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奴の名はデュエル!

「木野……お前……」


「あたし……あたしが、男に……なってる……うそ、でしょ……」


 木野はオレが近づいていても気付かないのか、鏡の中の見慣れない自分に興味を示し始めた。この反応は昨日のオレと一緒だ。


 男になった木野はギャルだった木野と同様、髪は金色で耳にピアスをしている。学ランはセンスのある着崩しで、ワイルドなイケメンという出で立ちだった。


「ん、なんだか股間が窮屈ね。何か入ってるのかしら?」


 と、木野はおもむろにズボンのチャックをずり下ろしやがった。とんでもないフランクフルトが顔を出してきて、オレはなんだか妙な敗北感を覚えてしまう。


 で、でけえ!! 連邦のモビ○スーツはバケモノか!? つーか、男のオレよりでかいかも……。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 と、前後で男と女の悲鳴が聞こえてオレの耳は一瞬、キーンとなった。振り返ってみると、さっきまで木野と一緒にいた2人の女子が木野のフランクフルトを見て赤面しつつも、ガン見していた。


 いや、悲鳴上げるくらいなら見るなよ。


「ちょっと、木野! あ、ああんた!! ここ、女子トイレよ! しかも、春賀さんの目の前でなんてかっこうしてるのよ!!」


「ゆっこ? いのり? 違うの、これは……あたし、木野よ! 突然体が男になっちゃって……わけわからないわ!!」


 木野がフランクフルトをズボンに戻すと、2人の女子がオレを守るように前に出て、とおせんぼする。

 

「逃げて、春賀さん! こいつ、変態よ! 春賀さんは私たちが守ってあげるから!」


「ちょ、ちょっと。ゆっこ、いのり? 信じてよ! あたし、木野宝石なんだから!」


「はあ? あんたが木野ってことくらいよ~く知ってるわよ。それより、何よ宝石って? あんたの名前は木野闘士(デュエル)でしょうが! DQNネームのイタイ男子のクセして、何女の子みたいな名前名乗ってんのよ!」


 木野闘士……こいつ、名前まで変わってるのか。にしても、闘士って……ぷぷ!


 って、それどろこじゃないな今は。なんとかしないと。


「あの! 2人とも。これは誤解なの。木野くん。ズボンのチャックが壊れちゃって……私、弟のズボン直してあげたことあるから、脱いでもらおうと思って……信じてもらえないかな?」


 うわあ。さすがにこの言い訳は無理があるか? 何せフランクフルトが目の前でボロンだからなあ。しかも女子トイレで……冷静に考えたら相当な変態だぞこいつ。


「なーんだ。そうだったんだ。春賀さんがそういうなら、そうなんだよね……木野! もし春賀さんに乱暴したら股間に付いてるそれ、ちん切ってやるから!」


 ひいい。な、なんて恐ろしいことを!


「ちょ、ちょっと。ゆっこ。いのり!?」


「いきましょ、ゆっこ」


「うん。いのり」


 2人の女子はオレの言葉を鵜呑みにして、さっさと行ってしまった。


『ほーんと、どうして男子って、下品であんなにバカなのかしら! 信じられない!』


『ていうか春賀さんの弟かあ。あたし、ショタコンなんだよね。今度紹介してもらおうかな……へへ』


 と、女子2人の声が遠ざかっていく中、木野は茫然自失のまま立ち尽くしていた。


「木野。場所変えよう。ここはまずい」


 返事が無いが、無理やり腕を引っ張って木野を第二図書室へ連れて行く。


「あ、ゆうちゃん! って、誰そのイケメン! なーんか木野さんに似てる気がするんだけど? お兄さん、とか?」


 室内にはすでに真子がいて、木野を見つけるやいなや近づいてきた。


「あ、阿久津さん! あたしがわかるのね!? あたし、木野よ! 木野宝石よ! 闘士なんかじゃないわ!」


「へ? まさか……ゆうちゃん。木野さんを、男の子に……したの?」


「いや、これは狙ったわけじゃなく……事故なんだな、これが……てへ☆」


「てへ☆ きゃぴーん(ハートマーク)じゃなああああい!!」


 真子はかなりマジになって怒って、グーでこそなかったが、けっこう本気でオレの背中をたたいてきた。


「いや、マジごめんってええええ!! オレが悪かったよ!」


 つーか、きゃぴーん(ハートマーク)は言ってないだろ!


