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ラッキースケベはするもんであって、されるもんではないと悟るオレであった

 天理はスク水に包まれたお尻をこちらに見せ、前屈運動や屈伸などの準備体操を始めた。その度にスク水のクロッチが天理の股に食い込み上下する。


 ――こいつ、プロだ! いや、何のプロか知らんけども。


「あ、あ……知らなかった。スク水って、こんなにエロくて神々しい物だったのね」


 木野は目の前の奇跡を素直に受け入れ、天理に見入っていた。いや、魅入っていた。心が女のままでも、男の本能には逆らえないらしい。


「木野クン、わかりましたか? スク水の偉大さを。フフ。男はコレに弱いのデス! ほうら!」


 天理はよつんばいになったり、女の子座りをしたりして潤んだ瞳で木野を見つめた。


「きゃ!? やめて、そんなポーズ! あ、頭がクラクラする……ダ、ダメ。そんなの見せないでよ!」


「木野クン。すっかり反応が男の子ですネ~。アハハ。顔真っ赤ですヨ?」


 木野は顔を真っ赤にすると、何かに耐えるよう前かがみになって目を背けた。完全に天理のおもちゃだな、遊ばれてるぞ。


「わ、わかったわよ! わかったから、もうやめて! あたし、これ以上自分を抑えられない!」


 にしても、元男がスク水で元女を誘惑している……何だこの光景。


「天理、お前。とりあえずマトモな服を買って来い」


「え~? いやデス。だって、姫も好きなんでショ?」


「お前、何言ってんだ。そんな物……好きに決まってんだろ!!」


 あ、しまった。つい本音が出てしまった。


「ほ~ら、やっぱリ。このかっこうは、姫を誘惑するのに最適だと分析した結果なのデス。姫が望むなら、僕は何をされたってイイ……」


 天理は頬を赤らめると、上目遣いにオレを見てきた。


「どうやら女の子の僕、かなり性欲の強い子だったみたいなんデス。木野くんの部屋でエロゲーしてからずっとムラムラしてて……体が熱いんです。フフ」


「ちょ! よるなこの変態! オレとお前は体は女同士の上に、頭の中身も男同士なんだよ!」


 天理はスク水姿のままオレに抱きついてきた。天理の小さな胸がオレのスカートに柔らかく当たっていて……これが中身も普通の女の子なら素直に萌えるところだが。


「そんなことを言わずに……僕らせっかく女の子になったのです。興味ありませんカ? 女の子の体に」


 まだオレの中に男の部分が色濃く残っているからだろうか。天理の誘惑に一瞬負けそうになる。


「な、何を言ってるんだよお前」


「好きにしてもイイんですよ、僕のこと。僕のすべては姫の物なんですカラ」


 めちゃくちゃ可愛い女の子が体を好きにしてもいいとか言ってきたら……男としては黙っていないだろう。が、相手は体が美少女、心は変態男の天理だ。やっぱありえない!!


「ええい! 木野! 天理を押さえてろ!! むしろ抱きしめろ!」


「え? わ、わかったわ!」


 天理の首根っこを引っつかむと、木野に向けて放り投げた。だが、何か違和感を覚えてオレは硬直する。この感じ、つい最近にもあったような……それになんだか、スカートの下がやけに寒い?


