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オレがメインヒロインとか言われても、かけらも嬉しくない!

「これって、ハーレムってやつよね」


「あ?」


 天理と一緒に図書室に戻ってしばらくぼーっとしていたら、木野が天井を見上げそう言った。


「ほら。ラノベでもあるじゃない。俺は友達が少ないとか、僕ガイルとか、アホとテストと召喚獣は……ちょっと違うかしら。とにかくあれよ、あれ。美少女複数の中に男1人のシチュエーション。まあ、中身は男なのが2名混じってるけど……二人とも紛れも無い美少女だから許すわ。にしてもほんと……ハーレムだわあ」


 フフフフ、と木野はきもい笑い声を出しながらよだれを垂らした。


「木野、ナチュラルにきもいぞ。てかお前、昨日どんだけラノベ読んだんだよ……」


「あたし的には、やっぱ春賀さんがメインヒロインだと思うの。黒髪ロングヘアの正統派美少女だし、リアル妹だし」


「勝手に人をメインヒロインにするんじゃねえ!」


「阿久津さんはツインテールの小悪魔ちゃん。天理くんは洋ロリ……うーん。あともう1人くらい欲しいわね。差しあたって眼鏡っ娘かしら? いや、クーデレも捨てがたいわ」


「勝手に妄想してろ」


 まさか、オレがメインヒロイン扱いされる日が来るとは思いもしなかった。


「おーっと、そろそろ5時間目の準備しなきゃだね。次、体育なんだけど……ゆうちゃん、春ちゃんの面倒見てあげてね?」


「ああ、わかってるよ。まあ、そんなに心配する必要もないだろうけどな」


 真子はスマホを見ながら席を立つと、先に教室に戻ってしまった。


「じゃあ、あたしもそろそろ行くわ。男子は体育館でバスケらしいんだけど……この体なら、ダンクとかできそうね。ゾーンとか、入れちゃうのかしら?」


「ゴールぶっ壊すなよ」


 木野も席を立ち、図書室を出て行くとオレと天理の二人っきりになる。


「僕、美しい……」


 天理は戻ってから手鏡とずっとにらめっこしている。まあ、女になった自分に興味を持つのはわかるが……ちょっとナルシストが過ぎるな。可愛いのは認めるが。


「ほら天理、そろそろ行くぞ。体操服に着替えなきゃ」


「着替え? は!? まさか姫。僕の裸を楽しみにしているとでも!?」


 天理はセーラー服の下のぺったんこな胸元を隠すようにして、頬を赤らめた。瞳を潤わせながら上目遣いで見つめられると、中身が男とか関係なくドキリとしてしまう。


「す、するわけないだろ! お前のぺったんこな胸見ても、何も感じないよ! 一応、女同士だしな」


 ただ、体は女で心は男同士という奇妙な関係なのだが。


「残念デスね。僕は女性になった今でも、姫のことを愛しているというのに」


「お、お前は今女なんだから……女のオレを好きになるのはおかしいんだよ! ほら、バカなこと言ってないで行くぞ!」


 天理の言葉をさえぎるように、手をつないで教室へ連行する。


「わーい。姫にさらわれるー」


「何喜んでるんだ、お前……」


 教室に戻ると急いで自分の着替えを手に取り、天理と一緒に女子更衣室へ向かった。


「天理、わかってるとは思うけど、男子更衣室に入るなよ?」


「わかっていますよ。僕は男子の体に興味アリマセン。変態紳士はどうどうと女子更衣室へ侵入するのがフツーなのです」


 そしてまたしてもスムーズに女子更衣室へ入っていく天理を見て、変態紳士は恐ろしいと思った。いや、そもそもあいつ今、変態淑女じゃないのか? 


「ところで姫。これ、どうやって脱ぐのです?」


「あん? て、てめえ何しやがる!」


 ロッカーの前でいざ着替えようとして、天理がオレのスカートのすそを引っ張ってきた。そして、そのままスカートの下に潜り込んできた!?


『暗くて前が見えませーん。もう夜なのでしょうか?』


 笑いながら言ってるあたり、確信犯なのは間違いないが……。


『姫の甘くてせつない匂いがします……僕、ここで眠りたいデス』


「じゃあおねんねするか? ただし、二度と起きれなくなる永遠のおやすみだけどな」


 スカートの上から天理を圧迫してやった。


『!?』


 あわてふためく天理をしばらくホールドしていると動かなくなったので、スカートから出してみると、天理は幸せそうな笑顔で気絶していた。


 ――ダメだこいつ。逆効果だった!


