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ネトゲの嫁は女の子じゃなかった!!

 ラーメンを食べ終えるとオレたちは帰宅することにした。ケーキとラーメンを食べて、もう何も入る気がしない。兄貴や親父の晩飯は何か適当に食ってもらうか。


 しかしまあ、帰ってもやることがないなこりゃ。女のオレはゲームとか一切興味なかったみたいで、ゲーム機の代わりに真面目そうな本とか、少女漫画や恋愛小説が棚にぎっしりと詰まっていたな、そういえば。


 暇つぶしに少女漫画を手にとってはみたけれど、正直何が面白いのかよくわからない。やっぱり、中二病全開の少年漫画のほうがオレには合ってる。


「なあ、木野」


 満足そうに腹をさすりながら歩いていた木野。だが、返事はない。なぜなら、目の前を歩くOLのミニスカートを凝視していたからだ。なかなかエロいお尻のお姉さんが、ヒップのラインを強調するように歩いているのを見れば、木野の生殖本能に火を付けるのも当然か。


「お前、マジ野獣だな。あのお姉さんとエッチなことしたいのか? さっき散々人の胸もんだあげく、パンツを顔に張り付けてよだれ垂らしてたのによ」


「へ!? あ、ち! 違うのよこれは! あのスカート、あたしもはいてみたいなあって!」


 木野はあたふたと両手を広げて見苦しい言い訳を始めた。そのがたいでスカートはきたいとか言うの、まずヤメロ。


「やめろ気色悪い、想像しちゃうだろ。素直にあのお姉さんのお尻を見ていたと言え。男の気持はよくわかるさ。オレもあのお姉さんの尻はエロいと思う」


「う! だ、だって……そんなの、言えるわけないじゃない」


「そうか? 男同士なら普通なんだけどな。あ、それよりさ。今からお前の部屋、行っていい?」


「え? それってどういう……意味?」


「いや、どういうって……まんまの意味だよ」


 木野は顔を真っ赤にすると、もじもじとうつむいた。奴のズボンを見ると、不自然な形に盛り上がっている。


 ――股間で返事してんじゃねえよ!


「わかった。なるべく、痛くないようにするから」


「は?」


 木野は生唾を飲み込むと、オレの肩をつかんだ。なぜか奴の息が荒い。


「いいのね?」


「だから、なにが」


「初めての相手があたしで」


 背中を悪寒が走ると同時、オレは反射的に膝蹴りを木野の股間に直撃させていた。正直、相当痛いだろうなと思うが同情はしない。


「あ!? う、うううう!! ひどい! 何するのよ! 赤ちゃんできなくなったら、責任とってくれるの!?」


「そん時はまた、木野宝石(ジュエル)に戻ればいいだろうが! 名前だけで今の体のままだけどな!」 

「ひどいわ!」


 木野は道路の真ん中で四つん這いになると、情けない顔をして泣いていた。まったく、男は何のリスクもなくただ気持ちいいだけだけど、女は妊娠はするかもしれないんだぞ。まだ女の体に慣れていないオレが妊娠とかしたら、正気を保てるかどうか自信がない。


「あのな、へんな勘違いしないように目的を言うぞ? なんかゲーム貸してくれよ。できれば本体ごと」


「ゲーム? エロゲーしたいの? あたしのおススメはねえ……妹モノかしら」


「アホ! 普通のだよ。RPGとかアクションとかさ! 家に帰ってもやることねーんだよ。勉強だって、授業の内容全部頭ん中に入ってるし、恋愛小説は読んでて背中がむずがゆくなる! オレは血沸き肉躍るバトルがしたいんだ!」


「まあ、いいけれど。ママももう仕事に戻ってるから家には誰もいないと思うわ」


「おまえという凶悪な発情期の肉食獣がいるけれどな」


「ひっどいわねえ。まあ、それなら家に行きましょ」


 そして木野の部屋に再びやってくると、奴の部屋にある棚を眺めてため息が出そうになった。


「すげえな。最新機種全部そろってんじゃん。携帯機も」


 3台メーカーの最新機種はもちろん、90年代後半のレトロなやつまで……これが金の力か!?


「ねえ、少し気になってたんだけど……春賀さんは、その。興味ないの?」


「何が」


「自分の体に」


 木野は少しほほを赤らめつつも、真剣な瞳でこっちを見ていた。


「いや。そりゃ……あるけれどさ。風呂やトイレの時にまあ、見たよ。その……少し触ったりもしたけど。でも結局は自分の体だからな。たいして興奮もしない」


「エッチなこと、したくないの? せっかく女の子の体になったのに」


「アホか! お前みたいな性欲の塊と一緒にするなよ! オレは、やだよ。確かにしてみたいと思うし、欲求もあるけれど。オレは男なんだ。この体は間違いなんだ!」


「そう……ごめんね、へんなこと聞いちゃって」


「いや、別にいいよ。気にしてないし」


 正直なところ、何度かしようと思った。でも……それをしてしまうとオレは正真正銘の女になってしまう。性欲は本能だ。つまりは、女の本能に支配されて快楽を得てしまった時……オレはその瞬間、本当に女になってしまう。そんな気がするからしないでいる。でも……理性で本能を押さえつけるには、限界があるのかもしれない。もし、その時が来たら、オレは……。


