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エピローグ

 正直言って、股間のこいつは邪魔だと思わざるを得ないのがつらい。だが、戻ってきた! ようやく会えたぞマイサン! という感動的な対面をすでに15回ほどやっててオレも飽きてきた。ので、スマホのエロ画像を手に、愚息を再教育することにした。


「もうすぐ昼か……ちょっと愚息をしつけすぎたかな。はは」


 うん。健全な高2男子の独り言だ。やはり元に戻ってしまうと、女の体で経験できなかったことが悔やまれて仕方がない。でもまあ、元に戻れたんだし、よしとするか。なにより、これで真子と恋人になってDT卒業だしな。


 ゴミ箱にあふれ返った大量の丸め込まれたティッシュを見て、オレは賢者タイムを脱した。よーし、今日も頑張るぞ。


「うわ。春賀さん、それは頑張り過ぎじゃない? 男のあたしでも、そんなにしなかったわよ」


「うわ!? 誰だよお前! 何覗いてんだよ! 男の子の部屋だぞ! エッチか!!」


 オレの部屋のドアが完全に開け放たれ、そこには黒髪ロングヘアの美少女が佇んでいた。いかにも清楚なお嬢様って感じで、触ったら折れてしまいそうなほど儚げだ。


「誰がエッチよ! あたしはスーパーエッチに決まってんでしょ! 何のために春賀さんの好み通りにイメチェンして、部屋にまであがりこんだと思ってんのよ!」


「へ?」


 美少女はずかずかと部屋にはいると、オレのベッドの上で寝転がった。


「あ~。春賀さんの匂いがする~。ねえねえ? あたし、どう? かわゆい? 萌える?」


「いや、まあ。その。かわいいけど……で、誰?」


「はあ? 木野宝石に決まってんでしょ!!」


「げ、木野!?」


 昨日までギャルだった木野が、いきなり清楚系美少女に変身してしまっていた。それも超絶オレ好みに。


「ねえねえ。やっぱさあ、ホテル行く? それともここでする? 初めてのシチュエーションって、大事だよね」


「いや、何をだよ……」


「とぼけないでよ。男の子はこれに弱いんでしょ? ほら!」


「お、おい!?」


 木野はベッドから抜け出し、オレの前に来るといきなりスカートをめくった。しかし、そこには……。


「男子にとって、夢のアイテムよね~。ブルマって」


 この野郎。なんてことをしやがるんだ。男子にとって最終兵器じゃねーか!


「あたしね。女の体に戻ってからも、男の時と同じくらい異性に興味あるっていうか……男の闘士だったあたしの性欲がそのまんまみたいで……ねえ」


 木野はベッドにオレを押し倒すと、肉食獣のように舌なめずりした。ねえ、って何?


「春賀さん、あたし。もう自分を抑えられない」


「お、おお?」


「しよ?」


「ちょっとまったあああああ!!」


 木野の体とオレの体がベッドの上で重なり合う瞬間、真子が乱入してきた。


「ま、真子!」


「ゆうちゃん。これは何? いきなり浮気ですかそうですかお元気ですねむかつきますね!」


 早口過ぎて何を言ってるのかわからなかったが、意味はだいたい顔を見れば伝わってくるので、ちびりそうになる。


「なんていうか……事故?」


「ほほう?」


 真子はツインテールを揺らしながら、怒りを瞳に宿らせ、オレのプラモデル用ニッパーを手に取ると、笑顔でこう言った。


「もう一回、女の子になる?」


 こええええええええええええええええ!!


「お、お前! この悪魔! オレの愚息を殺す気かあああああああああああああ!!」


「なーに言ってるの? プラモデル作ろうとしたら、ちょーっと手が滑って、ランナーごとパチンと切れちゃっただけのなんていうか……事故でしょ?」


 瞬間、天使のように可愛い顔をした真子が、悪魔のように笑った。


「どんな事故!?」


 逃げねば。このままでは、オレの愚息が殺される! そんな未来は誰も望んでない!


「真子。あとで時間を置いてからゆっくり話そう。きっとお前は混乱してるんだ。じゃ、そういうわけで!」


 オレは二階から決死の思いで飛び降りると、なんとか地面に着地した。よかった、女のオレの運動神経がそのままだ。木野は性欲だけ受け継いでしまったみたいだが……まあいい。とにかく、真子をクールダウンさせねば。