「ほら天理、起きろ。早く着替えないと5時間目始まるぞ」


 ぺちぺちと天理の顔を叩くと、天理は意識を取り戻し立ち上がった。


「で、もしかしてお前。脱ぎ方解らないのか?」


「ハイ……というか、姫に脱がしてもらいたいのが本音です。どうか僕の全てを目に焼き付けてくだサイ!」


 天理はこの世の全てを受け入れるように両手を広げ、オレを上目遣いでみつめた。


 やばい、ぐっとくる。体が男のままだったら、木野同様、オメガブラスターが起動していたかもしれない。


「な、何でオレが……自分の事は自分でやれよ」


「姫の……バカぁ……デス」


 そう言ったとたん、天理がうるっと涙を流し始めたので、仕方が無く脱がしてやることにした。いや、あくまで仕方が無く、だ。


「何でお前はそういう演技がうまいんだよ……まったく、今回だけだからな」


「わーい。姫に脱がされるー」


「やめろ、周りが見てるだろ!」


 天理の口を右手でふさぎ黙らせると、セーラー服に手をかける。


「いやん、姫のエッチ~」


「いちいちうるさいな。口に木野の汗だくハンカチ詰め込むぞ」


「……」


 天理は顔面真っ青になって、ぶるぶると首を振った。効果てき面だな。たまには木野も役に立つもんだ。


「ほら、両手挙げて」


 セーラー服を脱がし、今度はブラウスだ。男女でボタンが逆になっているので最初は少し戸惑ったが、さすがにもうなれた。ブラウスを脱がすと、天理の小さな体があらわになる。


 天理はいわゆるスポーツブラをしており、想像通り小振りのお山が2つそこにあった。


「姫。巨乳は正義だと思いマス。だから、姫は正義デス」


「は?」


「ですが、こうも言えマス。貧乳も正義だと! なので、僕も正義デス!!」


 天理は小さな胸をかなりがんばってそりかえし、ふんぞり返った。


「えっと……ようするに、負け惜しみ?」


「……デス」


 天理はしょぼんと小さくなって、自分の胸を押さえる。


「きっとこれから大きくなると思うのデス。まだ16歳ですし。僕のママンは巨乳だったので! 姉さまは貧乳デスが……」


「お前、姉貴いるのかよ……」


「それにそれに、需要があると思うのデス!」


「何が需要だ……はいはい。最後、スカートな」


 天理の言葉を無視して、スカートに手をかける。


 ……あ、やば。なんかヘンに興奮してきた。


 女の子のスカートを脱がす。


 ……男としてはかなり興奮するシチュエーションだよな。まあ、今のオレは女でスカートを脱がす相手の中身は男なんだけど。


 んん? これって、男が男のスカート脱がすってことか? いや、見た目通りなら女が女の着替えを手伝っているのが本当なんだけど……ええい、そんなんどうでもいい!


 天理のスカートのホックを外し、ジッパーを下ろすと、下半身があらわになった。さっき図書室で見たアニマル柄のパンツ……そして、白くてキレイなふともも。下着姿の金髪美少女が目の前にいる。


