悪くない、私が能力でそうしたんだから。
「んだよ、なんにもないのかよ」
「さらし者にしただけじゃね?」
周りから心ない声が聞こえ始める。
「どうせダメならなにもしない方がよかったんじゃない?」
そんなことはない、失敗から学ぶというのが重要だと偉い人も言っていた。
「みなさん!」
嫌な感じにざわつき始めた教室に山沼先生の声が響く。
「霧咲さんは私のお願い通り、三川さんの力になってくれようと行動したのです。
結果は得られなかったかもしれません。ですが!
その行動は賞賛されこそ非難されることではありません!
もし!非難されるとすれば!皆さんにお願いをした私です!」
暑苦しい。
だけど暑苦しさのせいで嫌なざわつきも消えた。
少しの間、沈黙はあったが、
皆が元の会話に戻っていたった。
「ごめんなさい」
「・・・・・霧咲さんだっけ?気にしなくていいよ」
ほれ妹、持ち前の明るさでフォローだ。
「そうそう!いつかこうドギャーンと目覚めるから大丈夫!」
ドギャーンってなにドギャーンって。
「そうね、何度かやってみればいつかわかるかも知れないしね」
そこは一回で諦めてよ。
「私は霧咲茉奈<きりさき・まな>、よろしくね」
「よろしく」
「よろしく!」
ーーー
下校時間
ほとんど入学式の為に登校したため、昼前には下校できる
『緊急連絡です。現在本校近くの繁華街で超能力者による犯罪が行われていると、
最寄りの警察署から連絡がありました』
「はぁ!?まじかよ!?」
「えーこわいー」
各自各様の反応をしている。
一般的に能力を前面に押し出した犯罪というのは、力押しが多く、
その被害も大きくなる。
そのためこのような放送が流れる決まりとなっている。
『安全の確認が取れるまで教室からは、でないでください』
「ついてない」
「それお姉ちゃんだけじゃないからね」
「仲いいわねー」
その時、
窓の外、校庭を挟んで向かい側にある図書館棟が巨大な氷で覆われた。
「うっそ!?なにあれ!?」
月水が叫ぶ。
「ちょっとやばいんじゃないのあれ」
『全校生徒に連絡します!警察署より緊急通達がありました!すぐに校庭反対側の校舎裏から避難してください!繰り返します!・・・」
巨大な氷柱の脇で警官と軍服のようなものを着た、覆面の連中が能力を使いながら戦っている。
「あれって軍隊?」
「お姉ちゃん逃げるよ!」
「二人とも早く!」
「皆さん!落ち着いて!素早く行動してください!」
山沼先生が廊下で誘導を行っている。
遠くでは聞けば悲鳴も聞こえる。
「皆殺しにしろ!」
物騒なことを口走っているのは軍服の厳つい男。
「先の大戦で我が国が味わった苦渋を!この国の奴らに償わせろ!」
氷の刃を警官隊に降り注がせている
「炎系能力者!奴を抑えろ!」
警官隊からいくつもの炎の塊が軍服の男に発射されるが、地面が大きく隆起しそれを食い止める。
「警察の制圧力ならこの程度か」
地面に手をつきながら部下らしき男がさらに力を込めると、
スパイク状の岩が警官の足下から無数に伸びる。
一本一本が細く鋭いそれが百以上、
明らかに殺傷をするために磨いた能力。
「そのまま抑えていろ」
片手を天に向かって伸ばし、大気中の水分から氷を作る。
直径50メートルはある巨大な氷塊
それが生徒がいる校舎に勢いよく打ち出され、轟音が響きいくつもの悲鳴が上がる。
「きゃああああああああああ!」
「お姉ちゃん!」
月水が一瞬で空間をねじ曲げ、落下してくる瓦礫から月無を助け、
階段の踊り場まで移動する。
姉をその場において霧咲のところに行き襟元を掴み遠くまで離れる。
周りから見ればテレポートだが、自分と対象の空間を縮め距離を強引に短くしているものだ。