 いやいや! 考えるのはやめよう。そう、こんなことを考えないためにもゲームでもしよう! とりあえず、今は忘れるんだ。


「携帯機は3台あるから、欲しかったらあげるわよ。なんでこんなに持ってるのかわかんないけれど、春賀さんにはいろいろ迷惑かけてるし。そのお詫びに」


「え、ほんとに!?」


「うん。ていうか、ネトゲ友達が欲しかったのよね。このRSO2の」


「ああ、それな。ローリングスターオンライン2だっけ。基本無料の」


 老舗ゲームメーカーのビッグタイトルのネトゲ、ローリングスターオンライン2。略してRSO2。オレも男の時。ていうか、ついこの前までプレイしていたネトゲだ。


 女になってゲーム機本体がなくなっていたから、アカウントはこの世界に存在はしていないだろうが……もしかしたら、フレンドやギルドの人たちはそのまま存在しているのかもしれないな。


「オレも男の時はやってた。ちょうどよかったよ。じゃあ、本体は……ブラックでいいや」


「あ。ブラックはないの。ピンクとブルーとオレンジ。ブルーは大事なデータ入ってるから、今貸せるのはオレンジかな。ピンクはあたし専用。だって、女の子はピンクでしょ☆」


 筋骨隆々マンが、『女の子はピンクでしょ☆』とかいって、胸の前に肘を寄せてキャッキャしていたのでオレは無言でソバットを脇にきめてやった。


「きゃあ?! ぼ、暴力反対……」


「野郎の太い声で『きゃあ』はやめろ」


 オレは黙ってオレンジの本体を受け取ると、とりあえず電源を入れてみた。


「ん。すでにRSO2インストール済か。まだ時間もあるし……木野。ちょっとクエストやらないか?」


「うん。いいわよ」


 アカウントを作成し、今度はキャラクター作成に移る。ま、順当にヒューマンの男かな。名前はユウキにして、と。


 木野のいるサーバーに移動して、同じフィールドに出ると画面にはきゃぴきゃぴした魔法使いの幼女がいた。エルフのように長い耳と金髪ツインテールの美幼女である。名前はジュエルちゃんだった。


「どう? かわいいでしょ」


「ああ。中身がお前とさえ知らなければ、素直に可愛いと思う」


「あ。ギルドメンバーログインしたから、紹介するわ」


 木野の所属するギルドのメンバーがあらわれて、木野とオレとその人で合計3人。パーティーを組むことになった。


「えっと、ユウキさんは初心者?」


 ギルドの中では古参メンバーだとかいう、キルトという二刀流の黒服の男がそう尋ねてくる。……アニメの影響で多いんだよな、最近。二刀流のキルトさん。


「ゲーム自体はまあ、初心者みたいなもんです」


「そっか。じゃあ、オレについてきなよ! いくぜ! スターバーストスト――」


 キルトは強かった。並みいるモンスターを片っ端から葬り去っていく様はまさに鬼神。まあ、レベル1のスライム相手なんだけど。


「ジュエルちゃん、ヒールおねです!」


「はーい。ジュエルにお任せ!」


 ゲーム内のチャットとリアル内の野太い声がリンクする。


「キモイ声出すな、このネカマ野郎」


「ちょっと、誰がネカマよ!? あたしは女の子……あ。そうだ、今は男の子だった……じゃあこれあたし、ネカマなの!?」


「まあ、そうなるわな。あ。じゃあオレはネナベか」


「やばい。それ、やばいわ……」


「あ?」


 木野は冷や汗を垂らしながら、ゲーム機を持つ手をぶるぶると震わせていた。


「何がだよ? 別にネカマとか普通だろ。女キャラの中身9割は男だろうに」


「ううん。そ、そうじゃなくって……」


 キルトがジュエルのほうを向くと、少し間があってチャットウィンドウが表示される。そこに答えがあった。


「明日、楽しみだよねー。オフ会! ジュエルちゃんJKなんでしょ? 明日土曜だけど学校大丈夫なの? 部活とか」


「ああ。そういうことか……」


「そういうことなのよ……」


 木野は青い顔でおそるおそるチャットする。


「大丈夫でーす。明日、楽しみだね!」 


 その日の狩りはとりあえずそこで終わることになった。なにより、木野の動揺がすさまじくそれ以上続けるのが困難だったからだ。


「木野。素直に言えばいいじゃないか。本当は男だったんですって。いや、素直に言うなら体は男だけど心は女の子なんです。のほうが正しいか?」


「だめよ、そんなの。こうなったら……無理にでもスカートをはいていくしかないわ!!」


「いや、それネカマじゃなくてオカマだから」


 キルトさんもそんなのがリアルに目の前に来たら、レイドボスと勘違いするだろうが。


「じゃあ、どうすればいいのよー!」


 木野はソファにダイブしてわんわん泣き始めた。


「そうだ。いいことを思いついたわ!」


 急に木野は泣くのをやめると、ピンク色のゲーム機本体をオレに押し付けてきた。


「春賀さん。お願い! 明日一日でいいから、ジュエルちゃんになって!」


「は?」


「あたしの代わりに、明日オフ会に行ってほしいのよ!」

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