 木野に取り押さえられた天理を見ると、何か勝ち誇ったような笑みを浮かべていて……何だ? 何かすごく嫌な予感がする。


「フフ。姫。ちょっと悪ふざけが過ぎましたネ。ごめんなさいです」


 天理は木野のホールドから抜け出すと、ペコリと頭を下げて謝罪した。


「姫。僕、用事を思い出しました。5時からバイオリンのお稽古があったのです。というわけで、また明日。Au revoir」


「お、おい?」


 天理はスク水姿のまま、とことこゆっくり歩いてその場を去っていった。


「不気味なヤツだ……何か企んでるぞあれは」


「ほんとよねー。あんな素直に引き下がるなんて」


 隣に立った木野は、いまだに顔が真っ赤なままだ。それになんか……ズボンがへんな形に膨らんでいる。


 まさかこいつ、さっきのオレと天理のからみを見て……最低だな。


「ん? あいつ、自分のカバン忘れたままじゃないか。しようがないな」


「あたしが届けるわ。任せて」


 通路に置き忘れられていた天理のカバン。それを木野が拾おうとしたとき、男子トイレからおじさんが出てきて木野にぶつかった。


「おっと、ごめんよ!」


 おじさんは急いでいるらしく、手を振るとすぐに走って行ってしまった。


 木野はバランスを崩し、あたふたと右に行ったり左に行ったりしている。


「あ、あ……」


「おいおい、木野。大丈夫かよ? つかまれ」


「う、うん」


 木野に手を差し伸ばし、つかまるように言ったのだが……これが間違いだった。


「きゃ!?」


「うおわ!?」


 木野の勢いを受け止めることができず、オレは。オレは、木野に押し倒された!?


「ご、ごめんなさい……うう」


 両胸に男の大きな手が乗っている。誰の胸っていうと、それは女になったオレの胸で。男ってのは木野のことで。


「や、柔らかい……」


 胸に未知の感触があった。けども、何だろう。痛いようなこそばゆいような……そ、そうか。これは!


「あ! そうか。これがあれね! 伝説の『これなんてエロゲ』ってやつなのね!!」


 木野はオレの胸を両手でわしつかみにしていた。いたのだ!


「……てめえ、言いたい事はそれだけか?」


 まさか、『これなんてエロゲ』を体現するとは思わなかった。しかもするほうじゃなくて、される側だなんて!


 男側としては確かにこれ以上ラッキーなことはない。が、されたほうは激しく怒りを覚えるイベントだってのはよくわかった。世の中の二次元ヒロイン達に同情する。


「え? あ、ああ!! 女の子の胸って、本当に柔らかいのねぇ。つい先日まで自分に付いていた物とはいえ、実感したわ」


 体中が熱い。何だかわからないけれど、涙が出てきそうになる。そうか。オレ、恥ずかしいんだ。悔しいんだ。腹が……立ってるんだ。


「木野、とりあえずどいて」


「あ、うん。それにしても、ふふ。まるでラノベ主人公みたい! 女の子にラッキースケベしちゃうなんて……」


 木野がオレの上からどくと、空気を読めずに嬉しそうにしていた。


「なら、ラッキースケベの末路はてめえもよ~くわかってんだろ?」


 オレは息を深く吸い込み、右足を振り上げた。


「歯ぁ食いしばれよ、このラノベ主人公が!!」


 蹴りが木野の首筋に極まる瞬間、木野は大きく目を見開き、鼻血を出した。


 しまった。パンツ見られたかも。今度からボディーブローにするか。スカートは面倒だな。


「は、春賀さん……その、ごめんなさい。あたし、見ちゃった」


「あん? パンツのことか? いいよ。回し蹴りでお礼したんだから」


「そ、そうじゃなくて……その……」


 木野は鼻血をよりいっそう噴出すと、気を失ってしまった。


 ま、時間がたてば目を覚ますだろう。放っておこう。胸触られたし。


「さて。トイレ行ってから家に帰るかな」


 わずかに尿意を覚え、オレは用を足してから帰宅しようと思い女子トイレの個室に入った。個室に入ってスカートの下に手を伸ばした時……すべての複線が回収され、オレは驚くべき真実を目の当たりにしたのだ。


「な……なんだと!?」


 スカートの下は、生まれたままの姿だった。いや、ようするに……何もはいていなかったのだ。


「うそ、だろ!?」


 いつだ!? いつからだ!!


 記憶をさかのぼってみると……思い当たる箇所にすぐにぶち当たった。


「天理!! あいつ、あの時か!!」


 天理の様子が怪しかった。木野に向けて放り投げたとき、ブラジャーを取られた時と同様の手口でオレのパンツを……盗みやがったのか!


 ん、まてよ? まさかさっき……木野に蹴りを極めた時……見ら……れた?


「うわあああああああああああああん!!」


 もうお嫁にいけない!! いや、そもそも行かないけど!! オレ男に興味なんてないし!!