「姫ー!」


「ん?」


 高速で家の前を高級車がぶっ飛んでいき、電柱に激突して事故った。


「あの運転……セバスちゃんか」


 もくもくと煙が上がる中、天理春がスク水姿で車のドアから飛び出してきたのだ。あ、そういや……こいつだけ、女の体のまんまじゃん。


「姫ー! おお、元に戻ったのですネ! 男の姫もまた、よいですネ!」


 天理はオレの足に自分の体をすりつけてきた。


「お、おい! やめろよ! ていうか何でお前、元に戻ってないんだよ!」


「いやア。女の子の世界の僕が、向こうで調子にのって9人の女の子と付き合って、全員妊娠させちゃったかラ、面倒みるためにそのまま男として生きていく、と言われましテ」


「マジかよ。お前はそれでいいのかよ?」


「もちロン! だって、この体なら男に戻った姫と愛することができるのですカラ。ささ、僕らも作りましょう。愛のキューピッドヲ」


「ちょ!?」


 天理はオレのズボンのチャックに手をかけた。


「やめろよ! だいたいオレには心に決めた相手がいてだな!」


「僕じゃダメですか?」


 うるる。っと、スク水を着た洋ロリが涙目でオレのズボンのチャックに手をかけながらそう言ってきた。心にクルものがあるけれど、こいつの中身は男なのだ。男にチャックをつかまれていい気はしない。例え外見が美幼女であろうとも。


「ゆうちゃあん。今度はそっちにも手を出すの? もはや中身が男だろうと、体が女でさえあればいいわけ? ふーん」


「おうあ!? 真子!!」


 真子は満面の笑みでプラモデル用ニッパーを手にちょきちょきしていた。こいつ、完全にヤル気だ。


「くそ!」


 オレは天理を振りほどくと、ダッシュで駆け抜けた。日曜でも空いてるはずだ。学校!


「ゆうちゃあん。待ってよお」


 真子が背後から迫ってくる。顔は笑っているが、邪悪な笑みだ。捕まったら最後……親子は文字通り引き裂かれる。うう、想像したくない。


「うおおおおおおお! 死んでたまるかよお!」


 第二図書室に滑り込むと、目当てのモノを探りながら背後に気を付ける。大丈夫、まだ真子の気配はない。


「くそ、どこだ。どこに直したんだ! 魔術書!」


「お探し物はこちらですか、ゆうちゃん?」


「うげ。真子」


 いつの間にか背後に立っていた真子が、あの魔術書を手に邪悪な笑みを浮かべていた。


「えーと、それ。貸してくれない?」


「やだ」


「そんなこといわずに」


「やだやだ」


 真子は魔術書を左手に、プラモデル用ニッパーを右手にオレの前に立った。


「さーて。とりあえず、ゆうちゃんを『物理的に』女の子にしちゃいましょーか」


「くそ、こんなことなら。もう少し女の体でいればよかったぜ……ん?」


 プラモデル用ニッパーが鈍い輝きを放つと同時だった。


「あ……れ。なんだ、地震か?」


 世界が揺れている。視界に映る物すべてがシェイクされている。けれど、激しい揺れの割に棚も机も微動にしていない。


「まさか、これって!?」


「ゆ、ゆうちゃん……」


 地震が終わった後、明らかな変化があった。170センチあったはずのオレの身長が、30センチくらい縮んで140くらいになっている。


 それに……左右で黒い塊が揺れていて、下を見るとピンク色の可愛らしいスカートがあった。


「これ、ツインテールかよ!? オレ……また女になってる!? うそだろ!」


 しかもこの身長。どっからどうみても小学生じゃないか!


『おひさ~。男の私~』


 頭の中で声がする。これ……女のオレの声?


「なんだよ、もう男の体に興味ないんだろ!? なのに、何でオレがこんな小学生の女の子になってんだよ!」


『いやあ、それがさあ。私が並行世界の男の同位体と入れ替わったってことが、他の並行世界の『私』に伝わってさあ。みんな、一度でいいから体験してみたい! って言い出しちゃって、参ったわ』


「は? 他の並行世界の私って……お前以外にもいるのかよ? 女として産まれた可能性のオレが」


『もちろん。私は並行世界でパーフェクト美少女として産まれた可能性の春賀祐希。今、あんたと入れ替わってるのは、7年遅く産まれていた美少女の可能性の世界の春賀祐希の体。その世界じゃ、弟の陽太が兄になってるってわけ』


「おいおいおい!? オレの体はテーマパークじゃねーんだぞ!」


『んでね、次の予約がクールビューティーな春賀祐希で、その次がアイドルの春賀祐希。さらにその次が、人気トップの声優になった春賀祐希。その次が……』


「ふざ、けんなああああああああああ!!」


 腹が立って、地団駄を踏むと真子がこう言った。


「ゆうちゃん、パンツ見えるよ? 女の子がそんなことしちゃダメでしょ」


「オレは男だああああああああああああああ!!」


 まだまだオレの美少女としての生活は、続くかもしれない……。

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