だが次の瞬間には天井全体が崩れ始め、さらに大きな悲鳴が響く。
「ふん!」
山沼先生が右手を開き突き出し、その手首を左手で持つと、
消火栓が破裂し、大量の水が吹き出た。
水は柱のようにいくつも廊下にそびえ立ち、階全体の天井を支える。
「今のうちに逃げなさい!」
相変わらず似合わない。
あの熱血で水を操作する能力。
最初は炎とかだと決めつけていた。
少し離れた教室から軍服の厳つい男が歩み出てくる。
「ほう、水流操作か、それもかなりの腕だな」
手のひらから氷の槍を作り山沼先生に飛ばす。
山沼先生は迫る氷の槍を脇からの水流で反らそうとするが、勢いが強く左肩に突き刺さる。
「ぐっ!?」
軍服の男は無言のままさらに槍を作り出す。
合計で5つ。
「はやく逃げろ!」
まだ逃げていないのは腰が抜けて動けない霧咲をなんとか運ぼうとしていた三川姉妹。
「月水、霧咲さん連れて先に行って」
「お姉ちゃんはどうするの!?」
「どうもこうも走って逃げるしかないじゃない」
「でも!」
「すぐ戻ってきてよね、私だって怖いんだから」
一瞬迷ったが月水は霧咲を抱えて空間をねじ曲げる
校舎裏の門まで約200メートル。
自分にできる限界まで空間を縮めて数歩でたどり着き、
霧咲を離してすぐに戻り走っている姉の前まで空間をねじ曲げる。
だが氷の壁が床から生えて道を塞ぐ。
「!?」
隙間が無い。
1センチでも隙間があれば空間をねじ曲げて広げることができる
だが完全に閉じられてしまえば自分の能力では何もできない
さらに高レベルの空間能力者は、空間そのものを振動させて、
衝撃波を作ることができるが、現在の月水ではできないことだ。
「月水さん!逃げなさい!お姉さんは私が必ず守る!」
氷の向こうから山沼先生の声が聞こえる。
「でも!」
「いいから行きなさい!応援を頼む!芝野先生を呼ぶんだ!」
芝野先生?能力制御開発の?
「すぐに連れてきます!」
再度空間をねじ曲げて消えた。
進路を氷の壁で塞がないところをみると、自分と能力発動地点に障害物があると、能力を行使できないタイプのようだ。
だから校舎の中にまで入ってきたのか。
「その芝野ってのがくるまで俺が待つとでも?」
氷の槍が飛翔する。
山沼先生は天井を支える水の柱から水流を伸ばし、
両サイドから挟む形で砕く。
「なるほど、遊んでいたのでは時間を稼がせるだけだな、では」
今度は三本の槍が同時に飛翔する
山沼先生は迫る槍を見据え、まずは頭を狙ってきている槍を砕き、
次に心臓に向かってきている槍を砕くため水を操る。
三本目は、狙いを外しこのままなら自分の横を素通りする。
でもそれは山沼先生を狙ったものではなく、
一緒に閉じ込められた私を狙うものだった。
「くそ!」
山沼先生は、自分の心臓に向かってきていた槍を砕くべく操っていた水を、
私に向かってくる三本目の槍に全力でぶつける。
氷はくだけなかったが、方向を反らされたことにより壁に突き刺さる。
「ぬぅ!」
山沼先生は限界まで身をよじり、心臓を狙っている槍を避けようとするが、
完全に避けることはできず、肩に深く突き刺さる。
「ぐっ!」
槍が刺さった激痛に山沼先生の顔が歪む。
「中々の反応だな」
「貴様!女子供を狙うとは!」
両肩を氷の槍で貫かれながらも、
山沼先生は凄まじい気迫で相手を怒鳴りつける。
「俺たちはな、貴様らの国に大戦で敗北し、ゴミのような扱いを受けてきたんだ。
貴様らが苦しむことならなんでもするさ」
「先生・・・・」
自分の前で血に濡れる教師。
なぜ自分なんかのために・・・
「この子は超能力が使えん!貴様らを討ったのは超能力者だろう!?