『春賀さん!? 春賀さん、何があったの!!』


 トイレのドアを叩く音がしてオレは我に返った。


「木野、か?」


『うん。さっきはごめんね……あたし、うっかりしてた。女の子の気持ちは良くわかってるはずなのに』


「1人にしてくれ! 自分でもわからないけれど、胸もまれたことよりすごいショックなんだよー!」


『あたしが責任を取るから! 責任を取って、春賀さんをお嫁さんにするから!!』


「せんでええわ!!」


『とにかく、春賀さんはそこで待っていて! 罪滅ぼしになるかどうかわからないけれど……天理くんはあたしが捕まえてくる! 春賀さんのパンツはあたしが救ってみせる!!』


「木野……わかった。もういい。オレも行く。とりあえずまずは天理を捕まえよう。あいつが全ての元凶だ」


 ドアの向こうから聞こえてくる木野の声から謝罪の気持ちが伝わってきた。まあ、相手が木野だったからってのもあるし、オレがまだ女の子の体に慣れきっていないのもあるからだろうけど、ショックだった気持ちもだいぶ落ち着いてきた。


 そうだよ。男に戻ればなんのこともないし、木野だって女だったんだ。女の裸は見慣れているんだから……とりあえず、今は忘れよう。それよりも、ノーパンで帰るのはやばい。


「木野、とにかく天理をつかまえよう。スク水姿の女の子なんて特徴のカタマリだ。人に聞けばすぐにわかる」


 オレは個室から出ると、木野と一緒にトイレ前の通路で作戦会議を始めた。


「そうね。でも、それより春賀さん。まさか、そのままで行くつもり?」


「ん?」


「その、パンツ……はいてないじゃない。走ったら、見えるわよ」


 見えるってのはパンツが、じゃない。最後の砦(パンツ)を失った乙女の聖王国が、その扉を開いてしまう。ということだ。


「そう、だな。やっぱ、このままじゃマズイか」


「そんなときこそ、この言葉を思い出して」


「あ?」


 木野はドヤ顔をするとひとつ咳払いをして、こう言った。


「そんな装備で大丈夫か?」


 どうしよう。ねえ、もうこいつ殺していい? いやマジで。


「じょ、冗談よ! 言ってみたかっただけ! それより提案なんだけど、あたしのパンツ貸そうか?」


「アホか!! お前のパンツなんてはけるか!!」


 美少女のスカートの下がトランクスなんてまっぴらごめんだ。例えそれしかはくものがなかったとしても!


「でも、女の子をノーパンで放置しておくことなんてできないわよ!!」


 むむ。確かにノーパンの可愛い女の子が、街中を歩き回っていたとしたら……考えただけで恐ろしいことになるぞ!!


「く。なら! ブルマだ! ブルマをはく!!」


「ノーパンでブルマって……そりゃ、あたしは嬉しいけど」


 木野はもじもじと、頬を赤らめて横をむいた。まあ、男子高校生としては正しいリアクションではあるが。なんか、むかつくな。


「何でお前が嬉しいんだよ。あ、いや待てよ……そうだ。その手があったじゃないか!」


 まさに灯台下暗し。オレ達の現在地は女性下着売り場近くのトイレ前通路。


「まさか……春賀さん」


「そうだ。オレ、やるよ」


 恥らっている場合じゃない。お金もある。だったら、やるしかない!


「木野、先に行っててくれ。オレは必要な物を買ってくる」


「う、うん。……死なないでよ」


 オレは木野と別れると、女性下着売り場に舞い戻った。


 まさにあれだ、ソロモンのあの人だ。連邦の艦隊に向けてアトミックバズーカをぶっぱなすあの心境だ。オレは後世、『女性下着売り場の悪夢』として名を残すだろう。いや、残さんけど。


 っていうか、どれにしよう。早く選ばなきゃ。天理に逃げられる。んー。あれ可愛いな。いや、でもはくのはオレだし……恥ずかしいだろあれ。でも、地味なパンツはありえない。いやいっそ、セクシー路線でいってみるか? いや、オレの可愛いイメージには合わない。白もいいけど、ぶっちゃっけ汚れが目立つからなあ、純白に憧れる野郎どもには悪いが。ええい、もうこれでいいや!


 オレは近くにあったピンクの水玉のショーツをつかむと、レジに向けて突進した。


「ここここ、この。この! ぱ、ぱぱぱぱぱんつ! ぱんちゅをくだしゃい!」


 変態か、オレは。緊張しすぎてちゃんと発音できないじゃないか!

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