「どういうこと? 阿久津さんはどうしてあたしがこうなったか知ってるの? ていうか、春賀さん。その言葉遣い、男みたい……」


「えーと、実はね……」


 とりあえず、オレと真子は昨日の事から説明してみた。


「ウソでしょ。春賀さんが、男? でも……胸だって……」


「木野さんだって、その……自分の、見たろ?」


 木野はさっきの光景を思い出したのか、真っ赤になってうつむいた。


「そ、そうね。男の子ってあんなすごいのを装備してたのね……初めてみたわ。あたし、付き合った男はいるけど……その、経験ないから……」


「あ、そうだったんだ。男の子ってそんなにすごいんだ。私も男の子になってみたいなあ」


 真子はまじまじと木野の体を見て、うらやましそうに触り始めた。


「あ、ちょ。ちょっと阿久津さん!」


「ん? どしたのー?」


 木野は急に前かがみになって、何かが通り過ぎるのをガマンしているように見える。


 あ。もしかして。これって……。


「ちょ、ちょっと。春賀さん」


「何だ?」


 小声で耳打ちするように、ひそひそとオレにささやく木野。


「あんた、元男なんでしょ。だったらこれ……どうやったら元に戻るの?」


 あー。なるほど。木野はまだ心は女だけど、体は男なんだ。まあ、真子可愛いからな。あんな風に触られたら、体は正直に反応しちゃうか。


「えっとな。それ、すぐには戻らないと思うぞ。時間が経つのを待つか、ある行為を行えばその呪縛から開放される……かもな」


「早く元に戻して! きついの! お願いだから、その行為ってのをあたしにして!」


 木野が急に立ち上がったので、オレの目の前にテントのように盛り上がった木野のズボンが出現して戸惑う。


「いや。それはここでは無理だと思う。ていうか作品的にもその行為はノクターン行きだ」


「は? 何の話よ」


「そもそもオレ、男とやる気なんてさらさらねーし。そりゃ、このへん静かだし誰もいないから、やってるカップルとかいるかも」


 いや、待てよ。そもそも今のオレは女で、今のこいつは男だ。そしてもともとオレは男で、もともとこいつは女だ。……別に何も問題、なし?


「ねえねえ? 何の話ー? 私だけ仲間はずれやーだよー」


「あ、いや。これは男同士の話だ!」


「あたしは女よ! ていうか、さっさと早く戻しなさいよ!」


「あー、いや。たぶんそれは無理? だって戻れるならオレ、もう戻ってるし」


 一瞬、木野は膝を突いて崩れ落ちた。


 そうだろうな。ついさっきまで女だったのに、急に男にされて戸惑うよな。仲の良かった女子たちには嫌われてるみたいだし……こんなの、理不尽だよな。


「ごめん……木野」


「ふふ、あはははは!!」


「お、おい。木野?」


 木野は急に立ち上がり、笑い出した。なんだ、絶望しすぎて頭がへんになったのか?


「やったわ。あたし、男になったんだ! そっか……あたし、男なんだ」


「お、おい?」


 木野は笑うのをやめると、すがすがしい笑顔でオレに頭を下げた。


「ありがとう、春賀さん。あたしを男にしてくれて」


「へ?」


「あたしね。女の自分が嫌だったの」


 木野はさびしそうな顔をすると、図書室の本棚を見た。


「ずっとコンプレックスだった。昔から母親に『男の子が欲しかった』、『あんたが男の子だったら』って言われて育ってきた。母親はね、あたしをぜんぜん可愛がってはくれなかったの。どんなにあたしが努力しても、いい子にしても、あたしに笑いかけてくれることは無かった。わかる? あたしは自分を産んでくれた母親に、ずっと存在を否定され続けてきたの。だから、男子がうらやましくて……でも、どうしようもなくて……だから、親への当て付けのつもりで、女らしくオシャレしたり、お料理の腕を磨いたの」


「木野……」


 木野が男子を嫌っていたのは、うらやましさの裏返し?