ならばこの娘は関係ないはずだ!」
信じている。
私が超能力が使えないと信じて、自分を助けるために必死に声を上げている。
「超能力を使えない?ちょうどいいではないか、そいつには部下の慰み者になってもらおう」
なんの感情も込めず、決定したと言わんばかりに軍服の男は話す。
「貴様!」
「このご時世、なんの抵抗もできない婦女子は貴重でな」
山沼先生が水流を飛ばが、威力が弱く氷の壁に防がれてしまっている。
山沼先生・・・・
暑苦しくて、能力を使えないという私の言葉を信じて、放課後もずっと訓練をしてくれた。
正直迷惑だったけど、気持ちは伝わってきた。
間違いなく恩師と呼べる人だ。
そんな人を自分の身勝手な嘘で死なせていいの?
能力を使えないことにしておきたい理由はいくつもある。
他では聞いたことがない能力だし、加減とかなんにもできない。
対象を間違ったらそれで終わり、だから能力を使えないふりをしてきた。
「さて、その娘を狙えば貴様は避けられんだろう?」
氷の槍がこっちに向かって飛んでくる。
山沼先生の大きな体が覆い被さるように私を抱きしめた。
先生の体、筋肉で固い。
でも暖かい・・・
衝撃が胸板越しに伝わってくる。
私を狙った槍が、先生の背中に刺さったというのがわかる。
先生が苦しそうに、
だけど、優しく話してくれる。
「大丈夫だ、先生が守ってやるからな」
私はこのまま使わなくていいの?
だめだ
絶対に後悔する
今なにもしなかったら
嘘をつき続けたら一生後悔する
こんないい先生を死なせちゃだめだ
大丈夫
敵はあいつだ
対象は氷だ
間違えない
水じゃない氷だ
「死ね」
今までより大きな氷の槍が飛翔してくるのが、先生の体越しになんとなくわかる
氷だ
対象は氷
水分子じゃない
そんなことをしたらみんな死んじゃう
範囲は広くてもいい
設定だけ間違わない
固体の状態の水
氷だ
あとは概念系の強み
思えば現実となる
言葉にすればより確実に
明確に現実となる
「消えろー!」
人生で一番の大声で叫ぶ。
その瞬間、辺りから氷が消える。
外の巨大な氷柱や、校舎にぶつけられた氷塊。
壁や山沼先生の体に刺さった氷も、軍服の男が自分を守るために作っていた氷も
全て音も無く消えた・・・・・
「な・・」
驚くような声が聞こえる。
先生の体から力が抜けた。
鼓動が聞こえない・・・
さっきまで聞こえていたのに・・・・
抱きしめられた腕から抜け出し、軍服に向き合う。
「なんだこの能力は!?貴様の能力か!?」
軍服の男は氷を出しながら叫んでくる。
「うるさい!先生を返せ!」
怒鳴りながら男が作り出した氷を消す。
「ばかな!?」
ありえない。
普通じゃない。
声と共に氷が消えた。
ならば概念系の能力のはずだ。
だが自分の知っているどの能力にも当てはまらない。
概念系でも炎なら熱が有るはず。
空間系なら歪みが見えるはず。
分子分解ならば小さなチリが残るはずだ。
どれもなんらかの対処法はある。
だがこれはなんだ。
音も振動もなく氷が消え失せた。
足に力が入らなくなり、軍服の男は崩れるようにうつ伏せに倒れる。
「な・・・なんだこれは」
理解できない。
なぜ足に力が入らない。
「間違えない、間違えない」
なんだあの娘は、なにを間違えないというのだ。
腕の力で上体を起こそうとするが、今度は両腕にも力が入らなくなる。
「ぐっ!?」
床に伏したまま体を起こせない。
両手足に力が入らない。
痺れているとかではなく、動かせる気配がない。
怖い。
なにが起こっているのか分からない。