 ――中身は男だけど。いったい、このガッカリ感は何なんだ。


「うん、あとは体操服の上下を着るだけだ。てか、着るのはできるよな?」


「ハイ。でも、できれば姫に着せて欲しいデス」


「嫌だよ! 自分でやれ! まったく、お前って体が女になっても変態なんだな……」


 天理が体操服を着ている間に、オレもさっさと着替えを済ませ、二人とも着替え終わると更衣室を出る。天理がヘンなことをしでかさないように、しっかり手をつないで連行だ。


「なあ、天理?」


「何でしょう、姫? あ、わかりました。僕のブルマ姿に惚れましたね?」


「いや、なんでもない……」


 初めてはいたブルマの感想を聞いてみようと思ったが、やはりやめた。どうせこいつのことだ。ブルマも男の時にはいているに違いない。


「もうすぐ現場だ。ちゃんと女の子らしく振舞えよ?」


「もちろんデス。それくらい、僕にとって造作もありまセン」


「どうだか……」


 今日はサッカーをやるらしく、クラスで対抗戦をやるとのことだった。サッカーか。適当に流すかな。あんま好きじゃないし。


「春賀さーん。こっちこっちー」


「あ、えっと……ゆっこちゃんと、いのりちゃん? だっけ」


 グランドに出ると木野の取り巻きだった二人の女子がオレたちのところに駆け寄ってくる。ゆっこといのりは、今やオレの友達になっていた。


「サッカー、がんばろうね!」


「こっち来てみんなでおしゃべりしようよー」


「あ、ちょっと。待って! 天理さんが――」


 強引に連行されるオレは、天理とつないでいた手を放してしまった。


「いいよ姫。行ってきなヨ。僕は1人でも大丈夫デスから……男の時と同じデス」


 天理は少しさびしそうに笑うと、小さく手を振る。


「天理……」


 そういえば、天理はその変態ぶりも相まって、友達といえる人間は誰もおらず、常に1人だった。それは自業自得といえばそうなんだが……オレもぼっちだったから気持ちはわかる。


 1人でいるのは楽だ。誰にも気を遣わずに済むし、時間をフルに自分のためだけに使える。けど、1人じゃなくてみんなと仲良く話したりしてるほうが、ずっと楽しい。誰かと共有する時間は、大切な思い出になる。木野や真子と過ごしてそう思った。ましてや天理は今、女の子なんだ。女子の世界で孤立するのは得策じゃない。


 だから、せめてオレだけでも天理の味方でいてやりたい。


「あの、天理さんも一緒に……」


「えー? 天理って誰だっけ?」


 いのり、だったかな。いのりは知らないフリなのか知っていても無視する気なのか、天理を見ずに首をかしげた。


「ほら、あのハーフの子。金髪で小さくて、お姫様みたいな……」


 ゆっこがいのりの肩をたたき、天理を指さす。その表情はどことなく険悪だった。


「ああ、堕天使のことか。いーじゃない、あんなの。ウワサだと、男にこびてりゃ何でも思い通りになると思ってるんだもん。ほんとむかつく!」


「この前の中間だって、物理の織田に色目使って赤点回避したってウワサだよ? あんなのに関らないほうがいーよ」


 女の天理、マジで嫌われてるな。でも、今あそこにいるのは男の天理だ。関係ないし、あいつは変態だけどそんな超絶ビッチじゃない。天理はただの変態だ。嫌われるほどのものじゃない……とは、思う。


「でもそれって、ウワサだよね? お願い。天理さんと仲良くしてあげて?」


「え……春賀さんが、そういうなら……」


「まあ、あくまでウワサだし、ね。見た感じ、大人しそうな子だし……」


 オレの言葉に2人は渋々ながらも頷いてくれた。よかった……。


「ありがとう……いのりちゃん。ゆっこちゃん……」


「わかったよ……だからさ、春賀さん。そんな泣かないで。うちらがイジメたみたいに見えちゃう」


「え?」


 気が付けば、地面が少し濡れている。


 オレの、涙? 女になった影響か、涙腺がゆるくなっているのかもしれない。


「お願い、春賀さんのそんな顔、わたしら見たくないし。えっと……ごめんね?」


「うん……ごめんね、こっちこそ」


 天理を自己防衛とはいえ、女にしてしまった以上、元に戻れるまではオレが責任をとって幸せにしてやりたい。それは木野も同じだ。いくら本人が気に入っているといっても、人生をねじまげてしまったのは確かだからな……。


「授業はじめるよー」


 体育の女教師がやってきて、授業が始まった。


「姫……ありがとう」


「ん? 別に……天理だけ仲間外れなんて、嫌だし」


「姫って、素直じゃないデスね。フフ」


 天理は小さな体をオレに押し付けて……というか、抱きついてきた。変態行動なのかと思ったが、どうもそうでなく、感激して抱きついてきたらしい。


「こら、そこ! イチャイチャしない! 早く柔軟しなさい!」


「あ、はい!」


 先生に急かされ、オレと天理は二人で柔軟を始めた。


「とりあえず、背中でも押してくれ」


「ハイ、喜んで!」 


 天理に背中を押され、柔軟を始める。


「1,2,3」


「きゃ!?」


 にゅるっ。という首筋に生暖かい感触があって、オレは女の子みたいな高い悲鳴を上げてしまった。


 後ろを振り返ると、天理が素知らぬ顔で横を向いている。


 今のもしかして、首筋なめられた!? こいつ……やりやがったな。やっぱ天理は変態だ……。

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