「そうなんだよ、あたし……。男になる直前、春賀さんにお料理でも負けて、完全に女としてのあたしを否定された気分で……もうこんな人生いらない。男に生まれ変われれば。ってそんなふうに考えた。ううん、願ったの」


 願い。つまり、意思の力。


 木野の蓄えていた、男に生まれたかったという意思は、おそらく相当な歳月をかけて熟成されていたのだろう。


 オレのあの、軽はずみな魔術でそれは後押しされて……結果、木野の願いは成就した。


 これがさっきの魔術の真実、なのか。


「だからさ。春賀さん。あんたが責任感じることなんて何もないんだよ。これは、あたしの……ううん。俺の望みだから」


 一人称が俺になった木野に、何の迷いも後悔も感じられない。むしろ、自信にあふれたいい笑顔でオレの手を握ってくる。


「今までごめんね、春賀さん……俺、あんたに嫉妬してたんだ。だから色々イジメたりした」


「それはこっちの世界のオレで、関係は無いよ」


「関係あるよ。同じ春賀さんなんだから。とまあ、そういうわけで、イーブンってことでいいんじゃない? これからをお互い生きようよ」


「まあ、木野がそう言うなら」


 オレとは正反対だな、木野。男になった自分を喜んで受け入れている。むしろ、楽しんでさえいる。


 オレは……昨日からずっと元に戻ることを考えていたけれど、もしも一生このままだったら……木野のように受け入れて前に進めるだろうか?


「ところでさ、男の俺ってどんな奴なんだろう? 春賀さん知ってる?」


「いや、知らない。真子は?」


「ん。ちょっと調べてくる。まっててー!」


 真子はダッシュして図書室から出て行くと、一瞬で戻ってくる。


「調べたよ!」


「早いな!」


「だって、ぐぐったらウキペディアに載ってたもん!」


「またかよ!」


「それでそれで! 俺はどんな男なんだよ!?」


 急にキャラが変わった木野に驚きつつも、真子の言葉を待った。


 まあ、見た感じチャラそうだしな。女子ウケはよさそう……と、思ったけどさっきの女子トイレでの反応見る限り、あんまり良くは思われてなさげか?


「木野闘士。自称、暗黒魔剣(ゲイルブローヴァ)の継承者。世界の理を裏から守護する結社の一員で、過去生の名はシャイン・デュイラス」


「……は?」


 木野は口をあんぐりあけたまま、何を言ってるのか理解できない様子だ。


「ていうのは、もちろんウソなんだけど」


「いやいや、オレのときといい、へんなウソつくなよ!」


「えーとね。木野闘士。自称、暗黒魔剣(ゲイルブローヴァ)の継承者。世界の理を裏から守護する結社の一員で」


「いや、だからそこはウソなんだろ!?」


「ううん。ほんと。私がウソついのは、最後の過去生の名前のとこ。シャイン・デュイラスじゃなくて、アルトネード・デュイラスね」


「へんに一部だけウソつくなよ!」


 木野もショックだろうなあ。まさか男の自分がこんな中二病少年だったなんてわかったら。そりゃ、クラスの女子にも嫌われるわ。


「かっこいい……!」


「げ。マジ?」


 木野の瞳は信じられないくらい潤んでいて、感動しているようだ。


暗黒魔剣(ゲイルブローヴァ)! アルトネード・デュイラス! それが俺の……真名!!」


 こいつ、キャラ変わりすぎじゃね?

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