「ま、まて!悪かった!取引だ!」
分からないなら殺す。
それが祖国で受けた訓練が導きだした答え。
「医療能力に長けたものも部下にいる!」
時間を稼いで隙を見つける。
「間違えない、間違えない、絶対に間違えない」
意味が分からない。
「な、なにを間違えないというのだ!」
もういい。
不気味で、能力の正体も分からないが、一瞬で氷を作って娘にぶつけることはできる。
頭だ。
頭の上に槍を作りそのまま脳天に突き立てる。
どうやっているか分からんが反応するまえに殺せばいい。
「頼む!俺はもう動けん!助けてくれ!」
必死の命乞い。
別に演技ではない。
助かりたいのは事実だ。
だが軍人として訓練を受ける中で、
頭の隅は常に勝つことを考えるようになった、
そこだけで相手を殺す方法を考えているだけだ。
「お前なんかのせいで・・・・」
泣きじゃくりながら、娘は背を見せた。
「死ねええ!」
氷槍が月無の頭上に現れ、勢い良く脳天に突き刺さる。
はずだった。
「なぜだ!?なぜ氷がでない!?」
何万回もイメージし、呼吸をするのと同じレベルで氷を出せるはずだ。
「氷よ!」
声だけがむなしく響く。
「氷よ!氷!でろ!あの娘を殺せ!」
後ろで壊れた人形のように叫ぶ男を放置して、山沼先生の横に座り込む。
「せんせぇ・・・」
涙で前が見えない。
「お姉ちゃん!」
声の方を向くと、妹と芝野先生が駆寄ってきた。
「月水さん!お姉さんを連れてすぐ表に出て!」
芝野先生に突き飛ばされたと思ったら、
目の前から山沼先生と芝野先生が消えた。
「隊長!」
ほぼ同時に軍服の男が数人こちらに走ってくる。
そのとき山内先生が作った廊下を支えていた水が一斉に崩れた。
「お姉ちゃん!」
月水に腕を掴まれ強引に引っ張られる。
景色が凄い勢いで流れ校舎の外までたどり着くと、
自分達の居た校舎は大きな音を立てて崩れてしまい、
中からは軍人達の悲鳴が響いた。
ーーーー
その後のことはよく覚えていない。
月水に体を揺すられたりしたけど、曖昧な返事しかできなかったと思う。
繁華街や学校を襲ったのは、中国軍の残党だと後から聞いた。
住人や生徒含めて382人が死亡し、
隊長格と部下二人は瓦礫の下から発見され、虫の息だったらしいが生きたまま拘束したされたそうだ。
私は検査入院が必要だと言われ、病院の個室でぼーっとしている。
今日で入院三日目。
妹と霧咲さんは毎日お見舞いにきてくれる。
芝野先生がこの病院までテレポートで運んだおかげで、山沼先生は一命を取り留めた。
芝野先生が来た時もギリギリ意識があったらしい。
槍が刺さりまくって心臓止まって生きてるなんて、人間なのかな。
今考えれば廊下を支えていた水が崩れなかったのって、
山沼先生がずっと支えていたからなのだろう。
多分それがなければあんな人に負けることはなかったんだと思う。
そろそろお昼の時間。
作ってくれる人には悪いけど、あまり美味しくない。
大きな音を立てて病室のドアが開かれる。
「月無さん!お見舞いにきましたよ!」
山沼先生が最大音量で出てきた。
変でしょ。
「大丈夫か!精神に著しいダメージがあると聞いて先生心配でお見舞いにきたぞ!」
よくマッチョの人がとってるポーズを見事に決めている。
あーゆーポーズって一つ一つ名前があるらしいが、私は当然しらない。
「・・・・うんなんかね」
えーっとなんていうんだっけ。
先生の方が重傷でしょとか突っ込みいれればいいのかな。
「・・・・う」
「む?」
「ひっ・・・ふぇ・・・・ふぇ〜ん」
なんかもうよくわからなくて泣いていた。
「ちょちょちょっとまて!どうしたどこか痛いのか!?」
すぐに近くにナースコールを押された。
もういいから抱きついた。
そして泣きまくった。
泣いている間に、重傷なのに何してるんですか!とか、
私はいいから生徒を!急に泣き出した!助けてくれ!とか聞こえたけど私は関係なしに泣きまくった。
山沼先生の病室。
「なんで先生元気なの?」
私を心配してこっちに来てしまうので、
肉体になんの異常もない私が、先生の病室に出向くことにした。
芝野先生、月水、霧咲さん、山沼先生、そして私。
これが今部屋にいる全員だ。
「芝野先生すごくね?学校からここまで何キロ?」
妹が林檎を剥きながら喋っているが、そんな凝った形にしようとしなくていいと思う。
最初はうさぎだったのが、今は映画に出てくる宇宙人の化け物みたいな形になっている。
「生徒になにがあってもいいように、学校とここは一発で行けるように訓練したのよ」
もっとも、同僚のために使うとは思わなかったけど、と芝野先生は付け加えた。
「でもさー、山沼先生もすごいよね。
相手の隊長各相手に天井支えながら奮闘って」
「はっはっは!鍛えているからな!」
ベッドの上でポーズを取っている。
さっきとは違うポーズだ。
今度勉強してみようかな。
「ところで月無さん・・・・いやこれはまた今度二人の時に話そう」
意図は理解したけど、そういう切り方をするとだね。
「おやおや山沼先生?告白かい?」
こうなるのだよ。
「むむ!?私は教師だぞ!生徒に手を出すなど言語道断武士上ものだ!」
「ぶしかみ?」
妹の突っ込み。
「武士の風上にも置けん!ということだ!」
どんな略し方?
しかも言語道断は略さないの?
まぁ。
「私は大歓迎だけどね」
「「「「え!?」」」」
これくらいはのイタズラはいいだろう。
「あー、うん、山沼先生、私は立場上応援できないけどお幸せに?」
芝野先生。
「お姉ちゃんマジで!?」
妹。
「月無さんってマッチョがタイプだったんだ・・・」
霧咲さん。
「まままままままて!話せば分かる!」
動揺し過ぎでしょ。
どっかの悪役の台詞じゃんそれ。
「山沼先生にキツく抱きしめられたんだ」
追い打ちをかけてみる。
「「「「は!?」」」」
「い、いやあれはだな!月無さんを守るために!」
へいへいピッチャービビッテル。
「男が守ると言ったらそういうことだよねぇ」
あ、妹が乗ってきた。
「山沼先生って、ロリコンだったんだ」
失礼な、ちゃんと出るとこ出始めてますよ?
出るとこ出ますよ?
「あー、私はなにも見てないし聞いていない」
芝野先生もノリいいな。
「わわわわ私は教師として教え子を守るためにだな!」
止め。
「わたしじゃ・・・・だめ?」
手を前に持ってきて上目遣い。
妹が持ってた雑誌に載ってたものだ。
「うああああああああああああああああ!」
脱兎のごとしとはこのことか。
「すげースピードで走っていったわね」
芝野先生、林檎私にもください。
「お姉ちゃんあんな演技できるんだね」
見直した?
「色気が凄かった」
なんで霧咲さんの頬が赤いのかな?
「おもしろかった」
笑みがこぼれる。
「げ!お姉ちゃんの笑顔何年ぶりだ!?」
「え?そんなに?激レア?」
とかなんとか色々あったけど、これじゃ能力のことごまかせないだろうなぁ。
でもまぁ山沼先生にはちゃんと話そう。
隠してた理由もちゃんと言えば、納得してくれる。
そういう人だ。
ーー三川月無・完ーー
誤字脱字が凄まじかったのを修正しました。
一部日本語がおかしい部分も一緒に。